照明探偵団通信

照明探偵団通信vol.87

Update:

発行日:2018年4月24日
・照明探偵団倶楽部活動1/世界都市照明調査 in Qatar/Azerbaijan(2018/02/12-02/17)
・照明探偵団倶楽部活動2/Singapore Night Walk@Marina Bay (2018/03/28)

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世界都市照明調査 in Qatar/Azerbaijan

2018/02/12-02/17  岩田昌大 + 木村光

2月12日から2月17日までの6日間にわたりカタールとアゼルバイジャンを調査した。どちらも石油原産国でありオイルマネーで経済発展してきた国である。日本人にとってあまり馴染みの無い国ではあるが、多くの富裕層が集まる独特の経済や文化のある街を照明という視点で調査を行った。

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カタールとアゼルバイジャンは世界地図で近い経度上にありながら、それぞれの歴史の過程で異なる都市景観を形成している。
カタールはオイルマネーの恩恵を受けた事を機に、何も無い広大な砂地の中に突如高層ビル群を建設し、海外の富裕層を呼び込む為に湾岸開発をしている新興国家である。
一方でアゼルバイジャンは、カタールと同様に豊富なオイルマネーの恩恵を受けてはいるが、バブル景気で活気のある現在でも、過去の戦争により難民となった数多くの人々が苦しい生活を送っている。都心部では世界遺産でもある旧市街を取り囲む開発を景観に配慮しながら進めているのが特徴である。
両国とも豊富なオイルマネーのおかげで電気代は無料という中、新しい街を作り出していくカタールと、過去の遺産と共存しながら発展していくアゼルバイジャンという2つの国の照明の姿について記録・比較調査を行った。

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道路スケッチ

■カタール 首都ドーハ
「世界一退屈な都市ドーハ」と言われ、以前は閉鎖的な政策が行われており、宿泊施設や娯楽施設もない退屈な街だったようだが、現在は豪華なホテルや大きなショッピングセンターなど賑やかになっていた。政府所有のビルや首相のポケットマネーで建設されている建物が各所にあり、外壁には大きく現首相の顔の絵が描かれている不思議なビルなどが多く存在した。
夜間のライトアップは海岸沿いの新市街で集中的に行われており、湾の対岸にある公園からはその摩天楼が眺められ、街の明かりが水面に映り美しく、多くの人が集まっていた。ライトアップはドット光源を外壁の全面に取り付け輝度を見せる手法が多く、カラー照明なども様々だが、色変化や動きも緩やかで、豪華であるが落ち着いた光となっていた。ただし少し残念なのは同じような手法ばかりで少し単調だったことだ。また日が落ちて少し暗くなった6時ごろに点灯し、8時頃には新市街のビルのライトアップがすべて消灯されたのは、退屈な都市の名残なのかもしれない。
日中は暑く人もまばらだったが、夜の公園は少し肌寒くなるものの多くの人で賑わっており、明りの下で楽しそうに談笑する人や、走り回る子供たちで賑わっていた。照明はボラードと低めのポール灯で構成され、部分的にリニアな足元間接照明が設置されている場所もあった。ポール灯が少し過密に感じる場所もあったが、夜間もこれだけの人が集まる公園としては良好な明るさだった。
道路の殆どはナトリウムの道路灯でオレンジ色に明るく照らされており、街灯も電球色のものが殆どだった。居住地域は白色照明が多く、中東特有の白い石の住宅は肌寒いドーハの夜には少し寒々しく感じられた。
照明の多くにすりガラスがはめられており、おそらくは砂漠の砂が入らない為や汚れることを見越しての設計であり、その風土特有なものだと感じた。(木村光)

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道路写真
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イスラム美術館
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海岸沿いの公園

■アゼルバイジャン 首都バクー
カスピ海に面したアゼルバイジャンの首都。中東のイメージとは違い2月のバクーは、雪は無いもののダウンジャケットが必要なほどの寒い街だった。新市街は西欧風の石造りだが、広場には大きな人物の石像がありロシアの影響が見られる町並みとなっていた。新しい建物もあまり高層なものはなく主張の強いデザインも少なく、古い町並みになじんでいるものが多い印象だった。町の政策としてなのか古い建物はほぼすべてライトアップされていた。街灯はナトリウム灯か2700K程度の光が多く統一感がありライトアップにより鉛直面も明るく、夜でも快適に過ごすことが出来た。寒さにも関わらず、夜の22時過ぎまでお店も開いており多くの人で街が賑わっていることに驚いた。

街は海岸から緩やかに傾斜しており、湾の南側の高台には「フレームタワーズ」という炎の形を模した3つの高層ビルが建っており、バクーの象徴的なランドマークとなっていた。高級ホテルとオフィスとで構成され、各階の層間に照明が取り付けられていた。夜間はビル全体で、赤い炎・青い炎・流れる水・国旗カラーの単色・国旗・を振る人・きらめき、の6パターンが流れていた。赤い炎の映像など日本では批判もありそうだが、ここでは油田の国として昔から火が身近にあったことからか、受け入れられているようだった。

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海岸沿いからの夜景とフレームタワーズのファサード照明パターン

町の南西側には世界遺産になっている城壁都市があり、旧市街の雰囲気に合うブラケット照明が設置され、ナトリウム灯のオレンジの光がノスタルジーを感じさせ美しく、古い町並みの間から見えるフレームタワーも新旧が上手く交わる街ならではだと感じた。
また新しいものとして、2017年より街中でF1のレースを開催している。レース会場になっている道路では大きな縁石と丈夫な柵が設置されており、街灯もナトリウム灯で直下370lxとしっかりと明るく照らされていた。この街灯は設置間隔は場所により異なるものの市内外共に同じデザインのものが使われていた。夜間に多く人が出ていることもあるが、この明るさはアゼルバイジャン特有の交通マナーに関係するところも有るのかもしれない。信号のない横断歩道でも人が渡ろうとすると絶対に車が止まるというもので、慣れないうちは驚いたが、このような人間優先のマナーを守る為の明るさが本当の安全を作るのだと感心させられた。(木村光)

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城壁都市(旧市街)の外側
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茶葉からペットまで売っているバザール
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夜11時頃でも多くの人で賑わう新市街の広場

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城壁都市(旧市街)の内側
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拝火教寺院(紀元前から自然に天然ガスが出続ける)
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F1開催時にはコースになる道路脇の歩道

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新市街の立面スケッチ
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新市街の断面スケッチ

■街の光
新市街は西洋風な建物が多く立ち並び、建物の1階は店舗、2階以上は住居となっている。広場に向かう人やショッピングを楽しむ人が多く集まり、最も賑わいのある場所の一つである。照明としては電球色の蛍光灯が用いられており、温かみのある空間であった。ファサードの形状によって照明器具を使い分けており、細長い面に対してはナローなスポットライト、広い面の装飾に対しては長いリニアライトで照らすなど、丁寧に照らしていこうという意識を感じ取る事が出来た。照明器具はほとんどが壁付けのむき出しであったが、人の目に留まるような場所ではスポットライトに斜めフードが取り付けられ、グレアに対しての意識を感じられる所もあった。道の中央にはカテナリー照明が吊られ、街の賑わいを演出している。ポール灯によるベース照明は道の中央で50lxであったが、鉛直面の明るさ感がしっかりとしている為、ポール灯は不要だと感じた。
大通り沿いの建物も同様の手法で丁寧にライトアップされていたが、柱に対しての照明手法のみ異なり、地面の埋め込みウォールウォッシャーが柱前に配置され、歩行者にとってはとても眩しい空間であった。バクーの店舗は22時以降でも営業している所が多く、それに合わせてかファサードのライトアップも夜遅くまで点灯していた。
その他にライトアップされた建築としてはバクーの光り輝くヘイダルモスクが最も有名である。2014年に建立された、まだ歴史の浅いモスクである。ファサードはライトアップされており荘厳な雰囲気を醸し出していた。竣工時期が最近の為か照明器具には全てLEDが使われていたが、フリッカーを起こしている器具が多く見られて残念であった。アゼルバイジャンの景観や歴史に対する配慮は高く、照明に対する意識も総じて高いと感じた。

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バクー新市街の賑わい

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ファサードライトアップの器具
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眩しいウォールウォッシャー

■有機的な光
ヘイダルアリエフセンターは前大統領のヘイダル・アリエフの名が掲げられた、ザハ・ハディド設計の、ミュージアム、コンサートホール、展示ホールなどが入った総合文化施設である。ファサードライトアップは一部行うのみで、インテリアからの漏れ光が大きな開口部から見えて建築の形状が認識できるようになっている。昼間はこの大きな開口部から昼光が取り込まれてグラデーションが美しい。インテリアは曲線状の面発光と間接照明で構成されており、有機的な形状を活かす為にダウンライトはあまり使われていないのだと感じた。

■調査まとめ
カタールとアゼルバイジャンはオイルマネーの恩恵を受けた国という共通点を持ちながら、照明に対しての意識は大きく異なっていた。
カタールは新市街に見られるような近未来的な高層ビル群のファサード照明で新しい国の権威を示しているのに対し、アゼルバイジャンは歴史に寄り添う光として都市計画レベルで照明が整備されているという興味深い調査結果となった。
カタールの街は街明かりが早い時間帯で消えてしまうが、アゼルバイジャンは夜遅い時間まで点灯して賑わっており、照明が観光地の発展を促す物と成り得るという事を改めて実感できた。今後、都市計画が進んでいく中で違った発展を遂げていく2国の海岸線上の風景に期待が高まる。(岩田昌大)

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迫力のあるヘイダルモスクのライトアップ
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ヘイダルアリエフセンターの外観
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有機的な建築と照明

シンガポール街歩き@ Marina Bay

2018/03/28  坂野真弓 + Sunyoung Hwang + Sherri Goh

1992年の埋立地の完成後、マリーナベイは開発が進み、シンガポールを象徴するスカイラインへとなりました。
マリーナベイのプロムナードからは、ベイ沿いに立ち並ぶ高層ビル、歴史的建物、そして目を見張るようなウォーターショーを見ることができます。これらは、URAのマスタープランに基づいて開発され、人々を魅了しています。
マリーナベイの光の英雄と犯罪者を見つけ出すため、探偵団はシンガポールでは初めてとなる街歩きを行いました。また同時期に、水辺沿いで開催されていた「i Light」というイベントも一緒に見学してきました。

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集合写真

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Sherriグループ
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Mayumiグループ
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Sunyoungグループ

■シンガポール街歩き1:都市夜景―マリーナベイ
シンガポールでは初めてとなる街歩きを、都市夜景をテーマに、メンバーを公募しました。2018年3月28日にマリーナベイの逆噴水パフォーマンスのレイン・オクルスの前で私たち18人は集合しました。
激しい雨が降っており、弱まるのを伺いながら自己紹介をして歩き始めました。最初に向かったのはファイナンシャルセンターとフラトンプロムナードです。ほとんどの参加者はデザインのバックグランドではありませんでしたが、環境デザインと照明に対して興味と洞察力をとても持っていました。
最初に、プロムナード沿いのフットライトとポール灯の照明器具を観察し、この場所に適当な明るさが取れているかを話し合いました。議論や考察を進めていくうちに、間接照明と直接照明を見分けられるようになり、そしてどんな照明手法がその場所をより良くできるかまで意見が持てるようになりました。街路灯の色温度がばらばらになっているのは、メンテナンスの難しさが問題になっているのではないかという発見もしました。シンガポールでは建築する場合、「マリーナベイ照明マスタープラン」を順守しなくてはなりません。しかし今回、実際に建てられたものを観察していると、ガイドラインにあっていないのではないかと思うような点をいくつか見つけました。とはいえ、シンガポールの夜景はこのガイドラインに沿った全体計画に基づいて作られてきたものであり、全体計画を持って開発していくことの有意義さの実例を示したものだと思いました。
街歩きの最後に、参加者それぞれの気づきや違った視点を共有し話し合いました。参加者たちは今回参加したことで、照明について考察することに意欲を持ち、また参加したいとのことでした。

■Sherriグループ
マリーナベイサンズの周辺では、英雄を多く見つけることができました。私たちは最初、「iLight」のインスタレーションのひとつの大きな赤いハートは、犯罪者だという意見でした。しかし後からハートとフラトンホテルのプロジェクションが連動していることに気づき、英雄という意見に変わりました。フラトンホテル界隈のプロムナードに取り付けられたドット照明は、CBDのライン上の照明と比べ、水辺によりふさわしい光だと思いました。プロムナード沿いのカーニバルの照明は、まぶしく、光害になっていると思いました。しかし、壁に木漏れ日のような光のイメージを作っている木へ投射された照明は素敵でした。私たちは楽しみながらマリーナベイマスタープランを学びながら歩きました。

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大きなハートのインスタレーションとフラトンホテルのプロジェクション
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エスプラネードシアター前のノスタルジックな人力車
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湾沿いの眩しいフットライトの光が、雨で濡れた地面に反射している

■真弓グループ
マリーナベイサンズの照明について話し合いました。トランプの一組からデザインの発想を得たと言われる外観ですが、私たちには波に浮かぶ船のように見え、だから青色のカラー照明で屋根やポディウムを照らしているのだ、というのが私たちのデザイン解釈です。
私たちが犯罪者だと思ったほとんどは、眩しさが問題になっているものです。たとえば、階段の地中埋込型のアップライトやフットライト、歩道を照らしているテープライトです。マリーナベイに来る人は夜景を楽しみに来ますが、眩しい光は邪魔をしているのではないでしょうか。
私たちは英雄と犯罪者を見つけることに終始熱中し、それぞれの発見について有意義なディスカッションを楽しみました。

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マリーナベイサンズホテルは船のようで、青色の照明は波のイメージを表しているように見える
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眩しい階段埋込器具
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ベンチに設置された黄色の照明は、夜景の落ち着きを妨げている

■Sunyoungグループ
私たちのチームは、建築環境に興味を持つ人たちが集まりました。照明を丁寧に計画することは、建築をよりよいものにするのに必要なことだということが、メンバーにとっては新たな気づきでした。街歩きを始めてすぐに、何が良い光で、何が好ましくない光なのかを見分けるようになりました。目にとって快適でないという理由で、発光面が眩しいボラード照明やフットライト、広告スクリーンを犯罪者に選びました。マリーナベイサンズ前のやしの木のアップライトは、居心地のよい雰囲気を作り出しており英雄に選びました。

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照明が建築の要素をさらに特徴付けている
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灯台のファサードに取り付けられた、かすかな光が誘導する

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