淺川さんが写真を撮るのに、いつもより真剣になっている。商売道具の機材が詰め込まれたバッグから、きれいな淡い色のフィルターがこぼれている。カメラ用の色温度変換フィルターだ。写真家にとっても白は曲者。人の眼には白に見えてもフィルムは頑なにその違いを主張する。蛍光灯でつくられる白、メタルハライドランプでつくられる白、白熱灯の下の白・・・。いや、今回は何と写真家泣かせなテーマだこと。
白色は近代社会のソシアル・アイデンティティ。住宅の壁紙も、トイレも、風呂もキッチンも、みんな明るく光りを反射する白を使うことでモダニズムの雰囲気を創ってきた。紺碧の海に囲まれた地中海の白い村落か、真っ白な天井にダウンライトのアメリカ住宅か、際限ない高照度の日本の百貨店か・・・。そのブームはすでに遠のいたと思っていたが、時代が早くもグルッと一回転して、再び蛍光灯の純白ブームが訪れてきたのだろうか。
ここに紹介する2つの白いブティックはまだ生まれたて。南青山を代表するトレンディなスポットだ。アドヴァンスト・チキュウは、白夜のコンビニ照明に匹敵する高照度でありながら、しかしゆったりと時を過ごせる希有な光環境。波板ポリカーボネートに隠された微妙な色使いと、蛍光灯間接照明+メタルハライドランプ直接照明の使い分けが功を奏している。コスチューム・ナショナルは、イタリアンデザイナーの手になるものだが、オールドニューな白いニッチの照明演出が特徴的だ。ランプ交換が大変そうだが、上からでなく壁面から溢れる横からの光が心地よい。
真っ白な影のない光。そこに対する新たな時代の期待は何なのだろうか。太陽光とは本質的に異なる無機的で取り澄ました光。殺菌灯に通じるピュリズム。この種の光環境はレストランや住まいには向かない。およそ心を和ませる環境には不具合だ。トレンディなブティックでよかったとしみじみ思う。純潔そうに見える白い光は、実は赤・緑・青という極彩色の光の三原色でできている。純白のウエディングドレスの清純さには、いつも騙されそうになる。
面 出 | 探偵A | 探偵B | 探偵C | |
あかりの味/雰囲気や気配のよさ | 3 | 4 | 5 | 4 |
あかりの量/適光適所・明るさ感 | 2 | 4 | 3 | 4 |
あかりの値段/照明設備のコストパフォーマンス | 4 | 3 | 3 | 3 |
あかりの個性/照明デザインの新しさ | 2 | 3 | 2 | 4 |
あかりのサービス/保守や光のオペレーション | 2 | 2 | 3 | 3 |
合 計 | 13 | 16 | 16 | 18 |
総合評価 | ★★★ (15.75点) |
1項目5点が最高、合計25点満点。★は5つが満点
あかりのミシュランは、雑誌「室内」に連載されました。
面出 薫+照明探偵団/文 淺川 敏/写真