探偵ノート

第010号 – 都市の月明かり・山の月明かり

Update:

コーヒーブレーク: 面出さんと私
Interviewer: 永津 努

テーマ:『山の月明かり』

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永津 今日は山の月明かりについて話をしたいと思います。僕は登山が趣味なのですが面出さんは山に登ったはことありますか?

面出 あなたが登るような本格的な登山経験は無いけど、ネパールのアンアプルナ山には、シェルパーをつけて3日間トレッキングした経験はあるよ。テントで寝泊まりするんだけど、夜中に目覚めて観た星屑には涙したね。

永津 そうなんですね。二泊三日で行ったのであれば、日帰りでは味わえない自然の中の時間の移り変わりや、夜の世界を楽しんだんですね。 僕も山に入るときは必ずと言っていい程、テントを背負って、最低一泊はします。 山小屋よりテント泊の方が、夜自由に徘徊出来るのが魅力なんですよ。 山で過ごす夕暮れからの時間は格別で、そこに行った者だけが味わえる時間です。僕の場合にはもっぱら国内の山ですが、日本アルプス山脈の北から南まで、20kgの荷物を背負って、ひぃこらいいながら毎年いくつかの山を登ってますね。 夜の山は、夕暮れから段々と漆黒の闇が辺りを覆い尽くして行くのですが、ふっと気がつくと月明かりで照らされた景色が広がって行くんです。空を見上げた時の満点の星空はたまりません。

面出 日が沈みブルーモメントがすーっと過ぎさると、月明かりに包まれるのか。

永津 月明かりで照らされた時間は、それだけでヘッドライトなどいらず、手元から何から良く見えるんですよ。都会ではそうはいかない。都会ではなかなか月明かりを感じることが出来ないです。

面出 確かにそういった景色は都会では感じる機会が少ないけど、僕の住んでいるマンションの部屋には時折窓から絶妙な月明かりが入ってくるよ。 僕ら照明デザイナーは月の形がどう見えるのかでなく、月明りが織りなす地上の現象に興味を持つべきだね。そして月には色々な種類の昔話が残っている。 西洋だと月は不吉なことと同居しているけど、日本では竹取物語のように美化されたものが多くある。数万ルクスの太陽と違って0.2ルクスの月明かりが織り成す世界には何か引き込まれる。

永津 確かに月明かりは照度でいうととても暗いですが、白色の蛍光灯の薄暗い光で感じるような陰湿な感じはしませんね。暗いはずなのに何かホッとするような透明感を感じます。

面出 そうなんだよね。それは視覚的な情報でなく、脳の中で月の認識を別にしていることがあるんじゃないかと思う。仮に月明かりと同じ成分の色温度の0.2ルクスを人工的に作り出しても、“月のイメージ”という刷り込みがないと同じことにはならないかもしれない。 月の明かりは実際は青白いが、青ではない。「月がとっても青いから?」と、歌があるぐらいだから、実際の光より青いイメージをみんな持っている。透明感を感じているのだろうね。。

永津 僕らはよくムーンライトエフェクトとして高い位置から点光源が織り成す影の演出をおこなう事がありますが、影の色の演出も行えないかと思います。例えば絵画でも影の色で月明かりを表現しますし、映画でも影になる部分の反射光の色味の演出で世界感を表現している。実際の建築空間でもそのような表現はできると思うんですよね。

面出 そうかな。僕は月明かりの効果を頑張って真似るけど、やはり本物には勝てないと思うよ。 仕方なしに開き直って今度はいかにデフォルメして伝えるかを考えるけど、なかなか難しい。月明かりの現象を真似るのではなくて、月明かりで感じたことを表現して行く必要があるのかもね。

永津 自然界で感じることのできる多くの光の効果を体験し、そこから解釈した表現に結びつけて行くかが重要になりますね。 面出さん、来年は是非一緒に山に登って月明かりを浴びましょうよ。 いつも感受性の強いデザイナーでありたいと思っています 。

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