照明探偵団通信

照明探偵団通信vol.54

Update:

発行日:2012年8月10日
・照明探偵団倶楽部活動1/東京調査:新橋、汐留 光のパッチワーク(2012/6/5.7)
・照明探偵団倶楽部活動2/弘前街歩き(2012/7/7)

東京調査:新橋、汐留
光のパッチワーク

2012.06.05/07   藤井美沙 + 坂野真弓 + 林虎

官民共同の再開発プロジェクトにより完成をした「汐留シオサイト」。高層オフィスビル群が立ち並び、各街区を空中を渡るペデストリアンデッキが結んでいる。新たなビジネスの拠点として計画された街である。一方で新橋では、SL 広場をはじめ、居酒屋を中心としたサラリーマンの憩いの場が、明治時代に作られた古いレンガつくりの橋桁におさまる景色を見ることができる。このビジネス街として相反する街の光の特徴を読み取るべく調査に出かけた。

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汐留から見た新橋
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新橋から見た汐留

■汐留の歩道
新橋駅の東側に広がる汐留エリアは有名企業の高層ビル群が立ち並ぶ。りんかい線の駅から続く歩道橋には、建築に組み込まれた照明器具やデザインされたポール灯など、計画された光によって街区ごとの景観が構成されている。一方で明るくまぶしいエリアがあったり、逆に暗すぎると感じるエリアがあったりとそれぞれのプロジェクトの範囲を超えて、街全体としての光環境を整える必要性感じた。
(坂野真弓)

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汐留の歩道照明、手すり部に組み込まれた照明も。
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■汐留シオサイトの夜景
まず私たちは各街区を空中でつなぐペデストリアンデッキからスタートした。初めに現れるのは、煌々と照らされたデッキ空間。4 mピッチで2本の550mm蛍光灯が入ったブラケットが設置され、陰影のない近未来的な雰囲気である。ブラケットの輝度は強く、少し騒々しい印象を受けた。デッキを抜けると電通本社ビルなどの足元のオープンスペースにつながる。このエリアでは大きく印象が変わり、低照度の通りに植栽のライトアップ、建築に取り付けられ存在の目立たない照明器具で構成されていた。デッキからは各街区のガーデンがのぞめ、その広場からは暖かい色温度で計画され落ち着いたビジネス街としての光環境が伺えた。またこの街の特徴である高層ビルのファサードは、派手なライトアップは行われておらず、ビルのトップに少しライトが与えられていたりするだけで、あとはオフ
ィス内の照明がメインという様子が特徴的であった。
(藤井美沙)

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ペデストリアンデッキ。ブラケットの光がまぶしい。

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ブラケットは片側だけでも十分だと感じた。
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デッキ下の歩道空間の照度は3 ~ 5 lx。歩道横のサンクンガーデンには暖かな個性ある光が見られた。

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新橋の顔!? 西口通りには様々な光の要素が入り混じっていた。

■新橋の歩道
夕方5 時を過ぎる頃、それまで閑散としていた新橋がにわかに活気を帯びてくる。背広を脱ぎ、襟元を弛めたサラリーマンやOL たちの開放的な気分がこちらまで伝わってくるようだ。人々を迎え入れるように、飲食店の灯りもあたたかい光がつき始める。赤い提灯、軒先に連なる裸電球、色とりどりの看板照明…。どのあかりも、あたたかくそしてにぎやかに人々を招き入れる。光源に白熱電球がまだ多く使用されており、新橋の歩道にある光は、人との距離が近く、雑多だがそれが新橋らしい雰囲気を作り出していた。
(坂野真弓)

新宿歩道2

西口通り断面図

■レール下の「表情」
新橋にある高架下の飲み屋街。かなりレトロな雰囲気だった。昼間見る高架下の飲み屋街は随分と年月が経った様子で、腐食しているアーチ形の壁、さびている鉄など古い印象だった。しかし、だんだん夜になるとそれぞれの飲み屋街は活気に満ちた光がほどこされ、お店ごとに違ったスタイルで客を迎えていた。そこから距離を取り、少し離れて高架下の全体を見ると、統一されていて光壁のような光景が見えてくる。高架下の飲み屋街の夜は昼と違った、生きている人間的な「表情」が光っていた。
(林 虎)

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看板照明が人々を路地の奥へ奥へと導く。
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軒先での一コマ。哀愁を感じるのは私だけだろうか。

■街の光のアイデンティティー
調査を行う中で、それぞれの「街の光」はどのような個性があるのかを考えながら歩いた。新橋では、個人の商店単位で自然発生的なサイン看板などの小さな光が「街の光」のメインとなり、雑多に混在しているが、それらをマクロな視点で見ると、街として一つの印象を与えるまとまりのある光環境を構成している。一方で汐留では個々の照明器具の存在感はなく、ペデストリアンデッキ、ガーデンなど、空間単位での光がメインとなり全体を構成していた。随所に個性的な光環境はあるが、全体を通してみるとそれらは不釣り合いなパッチワークのような印象を受けた。それぞれの光環境が個々に成立し、空間同士のゆるやかなつながりが感じられず、多くのディベロッパーが関わり官民が一体となって調整する難しさを感じた。この街にビジネス街として洗練された照明環境を育てていくには、それぞれの空間の隙間の光環境を練り直すことが求められるように思われた。
(藤井美沙)

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新橋で見かけた街路灯たち。
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高架下飲み屋街立面

弘前街歩き
開城400 年、城下町のあかり

2012.07.07   東 悟子

弘前大学プロダクトデザイン研究室石川善朗教授とゼミ生10 名と協力し、弘前照明探偵団を開催。桜とねぶた、そして400 年の歴史を持つ城下町、弘前の町のあかりの特徴を探求すべく、街の方々も交えて街歩きを行った。

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弘前城
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弘前大の石川先生の案内で市民の財産である桜の木を見に

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旧青森銀行

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町に点在する洋館のライトアップのひとつ昇天教会

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懐かしい佇まいの中央弘前駅

■桜の町、弘前
青森市から南西に位置する弘前市。開城400年の歴史をもつ弘前城を中心に配した市民公園があり、桜の季節は300 万人の人でにぎわう。お堀の周りは、さまざまな種類の桜2600 本で取り囲まれており、その桜は日本のどこにも見られない特徴を持つという。弘前の名産のひとつリンゴ。多くのリンゴを実らすための剪定技術を、桜の剪定にも応用し、一つの枝にたくさんの花をつけることが可能になった。花の圧倒的なボリューム感が、訪れるものを魅了する。また1800年代後半から1900年代初頭に多くの洋館が建てられ、そのいくつかは今なおその姿を残し、それらがライトアップされ、弘前の夜間景観の特徴の一部となっている。弘前の夜の景観を、弘前大学プロダクトデザイン研究室10 名を中心に、街の人と検証、考察した。

■レクチャー・街歩き
立命館大学、色彩工学の篠田博之先生は『色彩と光の関係』というテーマのレクチャーを行い、照明探偵団団長の面出は『世界の照明環境』のレクチャーを行い、それぞれ照明が人々や街にもたらす影響や作用を説明した。その後の街歩きは、予定した人数を大幅に上回る好評ぶりで、50名ほどが細い道を面出の解説を聞きながら、調査して歩いた。今まで照明に気を配って歩いたことのなかった参加者は、面出の説明に熱心に耳を傾け、気づかなかった弘前のあかりの魅力やあまりにまぶしい投光照明の存在など、さまざまな発見に驚いていた。弘前の学生はとても積極的で、歩いている途中も疑問に感じたことを質問したり、感じたことを発言していた。弘前の街は、夜早い時間から人通りが少なくなり、街の賑わいがあまり感じられず、さみしい印象があった。夜歩きたくなる照明で、この印象を何とか払拭できればと感じた。
(東悟子)

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照度の測り方を伝授
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街路灯からもれてくるあかりが自転車で通るときに眩しいという指摘も

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■感想
今回、弘前まち灯り探偵団を行い多くの発見があった。今までは何も
感じずにただ通り過ぎていた町並みが、意識をして調査してみると
驚かされることばかりだった。それは言い換えると、意識しないと
私たちは弘前のまちの魅力に気づけないということだ。弘前は城下町
であり、お城の付近には昔の町並みが残っている。調査する前は「古
さが残る暗いまち」だと勝手に決めつけていたが、弘前のまちは予想
以上に灯りにあふれ、まちを照らしていた。街歩きをして弘前を魅力
的なまちだと感じられたのは大変喜ばしいことである。以前の意識が
変わり、弘前は「古さが残る、あたたかいまち」なのではないかと
考えるようになった。また、照明のプロである面出先生の話を実際に
聞くのは、私たちにとって貴重な体験となった。色温度、照度、均斉
度…。私たちにとって耳慣れない単語が多々あったが、照明を考えて
いく上ではどれも大切な知識。デザインを勉強している私たちにとっ
て、これからデザインを考えていくのに重きを置いていきたいポイン
トの発見であった。弘前のまちの照明は、まだまだ問題点が挙げられ
る。大学からの帰り道は真っ暗で、怖さを感じることがしばしば。
しかし、ただ感じるだけで終わらせるのではなく、今回の照明探偵団
の活動の経験を活かし、弘前をより良いまちにしていこうと考える。
(弘前大学 プロダクトデザイン研究室 笹山佳世)

どこの町に行っても共通して感じることだが、地元の人の「その土地をよりよくしたい」という意欲がとても強く、勉強させられることが多い。今回のこの街歩きが、弘前らしい心地よい夜の景観とは何かを考えるきっかけになったのではないかと思う。街歩きの企画をした弘前大学では、今回の街歩きの結果を話し合い、まとめたものを弘前市に提言することにしている。
(東悟子)

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