探偵ノート

第025号 – 社会へのステップアップ

Update:

テーマ『社会へのステップアップ』

Interviewer: 山本雅文

サヴォア邸_small
アイロンがけ_small
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山本雅:今日のテーマは社会へのステップアップです。学生の頃は自分の意見を、まだ聞いてもらえる立場でしたが、社会人となった今は人の話を聞くことに徹していかないといけないと感じました。私はまだ、誰かの意見を聞くことが上手くはありません。

面出:雅はそう言うけれど、大学の頃も人の意見をそこそこ聞いてたんじゃないの?小泉ゼミのゼミ長をしていたんだし。だから、人の意見を聞くことが苦手な訳じゃない。しかし聞いた時に自分がそれをどう解釈して、立ち振る舞うかが大事なんじゃないかな。

山本雅:小泉誠さんは学生時代の恩師です。学校では気さくな先生ですが、課外活動では厳しかった。私は1度だけ叱られたことがあって、今でもよく覚えています。活動で関わる相手の名前をきちんと覚えること。美味しいものを食べたときに素直に反応を示すこと。周りの状況を見渡し、相手の気持ちを考えて適切に行動すること。出来ていなかったなと思いました。

面出:雅は、大学の時は僕のゼミでもなかったし、特に光とか照明に興味を持っていたわけじゃない。なのに、LPAに職を求めたのにはビックリしたんだけれど、どういう気持ちだったの?

山本雅:春休みにサヴォア邸の模型をつくったことがあります。図書館や神保町でコルビジェの資料を探しまわり、図面を仕上げ、色紙を集め、質感の入った色模型を50分の1でつくりました。資料を読み解きながら、建築家の思考に触れた経験が大きかったです。LPAに入れば、照明の視点から幅広い建築に目を向けることが出来ると思いました。また、その中で自分も成長していきたかったのです。でも、いざ入社すると、身につけなければいけないことが沢山あります。複数のプロジェクトが同時進行していて、規模も大きくて、沢山の人が関わっている。そしてスピードも速い。

面出:デザインは、1人で山奥にこもって、好きなように絵を描いている仕事じゃない。色んな人と歩調を合わせて行く必要がある。自分に仕事を与えた人の気持ちになって、要求されていることを理解しなくちゃいけない。雅は優しい人間だから、そうやって相手のことを思い、なにかをこの人のためにきちんとやってあげようという、誠実さを持っていると思う。そこを工夫して磨き、経験を積み重ねていけばいいんじゃないかな。

山本雅:私は話すのがゆっくりで内気なところもあります。それがあなたらしさだと言われたこともあります。でも仕事でつまずくことが多くて、今は、それほど誇れるような個性ではないと思います。まだ一歩踏み出せていない自分がもどかしいです。

面出:僕がこの前聞いて面白かったのは、雅は都会の生活にあんまり馴染めないでいる、ということ。

山本雅:はい。打ち合わせや現場へ向かうのに、地下鉄を乗り継いだりするのにも慣れません。上司の方は、信号を渡る順番や、何列目の車両に乗れば、次の乗り換えの効率が良いか考えて行動されています。

面出:僕なんかねぇ、明治通りを歩いて原宿に向うときに、信号を3つくらい先まで見ているよ。渡るタイミングが直感的にわかっちゃうんだよ。それでいて結局、横断歩道じゃないところで渡っちゃう。都会生活が長い人と、そうじゃない人との出発点の差はあるね。でも慣れだよ。デザインを生業にする時には、色んな環境に身を委ねて、自分がその中でどう対応出来るのかが大切だと思うね。そして、環境の中での変化を楽しめるくらいがいいんじゃないかな。自分が大学に来てそれまでと変わったことはないの?

山本雅:それまではもっと内気でしたが、大学では沢山の仲間と関われました。そして社会人になって、少しずつですが自炊を始めました。洗濯もしますし、アイロンもかけるようになりました。週末は掃除もします。

今23歳です。社会人になって、知らないことや出来ないことが沢山あると感じました。一方、同年代でのびのびと活躍しているスポーツ選手もいます。でも、デザインはスポーツ選手の成長度合いとは異なる気がします。

面出:デザイナーは早熟ではいけない。やっぱり積み上げていくものがあるからさ。僕は30歳の時に照明デザイナーとして笑われないようになろうと決めた。それから40歳で一人前。だから会社員をやめてLPAを立ち上げた。その後10年経って、50歳の時にシンガポールに会社をつくった。思い返すと10年スパンかな。だから20代をどう生きようかなんて、深刻に考える話じゃなくて、自分を信じていっきにつっぱしるんだよ!

山本雅:はい。きちんとやりきれたところで見えてくるものがあると思います。自分を信じて日々、変化し、ステップアップしていけるように心がけていきます。

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