世界都市照明調査

都市調査: 雲南省普洱景迈山、中国

Update:

2023.12.08 – 12.13 田窪恭子+ Hongna Chen

中国西南の国境に位置する景迈山(Jingmai山)はプーアル茶の発祥の地にあたり、先住民族が古代の茶文化景観を作り上げ、2023年9月UNESCO世界遺産に登録された。私たちはこの地でプロジェクトを担当する中で現地の文化に興味を持ち、夜の村々を調査し、観光開発が現地の夜景に与える影響を観察・記録した。

Jingmai Village の昼間

■はじめに

景迈山(Jingmai山)への訪問は簡単ではない。まずは昆明で一晩過ごしてから、早朝に出発し飛行機か鉄道を使って現地を目指す事になる。私たちは昆明から空路でLangcang Jingmai空港へ行くルートを画していたが、突然フライトがキャンセルになったため、鉄道で普洱駅まで行き、そこから車でJingmai山に入った。
 現地では私たちのプロジェクトであるTEA CELLARが位置するHuimin Townを拠点にNuogang Village、Wengji VillageとJingmai Villageという集落を訪れ、人々の暮らしと夜間景観を観察した。

■ Nuogang Village

 Dai 族の歴史ある集落で、村人は昔ながらの生活様式を保っている。入母屋屋根が特徴的な民家では1階で茶の製造や販売、茶屋を行い、瓦屋根で覆われた2階が生活の場になっている。茶屋の亭主に伺ったところ、1階は客を迎える場として開放し、家族は2階で衣食住を賄っていると言う。ここではプライベートとパブリックとの境界が曖昧で面白いと感じた。
 私たちは昼間の村人の暮らししか垣間見ることができなかったが、夜になると皆2階に移動し民家の明かりが消え、村は暗く寝静まることになるのだろう。

■ Wengji Village

テープライトで照らされた階段 ( 踏面30Lux , 3000K)

 Jingmai山山頂付近にあるBlang族の集落で宿泊施設もある。早朝に雲海を望む景観が人気のこの場所で、私たちも一泊した。
 昼間は歴史を感じさせる民家の佇まいであるが、夕食時になると飲食店が一斉にLED 照明を点灯させ、客引きをしている。光源を隠さず、無造作に吊られたテープライトは眩しく、歴史的文化景観とはあまりにも釣り合わない。飲食店が連なる一角では互いに譲らないLED 灯による光の合戦が繰り広げられていた。私たちははじめはこの光景を不快に感じていたが、日の入りから時間が経つにつれ、店舗から漏れる光が訪れる人々を導いているように見えてきた。ちょっとした広場では、各店舗からの漏れ光が光溜まりとなり、人が集まる場になっている。
 割石の路地は美しい光のグラデーションで照らされ、足場の悪い急な階段ではLED テープライトがヒーローとも言える活躍を見せていた。また村がなだらかな斜面で形成されていることにより、ここの景観がより豊かになっていることに気づく。
 路地の合間に見える瓦屋根のシルエットとブルーモーメントの空、暖かい照明で照らされた石垣と割石床のコントラストはとても魅力的で美しい。民家の合間を縫うように作られた路地を散策する足は、空が暗く沈むまで止まることはなかった。
 夕食も終わり21 時を過ぎると、店を閉めて明かりを消す店も増え、村も徐々に暗くなってゆく。明るいうちは目立たなかったが、民家の屋根に取付けられた防犯灯が辺りを照らし、やっと路地を歩くことが出来る明るさを保っている。 
 村で暮らす人々が、工夫を凝らして民家を照らし客人を出迎え、用途に合わせて照明の明るさや設えを変え、周辺の夜間景観を生み出している様子にとても関心した。もう少し眩しさが排除され、気配りの利いた照明器具が付くと、土地固有の文化の良さが活きてくると思った。
 早朝、日の出を見るため外に出て、村の合間から覗く雲海を見ることができ、移ろいゆく天空の色彩にこの土地の自然と時間の豊かさを感じた。(田窪恭子)

飲食店の照明で明るい広場

■ Jingmai Village

ブルーモーメントの街並み

 Jingmai Villageは、Jingmai山の茶葉輸送の拠点となっているDai 族の村である。この村には日の出とともに働き、日の入とともに帰宅するという伝統的な農村の生活習慣が残っている。そのため夜になると村は静寂に包まれ、主に屋内の光と電柱の明かりのみが残る。

 スケッチ1 は、茶屋の2 階から観察した街路照明の様子である。街灯はほとんど点灯しておらず、照明は主に室内灯によるもののため、色温度と照度はバラバラだ。意図的に計画された照明ではなく、家々から漏れてくるあかりで構成される光環境は、人々の営みによる自然の姿が感じられる。あまり多くの器具は使わず眩しくもなく、むしろ薄暗い。それが村の本来の姿だと思う。夜に村を歩く人がほとんどいない事も、街灯が点灯していないことと関係しているのかもしれない。
 夜景にこれといった特徴が無いため、可能であれば屋根の上にある牛の角のようなダイ族特有の建築様式を際立たせるために、小さなソーラースポットライトを設置しても良いのではないだろうか。

 スケッチ2 は村内にある街灯。この街灯は太陽光発電により電力を供給し、この地域の景観に合う提灯のような形をしている。器具の直下でも5 ルクス、道の中央では2 ルクスしかないが、この照度は人里離れた村の雰囲気によく合っている。Jingmai Villageにはさまざまな街灯があるが、夜間すべての照明器具が点灯するわけではない。照明がないため、地域によっては安全上の問題があったり、対向車のライトがひどくまぶしく感じられる場所もある。政府は街灯を点検し、修理する必要があるのではないだ
ろうか。

スケッチ2. ポールライトの照明効果

■ Huimin Town

昼間のHuimin Townの街並み

 Huimin TownはJingmai 山の入り口に位置し、多くの駐車場、お店やレストラン、観案内所など、さまざまなサービス施設がある。交通量の多い高速道路が通っているため、道路照明はポール灯と店舗照明が中心となっている。一部の街路樹には装飾用のテープライトも設置されており、右のスケッチのように全体的に非常に雑然とした印象を与える。

 今回の調査の結果、Huimin Townの街路灯には2つの特徴があることがわかった。

 1.街路灯が季節と連動しないタイマー式になっている。私たちが訪れた時は街路灯が20:00 に点灯したのだが、日没が19:00 頃だったため、1 時間ほど暗い中で過ごさなければならなかった。街路灯は太陽光発電式ではないため、政府は節電目的でタイマー式を採用しているのかもしれない。

スケッチ3. 街路の照明効果と計測値

 

 2.二種類あるポール灯は6000K・2600Kと色温度が異なる。Huimin Townは私たちが調査してきたJingmai山の集落への玄関口のため、照明の与える影響や村の景観には2600Kの柔らかい色味の照明が合っていると感じた。

 Huimin Townの店舗照明は、通り全体に大きな影響を与えている。店主が客の目を引くために店内外にたくさんのランプを付けており、まぶしすぎる場所もある。また歩道の幅も5 ~ 6m と非常に広い。照明器具を追加して照度を補っているのは、その道幅の広さゆえ、歩行者にとってポール灯だけでは
明るさが足りないからなのだろう。HuiminTownでは照明器具が機能面だけで使われており、町全体の照明のデザインがなされておらず、雑然とした印象だった。 (Hongna Chen)

■まとめ

 Jingmai山の集落は村ごとの特徴はあるが、歴史ある茶文化とその習慣を継承しながら、LED 照明を上手く取り入れ、暮らしに活かしていることがわかった。民家の必要最小限の明るさで自然と共存している様子は、不必要に明るい生活に慣れてしまった今の私たちの習慣を見直す良い機会だったと思う。
 急速に開発が進み発展しているHuimin Townはその変化に対応しきれていない様子が伺えた。これから多くの観光客を受け入れることになるであろうが、Jingmai山の文化保護を最優先し、規律正しい光環境を整えて行く必要があると思った。
 早朝、帰路に就く車中で雲海が茶畑を覆っている様子が垣間見えた。茶畑のポール灯は4000Kくらいであろうか、暗い茶畑の中に白雲が点在する様子が幻想的だった。(田窪恭子)

Wengji Villageの朝日と雲海

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