探偵ノート

第029号 – ワールドカップ最終戦観戦記

Update:

5月末に北京大学の招きで建築家の原広司さんと一緒に「光会」というテーマの講演をしてきました。2泊3日の忙しない日程でしたが、原さんは「光的形態」(本当は様相としたかったのですが、様相は中国語にない・・・とか言われて仕方なく)というテーマ、私は例のごとく「21世紀的都市環境照明」というお決まりテーマでの講演でした。この珍道中もなかなか面白かったので、探偵ノートにはこの「北京物語」をレポートするつもりでいましたが、いつものように締切ぎりぎりになってしまって、今となると昨夜の横浜スタジアム、ワールドカップ最終戦のほうが旬になってしまいました。今回は「北京物語」を先送りして、昨夜の興奮を語りたいと思います。最終戦、思いつくままに・・・。

どうして私なんかに貴重なワールドカップの最終戦チケットが手に入ったのかは未だ謎ですが、とあるオフィシャルスポンサーの招きでありました。照明デザイナーの近田玲子さんと二人だけで盛り上がっていた感じなのですが、実はその他の招待者は殆どが会社のお偉いさんたちで、照明業界の社長さん連を除いては殆ど知る由もないご一行です。先ずは日の出桟橋に2時半集合。豪華クルーズ船を借り切っての飲み食い前哨戦で、横浜大桟橋に着いてからバスに分乗して横浜スタジアムに入ったのが6時少し過ぎ。私の席はUS$750(9万円)とチケットに印刷された[E12,10列268]という良い席でした。

メインスタンドの反対側で、貴賓席と対峙した場所です。両方のゴールが同じように見ることができて選手にも近く迫力満点の席なのですが、いつもTVカメラのアングルで観戦しているので最初は少し違和感がありました。フィールドも思いのほか狭く感じたし、選手の動きを追う視線には必ず全方向からの投光照明のグレアが入ってくるし、選手がゴール前に固まっているとどれが誰の足なんだか分からなくなるし、霧雨はかかってくるし・・・。低い位置からの視線がいかにTV視線と違った感動と不便さの両方を伴うものかを実感しました。そして更に発見したのは競技場では「誰も試合を解説してくれない」ということです。慣れた人は携帯ラジオを耳にして実況解説つきで楽しんでいました。なるほど頭良い。

私が最も興味を持って観戦したのはボールを追わない人たち。ドイツに攻め込まれている時のロナウトなんて、とんでもなく暇そうに休んでいる様子です。フォワードとはそういう仕事なのだと感心しました。しかし、味方がブラジル陣深くに攻め入っている時でさえ、ドイツのキーパー・カーンの目の鋭いことといったらない。これはロナウトとカーンの性格の違いもありそうですね。

その他の普通TVカメラに映りにくい状況と言えば、報道カメラマンたちの熾烈なポジション争い。こと表彰式や会場パフォーマンスになると、何十人もの望遠カメラを抱えたカメラマンたちが、われこそ最高の場所確保とばかり、押し合いへしあいしながら撮影ポジションを争うのです。これまたプロだなあ、と思わせる場面でした。それと滑稽だったのは貴賓席に鎮座した方たちの態度。私はもっぱら双眼鏡で観戦している人たちの表情を観察したのですが、貴賓席では皇后陛下のみが隣の解説者に質問したり、天皇陛下に話し掛けたり、時々は笑みを浮かべたりして体の動きがあるのですが、天皇はもちろん、その隣の金大中ご夫妻などは何処が面白くないのか終始微動だにせずの観戦。お調子者の小泉さんなどはさぞ派手に騒いでいるのではと思いきや、金大中さんに付き合ってか、これもまたお静かに・・・。なんとも貴賓席というところは地獄だなと思いました。つまり軽率に喜んだり手を叩いたりしてはいけないルールになっているのだと推測しました。片方のチームや国を応援することが許されていないのだと・・・。

双眼鏡がとても役立ちました。競技場には試合をする人だけでなく、報道や警備などの厳しい仕事をする人、スムーズな進行に気を配る運営関係者、そして試合の始まる2時間も前から熱狂的に体をくねらせるサポーター、くねらせたい体をじっと我慢して役目を終える人・・・。色々な詳細表情がありました。

さて最後に照明探偵らしく最終戦の光環境に触れなければなりませんね。ちょっと興奮していて照明どころではなかったのですが、隣で同じように興奮している近田さんとも「ちょっとこのグレアがひどいね!」というのが競技場照明の全てを語っています。そもそも私たちは照明デザインのプロなので、グレアをことさら敏感に感じたりする傾向もあるのですが、私などは持参したキャップのつばを深く下げて2階席上部の投光器の存在を視野から消して観戦していました。そうすると本当に見やすくなるのです。野球の選手はナイトゲームでも帽子をかぶっているのに、サッカー選手はどうして帽子をかぶらないのか???、と不思議に思いましたが、それではヘディングもできませんものね。直ぐに気が付きました。多分サッカー選手はずいぶんグレアに苛まれているはずです。それだけ鉛直面照度をとることとグレアをなくすこととは両立しずらい矛盾する要求なのでしょう。

最後に色々行われたイベントやアトラクションの感想。思い返してみると色々な隠し芸が披露されました。最初に和太鼓、そしてお神輿、参加国の国旗、ユニセフの子供憲章、唱歌、富士山、千羽鶴の雨・・・、こんなところですか。どれもどれも私には当たり前のメニューでセンスに欠けるものだなあ、というのが実感ですが、最後の千羽鶴が止め処もなく空から降ってくるのがちょっと面白かったです。もともと折り紙が空からくるくる回って舞い降りてくるような光景は普通では見られません。スタジアム2階席の先端に用意された大きな布の袋みたいなものを、ユサユサ揺すっているように見えたのですが、暗い夜空を背景に投光器に照らされた折鶴が体を回転させながらキラキラと舞い降りる瞬間は、雪の結晶のようでもあり、すべてを終了したワールドカップへの労いのようでもあり、しばし目を奪われるような印象的な場面でした。とはいえ数百万羽に及ぶ夢の折鶴は、最終的に退場者に踏みしだかれて落ち葉のように、拾うものもないほどでしたが・・・。

競技場をバスがでて品川へ戻り着いたのが12時ごろ。私にとっての夢の最終戦はとても短く多少あっけなく過ぎ去りました。やはり競技場では照明探偵ごっこなどしていてはだめですね。ひたすらゲームにのめり込まなければ。何をやっても少し覚めたところがあるのは私の悪い癖です。少し反省の観戦記でした。

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