第54回街歩き:渋谷
2016.08.05 久野弘祐+伊藤祐里子+伊藤万里菜+小松裕美
渋谷を4つのエリア(PARCO文化圏、センター街、東急文化圏、ホテル街)に分けて街歩き
さまざまな要素がまじりあう渋谷。今回は渋谷駅を起点に山手線と井之頭戦より北西の90度の範囲を4つの文化圏(東急文化圏、PARCO文化圏、センター街、風俗街)にわけて、それぞれ夜の装いが違っているのかを調査。
渋谷の中でも特に賑わい様々な魅力を凝縮した渋谷駅ハチ公口前から放射状にエリアを4つに区切って街歩きしました。
各班に分かれ歩き出す前にスクランブル交差点周辺の、『これこそ渋谷』という光を調査しました。目の前のTSUTAYAビルの電光掲示板、各ビルの照明、看板照明で溢れるこの駅前エリアの光が一番渋谷らしい!と、どの班も一致の意見でした。
■1班:PARCO文化圏エリア
1班は、公園通り・スペイン坂付近をメインに探索しました。
このエリアは、2015年11月にOPENしたmodi があり、更に1973年に開店し若者に刺激を与え続けてきたPARCOが閉店3日前だったことで、これから渋谷文化を発信していく光と、1つの歴史が幕を閉じる直前の光、その両方を感じながら探索できたと思います。
Modiのモニター画面のゴーストバスターズの仕掛けは街を歩く人を楽しませ、テーマパークのようでした。植栽の中に光るライトも綺麗で目立ちました。PARCOビル壁面の照明は柔らかい光ながら目を引き、映画「シン・ゴジラ」とのコラボレーションもユニークでした。ファッションビルの照明は自然と視線が集まる仕掛けで、流行の先端を行く渋谷らしさを感じることができました。
意外だったのは街灯に対する無頓着さ。色温度の異なる照明を組み合わせていながら統一感があまり感じられず、所々ライトが消えていたり、ファッションビルなどの魅力的な照明とは逆に残念なポイントでした。
どんどん変化するPARCOエリア、まさに文化のスイッチが入れ替わる面白いタイミングで街歩きできました。これから新たにどんな文化が発信されるのか楽しみです。(伊藤祐里子)
最先端の渋谷を象徴するインタラクティブなメディア看板
数日後には閉店するPARCOのあたたかなファサード照明
周囲の飲食店の光と調和する物販店舗(ダイソー)
■2班:センター街
にぎやかな(センター街の)光に引き込まれる団員達
2班はセンター街・スクランブル交差点の光を調査しました。
センター街は飲食店等のにぎやかな電飾看板が並び、これぞ渋谷という景色を形成しています。電飾看板はいかに目立つかを勝負をしているようで、看板を縁取る手法が多く見られました。
そんなにぎやかで明るいセンター街にも街路灯はありましたが、周囲の光に埋没しており全く照明としての機能は果せていないことに対して「犯罪者」と評する声が挙がりました。こ時間や明るさに応じて制御の出来る街路灯に期待の声が挙りました。
明るいセンター街の脇道に目をやると、暗い空間の中にポツンと浮かび上がる八百屋さんを見つけ、団員たちは吸い寄せられました。単にスポットライトを浴びた八百屋さんに引き寄せられたかのように思いましたが、照射物の色味に合わせた巧みな照明手法に「英雄」と評する声が多く挙がりました。
センター街を突き当り、井の頭通りを通って駅へと戻る道中には、飲食店が並ぶ景色とは対照的にアパレル店舗や百貨店が並びます。このエリアはアーティスティックな光がおしゃれな街を印象付けます。その一方でデジタルサイネージの華美な広告によって向かい側のビルが演色されてしまっていたことに、この日最大の「犯罪者」と評する声が挙がりました。
スクランブル交差点まで戻ると、相変わらずカオスな光が景色を作っています。煌々と光るあかりは省エネの観点からすると「犯罪者」のように思われがちですが、これこそ渋谷の象徴であり、この光に集まる人々を目の前にすると誰もが「英雄」と認めざるを得ません。(久野弘祐)
■3班:東急文化圏
文化村通り 袖看板が渋谷の賑わいを創出する
赤い東急のコーポレートカラーがひときわ目立つ
犯罪者No.1に選ばれたH&Mの看板を照らす照明
3班は商業施設が立ち並ぶエリアとホテル街エリア、そして住宅街エリアの3つを分断する3つの通り(文化村通り、本店通り、道玄坂)を中心に、東急文化圏を彩る光を探す街歩きを行ないました。
まずはSHIBUYA109から東急本店へと続く文化村通り。若者を中心に賑わう商業施設と幅広い年齢層を対象とする東急本店をつなぐ通りなので、通りを進むにつれ光の変化が見られるかと予想していたのですが、実際は局所的な光の量のムラがあり、「さっきの場所は目が疲れる」「ここは落ち着ける」などと目で光を感じながら進んでいきました。640lx,5000Kと高照度で真っ白に光り輝くカメラのキタムラの光と、それとは対照的に350lx,4000Kとドン・キホーテにしては地味な光。そして、眩しくグレアを与えるH&Mの広告用の照明など、数々の犯罪者が存在していました。
そんな通りを抜けると対照的に、東急本店は最低限の光を放ち、静かに、優しく周囲を照らしていました。通りや住宅街など、どの方面からも見える赤い東急マークは堂々としており、周囲を優しく見守るように照らし、渋谷を発展に寄与した東急の存在感を感じさせました。
東急本店裏の住宅街はとても閑静で、「本当にここは渋谷?」という声があがるほど街灯のみがわずかに照らす薄暗い空間でした。住宅街としては暗すぎて不安な印象を与えます。
住宅街から本店通りに出ると、今度は薬局や青果店などわずかながら生活感のある通りに。しかしその通りを彩るのはやはり統一された光ではなく、赤や緑といった様々な色でした。文化村通りや道玄坂と比較するとあまり賑わいのある通りではありませんが、そんな通りでも渋谷らしく、「何でもあり」の光で彩られていました。
文化村通りに戻り道玄坂小路に入ると、狭い道に立ち並ぶ飲食店がひしめき合っています。街灯は点いていたり消えていたりと様々で、街灯は必要なく看板の照明だけで十分であることを教えてくれているようでした。
道玄坂に出ると、「これぞ渋谷」な景色が広がります。道幅が広く緑が多い為不快感は感じませんが、坂道を埋め尽くす袖看板や広告の光がカオスを生み出し、人も光も賑わっていました。
3本の大通りを中心に小さな道も含め様々な通りを歩きましたが、どの通りも印象が全く異なり、大通りから1本細い道に入るだけで雰囲気がガラッと変わるので、渋谷の奥深さと面白さを改めて実感できました。 (伊藤万里菜)
■4班:風俗・ホテル街
奇抜さを競いあっているホテルの照明
昭和の雰囲気を残すしぶや百軒
4班は“風俗・ホテル文化圏”と題してマークシティ横の居酒屋通り→百軒店→ライブハウスや映画館の並ぶ通り→ホテル街を歩きました。
渋谷の魅力の1つは表通りを1本入ると全く雰囲気の異なる通りが突然現れる表情の豊かさにあると思います。そこで今回は裏通りを中心に偵察致しました。
駅に近いパチンコ店や居酒屋が立並ぶ通りは白く眩しい印象(1500lx/5000k)でしたが、駅を離れ、坂道を上がるにつれ徐々に暗く、落ち着いた雰囲気(50lx)になり誘われるような店の光も増えてきました。
人気があったのは百軒店の千代田稲荷神社の隣にある赤い壁のラブホテルです。
神社の雰囲気を尊重したかのような、比較的落ち着いた入口の様子が高評価でした。鳥居の提灯と赤い壁面への光がある種の一体感を醸し出し、夜ならではのコラボレーションと呼んでもよいでしょうか。ホテル街の照明の多くが目立とうと奇抜さを競い合い、ばらばらな印象があったのとは対照的でした。
不人気だったのはライブハウスの植栽に対する緑色のランプです。更にすぐ隣には電球色で照らされた植栽が並んでおり、不自然さを強調。雰囲気を損なう・無神経であると非難が集中しました。
また4班のルートから見える “渋谷らしい光”についても推理を試みました。①周りの環境を尊重しながらも主張・個性の見える光、②表通りの雰囲気と一変する過去や懐かしさを感じさせる光、にヒントがありそうです。
かつての繁華街である百軒店やその周辺では渋谷の過去の光を垣間見たのではと思います。
渋谷の街が育んできた多彩な光環境が今現在進行形の大規模再開発の中で残っていくことを願います。(小松裕美)