探偵ノート

第78号-ミニマリズム

Update:

Interviewer: 陳 林夕

陳:今日は「ミニマリズム」について、お話したいと思います。ミニマリズムは元々、第二次世界戦争後に西洋美術界で発生した芸術運動のことを指します。それが後世に大きな影響を与えました。今日はそこから派生したミニマリストライフスタイルについて、話したいと思います。
面出さんは「ミニマリズム」という言葉を聞いた時、何を思い浮かべますか?

面出:ミニマリズムは、音楽の世界でも言われているよね。私は最小限主義と捉えているので、簡素であったり、単純であったりすることをイメージします。あなた自身はミニマリストなのですか?

陳:厳密に今の自分はミニマリストではないですが、ミニマリストになりたいと思っています。
ミニマリズムについては人それぞれの理解があるかもしれませんが、日本語ではミニマリストは「最小限主義者」とも呼ばれています。必要な物しか持たないスタイルのことを指します。自分が理解しているミニマリストとは、複雑なものを簡素化して、より良いあり方を探す・物質的にも精神的にも快適な状態を維持する、そして自分自身をシンプルにし続ける人のことです。
現実世界に反映すると、一番理想的なのは、スーツケースひとつとバッグに全部の必需品を入れて持ち運べるくらい身軽で、いつでも自由にやりたいことができる状態です。
なぜそのような考えが生まれたのかというと、今までの私の人生の出来事が影響した結果だと思います。幼い頃、家庭でも学校でもよく「倹約は美徳だ」と言われました。また、うちは広い一軒家だったので、どんどん物が増えていきました。

面出:そうですか。日本だけが「倹約は美徳だ」という考えだと思っていたけど、中国にもそういう考えがあるんだね。

陳:はい、あります。小学校の教科書にも節約に関する詩や文章が載っています。その後も色々な物事に出会い、知識を得て、沢山の考えが生まれました。
例えば、葬儀屋でアルバイトをした時に、人の死を間近で見て、自分の終活を考えるようになりました。他にも大都市では生活コストが高いという事実、人間の限界に挑戦するような驚くほどの狭小住宅、世界に影響を与える日本の美学やデザイン等々、特に日本に来て生活することは、私に大きな影響を与えました。
このような人間と環境の関係性の中で、私はミニマリストになろうと決めました。そして、今もまだミニマリズムを探索しているところですが、将来はまた別の考えになるかもしれません。

面出:「ミニマリスト」になりたいっていうことは、小さい、狭い部屋に住みたいの?それとも少し広いところに住みたいけど、物はあまり持ちたくないの?お金も少ない方がいい?

陳:個人的に「狭い」というのは相対的な概念で、家が広くても物がたくさんあると、人は家を大きいとは感じません。逆に家が小さくても物が少ない場合も、必ずしも「狭い」といえない。最も重要なのは快適さと空間のバランスだと思います。
お金も同様で、お金を嫌う人は多分いません。重要なのは、持っているお金が自分の 理想的な状態をサポートできるかどうか、ということです。

シェーカーのインテリア
(Source: Shaker Retiring Room | The Metropolitan Museum of Art)

面出:なるほど。観念的で哲学的だね。陳さんはこういう人なのだと、今日初めて知りました。
デザインの話にしてみると、日本のデザインで要らないものを外していくというのは、やっぱりミニマルなほうが優れているという考えだよね。虚飾をなくすというか。虚飾とは、不要な装飾なので、デザイナーにとっては不要なデコレーション。
インテリアでは、僕がすごいなと思ったのはシェーカー教徒。シェーカーという宗教があるんだけど、彼らのインテリアなんかがものすごくシンプルで、ものすごく美しいんだよ。椅子でも何でも。それは沢山の日本人に影響しているよ。

陳:そうなんですか。「シェーカー」というのは今日初めて聞きました。

面出:私自身の生活態度とはね、ミニマリズムより、質素(Humble)でありたいと思ってるよ。ミニマリストというと、何か偉そうに聞こえる。デザインの上ではシンプリシティという言葉に通じる心意気だ。陳さんも、あまり観念的にならない方が良いと思うよ。デザイナーはまず自分以外の人の幸せを考えるからね。

陳:環境は私たち一人一人に大きな影響を与えます。本当のミニマリズムを一言で言い表すのは難しいですが、他の思想でもそうです。最も重要なことは、同じ思想に対しての様々な定義のしかたを評価し、疑問を抱くことです。その定義を追求するよりも、それに基づいて自分のアイデアを組み合わせて何かを生み出す方が良いでしょう。つまりイノベーションですね。

陳:最後に、「自己奉仕バイアス」という言葉を聞いたことがありますか?簡単に言うと、良いことは自分のせい、悪いことは環境要因だと考えるということです。ミニマリストになることで生活と仕事がある程度変化すると思いますが、必ずしも良くなるとは言えません。
何が正解なのかは分かりません。そもそも「正解」の定義は何なのか…非常に多くの疑問が私の頭の中を駆け巡ります。人間って面白い。
今日はありがとうございました。

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