探偵ノート

vol.18 赤提灯に慰められて ~有楽町ガード下赤提灯街~

Update:

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銀座付近で夕暮れに仕事が終えてしまうと、このガード下によく来たものだ。銀座のど真ん中で心おきなく飲むこともできないから。「ガード下に行こうか」。誰からともなく、そんな誘いの言葉が気軽に出てくる。そう、ここには筋肉と精神の弛緩を無条件で許す空気みたいなものがある。いったい赤提灯とは何なのだろうか。

銀座方面から歩きJRの高架に近づくと、だんだん街の雰囲気が変わってくる。焼き鳥を焼く煙が立って霞んでいる辺りがガード下赤提灯街。実際はガード前も含んだ一帯を指しているが、銀座と日比谷を結ぶ通路状のガード下は特に賑わっている。ゴォー、ガタッガタガタガタッ。大きなアーチを描くコンクリートの天井の下で、頻繁に通り過ぎる列車音と振動が、客にとっては子守歌のように聞こえる。決してうるさく感じない。サラリーマンらしい4人組。ネクタイを外さず、淫らに緩めて真面目そうな会社の話をしている。辛いことでもあるのかな。その後ろでOLっぽい2人組。こちらは笑いがたえず元気な様子。老若男女、混成の5人組も賑やかだ。

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ところでここに見られる赤提灯の色はバラエティに富んでいる。派手な黄色、オレンジ色、朱色、赤、そして渋い赤まで様々。私には薄い暖色系はどうも落ち着かない感じがする。やはり赤提灯は伝統の渋赤がいい。ドス赤色とでも言おうかこの色は、焼き物の煙を十分に吸った貫禄がある。沈みかけた夕陽の色、またはゆっくりと暖かさを伝える炭火の色に通じる蘊蓄がある。このような彩度の落ちた赤い色は、体内を流れる血の色や、地球の奥底に蓄えらえるマグマの優しさを表現しているに違いない。「赤は興奮を意味する」とか「緑は目が休まる」という真理は昼間の太陽のもとの出来事だ。陽の落ちた夜の世界では真理が一変する。赤こそが生命のシンボル、心の沈静色に他ならない。だから赤提灯は赤提灯。青提灯や緑提灯では全く問題にならないのである。

このガード下にも一見だけ変わった店がある。オフィスのような白い直菅の蛍光灯を吊してあるカウンターだけの店。いつも暇そうにしているが、撮影をしていると必ずオバサンに怒られる。今までに私は2回そういう目に遭っている。いつか照明のアドバイスをしたいと思うのだけど。白色の蛍光灯を、せめて電球色のものに替えてみたらと思うのだけれど。


面 出 探偵A 探偵B 探偵C
あかりの味/雰囲気や気配のよさ 5 5 5 5
あかりの量/適光適所・明るさ感 4 5 5 4
あかりの値段/照明設備のコストパフォーマンス 5 3 5 4
あかりの個性/照明デザインの新しさ 5 3 5 5
あかりのサービス/保守や光のオペレーション 4 5 4 4
合 計 23 21 24 22
総合評価 ★★★★
(22.50点)

1項目5点が最高、合計25点満点。★は5つが満点


あかりのミシュランは、雑誌「室内」に連載されました。
面出 薫+照明探偵団/文  淺川 敏/写真

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