発行日: 2024年 12月 2 日
・照明探偵団倶楽部活動1/ 第74 回街歩き: 川崎 武蔵小杉(2024.10.04)
・照明探偵団倶楽部活動2/ こどもワークショップ 青山街歩き&写真撮影大会 (2024.11.2)
・照明探偵団倶楽部活動3/ 第72回サロン:武蔵小杉街歩きレビュー (2024.10.25)
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第74 回街歩き: 川崎 武蔵小杉
– 工業地帯から 日本有数のタワマン都市へ –
2024.10.04 榎本雄高 + 中山由子+東悟子
東急東横線、目黒線、JR南武線、横須賀線、湘南新宿ライン、相鉄線などが乗り入れるターミナル駅で、横浜にも東京にもアクセのよい武蔵小杉。ここ十数年の開発が目覚ましく、住民の増加数も顕著。一方、昔ながらの商店街や居酒屋街も駅周辺に残り、高層ビル群と対照的な街並みも広がっています。その新旧にフォーカスを当て、街歩きを行いました。
武蔵小杉は江戸時代には中原街道の渡し場として栄え、その後も企業の工場などが建つエリアでしたが、工場の移転が続き再開発計画が進む街となりました。特にここ10年の変化は著しく、住民も20年前に比べ6万人増加しています。そんな発展目まぐるしい街、武蔵小杉で街歩きをしてきました。
■1班
1班はちょっと懐かしさが残る飲食街や、低層の住宅、商店街のエリアを中心に歩きました。商店街では、街を盛り上げる工夫が照明でも見られました。特に手でハンドルを回すと点灯する“アナログインタラクティブ照明”には、賛否両論ありました。
低層から望むタワーマンション群は武蔵小杉ならではの光景。高層ビルからもれる明かりは人の営みが垣間見られてほっこりする反面、上空を見ると雲がくっきり照らされるほど無駄な光が上がっていて、光害になっていることが一目瞭然でした。
昭和の雰囲気漂う居酒屋街は、提灯の賑わいにつられるのか、お店も繁盛しているようでした。やはり赤提灯効果は絶大なのでしょうか。
1班が歩いたのは小杉の新旧の旧にあたるエリアでしたが、家路を急ぐ人々が行き交い、居酒屋街では遅くまで賑わいが続く、活気ある街でした。少し離れて見る高層ビル群も、武蔵小杉の新たな顔として、夜景好きに好まれる光景を作っているように思います。眩しい街路灯や見づらい内照式看板など、どの町でも見られる問題も多く、改善する余地が多く見られましたが、安心安全で暮らしやすそうな街でした。(東悟子)
■2班
2班は武蔵小杉駅東口より出発し、タワーマンション群が立ち並ぶ再開発地区を中心に街歩きを行いました。まず駅を出た瞬間に目に飛び込んでくるのは、煌びやかにライトアップされたタワーマンション群です。高層ビルの間からは無数の窓明かりが漏れ、かつて工場や駐車場、社宅が広がっていた土地が、今や多くの人々の生活の場となっている事を物語っています。
再開発により生まれたタワーマンションは現代的な意匠と機能性を兼ね備えており、街に洗練された印象を与えます。しかしその一方で、見慣れた風景が急速に変化していく都市の風潮への寂しさも覚えます。さらに、再開発地区にはホテルやオフィスビル、商業施設も多く、いずれも荘厳なあかりが連なっていました。しかしながら、班員が心惹かれる照明の多くは、どこか人や街への思いやりが感じられる温かみのあるあかりでした。
白く冷たい光を放つ街路灯の傍らには、マンションのロビーから漏れる柔らかなあかりがあり、その存在は歩行者にとってまるで街路灯のような役割を果たしていました。さらに、あるタワーマンションの玄関では電球色のあかりに包まれた門が出迎えており、思わず「ただいま」と言いたくなるほどの安心感を与えていました。また別のタワーマンションの敷地内では、愛らしい形状の足元灯が整然と並び、歩行者の道筋を安全に導いていました。その配慮ある設計は目への直接照射を避けつつも、歩行者にとっての心地よさを第一に考えられたものだと感じました。これらの照明演出が人々に居心地の良さを提供し、街全体に温もりを感じさせている事がうかがえました。
武蔵小杉での街歩きは、再開発の進展を肌で感じるだけでなく、照明の使い方がもたらす心理的な影響についても考えさせられる機会となりました。都市の変化は寂しさを伴いますが、温かみのある光に包まれた空間が人々の心に安らぎをもたらし、新たなコミュニティの形成を助けていることを実感します。未来の武蔵小杉が、利便性と温かさを兼ね備えた魅力的な場所であり続けることを願ってやみません。(中山由子)
■3班
3班は武蔵小杉駅南武線口から多摩川方面へ向かい、日本医科大学病院、新丸子駅を経由して、武蔵小杉駅へ戻るルートでした。メンバーは大学生4人と照明探偵団ベテラン社会人3人という、ちょっと珍しい組み合わせ。
まずは南武線高架下にて、異様に低い街路灯を発見。班で一番大きい団員(身長約180cm)より少し高いくらいの高さ!本来は高所につけるべき高出力の器具が低位置にあることで、不快感の高い光環境になり、満場一致の犯罪者に。
高架がJR所有なのに対して、高架下は川崎市が所有しており、権利関係的に高架には器具を取り付けられなかったと推測されますが、より適した形状や光源の選定の余地があったかもしれません。
続いて南武線口側では唯一のタワーマンション。このコリドーの照明計画は英雄に。建物側は歩く上での安心感を与えつつ、街の闇に向かってグラデーションのような変化を持たせている、上質な歩行空間です。
一方、そのタワーマンションと接続する歩行者デッキは犯罪者に。歩道橋の手すりに、目に入る横向きの角度で白色の照明が取り付けられており、不快感の強い環境になっていました。
眩い歩道橋が現れる
新丸子駅前の商店街の照明も犯罪者に。もともとまぶしい商店街にありがちな照明がLED化された結果、よりグレアの強い照明環境になってしまったようです。
意見が分かれたのが、南武線を跨ぐ歩行者用の地下道でした。白色の強い光で照らしだされたこちらは、一度は犯罪者になりかけましたが保留に。今回班内にいた新丸子在住のメンバーによると、この煌々とした雰囲気によって、子どもが1人で通る際も安心できるそうです。
エリアの全体的な印象としては、まだ開発が行われていないこともあり、物件ごとに断片的に照明計画がされ、従来の公共的視点から照明計画をされている場所(明るい=安心)とのチグハグ感が目立つ印象でした。 (榎本雄高)
東急武蔵小杉駅周辺の高層ビル群と低層の住宅街に昔ながらの商店街、居酒屋街とお隣の新丸子までのエリアを比較する街歩きとなりましたが、全体的にひとつ通りを挟むとガラッと雰囲気が変わる街という印象でした。通りの左側は新しく洗練され色温度も統一された光環境なのに対して、右側はカオス的な看板や提灯が下がる飲食店街。
個人的にはこの昭和が残るカオス的な光景がなくなってしまうのは寂しいので、開発が進んでも残ってほしいと思いました。
ターミナル駅、住宅、商業、オフィスが近いところに隣接している武蔵小杉駅は、生活しやすい環境が整っているように感じました。しかし新しい高層ビル群でも、犯罪者が所々に潜んでおり、せっかく駅周辺の開発が広範囲で進んでいるのだから、それぞれのステークホルダーが横のつながりを持って夜の街の景観も考えていってほしいなと思いました。(東悟子)
照明探偵団Jr. こどもワークショップ
青山街歩き & 写真撮影大会
2024.11.02 瀬川佐知子
夜の東京に繰り出して、光の英雄と犯罪者をみつけよう!というテーマで、株式会社たりたりの協力のもと、こどもワークショップ2024を行いました。
あいにくの雨でしたが、10名のこどもが参加してくれ、まずは面出団長から光の話を聞き、たりたりの水野さんから表参道駅周辺の昔の町並みの話を聞きました。
簡単なオリエンテーションの後は雨の中、光の英雄と犯罪者を見つけにいきました。本来は表参道の交差点から4エリアに分け、4グループで街歩きをするつもりでしたが、本降りの雨とこどもの参加人数から急遽全員で同じコースを街歩きすることになりました。
まずは青山通沿いのオフィスビルから青山北町アパートを再開発した住居・商業の複合スペースののあおやまを通り、その隣の緑と小川がある遊歩道を歩いていきました。こどもたちは落ち着いた雰囲気の遊歩道の光の写真を撮ったり、その奥にある飲食店の青いイルミネーションを撮ったりと、雨で視界が悪い中でも意欲的に自分の興味が赴く光にカメラを向けていました。今回は主に小学生高学年のこどもを対象としたため、中には大人顔負けのコメントを言いながら街歩きをするこどももいました。
遊歩道を出ると、表参道の裏通りにあるとんかつまい泉本店の前を通りながら、だんだんと人通りと車通りが多くなっていく道を歩いて行きました。表参道に出るとブランドショップのショーウィンドウの光などに惹きつけられたこどもたちは強くなってくる雨にも負けず、夢中でカメラを向けていました。
今回のワークショップでは、こどもたちが自分で見つけた光の英雄と犯罪者を自分のカメラに収め、英雄と犯罪者を1枚ずつ選びその理由を発表するという方法を取りました。そのためワークショップ会場に戻ったこどもたちは、軽食を取りながら自分が撮った写真を見返し、1番の英雄と1番の犯罪者を決めていきました。
なぜ光の英雄や犯罪者だと思ったか、その理由は大人の凝り固まった視点とは異なった斬新な視点が発見でき、大変興味深いものでした。
最後に、こどもたち全員で1番の英雄と1番の犯罪者を決めたり、面出団長と水野さんから面出賞と水野賞が贈られたりと、少ない人数の中でも盛り上がる面白いワークショップとなりました。
まだ小学生のこども達にとって、夜の表参道を歩くということはなかなかない機会です。今回はあいにくの雨となってしまいましたが、普段何気なく見ている街のあかりの中にもいろいろなものがあり、自分の中でどうして好きな光なんだろう、どうして嫌な光なんだろう、と考えるきっかけにしてもらえるとうれしいです。(瀬川佐知子)
第72回サロン:武蔵小杉街歩きレビュー
2024.10.25 東悟子
10月初旬に開催された武蔵小杉での街歩きをレビューするサロンをLPAオフィスにて開催しました(すみません!その時の写真をとり忘れました…)。同じ武蔵小杉でも特徴が大きく異なるエリア(開発地区、元々あった商店街や住宅街、武蔵小杉駅と新丸子駅をつなぐエリア)を歩いたので、それぞれが持つ問題点や課題、良いところが、そのエリア特有のものから他のエリアと共通したものまで様々。同じ駅から徒歩圏内でも、エリアによってバラエティー豊かな特徴があることがわかりました。
どのエリアにも共通してみられた問題点は、眩しすぎる照明と暗すぎる場所。街路灯や防犯灯の眩しさはこの街に限ったことではないですが、静かな住宅街や新しく建った高層マンションでも、眩しい光が溢れていたようです。
暗い場所では、ビルの一階の駐車場の奥が全く見えず 入っていくのが怖い、照明が目の高さにあってまぶしい反面 足元は暗い、木が育ちすぎて照明が覆われてしまっている等の意見が聞かれました。
また武蔵小杉駅のバスロータリーでは、バス停の照明と街路灯の色温度の差が大きすぎるあまり調和のとれていない空間になっており、駅前ロータリーというひとつの空間内にもかかわらず、管理者が異なるために起こってしまう問題が指摘されていました。
遠景で見る高層ビル群の夜景がきれいで、今の武蔵小杉の発展を表しているというポジティブな意見がある反面、その上空の雲までが照らされていて明らかな光害だと指摘する声も。
その他「ビルのクラウン照明は必要か」という議論もあがりました。アイコンになる反面、室内からの漏れ光との色温度の差に違和感があり、タワー全体の照明としては合っていないのではないかという意見が多く、デザイン的にはなくてもいいかもしれないという結論に至ったようでした。
街全体を通して街路灯は白くまぶしく、所々球切れしているところもあり…と、問題だらけのようでした。街路灯だけではなく歩道橋、ロータリーなど公共性が高い通路や空間はあまり好評とは言えない照明になっていたように思います。一方きちんと人や街に配慮が感じられる照明や、ほっとするあかり、楽しいあかりなども随所に見られたようです。武蔵小杉の新旧の街の中に沢山の発見があったようでした。
サロンは街歩きが終ったあと班全員の意見を再集約させて、他の班と共有する場です。街歩きに参加できない方もサロンはオンラインでもご参加いただけますので、是非お気軽にご参加下さい。(東悟子)