照明探偵団通信

照明探偵団通信 vol.144

Update:

発行日: 2025年 12月 3日
・照明探偵団倶楽部活動 1 / 都市照明調査:韓国 ソウル(2025.10.22-10.25)
・照明探偵団倶楽部活動 2 / 都市照明調査:中国 深圳(2025.9.12&9.18)
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都市照明調査:韓国 ソウル

松島(仁川)とソウル市
2025.10.22- 2025.10.25 黄 桂花 + 朴 雪穎 + 劉 仙玉

照明がソウルという都市の多層的な景観における都市のアイデンティティや文化的表現にどのように影響しているかを探るため、松島(仁川)とソウル市を訪れて調査を行った。

G タワーから見た、仁川松島セントラルパークの鳥瞰夜景

■松島(ソンド)
調査初日、仁川にある松島国際都市を訪れた。延寿区を代表する計画都市であるこのニュータウンは、全域が埋め立て地という基盤の上に築かれており、ゼロから創出された未来型の都市として優れた都市計画の成果をあげている。

オークウッドプレミア仁川から見た、松島仁川の日の出時のブルーモーメント(街路灯は午前6 時30 分に消灯された)

交通アクセスも非常に良く、仁川国際空港から中心部まで、バスで90分圏内となっている。
午後8時、通りにはほとんど人影がない。私たちは松島の中央公園周辺を中心に調査を行った。地上レベルでは建物のファサードは装飾的な投光照明の使用を最小限に抑え、主に室内の照明に依存することで、落ち着いた雰囲気を演出していた。その一方で商業地区は豊富な電飾看板を活用し、都市景観に活気と賑わいをもたらしていた。

Gタワーからの眺めで最も印象的だったのは、都市全体の光の使い方だ。住宅街は2700Kの温かい光で照らされ、ランドマークとなる建物に向かうにつれて5000K以上の光に変わる。エリアごとに色温度でゾーニングされており、大きな視点での「光の計画」がはっきりと見えた。またタワーの頂部に集中した建築照明は、街のスカイラインを際立たせつつ光の無駄を抑える工夫がされており、スマートで持続可能なデザインの考え方が感じられた。

全体的に見て松島国際都市の計画は、体系的な整備、環境面での持続可能性、そして広範囲に及ぶ統一感といった点で、非常に優れた成果を示している。一方細部の工夫や小規模空間の豊かさの面では、今後さらに改善の余地があることも見えてきた。(劉 仙玉)

■北村韓屋村
狭い路地や起伏のある地形が入り組んだ、伝統的な韓屋の密集地に位置する北村。周辺環境は静かで、全体的な照明レベルは意図的に非常に低く抑えられている。この地域では主に小さなLED街路灯や家の入口にある提灯照明により、最小限の明るさで構成されている。低い位置に設置された柔らかい光の広がりによって、軒先や瓦屋根に深い影が落ち、韓屋らしい街並みを際立たせていた。

建物のファサードに照明はなく、代わりに温かい室内の光が紙の窓を通してほのかに漏れ、建物の形をやさしく浮かび上がらせ、低輝度ならではの夜景を作り出す。路地を歩くのに十分な明るさは確保されつつ程よい闇が残されている。この控えめな光が落ち着いた雰囲気を生み、歴史的な街並みの日常の質感を守っているようだ。(朴 雪穎)

北村韓屋村の住宅街。光源は街路灯の電球や家の入口の提灯のみ。

■解放村(ヘバンチョン)@龍山区

ノクサピョンから望む解放村の街並みと通り

解放村は急な坂道と狭い路地、そして密集した住宅が並ぶ丘陵地に位置している。以前の夜間景観は、小さなランプや古い街路灯に頼っていたため暗がりが多く、空間の輪郭が不明瞭な場所が散見されていた。改善後は、メインストリートに低グレアで均質な配光の照明が導入され、街の環境を損なうことなく視認性が向上している。また坂道や曲がり角には低い位置にも照明が追加され、かつて危険だった暗がりが解消された。
建物のファサード照明は、小さな直線型の器具でエントランスや質感を控えめに照らす程度に留まり、過度な明るさは避けられている。店舗から漏れる温かい室内光が、街全体に柔らかな光のアクセントを加えていた。路地は意図的に暗さを保ちつつも安全性が高まり、空間のリズムがはっきりと感じられるようになった。
改修された解放村を歩くと、照明は秩序を保ちつつも温かみがあり、生活感が息づく街の雰囲気を守りながら、夜間でも快適で訪れやすい場所になっていることが実感できた。(朴 雪穎)

■聖水洞(ソンスドン)
ソウルの聖水洞はかつて工場や倉庫が立ち並ぶ地域で、夜間の照明は最低限の機能を果たす程度にとどまっていた。やがてクリエイティブ産業が進出すると夜間の活動が増え、照明の戦略もより現代的な都市の表情を意識したものに変化していった。現在、メインストリートではLED照明が導入され、均一な配光と優れた演色性によって、夜でもすっきりとしたモダンな雰囲気を生み出している。

低輝度の照明が古い倉庫の粗いファサードの表面を控えめに縁取り、工業的な素材感を闇に埋もれさせることなく、一つの視覚的な魅力として際立たせている。カフェ、スタジオ、ショップから漏れる温かい光が街路に広がり、複数の明るい点となって集積することで、かつて薄暗かった工業地帯の区画は、生活の息づく、重層的な夜の環境へと変貌した。現在の聖水洞を歩くと、工業的な過去と新たな文化的活力の間に存在する明確な緊張感と、それでいて調和を保っている光の表現を見ることができる。(朴 雪穎)

■南山タワー
南山タワーは、ソウル市の中心に位置する山上にそびえ立ち、あらゆる方向から見ることができる。周囲の森林や山道は暗さが保たれており、遠方の商業地区から漏れるほのかな光が柔らかな背景を作り出すことで、タワーは夜空の中でより一層際立って見える。タワーのファサードは、均一なLEDウォッシュライトによって照らされ、安定した縦の輪郭を形作っている。また、頂部のRGB照明は、リアルタイムの大気の状況に応じて青、緑、黄、赤に変化し、タワーがさりげない公共の情報サインとしても機能していた。

山頂へ向かう道は自然な暗さが維持されており、足元を照らすのは控えめなプロジェクションライトのみ。この柔らかな誘導光が、上にそびえるタワーとの「目的地へ向かう導線」という明確な関係性を生み出している。広場の照明も抑えられており、視線の主役がタワーに留まるよう配慮されている。薄暗い木々の間を登ると、影のあいだからタワーが静かな灯台のようにゆっくりと姿を現した。
山頂から見下ろすと、街の光がひとつの大きな模様のように広がっていた。道路は明るい筋となって流れ、商業エリアは密度のある光で輝き、住宅街は柔らかな明るさで全体の印象を落ち着かせている。ソウルの夜景が、はっきりとしたリズムをもって目の前に現れていた。(朴 雪穎)

ナムサンタワーから見下ろすソウルの夜景。道路は光のリボンのように伸び、夜の都市の景色を織りなしている。
オーディウムの1 階入口と地下2 階ラウンジ

■オーディウム
ソウルの活気あるアートシーンも、今回の調査のテーマのひとつ。その中で私たちが選んだのは、近年オープンした建築的ランドマークであり、LPAのプロジェクトでもある「Audeumオーディオミュージアム」。館内で行われるプロによるガイドツアーは、見学に独特の“特別感”を与えてくれる。特に印象に残ったのは、多彩なデザインのヴィンテージ音響機器の展示。実際に展示機器を通して音楽を聴く体験は、他にはない感動があった。照明は展示空間の雰囲気と調和しており、ウォールウォッシュ照明によって機器のフォルムが美しく引き立てられている。まさに特別なミュージアム体験だった。(劉 仙玉)

■盤浦漢江公園@松坡区
盤浦漢江公園では、レインボー・ファウンテンのショーを目当てに多くの人が橋の下に集まる。光と音楽が連動するこの演出は、すっかり夜の人気スポットとして定着している。ただその一方で、メイン広場の照明は十分とはいえず、全体的に暗い印象が残る。噴水ショーの時間が終わると人がほとんどいなくなるのも、照明不足によって安全面への不安があることが大きな理由なのではないだろうか。
近くのセビッソム周辺では、開発時期が古いこともあり、設置されている投光器が老朽化して十分に機能していなかった。さらに、橋の照明には強いグレアが発生しており、視覚的な快適さを損ねるだけでなく、インフラの老朽化に対する懸念も浮き彫りになっていた。(劉 仙玉)

盤浦漢江大橋のレインボーライトショーでは、音楽に連動して光が変化する
盤浦漢江公園周辺の住宅

■インタビュー
漢江公園の調査中、オーストラリアから来たカップルにインタビューする機会があった。手すり周辺の照明はやや明るすぎるものの、許容範囲ではあるとのこと。

一方で、オーストラリアのウォーターフロント照明では、水際のファサードを狙って照らすことにより重点が置かれていると指摘していた。この手法によって水面への光の反射が強調され、対岸から見たときに、よりくっきりした魅力的な波のきらめきを楽しめるのだそう。

漢江沿いの夜間照明について、日本人の訪問者からもコメントをもらった。日本と比べると、韓国の景観照明は地面を明るく照らすことに重点が置かれている一方、日本では樹木へのアップライトなど、周囲の環境を際立たせる手法が多いという点が印象的だったそう。
また、韓国ではRGB照明の使用がより一般的で、なかにはかなり明るく、やや眩しさを感じるものもあるが、写真を撮る際には顔を照らしてレフ板のように働くため、むしろ便利だと感じ、この点については特に気にならなかったとのことだった。(劉 仙玉・朴 雪穎)

建物が水面に浮かぶ施設

■まとめ
今回の仁川とソウルでの調査では、ソウルの新市街と旧市街の都市構造や計画の特徴に明確な違いがあることがわかった。新市街ではスマートな都市開発が強く意識されている一方、旧市街は活気があり、地域らしい雰囲気が色濃く残り、それぞれが独自の照明の表情を持っている。
今回の短期間の調査では、都市照明のすべてを網羅することはできなかったが、今後またソウルを訪れ、光と都市空間、そして文化とのダイナミックな関係性をさらに深く探っていきたいと思った。(劉 仙玉)

チーム写真( 黄 桂花, 朴 雪穎, 劉 仙玉)

都市照明調査:中国 深圳

2025.09.12 & 09.18 林 虎 + 林 晃毅 + 蒋 坤志

深圳はおよそ45年で辺境の町からハイテク都市へと発展し、その大胆で持続可能な都市照明計画は国内でも際立っている。
今回は2日間で、3つのCBD(Central Business District)における夜景パターン、福田にあるメディアファサード、そして新たに開業した崗廈北駅の機能的な照明デザインを調査した。

歴史の厚い中国の古都とは異なり、もともと地方の小さな町にすぎなかった深圳。わずか45年ほどでハイテクの現代的な大都市へと成長した。独自の立法権を持つことから、深圳の都市計画は 先進的で大胆で、中国の他都市だけでなく海外の都市の手本となることも多い。

都市照明の分野でも、深圳は中国国内のトップランナーといえる。夜景デザインは大胆で革新的な一方で、生態系保護や光害対策に関する独自の規制も整備しており、持続可能性への明確な姿勢がうかがえる。しかし、それでも一部の照明プロジェクトについては、エネルギー消費や光害、公共資源の使い方をめぐって社会的な議論が起きることがあるようだ。

深圳の現在の夜景をより深く理解するため、深圳オフィスのチームは、次の3つのテーマに重点を置いて調査した。

“サイバー・パンク” と呼ばれる福田区の夜景
  1. CBD の3つの主要エリア(羅湖・福田・南山)における夜景の全体的なパターン
  2. 福田区におけるメディアファサードが、都市の夜景や公共空間に果たす役割
  3. 新たに建設された公共建築の夜間照明パフォーマンスとその影響

1. CBDの3つの主要エリアの夜景
福田にある平安金融センターの540mの高さにあるの展望台を訪れ、夜の都市のスケール感とレイアウトを俯瞰した。東側の羅湖方面を見ると、新旧の高層ビルが混在するスカイラインが広がり、深圳の商業的な歩みを物語っていた。ここでは過剰な装飾ではなく、既存の照明を活かしながら 外観演出の方向性を整えることに重点を置いている。

都市の計画軸は市民センターを通り北から南へと伸びており、行政の中核である福田には広場や公園、高層ビル群が整然と配置されている。これらのタワー群は意図的にメディアファサードのゾーンを形成している。同時に、メインストリートの両側には、磯崎新が設計した深圳図書館・コンサートホールや、Coop Himmelb(l)auが手がけた深圳現代美術館・都市計画館といった主要な公共建築が立ち並ぶ。

西側に見えるのは南山。ここはハイテクや重工業が集まるエリアで、多くの高層ビルの室内照明が点灯している。深圳湾公園も南山の夜景に彩りを添えている。ポイントは、深圳の照明マスタープランは、渡り鳥の通り道や湿地帯などの生態系区域の周辺において照明に厳しい制限が設けられているという点。一部のアップライトや光漏れ制御のない照明器具、レーザー、メディアファサードは規制対象となり、渡り鳥の季節には動きのある演出照明が制限されたり、消灯されることもある。

主要幹線道路から見たメディアファサード

2. 福田区のメディアファサード
福田区のメディアファサードは、都市管理局によって中央で計画・管理されている。主要な建物と連動して配置されることで、統一感のあるリズミカルな夜景を作っている。普段は流星群のような穏やかで上品なアニメーションが表示されることが多く、華美になりすぎず洗練された印象を与えている。また祭りやイベントの際には、特別なコンテンツを映し出し、都市全体で動きのあるビジュアルを演出する。近年では、ドローンによるライトショーも夜景の一部となり、多くの市民を惹きつけている。
SNS上では、福田区の夜景はよく「サイバーパンク」と称される。未来的な照明が都市に先進的な雰囲気をもたらす一方、激しい変化のある照明は光害やエネルギー消費を増やすとして、一部の住民からは批判の声も上がっている。住民の生活環境において本当にメリットがあるのか、疑問視する意見も見られるようだ。

3. 新しい公共建築– 崗廈北駅
また、新たに深圳の地下鉄の主要な乗換拠点となった崗廈北駅も調査した。駅舎には「深圳アイ」と呼ばれる吹き抜けがあり、昼間は自然光を取り込んでいる。夜間は照明で演出され、上から差し込む光の印象を夜間も駅内で再現している。主要なエリアの照度を測定した結果、デザインは現代的で機能的な印象を与えるものの、派手な見せ場に頼ることはなく、むしろ通勤や日常利用に適した、実用性重視の夜景であることが分かる。

■ まとめ
今回は、メディアファサードが集中する深圳の中心エリアの光環境を調査した。
ストリートレベルで見ると、大規模メディアの映像は判読しにくいものの、その光の迫力は強烈だ。一方そのきらびやかさとは裏腹に、反射光が住宅地にまで拡散する問題や、ビル全体をメディア化することで建築の美観が損なわれる事例も。
SNSの影響により、深圳の住民は夜景の受動的な受け手ではなくなり、質の悪い照明に対する不満や問題点を積極的に発信する傾向も見られる。
都市の最も直接的な利用者である市民の意見がボトムアップで光環境に影響を与え、派手なライトショーや巨大広告に依存するのではなく、綿密な計画とデザインを通じて「真に快適で、人に配慮した」光環境が構築されることを期待したい。(林 晃毅)

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