照明探偵団通信

照明探偵団通信 vol.133

Update:

発行日: 2024年 11月 18 日
・照明探偵団倶楽部活動1/ 東京調査 秋葉原(2024.9.9)
・照明探偵団倶楽部活動2/  面出薫/ 照明デザイン塾 (2024.9.21-23)
・照明探偵団倶楽部活動2/  オンライントークイベント-Nightscape in Your Town (2024.7.25)
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東京調査: 秋葉原
2024.9.9 柯 永林 + 蒋 坤志 + 陳 林夕

街の光を構成する要素として、看板照明の明るさ(輝度)は非常に重要だ。今回の東京での調査は、看板の街並みが世界的に有名な秋葉原電気街(中央通り)を対象に、19年前の調査と比較しながら、街の光の構成における変遷を調査してきた。

■秋葉原電気街について
秋葉原は東京の電化製品の中心であり、世界的に有名なオタク文化の聖地である。
毎日、多くの観光客でにぎわう秋葉原だが、銀座などの高級商業エリアや他の繁華街と比べて、アニメやゲーム文化があふれる看板の色は多様多彩だった。
千代田区では令和2年に屋外広告物景観まちづくりのガイドラインが発表され、秋葉原の街並みも変わってきている。19年前に行った調査と比較しながら、現在の秋葉原電気街の夜景を調査してきた。(蒋 坤志)

■街の光源の構成
秋葉原の主要な街区の照明要素は、街灯や看板の照明、建物のファサード照明、そして店舗入口の照明と漏れ光である。
19年前の資料と比較すると、エディオンが休業のため、一番目立った緑色と赤色の照明が点灯されていなかった。オノデンの看板はLEDスクリーンで、その周りの照明は控えめな印象。以前はアップライトされた橋の裏が真っ暗だったが、昼光のように明るいドラックストアのインテリアと看板の照明で橋のアップライトがなくても明るい印象だった。ゲームセンターのファサードは真っ赤に改装されてしっかりとアップライトされていた。他は部分的に新しいオフィスビルに建て替えられ、ファサード照明は控えめだ。カラー照明だったところは控えめになり周囲と馴染んでいた。
全体的な印象として、高層部分はネオン照明がなくなる、もしくはLED化され、看板広告の情報が整理され、LEDスクリーンにまとめられていた。低層部は高密度の照明が並べられ、昼のように明るかった。(柯 永林)

■輝度(明るさ)
この調査では、輝度計とカメラを使ってデータを記録した。秋葉原の主要な通りである電気街では、明るい広告と暗い広告とのコントラストが強く感じられた。
LAOXのLEDスクリーンの輝度は3000cd/m²に達することがあり、隣のオノデンのものよりもはるかに眩しかったように思っている。
下向きに設置された照明は街路に大きな影響を与えている。光源が歩行者に対して丸見えになっており、かなり眩しい存在である。店舗の外観に照射される光も高い輝度を示していたが、広告看板と比べると、輝度の差が少なく、全体的に眩しさは感じなかった。
また、動きのある広告スクリーンは、表示されるコンテンツにより明るさが変わり、一時的に非常に眩しく見えることがある。一方、街灯の明るさは約100から300cd/m²で、歩道や車道を比較的穏やかな光で照らしており、歩行者に過剰な干渉を与えないよう配慮されている。(蒋 坤志)

アウトドア広告激戦区 輝度記録

■秋葉原の屋外広告の現状
屋外広告は広告業界において非常に重要な役割を果たしている。情報を伝えるだけでなく、装飾やアクセントの役割も担っている。しかし適切に運用されないと、街の景観を損ない、反感を買ってしまうこともある。
秋葉原電気街という象徴的な交差点を例に挙げると、さまざまなアウトドア広告が使用されている。具体的には以下のようなものが含まれる:
 ・屋上看板
 ・広告幕
 ・袖看板
 ・デジタルサイネージ 
「アウトドア広告の激戦区」と表現しても過言ではない。それらは利益を目的とした広告が大多数を占めている。写真の中で最も明るい看板は約400cd/m²、暗い看板は約13cd/m²あり、ほとんどの看板は100-200 cd/m²の範囲で照らされている。広告の色合いは明るい色調が多く、このエリアの活気ある雰囲気を反映している。これが秋葉原の独特な雰囲気を生み出し、訪れる人々に強い印象を与えているのだろう。(陳 林夕)

■秋葉原の道路照明
主要道路の照明は主に街路灯に依存し、周囲の店舗からの漏れ光や屋外広告の光がそれを補完している。
1本の道路灯には2灯のランプがあり、一灯は車道に向けて(高さ約10m)、もう一灯は歩道に向けて(高さ約6m)設置されている。道路灯は約17m間隔で設置されている。
JIS(日本工業規格)では、通行量の多い屋外の歩道では、照度を約20lxに保つことが推奨されている。私たちの調査によると、秋葉原電気街は明らかにこの基準を満たしている。しかし、多くの人が感じるように、秋葉原電気街で最も賑わった通りを出ると、すぐに世界が暗くなったと感じる。道路照明は同じということから、明るい屋外広告の光が与える影響の大きさがよく分かる。
これらは、光と広告がこの地域のイメージを形成する上で重要な役割を担っていることを示している。効果的な照明と目を引く広告を通じて、秋葉原は観光客を惹きつけるだけでなく、オタク文化と電化製品の中心地として独自の魅力を強化している。このような環境の創出は、消費者の体験を向上させるだけでなく、商業にとっても良いビジネスチャンスを生み出し、地域全体の経済の発展を促進しているのではないか。(陳 林夕)

■まとめ
今回の調査を通じて、秋葉原の夜間における輝度分布の特性を全面的かつ体系的に把握することができた。秋葉原の看板やLEDスクリーンは視覚的に強いインパクトを持っているが、全体として輝度は比較的均一であり、光害はうまく抑制されている。電化製品とアニメ文化の中心地として、秋葉原の照明デザインは個性と多様性を重視しており、豊かな色彩のレイヤーと視覚効果が街区を生き生きと見せている。
今後、秋葉原の光環境を最適化する際には、看板の輝度調整や商業施設の外壁のデザイン調整に焦点を当てることが重要だと思う。輝度を適切に管理することで、視覚的な疲労を軽減するだけでなく、街区全体の美観をさらに向上させることができる。このようなデザイン戦略は、秋葉原の独特な文化的雰囲気を保ちながら、市民や観光客の夜間の体験をより良いものにするだろう。(蒋 坤志)


面出薫/ 照明デザイン塾2024
3-day Student Workshop
2024.9.21-23 東 悟子

第三回になる面出薫/照明デザイン塾が9月の三連休に開催されました。今年も各地の大学から個性豊かな20名が集まり、照明デザインの基礎を学びました。

2022年から開始した照明デザイン塾も3回目。照明デザインのプロフェッショナルが学生に照明デザインを集中的に伝授する3日間。LPAスタッフによる8つの照明デザインレクチャー、2つの外部講師レクチャー、器具演習に街歩き、グループ課題演習にプレゼンテーションと朝10:00から夜まで盛りだくさんの内容。照明デザインの知識をインプットするだけではなく、実際に体感しそれをアウトプットするところまで行うプログラムとなっています。LPAスタッフ総勢19名、時間をかけて練ったコンテンツで臨みました。

■Day 1レクチャー&街歩き

照明デザインの考え方からプロセス、専門用語の解説に具体的な事例の紹介など、幅広いトピックのレクチャーを行いました。また外部からも講師を迎え、照明デザインがどのように街づくりに寄与しているのか、またきちんと意図して設計をしないと光害になってしまう、という内容のレクチャーも行いました。
夕方からの街歩きは学生を3班に分け、有楽町、麻布十番&六本木、汐留&新橋と、異なる特徴を持つエリアを歩いてもらいました。約2時間の街歩きの中で、レクチャーで学んだ照度と明るさ感、グレアや色温度、気持ちのいいまたは悪い光環境などを実際に体感。人によって感じ方が異なるので、所々で立ち止まり自分にとっての光の英雄と犯罪者とは何かを意見交換する姿も見られました。初日最後には班毎に食事を囲みながら懇親会。打ち解けた雰囲気の中で親睦を深めました。

■Day 2 グループディスカッション&グループ課題

2日目午前中は、前日の街歩きのレビューからスタート。街歩きで撮影した写真を見ながらディスカッションを行い、歩いたエリアの光の英雄と犯罪者を決定していきます。どの班も話し合いは活発で、違う意見がでてもどちらかに寄せることなく、比較的自由に発言していたように見受けられました。
また悪い個所には改善案も作成。それらをボード1枚にまとめ上げました。
午後は『2050年の夜景=新しい光と私たち』と題したグループ課題。今年は街歩き後のまとめ作業を例年の半分に減らし、かわりにグループで課題に取り組む時間を設けました。3時間で課題に取り組みグループで結論を出すという短時間での即興課題。近未来の2050年の夜景はどうなっているのか、パネルにこだわらない自由な発表形式としたことで、身体表現とLEDを使ったパフォーマンスや、前日の街歩きで得た感想を軸にした提案、光源を入れた模型やスケッチによるプレゼンなど、3班それぞれの個性が出ていました。
2050年という、遠すぎず近くもない少し先の未来を想像するのは難しかったと思いますが、短い時間の中で、「こんな夜景になったらいいな」を自らの中で掴めた学生も何人かいたように感じられました。

■Day 3 レクチャー、器具演習&個人課題

最終日の午前中はレクチャーを3コマ行いました。特に実際の器具を見せながら紹介し、学生にも触ってもらうレクチャーでは、たくさんの質問が飛び交い、初めて目にする照明器具に興味津々でした。座ったままだと質問しづらいことでも、スタッフの横に立つと質問や意見を言うことが比較的容易だったようで、とても盛り上がったコンテンツとなりました。


午後は個人課題発表。事前に出題された5つのテーマ『① 桂離宮をあなたの生活空間として照明デザインせよ ② コルビジェ設計・サヴォア邸の照明をデザインせよ ③ 浅草(雷門・仲見世・伝通院通り)を光で再生せよ ④ 光の茶室をデザインせよ ⑤ 2050年の住宅or地下空間orコンビニの光環境を提案せよ』から1つ選び、A3用紙3枚までで回答します。この個人課題は全員が良かった提案に投票するというもの。最優秀賞や面出薫賞が選ばれます。
浅草の光環境の緻密な観察、サヴォア邸の空間の丁寧な読み解き、心理的・空間的な素材として光を扱った茶室、これからのコンビニの新しい可能性、光と住居の有り方、都市や地下空間の光での進化への考察…どの課題に対しても、各自の事前分析や光の考察が丁寧でした。
自分とは異なる視点に対して質疑応答も盛り上がり、上位投票が悩ましいほどでした。学年も学科も異なる集まりのなか、光について様々な着眼点や表現方法を共有でき、有意義な発表会となりました。

塾の最後は反省会。一人一人から感想や反省を聞いていきました。3日のワークショップを終えた学生は、最後の懇親会でまだ話せていない学生を捕まえて話したり、自分の個人課題の講評をLPAのスタッフに聞きに行ったり、今後の就活の悩みを相談したりと、最後の最後まで場を活用していたように思います。

3年目を迎えた面出薫塾ですが、毎回少しづつ改善を加え、内容を変えたりプログラムの順番を替えたり、よりよいものになるようブラッシュアップしています。
来年の開催については未定ではありますが、スタッフ反省会では新しいアイディアが多く出ており、まだ終わったばかりですが、次回の面出薫塾もなかなか楽しそうなものが出来そうな予感がしています。もっと多くの学生さんが参加できるような工夫もしていきたいと考えております。是非今後の面出薫塾にもご期待ください。 (東悟子)


オンライントークイベント
– Nightscape in Your Town –
2024.07.25 東悟子+河野真実

実は世界中に1200名以上もいる照明探偵団メンバー。なかなか交流する機会のない日本国外のメンバーと何か一緒に活動ができないかと考え、初めてオンラインでのトークイベント+YouTube配信をしました。

初の試みとなった世界照明探偵団オンライントークイベントxYouTube配信。第一回目は『Nightscape in Your Town』をテーマに、スウォンジー、バーゼル、コロンボ、そして高松から、4名の団員に各都市の夜景をレポートしていただきました。

1人目の登壇者はイギリス南東部の海辺の街 スウォンジーに博士留学中のHowie Ruanさん。静かな街で日々の空の色の変化、月の光、長いブルーモーメントを楽しむ様子を、美しい写真と共に紹介していただきました。地元広州とは違う、ヨーロッパならではの美しい光を実感しているのが伝わりました。

続いてスイス第3の都市 バーゼルにオフィスを構える照明デザイナー、Michael Hübscherさん。長い歴史と共に発展していったバーゼルの景観の変化、また近年になって突然現れたファサードのカラー照明への議論などをレポートしていただきました。街中の明かりが消え灯篭が光りだすというバーゼルのユニークなカーニバルはぜひ見てみたいです。

3人目はスリランカの首都 コロンボを拠点に活動する照明デザイナー、Nilusha Rajapakshaさんです。コロンボ中心部の人気観光スポットへの光害や安全面の懸念、また道路照明のLED化の遅れなどをお話しいただきました。人口の70%が仏教徒というスリランカの寺院の装飾照明や祭のお話も興味深いものでした。

そして最後は香川県高松市在住、空間デザインを学ぶ大学生の木村政輝さんです。イサムノグチやジョージナカシマなど多くの芸術家が愛した高松。その夜景の魅力や課題、また文化的価値を高めるためのアイデアなどもお話ししていただきました。ご自身の生まれ育った街をあらためて丁寧に観察し、レポートしてくれた姿がとても印象的でした。

オンライントークの様子はYouTubeで動画配信をしておりますので、ぜひご覧ください。

照明探偵団YouTube Channel

Now on Youtube!
『照明探偵団 夜景放送部~Lighting Journey~』

これまで写真とテキストのみで報告してきた都市夜景調査の、動画配信をはじめました。これまでに錦帯橋の鵜飼い(岩国)、厳島神社の管弦際(宮島)、出雲大社の神迎神事・神迎祭(出雲)の調査動画、またアラスカ調査のショート動画を配信しています。

調査地の音や動きの入った映像は、写真ではお伝えできなかった空気感や躍動感、温度感をより感じていただけると思います。今後も定期的に配信していきますので、ぜひご覧ください!

照明探偵団YouTube Channel: www.youtube.com/@lightingdetectives

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