照明探偵団通信

照明探偵団通信 Vol.52

Update:

発行日:2012年5月2日
・海外調査レポート/タイ・バンコク(2012/2/29-3/2)
・照明探偵団倶楽部活動/Transnational Tanteidan Forum 2012 in Bangkok(2012/3/1-3)

世界都市調査 in Bangkok

2012.2.29-3.2   中村美寿々、東悟子

東南アジアの中心都市として成長を続けるバンコクでは、厳かな仏教文化やマーケットの賑やかさにモダンな華やぎが加わって、雑然とした熱気がますますエネルギッシュになっています。古今の魅力が調和する街ならではの光を調査しました。
連続夜景1

■都市の光、街の光
バンコクでは、高層ビルの上層階にオープンエアのレストランが設けられ、ナイトスポットとして人気を集めているそうだ。55階から見下ろすと、屋台の明かりなど賑やかな地上の光はあまり感じられず、整然と林立するビルの間にナトリウム灯に照らされた道路が浮き上がり、近代都市バンコクを象徴するような景色が広がっていた。多くのビルで目についたクラウン照明は、入母屋や寺院の塔のような形で光っていたり、カラフルなカラーチェンジが行われていたりとどれも独創的で、夜景にリズムを与えていた。街を歩くと、都市的で硬質な印象は影をひそめ、溢れる熱気に包まれる。屋台の並ぶ歩道に一歩入れば街灯は殆ど存在感をもたず、人々が思い思いに持ち寄ったランプやネオンで夜の街が照らし出されていた。生活から生まれる自然発生的な明かりと公共照明や高層ビルの明かりとが地上と空中でせめぎあい、光も近代化への過渡期にあるようだった。形状がむき出しの光によって生み出されるリズム感や、カラフルな色使いが、共通しているように感じた。屋台の照明で印象的だったのは、照らす商品に応じて、色温度の異なる光源が選ばれていたことである。カラフルなネオンサインや鮮やかな看板照明の光が豊かな色彩で夜の街を彩っていたが、それだけではなく光によって照らされる対象物も、こまやかに色味を演出されていた。光源のグレアや路面の暗がりを気にするよりも色温度に対する意識は明らかに高い
ようで、バンコクの人々がもっている、色彩の豊かな感性を感じることができた。

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ビルのクラウン照明は、どれもビルとは独立した光のオブジェのようだった。ひときわ高いバイヨークタワーではメディアスクリーンが主張していた。

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クラウンをカラフルに照らす照明器具が目に入ってしまう位置に取り付けられている。ガラスへの映り込みも激しい。

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街を歩くといたるところで立ち並ぶ屋台。むき出しの直管蛍光灯を連ねたり電球型蛍光灯をクリップで止めたり、それぞれ必要なところに必要な光を各自設置するといった場当たり的な風情だが、実は屋台の高さや蛍光灯の長さが揃っていたりする。暗黙の了解があるようだ。

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多国籍な人々で賑わうカオサン通り。せり出す屋台で歩ける幅は1m~3mと狭く、店先の漏れ光や看板の光が明るさを担っていた。路面照度は中央で40 ルクス程度。街灯の光はごった返す人々のところまで届かず、歩道を照らす光というより看板照明に同化して見えた。

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裏通りに入ると、鮮やかな色の洪水に満たされる。機能照明としての街灯はなく、頭上の輝度感によって視線が奥へと誘導される。

■昼間の光、寺院の光
バンコクの寺院の外観は眩しいほどの金色だったり、原色のタイルの隙間に鏡を砕いたものが混じっていたりと、昼光をきらびやかに反射することを意識しているように思えた。その鮮やかな光の扱いは、極楽浄土を彷彿とさせる荘厳さや神々しさを強調しているようで、タイの人々の仏教への思いを色濃く反映させたもののように感じられた。それに対し建物内部では昼光はひたすら遮られ、昼間でも照明が灯されていた。寺院に限らず、普通のビルでもガラスのファサードや大きな窓の建築は殆ど見かけなかった。昼間に降り注ぐ強烈な日差しや、それを受けて輝く寺院は、バンコクの夜の光環境にも少なからず影響しているように思う。光を反射する寺院の外観や日陰と日向のコントラストは、眩しさや不均一な照度を気にとめずに自由に設置されるランプの存在感に通じる部分を感じたし、自然光による原色の鮮やかな色合いは色彩感覚の豊かさに通じているような気がした。暑すぎる日差しが沈んだ夕暮れには、多くの寺院がライトアップされて街を彩る。

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蛍光灯ランプの色温度が。川や暖色系のアクセサリーには電球色、きらきらしたプラスチック製品には白色と使い分けられている。

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白色蛍光灯で野菜が照らされる市場。肉を扱う店でだけ、電球をぶら下げたり蛍光灯にピンク色のフィルターを巻いたりしている。

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タイルや金色の塔が強い日差しを受け、鮮やかに輝く寺院。内部は開口が限られ昼光は殆ど入っていなかった。

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人の歩く空間は白色の蛍光灯、金色の大仏を照らすには色温度の低いメタルハライドランプ、真珠色の象嵌が施された大仏の足裏には色温度の高いメタルハライドランプ。器具の設置は無造作ながらも、光源の選蛍光灯ランプの色温度が、皮や暖色系のアクセサリには電球色、きらきらしたプラスチック製品には白色と使い分けられている。
定に明らかな配慮があり、大仏の存在感が演出されていた。

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ワットプラケオ(王宮) が低い色温度の光で金色に輝き、印象的なその屋根が夕暮れの街並みの上に浮かぶ。河岸には点々と水上バス乗り場の光が灯り、カラフルなランプを点けた船が往来する。

連続夜景2

チャオプラヤ川に映り込む様子が美しいワットアルン。市内の歴史ある建物は多くがライトアップされていた印象だったが、川沿いでその姿を映していたものは少なく、水景を味方につけた美しさが際立っていた。

■水上の光
バンコク市内から車で1時間ほど、アムパワーという街で開かれている水上マーケットを訪れた。水路の両側に連なる古い家並みから船の上までマーケットがあふれ出しており、水の近さや川面までの高低差が空間的な活気を感じさせ、バンコク市内の路上マーケットとはまた違う賑わいだった。水路の上には、街灯ならぬ水路灯が木の枝のような形状で整備され、水面近くまで店が並ぶ川面には色とりどりの光が反射し、夕暮れには、昼間の濁った川が美しく化粧したかのような情緒的な表情を見ることができた。狭い川幅に対して水面近くまで光がせり出しているために映り込む光の量が多く、広大なチャオプラヤ川よりも地上の賑わいを増幅しているように感じられた。水路の両側に光が連なっている奥行感も、水景としての美しさを強調していた。対岸の景色を一幅の絵のように静かに眺めるならチャオプラヤ川、きらめく光に導かれるような感覚を味わうなら水上マーケット、といった印象だろうか。洪水を乗り越えてなお川を抱いて暮らすバンコクで、身近な水景は大いなる魅力をその夜景に与えているように思った。バンコクの夜は、強烈に降り注ぐ太陽や街を潤すチャオプラヤ川、そして寺院のきらめきと人々の熱気といったバンコクの個性を、そのまま写し取ったような魅力ある光にあふれていた。近代化や都市化が進んでも、バンコクらしさを失わずに、古くからの文化をうまくモダンに引き継いでいる様子が感じられた。そんなバンコクの夜景は、きっとこれからもますます活気を増していくだろう。(中村美寿々、東悟子)

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ちょっと暗い軒先に、それぞれの店が自由にディスプレイを広げる。
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船ごとに傘つきの蛍光灯スタンドなどの照明が手作りされていた。

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川幅ぎりぎりまで軒先がせり出ているため、水面が明るい。だがマーケットが途切れた奥は、真っ暗な闇が広がっていた。
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頭上6 ~ 7 mに直管蛍光灯がぶら下がり、お祭りのようである。なぜか各列中央の一本だけ黄色いフィルターが巻かれている。


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川幅は15~18mほど。光源が低い軒先に隠れているため、もし水面の反射がなければ暗い空間となっているだろう。頭上で水路灯として生えたりぶら下がっている蛍光灯の白色が、どこか楽しげなリズムを感じさせる。住居の横では、電球色の蛍光灯が付いていた。

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世界照明探偵団フォーラム in Bangkok 

2012.3.1-3.3   村岡桃子、中村美寿々、東悟子

昨年12 月に予定されていた世界照明探偵団フォーラムが、洪水による甚大な被害のため延期となり、ようやく3 月に開催することができた。バンコク地元の人々とチームを組み、一緒に街を歩きながら、バンコクの夜のアイデンティティを探った。

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図2

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参加者は5 グループに分かれ、バンコクの各担当地域を調査

■概要
2009 年の北京に続き、9 回目を迎える世界照明探偵団フォーラムの開催地は、タイの首都バンコク。昨年の洪水の影響2011 年12 月から延期しての開催となりました。今回のテーマは“Bangkok Light Identity”。ワークショップや街歩きを通して、参加者と調査・検証し、グループごとに意見をまとめ、フォーラムで発表を行いました。同時開催で、フォトコンテストも行われ、最もテーマにあった作品が、優秀賞として表彰されました。

■ワークショップ、街歩き
ワークショップには、現地で建築を学ぶ学生や駆け出しの照明デザイナーなど総勢60 名ほどが集まりました。参加者は5 つのグループに分かれ、コアメンバーをリーダーに、チャオプラヤ川沿いの3 地区と旧市街、新興ビジネス街の公園エリアの調査に繰り出しました。それぞれのチームにはバンコク出身のチューターがつき、調査対象地の成り立ちなどをガイドしてくれました。私が加わったのはストックホルムからのコアメンバー Jan Ejhet 教授が率いる旧市街調査チームでした。チューターのToey のおかげで市内中心部の猛烈な渋滞を何とか攻略してブルーモーメントの旧市街にたどり着き、市庁舎広場を中心に周辺の町屋様式の商店街や寺院を調査しました。商店街など小規模な建物の連なりで目につくのは直管蛍光灯の独創的な使い方。ネオン管のように壁面に取り付けて模様を描いたり、木の実のように木に吊るしたり、門柱や梁に取り付けて建物を光で模っているようであったり。どれ一つとして同じものはないのですが、その蛍光灯の様相が風景に独特のにぎわいとリズムをもたらします。路上のスナックスタンドのカウンターを照らすのはお手製の豆球スタンド。旧市街のストリートには手作りの明かりが多く見受けられ、そのエネルギッシュな光の使い方に足を止めて見入ることもしばしばでした。市庁舎は巨大な国王の写真とともにナトリウム灯で強力にライトアップされており、眼前の広場はほぼ真っ暗な状態の中市民が体操などを楽しんでおり、暗闇を楽しむ文化も見受けられました。興味をひかれたた光に近づき記録をとり、思うところを話し合いながら、旧市街チームは深夜まで調査を続けました。

■グループセッション
前日に収穫した写真、ムービー、スケッチをもとに、Bangkok Lighting Identity とはなにか、各チームで話し合い、Forum での発表に備えます。まず見たもの・感じたものをすべて書き出し、ブレーンストーミングを行い、そこからそれらはいったい何を示しているのかを導きだし結論を出しているグループもあれば、撮影してきた写真から、プレゼンテーションに使用するものを選び、そこに気付いた点、改善点をどんどん書き込んでまとめていくというグループもあり、チーム毎に結論を出すまでのアプローチがさまざまで刺激的でした。どのチームも、ものすごい集中力を発揮して作業に没頭し、3 時間のセッションの中で、完成度の高い発表資料を完成させていました。

■フォーラム
会場は立ち見が出るほどの大盛況振り。学生、照明デザイナー、照明メーカー以外にも、ランドスケープデザイナーや、僧侶も参加くださいました。フォーラム前半は、“Identity” をテーマに、コアメンバー6 名によるプレゼンテーション。東京、シンガポール、北京、ベオグラード、ストックホルム、ハンブルグの夜のアイデンティティを、自らの経験や知識をベースに各都市の現在の夜の表情や、どのように人々が夜の時間を楽しんでいるかなどが紹介されました。後半はワークショップ参加チームの発表。各チームは担当した地域の夜の景観を説明し、その構成因子を分析。そこで発見した内容についての意見や改善点などが発表されました。街は光があふれ、グレアが気になるという声が多く聞かれました。道端のお土産や食べ物を売るスタンドや市場の照明器具は手作りのものが多く、安全面やグレアに配慮されていない点もあげられていました。一方でそれぞれの店主は、どのような光を当てると自分たちの商品を魅力的に演出できるかということをよく理解したうえで照明を配置しており、その照明の眩しさや色温度が、活気あふれる市場の雰囲気づくりの一端を担っているという声も聞かれました。

■感想
たった2 日間という限られた時間での調査、ワークショップでしたが、参加者の集中力と熱意とで、密度の濃い内容となりました。夜のバンコクをもっと楽しく、もっと快適に、もっとドラマチックにしたいという思いが感じられるフォーラムで、私たちも得るものがたくさんありました。バンコクの人々にとって、このフォーラムでの体験が、さらなる照明文化発展のきっかけとなることを願っています。(村岡桃子、中村美寿々、東悟子)

■事務局からのお知らせ
4 月24 日、二子玉川での街歩きが開催されました。街歩きスタート直前まではよく晴れていたのにもかかわらず、始めて1 時間もたたないうちに小雨が降り始め、あっという間に強風を伴う雷雨となりました。びしょびしょになりながらも調査を続けていたチームと、早々に懇親会に向かったチームとさまざまでしたが、忘れられない街歩きとなりました。この内容は、来週のサロンの様子と一緒に、次号の探偵団通信でご報告いたしますので、お楽しみに。
(東悟子)

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バンコク都市調査マップ
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フォーラムの会場となったBangkok Code, King Mongkut’ s University of TechnologyThnoburi(KMUTT)。どのグループも熱のこもったディスカッションを繰り広げ、プレゼンテーションの為の、準備に余念がない。
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フォーラム会場は定員超えとなる盛況ぶり。現地の学生や学会員の注目度が高いようだった。
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コアメンバーと今回のフォーラムをディレクションされたKMUTT アチャラワン教授
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mondo 2012 April/May issue に世界照明探偵団バンコクフォーラムの様子が掲載されました。

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