私はこの大空間に少しの暗さも感じない。確かに従来的な駅舎のように、大量の光を用いて隅から隅まで煌々と照明するようなことはしていないが、ここにはハッキリと「視覚化された明るさ」がある。視覚化された明るさとは、適度な陰影と同居することによって初めて感じとることの出来る本物の明るさのこと。私たちの周りには、光の量ばかりが担保されていても、美しい明るさを感じとれない公共空間がたくさん見受けられるが、それらは光を均質に分布させることのみに腐心したせいなのだ。ここJR京都駅には「美しい明るさ=美しい陰影」の関係が意図されている。陰影礼讃の新境地が試行された。
コンコースの床材が黒っぽいことも、この美しい陰影を感じる一因だ。何処の駅舎も普通は反射率の高い白っぽい人造石などで仕上がっているが、白は本当の光と陰を伝えない。適度に光を吸収する素材は僅かな光のありがたさまで伝達する。上階から人の行き交うコンコースを見下ろすと、人が光と陰の中を交互に通過する様子が解る。人工照明の与え方が均質でないことも良く解る。不均質な光は京都の公共空間に何事か新しい出来事を演出しているかのようだ。
また、ここに立っているとゆったりとした時の流れを感じることが出来る。完璧に北側を向いたガラス大屋根からの採光には、太陽の直射光こそ与えられないが、昼間の光環境を次々に変化させる。今から数時間前にはここから茜雲さえ見ることが出来た。そして心和む夕暮れから夜ともなれば、にわかに内部からアップライトされたガラス構造が輝き出し、第二部の景色を提供する。輝く部分は時間とともに変化する。あっ、東西2ヶ所に設置された光時計が今、交信し始めた。ピカピカッと暫くフラッシュしたかと思うと、次に2本の光束が手を結ぶ。夜間の毎時ゼロ分。光時計がジオグラフィカル・コンコースをリフレッシュする仕掛けだ。
建築家、原広司氏の設計を私たちが照明計画のお手伝いをした。少し手前味噌な採点かも知れないが、革新的な駅舎の気配が漂う。ここは駅舎か宇宙ステーションか。
面 出 | 探偵A | 探偵B | 探偵C | |
あかりの味/雰囲気や気配のよさ | 5 | 4 | 5 | 5 |
あかりの量/適光適所・明るさ感 | 5 | 4 | 5 | 5 |
あかりの値段/照明設備のコストパフォーマンス | 4 | 4 | 3 | 4 |
あかりの個性/照明デザインの新しさ | 5 | 5 | 4 | 5 |
あかりのサービス/保守や光のオペレーション | 4 | 5 | 4 | 5 |
合 計 | 23 | 22 | 21 | 24 |
総合評価 | ★★★★ (22.50点) |
1項目5点が最高、合計25点満点。★は5つが満点
あかりのミシュランは、雑誌「室内」に連載されました。
面出 薫+照明探偵団/文 淺川 敏/写真