「すごいぞ」という噂を聞いてやってきた。どんなに凄いのだろうかという期待に胸躍らせながら、明治通りから大久保通りに入り山手線の新大久保駅方面に向かう。エスニックの雰囲気漂うこの界隈にビックリするほど明るい商店街が出現したそうな。一体何が起こったというのだろうか。
事件の現場は突然やってきた。高架を走る山手線ガードの向こうに燃え立つようなオレンジ色の街が見える。一帯が火事に見舞われているかのようだ。近づくにつれその緊張感は増大し、淺川さんの目もギンギンになってきた。特に黒いトンネル状のガード下から覗く彼方は別世界。目もくらむような眩しい光。昼間のような明るい光に満たされている。
この商店街の街路灯は’97年の暮れに完成したばかりらしい。道路幅員9m、歩道幅員3mほどの都道に、高さ5mの街路灯が10~15m間隔で設置されている。直径60cmほどの大きな乳白ガラスグローブの灯具には、360W程度の高圧ナトリウムランプが使われている様子だ。しかし、ここに使われているオレンジ色の光は高照度な割に演色性(色の再現性)が良くない。これが異様な雰囲気の一因。発展途上の高圧ナトリウムランプは、特にこの演色性に注意を要する難しい光源だ。道行く人の肌色や、植栽の緑が不健康に見えてしまう。 この光の改装は地元の商店会の力で実現したそうだ。八百屋の親父さんが自慢そうに語ってくれた。商店街の名前を聞いてそのコンセプトが判明した。ずっと昔から「明るい会商店街」というのだそうだ。商店会の皆さんが、ずっと以前から「明るい商店街」をつくりたいと願っていたに違いない。街が明るくなれば犯罪件数も減少するのだろうか。狭い交番からあふれている3人のお巡りさんにも、心なしか笑顔が絶えない。みんな新しく明るい夜に満足しているように見える。20分前に初めてここに来た時には、ひどい照明だなと思って怒っていた私でさえ、明るさと眩しさにもう慣れてしまっている。このことが最大の課題だ。慣れてしまった目からは、他のどんな街も暗く感じる。案の定、この狂気の明るさから一歩外に出た私達には、従来の街の寂しいことといったらない。罪つくりな商店街だ。
面 出 | 探偵A | 探偵B | 探偵C | |
あかりの味/雰囲気や気配のよさ | 2 | 3 | 2 | 2 |
あかりの量/適光適所・明るさ感 | 1 | 3 | 1 | 1 |
あかりの値段/照明設備のコストパフォーマンス | 3 | 2 | 2 | 3 |
あかりの個性/照明デザインの新しさ | 2 | 2 | 1 | 3 |
あかりのサービス/保守や光のオペレーション | 2 | 2 | 2 | 3 |
合 計 | 10 | 12 | 8 | 12 |
総合評価 | ★★ (10.50点) |
1項目5点が最高、合計25点満点。★は5つが満点
あかりのミシュランは、雑誌「室内」に連載されました。
面出 薫+照明探偵団/文 淺川 敏/写真