世界都市照明調査

東京調査: 東京湾

東京:東京湾

2017/07/24 岩永光樹+高橋翔作

煌びやかな東京の街並みに抱かれるように位置する東京湾。
湾に臨むのは羽田空港や大井埠頭、レインボーブリッジに東京ディズニーリゾートなど流通からエンターテイメントまでさまざまなスポットが軒をつらねている。
夜には漆黒の水面にそれらの個性的な光が映りこむ。

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船上から見た360°に広がる東京の光

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調査コース

様々な表情をもった東京という大都市を海上の視点から一望したとき、我々の目にはどのような光景がひろがるのだろうか。いつもの調査とは視点を変えて、東京湾をクルージングしながら東京という大都市の遠景の光を調査した。
日の出ふ頭を発着場とする船に乗り、レインボーブリッジ、東京ゲートブリッジをくぐった後、羽田空港近くを通って再び日の出ふ頭に戻るまでのルートを調査コースとした。

■日の出ふ頭付近からの展望
レインボーブリッジより内陸側の海上からは東京の光を360°見渡すことができ、東京湾夜景の一番の見どころといえる。水平線上に並ぶレインボーブリッジや東京タワーの色鮮やかな光、オフィスやマンションの窓明かりなど、様々な光が煌びやかに連なって見える様はとても美しく感動的だった。新宿や銀座などの繁華街を歩く際は光の多さに圧倒され、時に暴力的に感じられる部分もあるが、少し引いてみるとこうも静かできれいに感じるのかと驚かされる。
しかし主要な繁華街やオフィス街の光は天空まで拡散しており、光害とも言える無駄で過剰な光が確認できる。また、調和なく雑多な光が混じり合っている現状は夜景の価値を向上させる上で1つの解決すべき課題だと言えるだろう。

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調査で利用した船
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構造が美しく光る工場

■大井ふ頭付近の工場夜景
大井ふ頭には海岸沿いに巨大クレーンが立ち並び、その周辺には無機質に照らし出される工場が点在する。怪しげに美しく光るクレーンや工場は水面への反射が相まってとてもドラマチックに感じられ、東京の普段見ることのできない夜景を楽しむことができる。巨大クレーンの多くは低色温度の光源が用いられており、連続して見える光景は統一性があり印象的だ。だが、強いグレアを放っている工場がいくつかあり、まぶしいだけでなく背景にある東京の夜景をかき消していた。工場の光は機能を重視したものであるべきだが、景観への配慮があってもよさそうだ。(高橋翔作)

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海岸沿いに連なる巨大クレーン

■ビル群の中のレインボーブリッジ
大井埠頭の工場夜景を堪能したあとに暁埠頭側に左折すると右手には大きな闇が横たわる。昨年一部の開園が見送られたばかりの海の森公園だ。ゴミの埋立地に森をつくることで期待があつまる海の森公園の闇は目に心地良く、夜空を染め上げる都市光のフレアが浮かび上がってみえた。反対方向の有明側では対照的な景色が広がる。お台場のフジテレビ、レインボーブリッジ、東京タワーが層となって重なり見え、相互との速度でゆっくりと交わっている。ビル群の中に佇むレインボーブリッジを発見したと同時にレインボーブリッジの照明は土台に広がる海水面があってこそ美しい照明手法なのだと気付かされた。

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海原に聳え立つレインボーブリッジ

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巨大なダークスポット「海の森公園」

■闇夜に浮かぶ「恐竜橋」
広大な海の森公園の闇から突如あらわれるのは「恐竜橋」こと東京ゲートブリッジだ。千葉県市原市あたりの夜景を背負い繊細に照らしあげられたトラス構造は15-20cd/㎡と、節度のある輝度でほんのりと海上に浮かび、東京の海の門構えとして十分な気品を感じることができた。視界に広がる夜空と海原を切り裂くように大きな弧を描いたブルーのドット照明も心地良い輝度で印象的だった。
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心地良い輝度をまとった「東京ゲートブリッジ」

■空と海原を横切る光
東京ゲートブリッジをくぐると街明かりも遠くなり海原の黒と夜空の黒をさまざまな色の電飾が分断しているような光景が広がる。しかし、その静寂を劈くように上空から轟音とともに一筋の光が我々の頭上を横切る。夜空を見上げると飛行機のヘッドライトがぽつぽつと遠くの空まで連なって見えて、進行方向には高速点滅で空の旅客者たちを誘う光が羽田空港の滑走路を走っていた。移動体の光はいつも強烈で不意に飛び込んでくる暴力性があるが、空を回遊する光は都会の蛍のような魅力があった。内陸側の海上に戻ることには昔ながらの赤提灯をぶら下げた屋形船から青白いイルミネーションで飾られたクルーザーも浮かび、色とりどりの光が海原に漂う様は縁日のヨーヨー釣りを髣髴とさせた。

■東京湾の夜景の魅力
東京湾クルージング調査は総じて言えば驚きの連続だった。シンボリックな建物はほとんど見ることができたのだが、よく考えてみると東京湾ほど視界が開けた場所は東京都内のどこにもないかもしれない。だからこそアイレベルでは普段視界を覆ってしまう高層ビルや建築群が、東京湾では連なって見ることができる。この光景は東京湾ならではの景色と言っていいのだろう。ただ建造物も橋も工場や護岸さえも海上からの視線を意識していなかったのか、私には「うしろ姿」を垣間見てしまったような印象が残った。しかし、このアトラクティブなシーン展開が大都会・東京の街々を背負い込んだ東京湾夜景の魅力なのかもしれない。(岩永光樹)

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甲板には夜景を楽しむ人々で溢れる
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デコレーションされたクルーザー

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