照明探偵団通信

照明探偵団通信vol.89

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発行日:2018年5月29日
・照明探偵団倶楽部活動1/世界都市照明調査in Switzerland (2018/04/12-04/17)

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世界都市照明調査in Switzerland

Zurich ⇒ Bern ⇒ Basel
2018/04/12-04/17  本多由実+ 田窪恭子

人々が集う明かりの場を求めて訪れたスイス。待望の春の訪れを喜び、予想以上に多くの人々が朝から晩まで外でくつろいでいた。昼は豊かな自然や美しい町並みを楽しみながら自然光を全身で享受し、夜はほのぐらい明かりの中で談笑する人々。俯瞰夜景撮影のため、暗い丘を上ったが、そこでも観光客ではなく街の人々が夜景を眺めている。ゆっくり過ごしたくなる夜の街の明かりをスイスで見つけることができた。

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チューリッヒ湖畔で夕暮れを楽しむ人たち

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バーセルの川辺 ビールを片手に人々が集う

■夕暮れの水辺
春暖が残る夕暮れのチューリッヒ湖畔に人が集う。眺望の開けた場所で、各々が思い思いに時の移ろいを楽しんでいる様子は他にない贅沢さがある。日の入後天空が藍色になると、中世に建てられた歴史的建造物がほんのりと照らされ水面に映る。そんな風情を楽しめる理由はいくつかの歴史的背景と都市計画の結果から来ている。まず、他の都市に比べて車の数が圧倒的に少ない。街は広い車道や交通渋滞に遮断されることなく、川や橋、対岸に連なる歴史的建造物を身近に感じられる。街に点在する旧市街には石畳の路地がそのまま残されている。風情を残した旧市街の散策は昼夜問わずとても優雅で楽しい。照明というと、高くそびえ立つ道路灯は少なく、環境に合わせた街路灯が情緒ある路地を照らしている。暖かくなり、身近となった街は夜が更けても人を不安にさせない。暖かな季節によるところもあるが、夜でも安心に人々が集える恵まれた都市環境があった。

Basel Riverbank sketch
バーセル川辺のスケッチ ポール灯は光源が隠されているにもかかわらず眩しい

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チューリッヒの旧市街
zurich old street
チューリッヒ 路地のスケッチ
Bern駅ホーム
ベルン駅のスケッチ

■見栄無い、機能的な街と明かり
スイスの街はどこと無く落ち着きがあり、派手さが見当たらない。おそらく行政や自治体が目を光らせているからであろう。ただ、店のショーウインドウは夜にも明かりを残し、客を呼び込もうとしているのが分かる。街路灯はグレア感は否めないのだが、控えめに街を照らしている。
チューリッヒやバーゼルのメインストリートは4m高さのポール灯が12~15m間隔で設置されていた。ポール灯は光源を隠し、反射板で光を反射させて周辺を照らすタイプで、床面30~10ルクスを確保している。
トラムと車兼用の道路には6m高の架線に設置されたグレアのあるLED型カテナリー照明で全体を明るくしているのだが、この明かりで周辺の建物もほんのりと照らしているので、見所である重要建造物以外にファサード照明というものは見当たらなかった。
せっかくの豪華絢爛な古い建物でも窓明かりさえなく、影に落ちてしまっていてもよしとする潔さに脱帽した。

■駅からみるスイスの品格
スイスは建築巡礼の地と言われているが、駅だけ見てもそのデザイン性が高いことが見て取れる。
コンクリート打ち放しの天井や壁面に設置されている照明にはルーバー、反射板、遮光板をつけ、ダイレクトに光源を見せないよう工夫している。シンプルなディテールを見ても、それが巧妙に計画され、熟練された大工によって施工されたのが分かる。駅を訪れると、スイスの裕福さ、スイスの品格さが理解できる。
スイスの人はほぼ皆、山登りを趣味にしているそうで、街中でも登山かアウトドアタイプの服装の人が多い。健康的で、エコロジカルなライフスタイルからもスイスに暮らす人々の上品さが伝わってくる。人、自然、歴史や文化を優先させ、無駄を省いた機能美的な街に憧れと、未来都市のヒントがあると感じた。(田窪恭子)

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22時ごろのチューリッヒ中央駅前の大通り。中央に架線に取り付けられた車道灯と、歩道にポール灯がある。
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ベルン中央のトラムステーション。人やトラムの動きがガラス屋根に反射し、活気が増幅される。
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ベルン駅ホーム。反射板を使って天井と床と両方を照らしている。

■身近に街を眺められるということ
今回調査したチューリッヒ、バーゼル、ベルンはいずれも川や湖に沿って眺望の開けた広場が設けられ、多くの人々が水に映る窓あかりやトラムの動く光を眺めながら楽しんでいた。丘から街を見下ろすと、歩いてきた道の体験とあわせて街の構造をより把握することができた。
チューリッヒのリンデンホフの丘からは街との高低差が少なく、川沿いの明かりの奥には暗い屋根屋根が連なっていく。華やかさは少ないものの、行き交うトラムや店の明かりから街の活気を感じられた。一方、湖沿いでは湖面の先の傾斜地を窓明かりのきらめきが覆い、背後にはうっすらと白く光る山脈が控える。広がる街を包み込む自然の雄大さを再認識する光景であった。
ベルンの街はU字状に湾曲したアーレ川に囲まれている。街の中心から川沿いの高低差が大きく、対岸のローゼンガルテンの丘からは建物が段上に積み重なったかのように見える。市街地を歩いている時は、カテナリー照明によるファサード照射がささやかな明るさに思えたが、丘から見ると地形に沿って街の立面が積みあがる様子が昼よりも強調されていた。その中でライトアップが施された大聖堂のくっきりとした陰影と、ほのかに明るい対比は効果的であった。 
バーゼルはライン川沿いの大聖堂広場からの俯瞰夜景が印象的だ。窓明かりや街灯の光が川面に伸びる優しい印象のその奥にはいくつかの高層ビルや再開発中のクレーンの光の明滅が見える。平坦な印象の俯瞰とは一変して、旧市街は起伏が多く道幅も狭いなかをトラムが行き交う立体的な構造だった。

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チューリッヒ リンデンホフの丘から。川沿いの店やトラムの明かりが良く見える、生活感のある夜景。
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ベルン ローゼンガルテンの丘から世界遺産の街並みを俯瞰する。川から隆起する様子が街明かりの起伏で強調される。
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バーゼル 大聖堂裏から望むライン川越しの小バーゼル。川沿いの穏やかな街並みの奥に高層ビルが見える。

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ベルン クラムガッセの断面スケッチ。予想に反して上層階の窓明かりがほとんどない。

旧市街を散策すると、昼間は窓辺や軒裏の装飾に目を奪われキョロキョロしていたが、夜は目線が下の方に誘導される。人の頭ほどのブラケットライトが2階レベルから張り出し柔らかく壁面を照らしている以外はショーウィンドウの明かりのみ。机上顔面とも10ルクス程度ではっきりと人の顔や食事の皿が見えるほどでないのだが、店先のテーブル席や広場のベンチには多くの人が集う。(テラス席があちらこちらにあるのは、公共交通が発達し自動車が少ないのが大きな要因だろう。)街路照明はほぼ電球色だが、ショーウィンドウや店には白色やカラーライティング、ネオンサインももちろんある。ただ、看板への投光照明や発光する袖看板は少なかった。また、夜に開いている店舗や駅など、人が入れる場所と街路の明るさに極端な差が無いから、ほのかな明るさで十分安心していられた。商業エリアでは居住者が少ないのか上層階の窓明かりがあまり無かったが、窓際がオープンで明かりが見える窓はリビングルームのような部屋が多い。街でくつろいでいる様子の人が朝から夜まで多かったので、逆に街もリビングルームの一部という感覚なのだろう。確かに泊まったホテルも窓際にスタンドライトが置かれていた。

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バーゼル メッセ
道路をまたいでたてられた建物の下は広場かつトラム駅でもある。
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ベルン クラムガッセ
アーケードから漏れる明かりが壁柱をリズミカルに見せる。

■日光礼賛、陰影礼賛
スイスは旧市街だけでなく現代建築も有名である。昼間に訪れた美術館や大学のキャンパスでは、自然光をふんだんに取り入れた空間が多かった。前述の通り、外でくつろぐ人も多く日光が好きなスイスの人々。かといって夜には昼の明るさは求めず、暗いなかで談笑する。昼も夜も煌々と店やビルの明かりがともっている東京とは時間の使い方も違うのだ。
最終日にはチューリッヒの街は春の始まりを祝う祭りで賑わっていた。祭り自体は夕方には終わるが、その残りの大きなたき火を囲んで広場では人々がBBQを楽しみ、街中では中世の衣装をまとったパレードが蝋燭を使ったランタンを吊り下げ夜遅くまで練り歩いていた。広場に綺麗に敷かれた石は、人々に踏まれて磨耗し、わずかな光を受けて艶めく。スイスの夜に細やかな光の様相や、照明だけでなく落ち着いた夜を構成する街の要素に目を向けることができた。(本多由実)

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バイエラー財団
自然光がやわらかく降り注ぐ展示室
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チューリッヒ春祭り夜の行進
伝統衣装を着て、ランタンを持ち、夜遅くまで街を練り歩く。

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