照明探偵団通信

照明探偵団通信 Vol.09

Update:

発行日:2001年3月25日
・海外照明探偵団レポート/ノルウェー・ベルゲン
・照明調査レポート/古典茶室の光 有楽苑如庵
・照明探偵団倶楽部活動1/街歩き報告
・照明探偵団倶楽部活動2/研究会サロン報告
・面出の探偵ノート
・慶應大学世紀送迎会ライトアップ
・照明探偵団WEBリニューアル&URL変更!
・探偵団日記

海外照明探偵団

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ノルウェー ベルゲン

 
2001 年1 月3 日~ 9 日

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トーグ ・ アルメニング通り
2.フロイエン山頂からの夜景
フロイエン山頂からの夜景
4ブリッゲン水辺の景色
ブリッゲン水辺の景色
5.空じゅう張り巡らされたケーブル類
空じゅう張り巡らされたケーブル類
6.ブリッゲンスケッチ
ブリッゲンスケッチ
7.ファサードのブラケット
ファサードのブラケット
8.エントランスのポール灯
エントランスのポール灯
9.家々の窓際に灯るあかり
家々の窓際に灯るあかり

ベルゲン市はノルウェー第2の都市で人口は約22万人。街の大きさは小さいもので半日あれば徒歩で回れるほどである。ノルウェー特有のフィヨルドの末端に位置している。街の歴史は古く、1070年にオーラヴ・ヒッレ王によって開かれた。12世紀から13世紀までは、ノルウェーの首都でもあった。ベルゲンの地形は西ノルウェー特有のもので、山が海岸線まで迫っていて、わずかな平地に木造の家が密集している。
山肌にも白い家がはりつくようにように建っている。天候は、メキシコ湾流の影響を受け、その湿った空気が山にぶつかり、多くの雨を降らせる。今回は幸運なことに4日滞在の内、昼間は快晴に恵まれ、最終日のみ雪がふるという天候であった。ベルゲンは19世紀中頃までドイツのハンザ商人による貿易が盛んな街であった。そのハンザ商人が使用していた三角屋根の木造建築が現在も港際に建ち並んでいる。この建物は世界文化遺産にも指定され、一番の観光名所となっている。
ベルゲン港を挟んで右側がこの三角屋根の館などがあるブリッゲンと呼ばれるエリアである。港の左側がホテルやショッピングセンターなどの街の中心的なエリアである。この半島だけであれば、半日で歩き回れる距離である。今回は、このブリッゲン地区を中心に「北欧の長い夜」を調査した。市内には大きなメインストリートはなく、2箇所の歩行者専用の通りがありショップなどが建ち並び賑わいを見せている。比較的大きな通りとしては、港周辺に4車線の大きな通りがある。その他は中世の町並みをそのまま残したような細く曲がりくねった石畳の小道が大半をしめる。

到着して、まず初めに街の全景を見ようと訪れたのが「フロイエン山(Floibanen)」。おもちゃのようなケーブルカーが標高320mの山頂まで引かれている。最大斜度26度、全長830mを約8分で登ってしまう。ここからの景色は素晴らしく、日没近くには夜景を見ようと寒空の中、多くの人が訪れる。山頂にはカフェがあり、ライトアップされたこの建物の姿が街中から見上げた時に美しく山の稜線上に浮かんでいた。(※表紙の写真)山頂からの夜景は、ベルゲン港を一望でき、街の道路や細い路地が高圧ナトリウムランプの暖かい色味で動脈のように輝いている。この夜景撮影は、その美しさとは裏腹にマイナス12度の寒さとの戦いで、隣で撮影していた現地の少年と思わず顔を見合わせて苦笑いという一幕もあった。
寒さに打ち震えながら再びケーブルカーで下山し次に向かったのが「トーグ・アルメニング通り(Torg Almenning)」。幅員が50メートル、長さが250メートルの歩行者専用通りである。ベルゲンでは一番大きく、品揃えも豊富な(?) ショッピングセンターが両脇を固め、中央に船乗り達を称えた像が立っている。広場にポール灯は全く無く、両サイドの建物からワイヤーで吊り下げられたカテナリータイプの照明器具が設置されている。設置高さは、路面から約10メートル。(建物の3階からワイヤーが張られていた) 設置間隔は約28メートルピッチで設置されていた。

その他には、ベンチ下に埋め込みインジケーションがあり、多少の賑やかさを演出している。日没後、このカテナリー照明の直下で20ルクス。中央部分で7ルクスの路面照度を確保していた。ランプは高圧ナトリウムランプの400W相当。セミカットオフタイプの灯具からは、ややグレアのある光が人気の無い広場に輝いていた。周囲には連立したポール灯は殆ど無く、建物のファサードにあるブラケットの明かりが印象的な広場の景色をつくっていた。
もうひとつの歩行者専用通り「ストラン・ガテン(Strandgaten)」トーグ・アルメニング通りよりも狭く、幅員約9m通りの全長約100mの小規模なものではあるが、ほどよく店舗がせりだした、いわゆるヨーロッパの通りの雰囲気をもった通りである。ここには、多少開けた場所にクラシックなポール灯がランダムに配置され、昼間には人が自然に集まり、立ち話をする光景が見られた。夜には、このポール灯の明かりとカテナリー照明によりベースライトがとられていた。路面照度は、平均40 ルクス。目線レベルの鉛直面照度が約5 ルクスであった。通りが狭いこともあり、建物のファサードにあたった明るさで数値の印象よりは明るく感じられた。中世の石畳が残り、19世紀の教会などが当たり前のように今も使われている街の中でこのようなクラシックなポール灯は違和感無く、周囲の景色に溶け込んでいた。

次の日に調査したのが歴史的建造物が多く残る。「ブリッゲン(Bryggen)」。港際にあるハンザ商人が使っていた三角屋根の木造建築は、奥行きのある建物で100年に一度の火災で焼かれたが、その度に修復されてきた。外装は綺麗にオレンジ色に塗られ、通りに面した所では土産物店が軒を連ねている。道路、歩道の照明はやはりカテナリー照明によるものであった。光源は高圧ナトリウムランプ400w相当で、設置高さが約12 m、設置間隔が約30 mピッチで取付けられている。世界文化遺産に指定された三角屋根の建物からワイヤーが張られ、この灯具が吊り下げられていた。光は均整よく路面を照らしていた。道路中央部で15 ルクス。歩道部では7.5 ルクスという数値であった。交通量が少ない割に明るすぎる印象であった。その理由の1 つとしてアスファルト舗装ではなく、石畳であることが挙げられるだろう。その反射率の良さで路面の輝度が増して明るく見える。しかし、その石畳を良く観察すると凹凸も多く、このくらいの明るさのほうがバリアフリーの点では良い環境なのであろう。

その他では、オーエン王の館などがライトアップされ、対岸からみた水辺の景色をつくっている。ライトアップをしている建物のそばにはカテナリー照明はなく、輝度を抑えたポール灯が設置されていた。これは、対岸からの景色を考慮してのことなのであろう。カテナリーによって照らし出された建物のファサードやライトアップされた石造りの建物がベルゲン港の海面に美しく映り込み、印象的な景色を創りだしていた。ブリッゲンからの帰り道で最も新鮮な発見だったのが、家々の窓辺の明かりである。さりげなく窓辺に置かれたスタンドやシーリングライトが夜になると暖かい明かりを灯し、家路につく人を迎えるように各家々の窓辺を飾っている。寒い国だからなのか、ちょっとしたことで、明かりのもつ暖かさを最大限に活かした様子が通りを歩いていても感じ取れた。明かりが暮らしの中に溶け込み、楽しみや安らぎの明かりとして存在している様子を体験できたことは最大の収穫であったと思う。北欧では、この時期あまり夜に人は出歩かない。これは行ってみて一番よく解ったことである。それだけに窓から見えるライトアップされた景色や家々から漏れてくるわずかな明かりを自然に楽しめる空間をそれぞれが工夫をこらして創り出していた。冬の北欧は寒いが、それだけに明かりのもつ美しさが際立つのである。(田中 謙太郎)

照明探偵 古典茶室の光

有楽苑如庵 2000 年11 月11 日

10.有楽苑如庵

有楽苑如庵
11.有楽窓
有楽窓
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14.客座を囲む連子窓
客座を囲む連子窓
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●茶室のこと●
 清々しい秋晴れを感じる間もなく寒さが訪れてしまった2000 年でしたが、紅葉の季節(今年は冷え込み不足で橙葉ってところ?) の真っただ中に「和」の光の結晶である茶室の調査に行ってきました。近代・現代の建築家が解釈を加えて設計した茶室もいろいろありますが、出発点ということで今回は如庵と待庵を中心とした古典茶室を題材としました。
茶室はほんの数畳の小さな空間でありながらも、最小単位としての空間と光の在り様は、その成立した背景や茶室内でとり行われる茶の湯の作法と密接に関係していて、非常に奥深いものがあります。
 いつ命を失うか分からない戦国時代の中、山奥の仙人のように俗世間とは離れ、平穏で安らぎのある空間を求めたのが茶室の始まりです。茶室の中では人は皆平等であり、炉を囲みながらお互いに非常に近い距離で親交を深めることが最大の目的となります。茶室内は人の身長ほどの高さと低く抑えられ、基本的ににじって移動することが原則ということから、必然的に茶室空間のデザインは目線の高さの独特なスケールで構成されます。
 また、茶の湯は招く側の亭主と、招かれる客との交流であり、この2つの関係が茶室内での座の位置に大きな意味を与えます。床(とこ) は亭主のもてなしの気持ちを表すもので原則として客座側につき、床に近いほど上座となります。露地を通って茶室を訪れた客は、客座側に設けられた1 辺450 mm程度のにじり口という、小さな窓のような入り口から茶室に入り外界との縁を切って、亭主との交わりに没頭するのです。
 さてお待ちかね、ここでようやく光の話となります。壁面は土壁でできていて、桟(枠)が付く連子窓と土を塗り残して造る下地窓の2 種類の窓がつくられ、多くの窓は障子とセットで開閉できる仕組みになっています。内部はたった数畳の空間なので1つの窓が持つ影響力は大きく、構造的に成立させながら、どの形・大きさ・数の窓を設けるか、設計者のセンスが問われるところとなります。

●如庵●
 京都大山崎の妙喜庵・待庵、大徳寺龍光院・密庵席とともに国宝三名席に数えられる有楽苑・如庵は名古屋から30 分ほどの犬山市にあります。他の国宝や多くの重文クラスの茶室は入室ができませんが、如庵は年1 回11 月に特別公開日を設けていて、この時ばかりは一般人でも入室して実際に茶室内を体感できます。(2001 年より3 月も公開)
 如庵は二畳半台目の織田有楽作の茶室です。台目畳とは普通の畳の3/4 の長さの畳で、お点前する亭主の座る畳(=点前座)に使用されます。残りの二畳半が客用の客座となります。名デザイナーであった織田有楽は直線的で男性的な意匠を好み、如庵においても茶室に面した窓にはすべて桟のついた連子窓で構成しました。ここで窓の位置を見てみると、にじり口から点前座に向かって客座を囲むように軽快に連子窓が連続し、点前座側では2 つの独立した連子窓として扱いを変えていることが分かります。さらに亭主側の連子窓の外側は竹が詰め打ちされていて、一般的な明かり障子である客座側の連子窓と、亭主側のこの窓では得ようとした光量が異なることが伺えます。客座側が明るく連続した窓、亭主側が輝度の抑えられた独立した窓という扱いであること、茶の湯が亭主が客をもてなす道理より成り立っていることを考えると、明るい光に囲まれることがより贅沢なことだったことは確かなようです。

 明かり障子は面光源として客や亭主を囲むと同時に、障子に向かってみれば手前の対象物のシルエットを浮かび上がらせ、逆に障子を背に向ければ障子からの柔らかな光を受ける対象物を見せる効果を示します。まず自分が客として如庵に入ると、自分が座る周りには明るい窓があり、客座につく拝見する床がその窓によって丁度良く照らされ、亭主もお点前の所作もよく見えることになります。亭主の背後の窓は輝度の抑えられているので亭主がシルエットとしては感じられません。今度は自分が亭主だとすると、目の前に広がる明るい窓とそこに浮かぶ客のシルエットが光景となるはずです。ただしその光でお点前する炉の周りは明るいので機能的には合理的なのです。
 ところで、亭主側の2 つの竹が詰め打ちされた窓は有楽窓と呼ばれ、竹のスリットが写す虹色の光は大変美しいものです。なんと「東洋のステンドグラス」として世界的にも有名だそうです。ここでは空間構成から如庵の光を捉えてみましたが、短時間ながら体感した感想を言えば、そんなことより、太陽が雲に隠れたり顔を出したりする瞬間に起こる茶室内の表情と明るさの変化のダイナミックなこと!自然が織り成すオペレーションのす

第9 回街歩き「さいたま新都心編」

2000 年12 月6 日

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 前回の街歩きはアミューズメント一色に終始したという反省の念に少々かられて、第9回目をむかえた今回は、「20 世紀最後の街歩き」的な勢いも手伝い、真摯な態度で都市のあかりの調査に繰り出しました。

 今回のターゲットは、さいたま新都心。2000年5 月に街開きをし、9 月にはLPA のプロジェクトでもある「さいたまスーパーアリーナ」や、「けやきひろば」などの商業施設がオープンしました。

興味深かったのは、このさいたま新都心全体の照明計画の指揮に照明デザイナーの近田玲子さんが携わっていらっしゃるということ。そのため、LPA の手がけた照明計画を前に団長自らの解説が聞ける、ということ以上に、都市計画と照明計画という大きなスケールでの調査が期待されました。

 スタート地点さいたま新都心駅は、建築家鈴木エドワード氏設計によるシェル構造むきだしの少し歪んだカマボコのようなユニークな形状をした建築。この空間を横切る光のチューブが印象的でした。自由通路をとおって「けやきひろば」へ到着すると、6m ピッチのグリッドに植えられたけやきはクリスマス電飾が付けられ非常にきらびやかでした。その奥には「森のパビリオン」というトランスルーセントなガラスの箱状の建物があり柔らかいあかりの表情を呈していました。近づくとその正体は3cm 幅程度の白い不透明な部分と透明な部分が交互になったガラスの壁。団長曰く、この密度の微妙な違いでその行灯状のあかりの出来映えが全然違ってくるのだそうです。光は非常に繊細なもの。通常ならこんな繊細で印象的な光を背景に、けやきの整然としたシルエットが浮かび上がってくる光景にありつけたはずでしたが、今回ばかりはクリスマスの華々しさが少々残念でした。広場の目玉的空間でもある「サンクンプラザ」も、本来なら、下のフロアからのあかりが漏れてくるガラスブロックが一面に広がっているという印象的な光景にお目にかかれたはずですが、一面に広がっていたのは工事用のグリーンのビニールシートでした。

 そして広場を背にさいたまアリーナへ。ガラス壁面には3 色のカラー蛍光灯が剥き出しでランダムにつけられています。入り口前に広がる床には紫色のインジケーターが4.5mグリッドで埋められていました。覗き込むと中身は赤と青のLED でした。歩みを進めるにつれ、人気のない空間に有り余る光あり、暗がりあり、そして団長の口から自身のプロジェクトにいろいろと酷評も下され、参加者の皆さんには興味深い体験だったのでは?しかし、空間の質を図面から読み取り、その施設の性質を考慮して照明を計画し、オペレーションをプログラムすることの難しさなどを再確認した思いでした。

 調査のあとの恒例の懇親会でも、参加者皆さんから意見や感想がたくさん聞かれ、充実した探偵団調査となりました。
 更に20 世紀最後の街歩きはオマケつき!懇親会を終えて心もおなかも満たされ体温を取り戻したところで、再び探偵団活動再開という展開に。というのも、浦和でイルミネーションのイベントをやっているとの情報が入り、一同帰途の途中下車、しかも懇親会を終えたのが21:30 頃で、そのイベントは10時終了だというから、もう大変。浦和駅からルートを追いながら走ること10 分、その間色とりどりの電飾に飾られた町並みを横目にアーケード状の光のオブジェに到着しました。ようやくここでこのイベントが、光の回廊、光の壁掛けをコンセプトにした南イタリアから届いた光の祭典「浦和ルーチフェスタ21」だということが判明。しばしそのきらびやかな光景を堪能しました。アーケードの天井面まで電飾でびっしりなので、アーケードが平面の連続で並んでいる東京のミレナリオとは違ったボリューム感のあるあかりの光景でした。

 最後の消灯の瞬間もビデオに納めることができ、満足、満足。一足早く、往く年の感慨にふけった思いでした。(田中 智香)

第13 回研究会サロン【さいたま新都心調査報告/ 汐留/ 慶應義塾大学世紀越計画】

2000 年12 月11 日

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 今回のサロンは、月曜日の夜ということもあり、いつもより少なめの15 人の団員が集まりました。中には、卒業設計の真っ只中にもかかわらず、駆けつけてくれた団員もいらっしゃいました。

 まず、過日行われたさいたま新都心の街歩き調査の報告がビデオを見ながら行われました。12 月とあれば、街はクリスマスイルミネーション一色、埼玉ももちろん染まっていました。でもそのせいか、本来の魅力を覗うことができなかった様です。例えば、地面のガラスブロックを通して下からの光が漏れるという計画のサンクンプラザにも、イルミネーションを考えてのことでしょうか、シートが敷かれてしまっていました。いずれにしてもできたばかり、これから成長していくものであり、まだ完成されていないという感想が聞こえてきました。まだ見に行かれてない方は是非見に行かれることをお勧めいたします。

 団員たちは、新都心の調査が終わった後、ホテルが行っているイルミネーションを見に急いで浦和へと出発。これは、神戸のルミナリエや、東京で行われたミレナリオのように、イルミネーションがホテルのファサードとアーケードに施されたもので、浦和ルーチェフェスタ21 です。いくつものアーチが間隔をおいて連なるルミナリエとは異なり、天井一面に電球が施されていたイルミネーションは、また違った印象だったようです。また、ぎりぎりに訪れたメリットでしょうか、消える瞬間をビデオに収めることができ、消えるという現象に一同なにかを感じた様子でした。
 次に、フランス在住のアーティストである田原桂一氏が、現在開発が進む東京汐留の工事現場にあるクレーン車を利用して行っている光のインスタレーションの調査報告がありました。クレーン全体に無数のフラッシュランプがつけられ、それぞれが一定の周期で光ることで、ピカピカピカッと光るオブジェクトとなり、その周りにはたくさんのキセノンランプが置かれ、冬の澄んだ空へと光があがっていました。乱雑な昼の姿は闇の中に消え、汐留という大きなステージに美しい光のオブジェが置かれたといった感じでした。

 さて、面出団長からは、昨夏訪れた南アフリカのスライドを楽しいお話を聞きながら見せてもらいました。世界で一番治安が悪いと言われているヨハネスブルグの黒人地区では、何もしないと夜には真っ暗になってしまいさらに危険な場所になってしまうため、一定の間隔で高さ30m のマスト灯が置かれ、上から照らされているという報告がありました。やはり危険な場所では、美しい闇など通用しないのでしょうか?その他にもかわいらしい象やキリン、ライオンなどのスライドを観たりと団長の楽しいアフリカ旅行を垣間見ることができました。

 最後に麻生団員、西原団員、沢田団員から進行中の企画発表がありました。慶應義塾大学で行われる21 世紀カウントダウンの時に、歴史ある旧図書館をライトアップするという企画で、照明実験のスライドを見ながら一同説明を聞き、アイディア出しなど話し合いを行いました。ライトアップということにこだわらず訪れた人が参加できるような提案が良いのでは?という意見や、戸恒団員からは参考事例として、以前行われた東京大学のライトアップ実験の様子がスライドで発表されたりと、皆で考え 、まさにサロンの醍醐味といった感じでした。次回のサロンでは是非当日の様子を発表していただきたいとすべての団員が思っていることでしょう。(竹内 聡美)

面出の探偵ノート

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●第24 号 2001 年3 月05 日 月曜日
 話題の建築と光・せんだいメディアテークの出現話題の建築・せんだいメディアテークの施設が、2001 年1月26 日に開業しました。建築設計は伊東豊雄さんとその息の合った仲間たち、そして構造設計の佐々木睦朗さん。1995 年に公開設計競技に応募した235 案の中から磯崎新さん(審査委員長) によって選ばれた最優秀賞でもあります。私たちLPA もこのコンペの前後からこの建築の全般に渡って照明デザインを協力してきました。世の中には色々変わった姿の建築がありますが、このように美しく斬新な気配を放っている公共建築物も珍しいのではないかと思います。施設の中身は複合文化施設で、スタジオ、マルチメディア図書館、ギャラリー、多目的スペース、プラザ、ショップ、カフェ、などなど・・・。延床面積は約22000 平方米、鉄骨造+一部鉄筋コンクリート造、総工費約130 億円、地下2階地上7階建てで、一辺が約50 mの正方形の平面をしています。ユラユラと波に漂う海草のような構造体が、400mm という薄い床スラブを貫通している様がイメージ通りに実現されました。仙台の有名な定禅寺通りに面したファサードには二重の透明ガラスがはめ込まれていて、道行く人に建築内部の様々な様子を透視させ、市民に開かれた新しいタイプの公共施設のモデルを提示しています。まあ、世紀末を代表する新建築であり、たまたまオープンが2001 年1月になったので、21 世紀幕開けを飾る新建築でもあるわけですが、これほど野心的でコンセプチュアルな表現に成功した例も少ないと思います。色々な建築雑誌などに同時に発表されることでしょうが、紙面の写真を眺めるだけでなく、是非一度、仙台に行ってこの建築の空気を細かく観察してみるべきでしょう。色々なことが感じとれるはずです。

 照明計画のコンセプトは、如何にこの特殊な構造とガラスから与えられる透明なイメージを、昼夜の対比の中で鮮明に視覚化するか・・・、ということです。そしてもちろんその上で、施設が市民活動にとってフレキシブルに使いやすい照明システムを実現することです。建築のコンセプトが単純明快であることが、如何に光のコンセプトを矛盾なく引き出すか、の好例といえます。そのコンセプトを照明手法として展開するときに、重要だったのが、チューブの中を貫通する自然光と人工光の昼夜の対比、それと積層された各階内部と、それを串刺しにするチューブ内に満たされた光の対比です。

 様々な紆余曲折を経たあとに、13 本のチューブのうちの各階中央に位置する2本に限定して、屋上階に設置された太陽光追尾装置を利用して、昼光を建築内部に取り入れる工夫を施すことにしました。太陽光を建築内部に反射鏡を利用して引き込むシステムは、近年色々計画されていますが、設備を投資するほどの合理的な光の量を得るに至っていないのが実情のようです。この建築においても、太陽光追尾によるチューブ内への光の取り入れは、光の量を取り入れることよりも、むしろ人工照明に支配された室内労働に刻々と変化する建築外部の気配を伝える役割が評価されているようです。私の行ったときにも、室内の一部に坪庭から落ちてくるかのような、気持ちの良い太陽の反射光が降り注いでいました。夜間にはこれが一変して、地下2階と屋上階に設置された人工照明によって、チューブ内部は輝き立ってくるように計画されています。夜間において、フラットスラブによって積層された光の束と、チューブ内部に満たされた貫通する光を対比するために、3500K (ケルビン)と5700K という色温度の対比を意図しました。つまり温白色というやや暖かい色の光と、水銀ランプによる白く冷たい色の光を水平垂直で対比させているのです。この考え方は、建築断面図に光の色を概念的に塗ってみると解り易いのですが、地下1階の駐車場にはさらに青白色の蛍光ランプを使用していることもあって、水平の暖かい光、垂直の冷たい光、のコンセプトがいっそう明確に説明できます。しかし最終的な夜の建築外観では各階の床の仕上色などの影響もあって、積層された各階は様々な固有の表情を見せているのも、面白いところです。

 伊東豊雄さんはこの建築の中で様々な種類の虚ろな光を交錯させようとしています。単純化された建築の中で自然光と人工光が入り組み透層する仕掛け。室内から外の気配を虚ろに感じたり、チューブを介在して上下の積層空間が視覚的に繋げられたり・・・。巧みに組み立てられたそれぞれの機能空間が、しかも優しい表情に仕上げられているのです。昼から夜へ・・・。ゆっくり時間を掛けてせんだいメディアテークに漂う光を観察したいものです.(面出 薫)

慶應大学世紀送迎会ライトアップ

麻生哲平 沢田妙 西原孝太郎
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旧図書館のライトアップ

 昨年末、世紀越えのイベントが各地でたくさん行われました。慶應大学世紀送迎会もその1つでした。企画・準備等はほとんど慶應の学生が主に取り組んでいましたが、照明班は3人中2人が他大生でした。ふとしたきっかけでこの会のお手伝いをさせて頂くことになりました。
 野外イベント、ステージなどの企画が順調に進行し、盛り上がっていく中でキャンパス内の照明については置き去りのままでした。本番まであと1ヶ月程しかなく、何ができるかを3人で考え、校内のライトアップをする
事になりました。

 3人ともライトアップをするのは初めてでした。そこで先ず色々な所を見て歩く事になりました。東京駅や日比谷、有楽町、新宿と、どこもまばゆい程のライトアップが施されていました。また、川越の小江戸で行われた街ぐるみのライトアップも見に行きました。3人で見ていると色々な所に気付く事ができ、面白かったです。

 慶應大学のライトアップでは特に安全性の確保を第一に考え、歩道に小さなライトを設置する事と、大学を象徴する古い校舎(特に旧図書館) のライトアップ、そして中庭にある大銀杏のライトアップをする事にしました。大銀杏は真冬の為すっかり葉が落ちてしまっていたのですが、シンボルでもあり、どうしても照らし出したかったので真下から1500W のFQ を3本当て、全体を包み込むように下から500W を4本、300W を3 本当て、大木、枝振りを白く浮かび上がらせ威厳を強調しました。

 旧図書館は東京駅などからヒントを得、ただ壁面を当てるだけでなく、中央部の美しいディテールを強く、そして側面(この面は大学に向かってくる人々からも見える) は弱く、とリズムをつけて光を当てました。一様に当たっているように見えても、なぜ綺麗だな、と思うかにはきちんと仕掛けがあるのだなと思いました。ライトアップを考える際、安全面という事、とにかくそれが本当に大切で必要だと感じ取りました。近田玲子さんにもアドバイスを頂き、ライトは導線にもなるという事、先ず最低条件として安全性をとって、その後どの様に当てるかなどと考えていくと自ずと見えてくるものだな、といい勉強をさせて頂きました。

 本番当日の12月31日夕方、雨だけが心配でしたがなんとか持ちこたえ、たくさんの方がいらっしゃいました。旧図書館の前で写真を並んで撮っている人々、大銀杏を見上げて微笑む親子などを見ていると、本当にやって良かったな、と思いました。

実験のお話
 予算があまりなく、本番前の実験用照明機材を借りるお金もなかった私達は、メンバーの西原のバイト先で屋内用のライトを借りて野外での実験を強行することになりました。日が暮れてから夜中に職員さんを連れ出して、デジカメ・ライト・延長コードを手に校内を駆け回った事は今でも忘れる事はできません。

 もう1つ、お金のない私達の頭を悩ませたのは歩道に設置するライトでした。数にして約100台。安価でよいものを探す
と言う事で、先ず渋谷の100円ショップで素材探しを始めました。そこでタッチライトを見つけ、これに何かシェードをつけようということになり、和紙でできた提灯を見つけました。試しに幾つか買って帰り、早く見たくて帰り道に暗闇を探して実験をしてみました。渋谷で闇を見つけるのは本当に大変で、やっと見つけたのは路地裏の工事現場の脇でした。中華料理屋さんのゴミ置場の中、ゴミの横でちょうちんライトはとても美しく光っていました。大喜びでその日は帰ったのですが、後日改めて発注しようとしたところ、年末の為在庫分しか扱えないとの事で到底数が足りない事が分かり、また別の案を考えねばならなくなりました。100円ショップや街を見て歩いてもピンとこないので、合羽橋道具街に3人で行きました。ヘトヘトになるまで歩き回って、白い紙箱を見つけ、それに和紙をはるライトを手作りすることになりました。中の電球は秋葉原で手に入れた豆球セットを組み立てて入れる事にしました。

 実験をする事によって分かった事は数限りありませんが、何より実験をしないと何も分からない、という事が一番感じた事です。

最後に、、、
 照明探偵団のサロンで、途中経過ながら発表させて頂く機会を与えてくださった事、そしてそれについての貴重な反応としてアドバイスを違った視点で頂けた事に私達3人は非常に感謝しています。知識も経験もない自分達にとってとてもいい助言となりました。と同時に改めてこういった情報交換の場所のありがたみと意義を感じました。どうもありがとうございました。

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足下灯として使われた手作りちょうちん

照明探偵団日記

空間は、地下もしくは全く窓がない空間でない限り、必ず昼と夜とを迎えます。空間によっては全く異なる昼のカオと夜のカオを持っている場合も多々あります。人間の活動時間は昼の方が長いため、昼のカオの方が人目にふれる機会は多いですが、建築でも光をまとった夜の姿の方が強い印象となって残ることがあるのも事実です。近頃の建築雑誌に建築の夜景写真が多いのも興味深いところです。照明探偵としては夜のカオを重点的に見てしまいがちですが、同じ空間の昼のカオをきちんと見ておくのも大切なことでしょう。夜の光空間としては気持ちの良いものでも、例えば昼間の照明器具の姿が邪魔な存在では結局良い空間にはなり得ないと言えるのではないでしょうか。

本当は同じ空間の昼と夜の両方のカオを見るのが一番良いのですが、やむを得ず片方しか見られない場合には、昼はどうなのか、夜はどうなのか、照明や構造や素材を材料に、もう一方を推理するのもおもしろい探偵です。 (田中 裕美子)

照明探偵団WEB サイトリニューアル&URL 変更!

tanteidan.org 公開
これまで事務局で自前製造していた照明探偵団WEB サイトでしたが、もう少し整理して親しまれるものにしようと言うことで、プロの協力をもらい昨年末にリニューアルいたしました。また、これに伴い照明探偵団のホームページURL が変更になりました。一新されたサイトをぜひ覗いてみてください。
それに加えて、探偵団活動を世界中に広げようという申し入れがありドイツ・ハンブルグの照明デザイン事務所のメンバーと共同して「tanteidan.org」というWeb サイトも開設しました。
これからも一層激しく更新していくつもりです。ご期待下さい。

照明探偵団WEB サイト
http://www.lighting.co.jp/tanteidan/
http://www.tanteidan.org/

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