照明探偵団通信

照明探偵団通信 vol.137

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発行日: 2025年 3月 31日
・照明探偵団倶楽部活動1/ 世界都市調査: モンゴル ウランバートル(2024.10.01-05)
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世界都市調査: モンゴル、ウランバートル
2024.10.01-10.05 板倉厚 + 渡邊元樹

モンゴルと言えば広大な草原や遊牧民のゲルを想像することが多いが、発展を続ける首都ウランバートルにも注目したい。
日本から約5時間半で行ける距離にありながら、現状を知る人は少ないだろう。今回はウランバートル市の都市照明調査を通して、モンゴルの意外な一面を知る貴重な機会となった。

■モンゴルってどんなところ?
我々がモンゴルについて抱く印象は、一面に広がる草原、その中に佇む遊牧民の住居ゲルをまずは想像するだろう。また日本人にとっては蒙古斑のルーツを持つ民族としての共通性や、大相撲で活躍する多くのモンゴル人力士を見て、何かしら親しみがあるのではないだろうか。日本から飛行機で5時間半で行けてしまう距離にありながら、なかなか足の向かない、近くて遠い国モンゴル。親近感がありながらも、現在のモンゴルがどんなところかはよくわからない、というのが実情だろう。そんな素朴な疑問から、発展著しいモンゴルの首都ウランバートル市の都市照明を、4泊5日のスケジュールで調査した。

■ウランバートル市の地勢的特徴
ウランバートル市の面積は4,700k㎡で、9つの街区で構成されている。北側と南側に丘陵があり、町の中心部は東西に広がっている。町の西側、主に商業エリアでは、大規模に都市開発が進んでいる。市の南50kmに位置するチンギスハーン国際空港の周辺を新都心として、開発を進める計画もあるそう。また街の北部と北西部にある丘陵の斜面にはゲル地区と呼ばれる地域が広がり、ウランバートルに流入した遊牧民たちの暮らす自然派性した地域となっている。(板倉厚)

■ピースアベニュー
 ウランバートル市街はとにかく車が多く、スピードを出している。幹線道路の交差点では交通整理のためLED電飾を纏ったターミナルが設置され、誘導員が忙しなく車を誘導する。まるでパフォーマンスのようで、つい見入ってしまう。ピースアベニューは、市を東西に貫くメインストリートだ。幅の広い6車線の道路の両側には、旧ソ連時代に建てられたスターリン様式の建築が並んでいる。これらの建物は1階部分を商店、2階から上の階層を住居としているものが多い。道路には幅7メートルの植栽帯と6メートルの歩道があり、メインストリートらしい景観を作っている。

市の幹線道路では車道灯が歩道の明かりも兼ねており、高さ10メートルのポール灯の先端に、左右の方向に振り分けられた100W相当のLEDのモジュールが設置されている。グレアの制御がされておらず非常に眩しいが、車道と歩道の合わせて50mほどのエリアを、効率良く均等に照らしていた。また道の両端を白壁の建築で挟んでいるため、照度以上に明るく感じた。市内のほとんどの車道で同じ形状のポール灯が使用されており、直下の照度は32 lx、色温度は5000Kだった。

■都市部の光
市内を歩いていると、特に車道や大通りに面した広場や建築に光が集中していることに気づく。車道の脇に設置されたバスケットコートは、夜遅い時間でもLEDの投光器で煌々と照らされ、多くの若者が運動を楽しんでいた。また可動式のコンテナがそのままキオスクやバスのチケット売り場になっていて、人だかりができていた。

市内のマンション群 様々な色の窓明かりが見て取れる

幹線道路各所には現代アートや彫刻が設置されており、夜もカラー照明でライトアップされている。一方、一歩細い路地に入ると、目を凝らさなくては見えないほど、明るさのギャップを感じる。

町を東西に流れるトール川を境に、町の中心とそれ以外が仕切られている。そのため橋の中央に立つと、左右で明るさが大きく異なる様子が見られた。また市内の屋外景観では、主要なエリアとそれ以外とで、はっきりとしたコントラストが見て取れた。近隣マンションの窓明かりを見ると、様々な色の明かりや屋内に吊られたペンダント照明が見られ、各々が照明を楽しんでいるように感じた。

市の中央には政府庁舎を併設したスフバートル広場があり、行政機関や博物館、裁判所などが広場を囲んで建っている。広場北側にはモンゴルの英雄であるチンギスハーン像が、向かって南側には人民革命の父スフバートルの像が構える。日中には多くの観光客が訪れ記念写真などを撮影していた。夜になると、広場を取り囲む建造物がそれぞれライトアップされる。ウランバートルの他のエリアでは建造物をライトアップすること自体が稀だが、スフバートル広場周囲の建造物だけは、漏れなく派手なライトアップがなされている。しかしエリア全体としての統一感はなく、ファサードに設置された投光器具が直接屋内を照らしてしまっているものも見られた。また、突然光源が切り替わっていたり、そもそも照明自体が切れたままになっていたりと、照明や景観をコントロールする概念がないようにも感じた。広場の四方には大きな投光照明が配置され、広場全体を照らしているが、やはりグレアと投光の制御がなされていない。そのため全体的に暗く、夜景を楽しむような環境とはいえなかった。

■ゲル居住地と都市の光 
Dari Eh Complexはウランバートル市の北側に位置する小高い丘で、ゲルで生活する居住エリアの中にある。都市部を囲むように点在するゲル居住エリアは、ウランバートルの経済発展や働き先を求めて集まった人々が形成した集落である。現在では電気は引かれているが、水道やガスなどは整備されていない。

おそらく大人は昼の時間は都心部に仕事に行っているのだろう。多くの子供たちが台車などを使って、山のふもとから水を運ぶ姿が見られた。道を尋ねると、訝し気だけれど親切に教えてくれる。

山頂まで30分ほど歩いて市街を見下ろすと、ウランバートルの都市部の夜景がパッと途切れ、稜線に沿ってゲル地区の明かりが広がっていた。インフラや情報の集中した都市部とそれを囲うように集落の光が集まってくる様子は、現在のウランバートルを象徴する夜景だと感じた。(渡邊元樹)

■ウランバートル市の俯瞰夜景調査
到着した翌日、街の規模を把握すべく、街を一望できる南側のザイサン・トルゴイの丘からの俯瞰夜景を、夕暮れから日没にかけて調査した。

ザイサントルゴイ丘からの俯瞰夜景

夕日に照らされた発電所の煙突からたなびく煙を見ていると、どこか日本の昭和の風景を見ているようで、望郷感に囚われた。日中は町の背後に見えていた丘陵が西日に照らされ、山岳都市的な様相を見せていた。日没後の夜景は目の前に迫る新興住宅の夜景に遮られ、特徴の乏しい、どこにでもある都市の夜景に様変わりしてしまった。

何か発見があると期待していたものの思うような成果が得られず、再度俯瞰夜景の調査場所の計画を練り直す事に。天気予報をチェックしながら、帰国前日にターゲットを絞る。仲良くなったドライバーに頼み、ゲル地区と街の北側の丘にある別の俯瞰ポイント、Dari Eh Complex公園へ連れて行ってもらった。この日は滞在中一番の冷え込みで、氷点下での調査となった。Google Satelliteの画像を頼りにドライバーも1時間程迷いながら、ようやくたどり着いた。

目の前に広がる夜景は感動的だった。丘陵の稜線に広がるゲル地区の点在する光と、渋滞する車の光の流れ、市の中心部の光、夕日に照らされる雲の流れのスペクタルが合わさり、我々が求めていた景色にやっと出会えた気がした。街からはみ出たゲル地区と周囲の新興住宅、そして急速に発展する街の中心部、現在のウランバートルの縮図がそこにあった。

現在のモンゴルの首都ウランバートルの抱える問題を、照明を切り口に調査する旅であったが、出会いのあった人々は皆おおらかで、厳寒の地に根を張って逞しく生きている姿が印象的であった。将来の都市計画の目標にしているのが、同じく冬の厳しい北海道札幌市だそうだが、是非モンゴルならではの豊かな文化や自然背景と調和したオリジナリティーのある街づくりを目指す事を願う。(板倉厚)

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