世界都市照明調査

世界都市照明調査: Sri Lanka

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世界都市照明調査 in Sri Lanka
Colombo ⇒ Kandy ⇒ Galle

2018/10/23-28 村岡桃子 + 荒木友里 

近年発展が目覚しいコロンボ、世界遺産にも指定されたキャンディ・ゴールという3つの特徴的な都市を巡り、仏教の国・スリランカにおける照明と人々の暮らしの関係を調査した。

キャンディ
↑世界遺産でもあるキャンディの夜景。キャンディ湖をはさんで、右手にはライトアップされた仏歯寺が見える。
↓ファサードのライトアップや看板照明が施された建物は少なく、店内の漏れ光が夜の街並みを構成する。

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■スリランカの夜の街並みをつくるもの

スリランカ中部の世界遺産、古都キャンディ。街の中心部には仏教徒の聖地である仏歯寺が湖の傍らに建ち、さらにその正面にイギリス植民地時代を彷彿とさせるコロニアル調のクイーンズホテルが位置している。日中にはその多様な街並みからスリランカの歴史を感じることができる。
しかし、夕刻になると街並みは異なる様相を見せる。ファサードにライトアップを施した建物がとても少なく、街のシンボルでもあるクイーンズホテルも闇に沈んでいる。商店の看板にも派手な電飾がないため、漏れ光により夜の街並みが構成される。近代的な都市の街並みと比べると、まるで図と地が反転したような光景である。街で一番大きな道路にも車道用の街路灯はなく、路面の明るさは1lux程度であった。
対照的に仏歯寺やモスク・仏像などの宗教建築は煌びやかにライトアップされ一際目立ち、圧倒的な存在感を放つ。仏教の国といわれるスリランカの人々にとって、日々祈りを捧げる寺院が如何に特別なものであるかを伺い知ることができる。

仏歯寺外観
ライトアップされた仏歯寺。昼間は真っ白な外観に褐色の屋根が映えるが、夜間はライトアップによって全く異なる様相になっている。

■街路灯について

夜を過ごすうちに気になったのは、街路灯の点灯時間である。10月下旬の日没は18:00であり、18:30頃には空も暗くなるが、街路灯が点灯しないため街全体が暗く沈んでいく。街の明かりが全体的に一度落ちてからしばらくし、18:45ころから街路灯がぽつぽつと点灯を始め、街に明るさが戻ってくる。スリランカでは現在、夜間に出歩く人も少なくアクティビティもないが、多くの観光客がディナーのために出歩く時間帯に、街全体が真っ暗になってしまうのはもったいないようにも思える。昼光センサーなどの技術を取り入れることで、改善があれば観光都市としてさらなる賑わいをみせるのではないかと思う。(荒木友里)

クイーンズホテル
シンボルであるクイーンズホテルも夜は闇に沈んでいる。
キャンディ_駅前通
目抜き通り。車道用の街灯はなく、路面は1Lux程度の明るさ。

■要塞都市ゴール

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ゴールの目抜き通りであるチャーチストリート。

古くから交易の拠点として栄えたゴールは、城壁に囲まれかつての趣を湛えたまま1988年に世界遺産にも認定された旧市街と、非常に活発な経済活動が街並みに表出する新市街が隣り合う街で、両市街の行き来は、不思議なタイムトリップを思わせる体験であった。旧市街は観光に特化していることは明らかである一方、そのために街並みを整えようというある種の気負いから解放されている感覚があり、その夜景もまた作為的な演出とは全く無縁の風景であった。
外壁にはある定型モチーフのブラケットが据え付けられており、それらが一定の夜景を創り出すのではとの予測をもって夜景を待ったが、そのほぼ半数は日没後点灯せず、教会やモスク、灯台など、ランドマークと言えそうな史跡も総じて照らされないまま、夜空に溶け込むように静かに佇んでいた。時折注意を引かれる光といえばトゥクトゥクのヘッドライトの往来で、特産品である宝飾品をディスプレイする店舗の照明は青白く高照度で発光しているものの、日没を過ぎれば街も眠りに入るような、夜景演出の自意識から解き放たれた素朴な夜の暗さに満ちた観光地であった。街を歩いて道に面したある室内に足を踏み入れ、ずいぶん明るいな、と思って計測すると、ローテーブル高で5lux程度と、私たちの日常とはかなり異なる明るさのスケールを体感できるまちであった。
スリランカ屈指の名所が夜景に注力していないのは、暗さに対する確たる哲学あってのことなのかも、、、と思い始めた矢先、幸運なご縁の下ゴール市長に旧市街の夜景についての考えを聞く機会に恵まれた。市長は市街地の夜間照明計画に非常に強い興味を持たれており、現状”Low-Production Time”である18:00‐21:00の照明計画を充実させることでまちの活性化に繋げられるのではと話され、新市街の海岸沿いの街路照明計画修繕に始まり、今後太陽光発電の活用も視野に入れながら、段階的に照明環境の向上を進めていく考えとのことであった。今後ゴールの夜景がどのように変遷するのか強い興味と共に注視していきたい。

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ゴールの街角。同じモチーフのブラケット照明が多用されており、使用されている電球はほぼ統一されていた。

■ベントータやコロンボ

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ベントータの駅前通り。

実は団長に“スリランカに都市夜景はないよ”といわれていながら旅立った私たち。事実、街並みとして連続性のある夜の風景を光の様相として確認することは難しかった。一方、夜光るのは寺院であったり、また営業していることを主張する商店であったり、人びとの需要の強弱の表出のようでもあった。交通量の多い真っ暗な通りに続々と集まってきたひとが背後の商店の光で群衆のシルエットとなり、それが停まったバスに一斉に乗り込んでまた通りは商店から発する光だけになる。光と影のドラマはどこにおいてもその場所固有のキャラクターの一端であると感じる瞬間には幾度も出会うことができた。

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スリランカ最大の都市・コロンボの夜景。ベイラ湖に浮かぶ寺院を取り囲んで、高層ビルの開発が急ピッチで進んでいる。

■あかりと祈り

国民の大多数が仏教徒のスリランカ。菩提樹のある辻には街中の通り沿いにも仏陀がおり、ショウケース的に夜間も照らされている。コロンボ国際空港では、入国審査への動線上にRGBカラーチェンジを背負った仏陀が到着客を迎えてくれる。お祈りのために寺院に出向くことはどの世代においても日常的なことだとのことで、キャンドルを捧げる風景も各所で見られた。

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仏歯寺の内部。朝7時にも関わらず多くの人々が訪れている。
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祝日ということもあり、多くの家族連れが白い服装でコロンボ市内のガンガラーマ寺院を訪れていた。

■スリランカの日常の光とあかり

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寺院の周りにはお供え物を売る屋台が常に立ち並ぶ。

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シーママラカヤ寺院を取り囲むベイラ湖と高層ビル。

高所撮影ポイント探索のために民家の屋上に通してもらったり、ご縁のあったローカルオフィスを訪ね歩いたり、今回の調査では、スリランカの人が日常に囲まれる昼光環境を体験する機会が数度あった。基本的に日中は室内空間の照明は点灯せず、開口部から目に入る壁や路面の反射で明るさ感を得て、時に真っ暗な室内で人びとは過ごす。そこで体感する明暗のコントラストは、室内に足を踏み入れるまでは、きっと不快に感じるのでは、と思うほど劇的なものであったが、室内では身体の緊張がほぐれるようなとても良い感覚であった。
強烈な日射は、木漏れ日の情緒も日本で見るそれとはまた異なる印象で、見惚れるような濃い影がそこここにあった。ほんのわずかな隙間からのトップライトだけで大勢がひしめき合う市場の日常が成立していたり、暗いことは不快なことや怖いことではない、というような暗さに対するおおらかさとの出会いは、新鮮な驚きであった。昼光環境の受容の仕方も都市の数だけ多様である中で、夜景に対する感受性や評価軸は果たしてどれだけの多様性を包摂しているか、ということに思いをはせる道中でもあった。
4回あった日没時のすべてが天候に恵まれず、いわゆる絵になる夜景写真は撮れずじまいではあったが、その夜の様子は夜景未満であれど、豊かさに満ちた昼光の様相と共にある都市の調査を経て、照明文化の多様性の分布として、興味深い極の一つになるのではと考えている。
(村岡桃子)

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キャンディ市内のマーケット。屋根の隙間から差し込むわずかな昼光のみで明かりをとる中、多くの店がひしめき合っていた。

■ジェフリー・バワの建築

スリランカといえば、リゾート建築の巨匠であるジェフリー・バワを思い浮かべる人は多いだろう。コロンボにあるNumber 11というバワの自邸に、私たちは今回とても運よく宿泊することができた。建物に入りまず目を奪われるのは、真っ白な壁・床・天井である。装飾的な照明器具が設置されてはいるがいずれも点灯しておらず、代わりにトップライトから差し込んだ自然光が白い内装に反射し、空間全体を柔らかに照らしている。エントランスからリビングへと繋がる廊下は、光につつまれたアートと植栽が絶妙なバランスで配置され、息を呑むほど美しい。トロピカルリゾートを多く設計したバワがたどり着いた、強い日差しと向き合うデザインの一端を体感することができた。
Number11を管理しているスタッフの方々が、白い内装をとてもこまめにメンテナンスをする必要があるのが大変だ、といいながら愛着と誇りをもち建物を守る姿勢にも、国民からバワ建築が愛されていることを窺い知ることができた。(荒木友里)

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ジェフリー・バワの自邸であるNumber 11。
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多い茂る緑が強い日差しを浴び、色濃い影を落としていた。

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