発行日:2017年4月27日
・照明探偵団倶楽部活動1/上野夜公園 照明探偵団上野公園に現る(2017/01/28,02/03)
・照明探偵団倶楽部活動2/第56回街歩き:すみだ水族館 (2017/02/15)
・照明探偵団倶楽部活動3/第54回研究会サロン@ 照明探偵団事務局 (2017/03/16)
上野夜公園 照明探偵団上野公園に現る
2017.01.28,02/03 桧垣康彦+吉田望+秋山真更+東悟子
1月28日と2月3日の2日間にわたり『上野夜公園』と題して照明探偵団のワークショップが開催されました。上野には多くの博物館や広大な公園があり、昼間はたくさんの人々でにぎわいます。しかし夜は人通りも少なく魅力的な街とはいい難い状況です。それはなぜなのか。一般公募で集まった参加者と一緒に考えました。
上野夜公園は、上野公園の夜の賑わいをつくるため、各文化施設が増やしている夜間開館と連携し、展覧会の関連イベントや夜にちなんだテーマのイベントを「上野夜公園」と称して平成28年度から開始されました。「上野夜公園」のイベントを通じて、夜間にも各施設が開館することが定着していくこと、来場者が上野公園だけでなく上野駅周辺や谷根千等の地元をめぐるといった夜間の魅力発信を目的としています。(桧垣康彦)
第1回目となった今回のイベントは2日間で構成されました。1日目は探偵団オリエンテーションと2班に分かれての街歩き。2日目は街歩きで発見してきた光の英雄と犯罪者を評価、分析し、最終的には上野公園への光の提案にまとめるというものでした。
グループに分かれての作戦会議
■第1夜:A班 不忍池周辺
A班はまず東京国立博物館の正門を出て黒門を右手に見ながら藝大の正門を目指しました。設営時期や管轄が異なるためか、統一感のないやや眩しい街路灯が目にとまりました。黒門のライトアップや音楽棟の門扉上部にあるクラシカルな電灯が、それら街路灯によって目立たなくなっており、これは犯罪者とは断言はできなくても、良質な景観を作る上では形状の統一や調光が必要であるという意見で一致しました。
その後、動物園の裏を歩き、不忍池へ向かいました。池に到着すると弁天堂の参道脇には屋台が多数出店していました。屋台から漏れる温かみと風情のある灯りが参道を照らし、不忍池を訪れた人々を暖かく迎えてくれるようで英雄にふさわしいという意見が多数出ました。
参道を進むと、弁天堂を照らす非常に強いオレンジ色の投光が周囲をオレンジ色に染めて残念な景観になっていました。また、離れた所からお堂を見ると投光器の眩しさが目立ちました。加えて周囲の商業ビルやホテルのサイン照明が非常に目立ち、班全員が犯罪者であるとの意見で一致しました。静かな夜の不忍池、上野公園とアメヤ横丁などの繁華街との光のコントラストがまた美しくもありましたが、池に近接したサイン照明は輝度を落としても十分に目立つだろうと改善案が出ました。
最後に弁天堂の裏手へ周り、ボート乗り場周辺を探索しました。背の高い非常に眩しい街路灯が通路を照らしていました。強い光なだけにベンチで文字を読むこともできますが、探索中は非常に目が疲れました。通路の視認性の向上や防犯上の明るさ確保の為かと考えられますが、非常に眩しく高所からの投光のため向かいから歩いてくる人の顔に影ができ、視認性はやや低いのではないかとの意見が出ました。改善案としては街路灯の眩しさを除き、温かみのあるものに変更するべきという意見で一致しました。
今回の探索では光の英雄は少なく、犯罪者が多く目立ちました。上野の灯りは改善すべき箇所が多く点在し、また発見できていない英雄も犯罪者も多く存在するのではないかと考えます。上野は東京の文化の中心であると同時に多くの旅行者が訪れる場所でもあります。今回の探索で行った考察をもっと多くの人に共有してより良い景観が構成されていくことを願いつつ、自分も携わりたいと強く感じました。(秋山真更)
英雄との評判が高かった黒門
明るいところと暗いところの差がはげしいとの意見が
■第1夜:B班上野の杜
国立博物館を出発したB班。始めのチェックポイントはライトアップされた黒門。まだ辺りは薄暮の中、下から軒が控えめに照らし出されて荘厳な雰囲気を醸し出しています。まず1つ目の「英雄」候補です。続いて上島珈琲の建物。赤レンガの壁をオレンジ色の間接照明が照らし、温かみのある光の壁となっていました。店内の照明も周囲に漏れ出し、心地よい光の一角をつくり出していました。
周囲もだんだんと暗くなり、ここから東京都美術館へ向かいます。美術館へと続く道は、建物から漏れ出た光が美しい一方、光源が直接見える街路灯が少し眩しすぎるとの意見も。明るさ感のムラが大きく、街路灯の直下は100lx近くありました。これは「犯罪者」かも。しかし、この道沿いに現れた小さな「英雄」が、電話ボックス。上野動物園の旧玄関口で佇む姿には、今までこの公衆電話を通して生まれた、遠くの人を想う様々な物語を感じさせてくれる、詩情溢れる趣がありました。
続いて、東京都美術館へのアプローチ。足元で茂みを照らす照明、木々を引き立てる照明、ライトアップされたレンガの壁面が、人々の足取りを美術館へと引き込み、その奥で窓から溢れる光が訪れる人々を迎えているような、見事な照明でした。茂みを照らす照明は安全面も考慮され、触っても熱くないものが採用されていました。また、木々を照らす照明は、光源の周りに円筒状のカバーが巻かれ、木の葉と根元だけが浮かび上がるような照明でした。
さて、美術館を後にし、中央の広場へと向かいます。暗い広場に面してSTARBUCKSがあり、ここだけが賑わいを見せています。店内の照明、店の前の街路灯ともに2500Kほどの暖色で落ち着きがあり、照度は70lxほどでも十分な明るさでした。この時間はちょうど噴水が止まっていて水盤の周囲は真っ暗、国立博物館だけが輝いていました。
広場を過ぎ、続いては科学博物館。科学博物館といえば入り口横にある大きなクジラ、ですがスポットライトはクジラを支える柱に。かわいそうなクジラさん、これは「犯罪者」です。夜間オープンしていない科学博物館は、窓から光の溢れる美術館やカフェに比べると暗い印象です。ここから西洋美術館へ向かう通りは、天皇陛下も利用される道だとか。ですが、道の両側で照明の色温度や明るさ、形状が異なり、ちぐはぐに感じてしまいます。特に水銀灯は色温度が高く、温かな光とは云えません。
西洋美術館と文化会館が相対する通りの真ん中にも、煌々と青白い光を放つ「犯罪者」が。文化会館の植栽にも明るすぎるイルミネーションが施されています。2つの歴史的建築を演出するため、足元を光るガラスブロックにしてはどうか、あまりライトアップされていない西洋美術館にもう少し光を当ててはどうかなど、様々なアイディアが出されました。
今宵の杜歩きも、もう終盤。終着点の西郷さんに向かって、桜並木のある通りを歩いていきます。5000K、100lxの白く眩しい通りの中でも一際目を引いたのが、一本の桜に向けられたスポットライト。満開の時期には華やかに桜を照らし出していると思われるこの照明ですが、裸木の時期には通りの端からでも眩しさを感じる、全員一致の「犯罪者」になっていました。
ライトアップされた上野の森美術館の前には、史跡のある照明の無い林があり、珍しく明暗のメリハリが効いたポイントとなっていました。この日最後に訪れたのは西郷さんの像。ところが隣には大きな青いイルミネーションのツリーが。上野の名所西郷さんに相応しい落ち着きのある照明にしようと全員一致したところで、今日の杜歩きは終了です。(吉田 聖)
初めての照度測定を体験
昭和の哀愁漂う電話ボックスからのあかり
上野公園の光のマスタープランを解説
光の英雄と犯罪者を説明
■第2夜:光の英雄と犯罪者検討会
第1夜の街歩きで見てきたものをもう一度写真をみながらおさらいし、班ごとに5つの光の英雄と犯罪者をセレクト。スケール上に置いていきその判断基準となった言葉「心地よい光」、「まぶしすぎる光」などと一緒にまとめました。それらの英雄と犯罪者を踏まえこれからの上野公園の夜の光の景観がどのようにあるべきかを提案するプロポーザルも作成しました。
A班は不忍池を取り囲むまぶしすぎる光を排除し、池の周りをいかに快適に回遊できる空間とするかを提案していました。
B班は上野公園の光のマスタープランを作成し、エリアごとにテーマを決め、光のヒエラルキーを提案。すぐに実行でき、しかも劇的に景観を変えるだろうという提案もあったように思います。
3時間の短い時間の中で、英雄と犯罪者の絞り込みのディスカッション、キーとなる単語のセレクト、そしてプロポーザルの概要やスケッチ作成など、かなり集中して行うことができました。今回まとめたプレゼンテーションをいつかどこかで発表できる機会を作り、たくさんの人に聞いていただき、上野の夜の景観を考えるきっかけにしていただきたいと感じました。(東悟子)
最終的にパワーポイントのプレゼンテーションにまとめる
プレゼンテーション内容を組み立てる参加者
光のデザインプロポーザルを青い紙の上に描いていく
上野夜公園 照明探偵団上野公園に現る
東京国立博物館 デザイン室長 木下史青
「昨今の東博/上野公園のライトアップ事情」
東京都美術館前 まだ空は青味がかっており、ブルーモーメントの尻尾あたりの時間帯
18:42 上野恩賜公園内の桜並木の真ん中あたり「犯罪者」の前で立ち止まり、推理する
赤付箋紙:光の英雄/青付箋紙:光の犯罪者 街歩きで見つけて分類・分析した、それぞれの事例と対応する言葉を探す(B班)
プレゼン会場全体の様子
十年ぶり⁈で描いた、ラシャ紙にコピーした写真に色鉛筆でレタッチしたスケッチ
■はじめに
2016年の年末に面出団長あてに「上野公園で探偵していただけないか」という趣旨のメールをしました。2020年に向けて「上野公園を夜景散策を楽しるような観光拠点に」という話が、僕の周辺の各所で聞かれるようになり、しかし、その内容は「暗いのでもっと明るくしたい…」という議論に終始しがちで、光の質の話題にまで至ることはなかったのです。
そんなことに僕は違和感を覚え、まず夜景・照明のマスタープランを考えるような視点で、上野公園の夜景を探偵できないか、ということを思いついたわけです。そして今回の「照明探偵団 上野公園に現る」企画案を面出団長にご相談した次第です。
その内容は2017年 1月か2月の寒風吹きすさぶ週末の夕刻、照明探偵団の夜景ツアー企画として、上野公園で実施できないかというもの。
2020年東京五輪に向け、観光立国を目指す日本の中で、上野文化ゾーンにおける、週末・夜の楽しみエリアとして、いかなる整備が必要不可欠か・・東京国立博物館・本館のライトアップのあり方未来形など、みんなで一緒に考えよう!
その予備調査として、我らが照明探偵団が上野に集結し、様々な探偵ノウハウを駆使して、現在の上野公園を歩くというのを計画しました。
■「上野公園」の空間構造
【上野・文化の杜の企画「上野・夜公園」】の枠組みの中で、『照明探偵団 / 上野公園に現る』企画が実行されることになったのですが、その前提として、昼間の上野公園をおさらいしてみましょう。
上野公園の全体像は、JR上野駅公園口を降りてすぐ上野の森美術館があり、上野動物園へ真直ぐの道の脇には、東京文化会館とル・コルビュジエの建築によって世界遺産として登録された国立西洋美術館があるのです。
この東西軸線を仮に動物園通りとすると、その通りに直行して、桜並木通りと大噴水の南北軸線があり、噴水の北のアイストップとして、瓦屋根を冠する東京国立博物館(本館)がデンと存在している。この軸線の両翼、東に国立科学博物館、西に東京都美術館が構える。
以上、「JR上野駅公園口←→上野動物園」の東西軸と、「桜並木・噴水→東京国立博物館」の南北軸が、上野公園の「文化ゾーン」の基本骨格です。
この骨格の周りに不忍池、東京藝術大学・大学美術館、奏楽堂、西郷隆盛像、彰義隊の墓など、時間・時代のレイヤーを重ね合わせてみると、いろんな考察ができる。今回の企画では夕暮れ〜夜間の実態を歩いて見て、そして強引にも光のプロポーザルまで持っていこうという試みで実施されました。
■第1夜 街歩き編
27年も続いている照明探偵団。僕自身は1996-1998の3年間が、探偵団員として最も活動した期間、その後は身に付いた探偵スキルを、日頃また旅先で実践してきました。
今回久々のみんなでの街歩き、どんな発見があるのか。
ブルーモーメントのまだ空が青味かかった中で都美術館を通り過ぎ、東博ライトアップを噴水広場越しに眺めた後、科学博物館へ。午後6時を過ぎると周りは暗闇に包まれ人もまばらでさみしい感じになっていました。桜並木に来ると3台の強力なスポットライトが歩く人をステージ照明のように意味なく浮き立たせていました。それらは「バズーカ砲」と名付けられ、本日1番の犯罪者に。一度設置されたインフラ照明器具は、いつか撤去されるまで犯罪的に電力を消費し続けているという実例を見ました。
久しぶりに参加者と一緒に照明探偵したので、血が騒いでしまい、皆さんに動いてもらう予定が、つい自分で照度測定などお手本のつもりで動きすぎてしまいました。少し反省ですがやはり探偵は楽しい!
■第2夜 ワークショップ編@黒田記念館
A班とB班、2つのルートごとに持ち寄った記録(光の英雄/犯罪者)を元に議論し、さらにプロポーザル的なまとめを行いました。公式スポンサーの伊藤園提供の煎茶をいただきながら、和やかにしかしきちんとした議論が交わされました。
■プレゼンテーション
夕暮れの東博で撮った集合写真から西郷さん銅像で解散するまで、探偵したコースについてレビューしました。光の英雄/犯罪者、そして、あかりのプロポーザル(提案)まで、午後3時〜7時までの4時間は短すぎるほど、皆さん、撮影・画像加工・スケッチ・編集・プレゼン…と、プロの照明デザイナーのように手を動かしていました。
客観的、かつしっかり班の照明探偵の視点が示された、素晴らしいプレゼンの団結力!でした。
第56回街歩き:すみだ水族館
2017.02.15 武内永記+雑喉佳菜子
今回の街歩きは、いつもの街歩きとは視点を変え、展示物などを引き立てるあかりは、どのような光で演出しているのか。また、その中で光の英雄と犯罪者は、どのような所に存在するのか。街とは一味違う施設の明かりを調査しに、東京スカイツリーの麓にある“すみだ水族館”に行きました。
全体は暗いが必要な所にはきちんと光があたっている
■全体的な印象
街歩き当日は30名を超える団員が集まり大変盛況な会となりました。今回は「観せるあかり」と「魅せるあかり」という2つのテーマで2班ずつに分かれ、合計4班で調査しました。すみだ水族館は、5階と6階の2層からなっており、上下のフロアへは3つのルートからアクセスでき、決められた順路は設けられていません。
最初にある自然水景のゾーンでは、すべての班が一緒に見ているような状況でしたが、途中からは水族館の中の順路が決まっていなかったので、班ごとのペースで調査しているようでした。館内は、夜ということもあり、青い光で全体的に演出されていました。ペンギンやオットセイのいるプール水槽が、室内にあることによって生じる不快な臭いを全く感じないことに驚きました。東京大水槽の前には、椅子が設置してあり、じっくりと鑑賞されている方々を見受けられました。水族館の各所に五感を大切にし、鑑賞できる工夫が成されていました。
そのためか、当初は調査時間が余るかのように思えたのですが、実際はじっくりと調査し、時間ギリギリまで調査されている班が多く、時間を忘れてゆったりと鑑賞できる水族館のように感じました。今回は初参加の方も多く、最初は緊張していた方もいらっしゃったようでしたが、班ごとに分かれて調査し始めてからは、水族館という場所でもあったせいか、和やかに調査されている様子でした。 (雑喉佳菜子)
水中にいるかのような演出で期待感が増す
クラゲの水槽が蜷川実花さんのアート作品に英雄と犯罪者と意見がわかれた
■エントランスから展示室へ
エントランスゲートから最初の展示室に至る通路・階段には水中を髣髴とさせる、揺らめく青色基調の映像が投影されています。お客様を水中の世界へ引き込み、非日常に誘う効果が高く、光を用いた導入の演出としてとても心地良いものでした。ただ、動線方向にプロジェクターを投影しており、振り返るとその光を直視してしまうものであるため、『魅せる』効果は英雄と言って間違いの無いものでしたが、設置や施工面では犯罪者と言わざるを得ないものでした。
■自然水景
階段を上りきった最初の展示室正面は、先の導入演出は無かったかのように、太陽光を模した照明が煌々と明るい空間になっていました。大きな水槽を真上から照らす照明器具が露に設置されており、光源が極めて眩しく、誰もが一致して犯罪者と感じるものでした。一方、順路をひとつ進んだ水槽は、照明収納部と一体で設計されたものでグレアが無く、展示の目的通り水草が光を浴びて光合成を行い、酸素を放出することで自然のままの波紋ができていました。この波紋の反射や水草の緑、泳ぐ小さな魚たちがキレイで、誰もがうっとり長居してしまうほど。『魅せる』『観せる』の両面で英雄と言える良い光と感じました。
■クラゲ
写真家・蜷川実花さんとのコラボレーション企画で、色鮮やかな映像を背景にクラゲが優雅に揺らめく展示がありました。透き通ったクラゲと一体となったり、時折反射したりと幻想的な水中景観をつくり出したもので、『魅せる』あかりとしてとても面白い展示だったと感じられました。
■アクアギャラリー
1ルクスにも満たない暗闇に、小窓水槽が並び、小さい水中の生き物が展示されたエリア。その中に1つだけ真っ赤に光る水槽がありました。そこで展示されているのはカブトガニなどの深海の生き物たち。赤い光は深海まで届かず、深海の生き物にはもともとその感受性が無いため、光っていないも同然。彼らには深海の暗闇に感じられながらも人間の目には一定の明るさに見えることで、実際の生態のままを垣間見ることができる、水族館ならではの『観せる』照明の英雄だと感じられました。
暗い展示室の中で、浮かび上がる大水槽
■東京大水槽
2階建ての水族館を縦に貫く巨大水槽。エイやサメなどの大きな生き物が悠々自適に泳いでいます。見上げると一筋の太陽を思わせる光と、水中らしいどこまでも澄んだ青が広がり、自らも水中生物になったかのよう。どこまでも居心地が良く臨場感に溢れ、『魅せる』『観せる』光として英雄だったと感じました。
■ペンギン・アザラシゾーン
大きく吹き抜けた十分に広いエリアにペンギンやアザラシの展示エリアがあります。この上下階を繋ぐスロープは、歩行面に青い光が埋め込まれ動線を誘導する光となっていましたが、暗い周囲とのコントラストが強過ぎて眩しく感じられ、かえって足元が確認しづらいものでした。天井からの光も青色光が中心で空間全体が青く染まり、『魅せる』光としてはキレイなものの、動物たちにとってはストレスなのではないかという印象さえ感じられるものでした。
■感想
すみだ水族館では、18時の前後で照明シーンが昼シーンと夜シーンとに切り替わる設定になっています。私たちが街歩きを行ったのは夜シーンに切り替わってから。自然水景を除くエリアはどこも暗く、概ね青い光に包まれたものでした。夜間営業を行っている中での雰囲気づくりやエンターテインメント性を重視しているものと思われましたが、水槽や中の生き物はしっかりと明るく観察することができ、『魅せる』と『観せる』の調和がほどよく取れた水族館と感じました。個人的には一度日中に訪れたことがありますが、初めての方の多くは昼シーンも是非見てみたいという感想をお持ちの様子でした。(武内永記)
水族館フロアマップ
青を基調とした照明
ところどころにまぶしいダウンライトが
小さな鏡を通路両サイドに配し、万華鏡のような空間に
水に光が反射して、金魚が見づらくなっている
懇親会で見つけてきた英雄と犯罪者を発表
第54回研究会サロン@ 照明探偵団事務局
2017.03.16 玉野有花
2月に開催したすみだ水族館での街歩きをレビューするサロンを開催しました。すみだ水族館のテーマ“魅せる光・観せる光”になっていたかどうかを議論しました。
各班のリーダーを中心にプレゼンテーションを行う
初めて街歩きとサロン参加の方もちらほら
3月16日、春らしい食事とともに和やかな雰囲気の中、すみだ水族館街歩きのレビューがありました。
すみだ水族館街歩きでは4つの班に分かれ、「観せるあかり」と「魅せるあかり」に重点を置き調査を行いました。街歩き後の懇親会でも調査結果の発表はありましたが、サロンでは各班の意見をスライドにまとめ、さらに深い考察が行われました。今回のサロンでは、エンターテインメント施設ならではの光の英雄が多くあった一方、「良い光がある分これは残念…」といった光の犯罪者の意見もありました。
まず、施設の世界観に引き込むための第一印象となるエントランスから最初の水槽にかけての階段は、英雄という意見が多かったです。海の中にいるようなゆらゆらした光が壁一面に映し出され好印象でしたが、階段で後ろを向くとプロジェクターの光が直撃。隠すのはなかなか難しそうな環境でしたが、対策が必要に思います。
水槽には、海の生物の魅力を最大限に伝えるための工夫が凝らされ、この水槽が良かった、悪かったと様々な意見が出てきました。光の英雄の水槽としてはサンゴ礁、東京大水槽などが挙がりました。光の屈折、反射などの現象を上手く使うことで、光源が見えない状態で魚たちを観るための明るさがしっかりと確保されており、なおかつ幻想的な空間を演出していました。光の犯罪者として挙がってしまった水槽では、水槽を照らす光が目に入ってしまう、不要な光のカットが必要との声が。企画展示で行われていたクラゲの水槽には賛否両論でした。しかし、水槽に関して全体としては良い評価が多かったのでは、と思います。
逆に、天井の照明やスロープのフロアライトなど、空間全体のあかりに対して光の犯罪者とする意見が多かったように思います。スロープのフロアライトでは、班全員で光源を隠し、ライトがない状態とどっちが良いか検証する班も。すみだ水族館では日中と夜間では照明が変わり、違った雰囲気が楽しめるようになっていますが、夜を表した青い光には「良い雰囲気」「水族館のイメージとは一味違う」という意見の一方で、「魚やペンギンを見るつもりで来た人にとっては、見づらい」という意見がありました。私としては、ペンギンたちの寝る時間と、人それぞれの水族館に来る人の目的(魚をじっくり見るため、良い雰囲気の空間を求めて、など)の両方に合う光はなかなか難しい、という印象です。夜だから青、というイメージが強すぎる、という意見があり、確かに現実世界の夜は青ではないと気づき、ハッとしました。イメージや思い込みとは怖いものです。
鑑賞物(水族館の場合、海の生物など)を照らすことに細心の注意が払われていると考えられる水族館で、光の英雄の多くに水槽が選ばれ、光の犯罪者の多くに展示空間全体の照明が選ばれたことは、力の入れた箇所とそうでない箇所にはっきり分かれたのかな、と考えられます。照明探偵団として、水族館を「ひかりの調査」という視点で見ることができ、「観せ」て「魅せる」ことを考えた光の使い方や工夫、また問題等を観察することができました。(玉野有花)
東京大水槽を英雄の1位に
どの班でも評価が高かった水槽照明
魅せる光と観せる光のスコアシート