照明探偵団通信

照明探偵団通信 Vol.45

Update:

発行日:2011年6月6日
・照明探偵団倶楽部活動1/第41回街歩き「アジアンレストランあかりのフィールドリサーチ(2011/04/09)
・照明探偵団倶楽部活動2/第37回街歩き 第36回研究うサロン(2011/04/19)

第41 回街歩き: アジアンレストラン あかりのフィールドリサーチ

 
2011.04.09

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新大久保駅の周辺のコリアンタウンと呼ばれる街に21 団員が集まり、おいしい物を食べようという期待半分、精力的にあかり調査に取り組みました。5 班に分かれて、節電されている街を見てから、アジアンレストランのあかりフィールドワークを行うという試みでした。参加した団員にはいつも以上にチャレンジングな街歩きでした。

当日の街歩きルート:
新大久保駅→大久保駅→コリアン通り→職安通り→5班に分かれてアジアレストラン調査へ

当日配布マップ_2

■アジアン街と飲食店のあかり調査
日没前に新大久保駅近くに参加団員が集合、SQUAD 3 人担当者が今回の主旨を説明しました。4-5人の少人数の班で違ったアジアの国の飲食店に行き、美味しい物を食べるとともにお店全体のあかり調査に取り組んでみました。このようなフィールドリサーチの形は照明探偵団では初めてにもかかわらず、団員が責任を持って、内容の濃い記録を残しました。

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街歩きに参加団員が集まって、フィールドリサーチについてのオリエンテーションを行いました。

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面出団長は照度計を地面に置いて、正しい照度の測り方を説明してくれました。

最初に全員で節電されている街を観察しました。集合場所から大久保駅に向かって、大久保通りを歩き、JR大久保駅で折り返し、再び大通りを観察しました。
細い道であるコリアン通りで右折、職安通りまで出ました。いつもよりファサード照明や看板のを落として
いる印象を受けました。次に5 班に分かれ、決められたレストランへと移動しました。短時間でしたが、飲んで、食べて、もちろん照明も調査して2時間後に韓国の飲食店で、簡単な報告会も開きました。

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節電されている大久保。ファサード照明や看板照明が消灯したり、歩道や道路用照明も一つ置きに点灯していました。

■ Group 1: 台湾 台南担仔麺 (たいなんたあみ)By: 古川 智也団員
職安通りから大久保公園への筋を入って10 数m。コリアンタウンのイメージが強いエリアに、オープンして20 年近く経つという台湾料理のお店です。周囲の韓国店や中華店に押されて、つい見落としてしまいそうなファサードですが、4 団員がつけた外観の平均スコアは76 点。デザインに凝ったロゴの看板が反射グレアで見づらく、消灯中の提灯は内照式の方が屋台の雰囲気が出るのではないかという意見等でした。し
かし、窓のデザインやドアノブの彫刻は、デザインへの拘りを表すもので、店内の設えへの期待が膨らみ
ます。

①ファサード(正面)
台湾店のファサード:黄で縁どりされた赤地に、かなり凝ったデザインのロゴの看板と、赤い提灯がお店の目印。入り口のアイレベルの鉛直面照度は30 ~ 50 lx。

店内は、電球色で家庭的な雰囲気に包まれて、居心地がとてもよい空間でした。内装は天然素材を使い、
赤・茶・白で統一されたインテリアには随所に装飾が施され、お客を飽きさません。丸い木製テーブルと丸
椅子は初対面のメンバーの距離感を縮めて、団長からリサーチ直前に出された課題の「台湾店と中華で
何が違うか?」に会話が弾みました。

⑦料理IMG_7061
台湾店内では楽しくなるフォルムの窓とニッチが空間を広く見せ、机上面照度は100l x、壁面は60 lx(H= 1,500)

4 団員の店内平均スコアは87 点。お品書き札周辺の白色の光やニッチ照明等が気になりました。一方、
天井開口が四角形のバッフルタイプのダウンライトは、不快グレアがなく、お店の雰囲気にあっていて印
象的と皆、加点ポイントに挙げました。そして、料理やお酒、サービス、価格を加えた総合平均スコアは89 点。バックグランドや価値感、お店への期待度は4人それぞれですが、ワヤワヤと楽しめて大満足のお店でした。 

⑧メンバー集合写真IMG_7078
Group 1 調査団員: 古川 智也、細野 令子、高橋 祐司、垣内 瑛美理

■ Group 2: 韓国 はんあり By: 高橋 桃子団員
2 班は、新大久保の中でも特に韓国関連店舗がひしめく「コリアン通り」にある韓国料理店「はんあり」を担当。

Group2_韓国_写真1
韓国料理店の看板には、「豚」や「人物」のイラストが多用され、これは他の国のお店ではあまり見られない傾向です。

このお店でまず目をひくのは、おじさんのイラストのある看板。この看板は外照式ですが節電のため消
灯されていました。その他外観には内照式のメニュー看板が使われていたり、街路灯(水銀灯)、店内の
明かりにより、店舗前面にも十分な明かりが保たれていると感じました。入り口付近の照度は100lx、色
温度は2900K でした。

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入り口付近ではキムチの試食販売を行っており、客の足を止めることに成功している。(店の入り口で食べ物を売る韓国料理店は他にも数店見つかりました。)

店内はペンダントとダウンライトを使用。照明器具の数は多くないものの一点一点の照度が高く、机の上
は非常に明るく、照度75lx、色温度2500K でした。店内には、同店を訪れたと思われる韓流スターの写
真・ポスター・色紙が飾られています。

Group2_韓国_写真3
韓国飲食店「はんあり」店内はとても明るく、活気のある空間。

2 班が注文したのはもっともベーシックなサムギョプサルがメインのコース。店員が豚肉の塊をハサミで
切って焼いてくれるスタイルで、その肉の焼ける音がかなり大きく、我々が話す際にも大きめの声を出さな
いと聞こえないくらい活気のある店という印象でした。
この店はコリアン通りの中でも人気店で、店員によると客の9 割は女性が占めてます。肉だけでなく野菜
もたっぷり摂れ、リーズナブルで明るい雰囲気、という3 拍子揃った店舗で我々も杯を進めつつ楽しく調
査をすることができました。

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Group 2 調査団員:宮下 真歩、高橋、、伸明、稲葉 裕、高橋 桃子

■ Group 3: 中華 鼎龍飯店 By: 松山 篤史団員
我々3班のメンバーは、大久保通りより路地へ少し入ったところにある鼎龍飯店という中華料理店をリサー
チしてきました。
お店の周辺には他に目立ったファサードがなく、道路面の照度は14lx と非常に暗いです。そのため、白熱灯の入った提灯や内照式看板は大通りから見ても非常に目が点きやすく、また門構えなど随所に見られ
る赤い色からは中華料理店らしさを感じられました。
図1
中華飲食店「鼎龍飯」の外観。お店前の路上は10lx、入口階段あたりは15lxぐらい。強烈なスポットライトは150Wのハロゲンランプ。

中国において、赤は旧正月や結婚式などのときによく使われるおめでたい色であるため、このような配色
によってお客さんを歓迎してくれているようでした。しかし、提灯や看板以上に目立ってしまっていたのが、お店の入り口付近に取り付けられた駐車場用のスポットライト。照明器具の設置位置が低いためか照射
角が水平に近く、これでは大通りからお店に近づくお客さんの目に強烈なグレアを感じさせてしまうため、
設置方法に工夫がほしいと感じました。

interiorのコピー
中華料理店内では光沢のある褐色のテーブルと朱色の椅子が中国らしい。内壁は白色の吹き付け、カーテンは淡い黄色で全体的に明るい印象。

お店の中はというと、テーブル・照明共に非常に均斉のとれたレイアウトとなっていました。ダウンライト
で等しく照らされたテーブル面は110〜130lx と明るくほとんどムラがありません。まるで一般的な日本料理店にもそのまま活かせるライティングであったため、【中国らしいライティングとはどのようなものか】という問いの答を見つけることは残念ながらできませんでした。

Group 3 照明探偵団 中華料理店の明かりリサーチ_写真[1] [互換モード]のコピー
中華料理、店鼎龍飯の平面図。照明の配置とルクスの計測。

現在日本にはたくさんのアジア料理店が進出しています。その全てが現地の料理、インテリアを取り入れ
ているわけではなく、あくまで「日本人のもつ現地のイメージを再現した」お店が多いのではないかという
感想を持ちました。 

group picのコピー
Group 3 調査団員: 松山 篤史、坂入 美彩子、飯田 多恵、福島 由利子 

■ Group 4: タイ ソムオー
By: 植野 正士団員
4 班はタイ料理店を担当、周辺の白い看板や街路灯の中で、オレンジやグリーン、タイ国旗のブルー・レッドの色豊かな印象でした。多数のあかりが混在する外観は、賑やかな雰囲気を彩っています。店頭のメ
ニューパネルは内照式の他、ビームランプで照らされたものがあり、たいまつ風のブランケットや豆電球
イルミネーションも目立ちました。入口前の道路床面照度は100 lxを計測しました。

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タイ料理店ファサード:様々な光の要素を使って、華やかなファサードを持つタイ料理店。

50 席程の店内は、おもにライティングダクトにスポットライトを配し、テーブルと壁の装飾を照らしています。光源はハロゲンランプ(60w くらい)です。全体として明るい印象を受け、陰影は均一的な光に埋もれ、際立ちをみせてはいません。天井からの光が主で、機能的でモダンな空間でした。店内の明るさが賑やかな空間をつくり、ファサードの印象と統一されています。机上面200 ~ 250 lx、鉛直面30 lx、色温度2400K を測りました。

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タイ料理店内:お店が二つに分散、厨房の白い蛍光灯側と客席の電球色のハロゲン側。

個人的には、70 点の空間。青白い蛍光灯の光で覆われ、閉鎖的な厨房に疑問を抱いています。タイの
活気を空間にもっと注いで欲しいと思いました。ただ、サロンで「敢えて見せたくないのではないか」という指摘を頂きました。確かにスタッフの人数と席数の関係にしては、料理はスピーディに提供され、その連携は見事でした。厨房をオープンにすることは、それなりの代償があるのでしょうか。「どこに力点をおいて、空間がつくられているか」という新たな視点が築かれました。

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Group 4 調査団員:面出 和子、面出 薫、植野正士、座光寺 ちなつ

■ Group 5: ネパール KBKitchen By: 本多 由実団員
大久保通りから分かれる小道にあるネパール料理屋が5班の調査対象でした。ネパールカラーの赤と
青の布が庇にかかり、電球型蛍光ランプと内照式メニュー看板、エントランスに巻きつくイルミネーション
でお店の存在を示しています。クリスマスの名残のようなイルミネーションは、このお店だけでなく他のアジアン料理屋でも多くみられました。

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ネパール料理店ファサード:おとなしいお店の入り口にネパールらしい布が飾ってあります。

明るい階段を下りて店内に入り、その暗さに班員は驚きました。店内の主な照明は、各テーブル上に吊
られたシェードつきランプと壁を照らすスポットライト数台のみです。卓上照度は15 lxで2700Kほどの色温度でした。シェードランプは電球型蛍光ランプの周りを曼荼羅のような柄の布地シェードで囲ったもので、卓上から80 ㎝程の高さ、ちょうど座った時に頭の上あたりに吊られていました。シェードが分厚くあまり透過しない素材であるためか、眩しさはありません。互いの顔や料理はやんわりと見える程度ですが、食事や会話に集中でき、居心地の良い暗さだという意見で一致しました。

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ネパール料理店内:店員さんに聞くと、暗い店内はネパールのお店では普通だそうです。

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ネパール料理店、KB Kitchenの平面図と断面図。
「何がネパールらしいか」に関しては、BGMのネパール音楽、壁に貼られた山の写真、ランプシェードの
曼荼羅のような絵、といった要素があがりました。ネパール人の店長さんに伺ったところ、現地のレストラ
ンもこの程度の明るさということでした。
内照式のメニュー看板ではなく、メニュースタンドをスポットライトで照らすなどにして、店内のし
っとりした雰囲気を入り口まわりの照明で表現できると、より魅力が増すのではと思いました。

図1
Group 5 調査団員:在家加奈子、東 悟子、吉田丈人、本多 由美

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5 班のフィールドリサーチ後、二次回にて、簡単な報告会を行いました。

第36回研究会サロン@照明探偵団事務局

  
内容:第41回街歩き調査結果発表 2011.0 4. 19 中山レイチェル

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サロン発表前にアジアン料理をつまみながら、団らん中の団員。

2 週間前に行った街歩きにおける調査内容や感想を5 班それぞれが発表しました。熱く、そして実りあるサロンとなりました。アジアンレストランあかりのフィールとリサーチの発表ですので、アジアン料理が用意されました。

■街歩きからサロンへ
今回のサロンでは2 週間前に行われた街歩き「アジアン飲食店の調査」の発表が主な話題、5 班に別
れて調査して頂いた団員は力が入ったプレゼンテーションを用意してくれました。街歩きに参加してい
た団員はサロンにも出席率が高く、街歩きで発見したこと、感じたこと、などを伝えたいという情熱さを
感じました。今まで探偵団事務局で行ったサロンでは内容が非常に濃くて、充実した2 時間でした。

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■団員の調査発表
今回のサロンで、非常に印象的だったのは出席していた団員の中、9 割ぐらいが発言していたことで
した。5 班のリーダーが順々にプレゼンテーションをし、その横の席には同じ班のメンバーが座り、一緒
に説明をしたり、自分なりの感想も述べたりしました。当日の写真、調査シート、照度などの記録はも
ちろん丁寧に説明してくれたのと同時に街歩きで疑問に思っていたことを調べてきた団員も多かったで
す。飲食店で発見したインテリア、特徴的だった色、看板の作り、などについてそれぞれの国の歴史を
たどったり、外国の友人に聞いたり、何かの手掛かりを探してきていました。さすが探偵団!そして、外
観と店内の照明観察も鋭く、平面図や断面図のスケッチ上に照明の配置を書き、主観的にお店の雰囲気で感じたことだけではなく、客観的な分析まで報告してくれました。節電のため消灯していると思われる照明器具もあったにかかわらず、ファサードや店内は「ちょっと明るすぎる。」「ちょっと眩しい。」「ちょうど良い明るさ。」などの意見もありました。5 班の発表が段々と進んで、最後に大久保の街の節電について時間を見ていましたが、それぞれの班が非常に細かく調査として記録したこと、楽しく過ごせた様子を面白く伝えてくれて、それだけで、たっぷり2時間かかりました。

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5 班が順番に発表を行っていきました。

■街歩きが大きな影響を与える
街歩きのやり方として、初めてのグループフィールドワークに挑戦した結果はサロンにも大きな影響を与えました。わくわく感があって、賑やかな雰囲気の中で団員が一人一人で参加しているではなく、グループの仲間として、責任を持って、発言したり、緊張感を持って話を聞いたりしているように感じました。
けれど、今回の企画では調査の結果より積極的な参加意識が団員に生まれてきたことは本来、サロンとして創造してやってきた思いがこの夜に形に現れたではないでしょうか。

■SQUAD第2班
SQUAD第2班に、照明探偵団の新しい街歩き企画を提案して頂き、第41回の街歩きとして実現ができました。企画、当日の案内、そしてサロンでの調査発表までご協力を頂き、ありがとうございました。照明探偵団事務局が団員のご紹介と感想を聞きました。

松山団員: 私は昨年の夏に照明探偵団員となったばかりであったため、街歩きに関しても手探りの状態からの企画となりました。しかし、この度の企画を通して、【光という切り口で社会・文化・建築を語る】という私が探偵団員として一番やりたかったことができ、私自身とても楽しく活動させて頂きました。企画に協力して下さった皆様、議論を盛り上げて下さった皆様には改めて感謝したいと思います。ありがとうございました。

高橋団員: 今回は、街歩き時に各チーム調査→サロンで発表するという、通常よりも参加者に負荷のかかる企画となりましたが皆さんが楽しく調査されていたので安心しました。サロン時には、歴史や各国の色のとらえ方の違いなど、照明の周辺にある、文化的側面にも触れられ密度の濃い街歩きとなったと感じています。企画の機会を与えて頂き、ありがとうございました。
古川団員: Squad 第2班の3 人が初めて「集った」のが、1 月8 日の前回街歩きの1 時間半前。照明を大好きな3人が、「心地よい照明」を共通言語にして、事前の現場調査を重ね、調査シートの作成やお店選び、当日ルートを設定し、企画・準備しました。
チーム毎のお店のリサーチでは、調査シートを参考にしながら、各国のあかりを語り合い、団員同志の輪を深めることができました。そして、台湾への興味がとても沸いた、照明デザインの奥深さ・難しさ・面白さが分かった、次回もまた参加したい!という企画側にとって嬉しいコメントをいただきました。

東日本大震災で街のあかりは一変し、実施が危ぶまれましたが、決行させていただいた面出団長、東さん、中山さん、高橋桃子団員、松山団員、そして今回の街歩きに集ってくださった団員の皆さまのご協力に心から感謝いたします。

                  

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