工業地帯から 日本有数のタワマン都市へ
2024.10.04 榎本雄高 + 中山由子+東悟子
東急東横線、目黒線、JR南武線、横須賀線、湘南新宿ライン、相鉄線などが乗り入れるターミナル駅で、横浜にも東京にもアクセスのよい武蔵小杉。ここ十数年の開発が目覚ましく、住民の増加数も顕著。一方、昔ながらの商店街や居酒屋街も駅周辺に残り、高層ビル群と対照的な街並みも広がっています。その新旧にフォーカスを当て、街歩きを行いました。
武蔵小杉は江戸時代には中原街道の渡し場として栄え、その後も企業の工場などが建つエリアでしたが、工場の移転が続き再開発計画が進む街となりました。特にここ10年の変化は著しく、住民も20年前に比べ6万人増加しています。そんな発展目まぐるしい街、武蔵小杉で街歩きをしてきました。
■1班
1班はちょっと懐かしさが残る飲食街や、低層の住宅、商店街のエリアを中心に歩きました。商店街では、街を盛り上げる工夫が照明でも見られました。特に手でハンドルを回すと点灯する“アナログインタラクティブ照明”には、賛否両論ありました。
低層から望むタワーマンション群は武蔵小杉ならではの光景。高層ビルからもれる明かりは人の営みが垣間見られてほっこりする反面、上空を見ると雲がくっきり照らされるほど無駄な光が上がっていて、光害になっていることが一目瞭然でした。
昭和の雰囲気漂う居酒屋街は、提灯の賑わいにつられるのか、お店も繁盛しているようでした。やはり赤提灯効果は絶大なのでしょうか。
1班が歩いたのは小杉の新旧の旧にあたるエリアでしたが、家路を急ぐ人々が行き交い、居酒屋街では遅くまで賑わいが続く、活気ある街でした。少し離れて見る高層ビル群も、武蔵小杉の新たな顔として、夜景好きに好まれる光景を作っているように思います。眩しい街路灯や見づらい内照式看板など、どの町でも見られる問題も多く、改善する余地が多く見られましたが、安心安全で暮らしやすそうな街でした。(東悟子)
■2班
2班は武蔵小杉駅東口より出発し、タワーマンション群が立ち並ぶ再開発地区を中心に街歩きを行いました。まず駅を出た瞬間に目に飛び込んでくるのは、煌びやかにライトアップされたタワーマンション群です。高層ビルの間からは無数の窓明かりが漏れ、かつて工場や駐車場、社宅が広がっていた土地が、今や多くの人々の生活の場となっている事を物語っています。
再開発により生まれたタワーマンションは現代的な意匠と機能性を兼ね備えており、街に洗練された印象を与えます。しかしその一方で、見慣れた風景が急速に変化していく都市の風潮への寂しさも覚えます。さらに、再開発地区にはホテルやオフィスビル、商業施設も多く、いずれも荘厳なあかりが連なっていました。しかしながら、班員が心惹かれる照明の多くは、どこか人や街への思いやりが感じられる温かみのあるあかりでした。
白く冷たい光を放つ街路灯の傍らには、マンションのロビーから漏れる柔らかなあかりがあり、その存在は歩行者にとってまるで街路灯のような役割を果たしていました。さらに、あるタワーマンションの玄関では電球色のあかりに包まれた門が出迎えており、思わず「ただいま」と言いたくなるほどの安心感を与えていました。また別のタワーマンションの敷地内では、愛らしい形状の足元灯が整然と並び、歩行者の道筋を安全に導いていました。その配慮ある設計は目への直接照射を避けつつも、歩行者にとっての心地よさを第一に考えられたものだと感じました。これらの照明演出が人々に居心地の良さを提供し、街全体に温もりを感じさせている事がうかがえました。
武蔵小杉での街歩きは、再開発の進展を肌で感じるだけでなく、照明の使い方がもたらす心理的な影響についても考えさせられる機会となりました。都市の変化は寂しさを伴いますが、温かみのある光に包まれた空間が人々の心に安らぎをもたらし、新たなコミュニティの形成を助けていることを実感します。未来の武蔵小杉が、利便性と温かさを兼ね備えた魅力的な場所であり続けることを願ってやみません。(中山由子)
■3班
3班は武蔵小杉駅南武線口から多摩川方面へ向かい、日本医科大学病院、新丸子駅を経由して、武蔵小杉駅へ戻るルートでした。メンバーは大学生4人と照明探偵団ベテラン社会人3人という、ちょっと珍しい組み合わせ。
まずは南武線高架下にて、異様に低い街路灯を発見。班で一番大きい団員(身長約180cm)より少し高いくらいの高さ!本来は高所につけるべき高出力の器具が低位置にあることで、不快感の高い光環境になり、満場一致の犯罪者に。
高架がJR所有なのに対して、高架下は川崎市が所有しており、権利関係的に高架には器具を取り付けられなかったと推測されますが、より適した形状や光源の選定の余地があったかもしれません。
続いて南武線口側では唯一のタワーマンション。このコリドーの照明計画は英雄に。建物側は歩く上での安心感を与えつつ、街の闇に向かってグラデーションのような変化を持たせている、上質な歩行空間です。
一方、そのタワーマンションと接続する歩行者デッキは犯罪者に。歩道橋の手すりに、目に入る横向きの角度で白色の照明が取り付けられており、不快感の強い環境になっていました。
眩い歩道橋が現れる
新丸子駅前の商店街の照明も犯罪者に。もともとまぶしい商店街にありがちな照明がLED化された結果、よりグレアの強い照明環境になってしまったようです。
意見が分かれたのが、南武線を跨ぐ歩行者用の地下道でした。白色の強い光で照らしだされたこちらは、一度は犯罪者になりかけましたが保留に。今回班内にいた新丸子在住のメンバーによると、この煌々とした雰囲気によって、子どもが1人で通る際も安心できるそうです。
エリアの全体的な印象としては、まだ開発が行われていないこともあり、物件ごとに断片的に照明計画がされ、従来の公共的視点から照明計画をされている場所(明るい=安心)とのチグハグ感が目立つ印象でした。 (榎本雄高)
東急武蔵小杉駅周辺の高層ビル群と低層の住宅街に昔ながらの商店街、居酒屋街とお隣の新丸子までのエリアを比較する街歩きとなりましたが、全体的にひとつ通りを挟むとガラッと雰囲気が変わる街という印象でした。通りの左側は新しく洗練され色温度も統一された光環境なのに対して、右側はカオス的な看板や提灯が下がる飲食店街。
個人的にはこの昭和が残るカオス的な光景がなくなってしまうのは寂しいので、開発が進んでも残ってほしいと思いました。
ターミナル駅、住宅、商業、オフィスが近いところに隣接している武蔵小杉駅は、生活しやすい環境が整っているように感じました。しかし新しい高層ビル群でも、犯罪者が所々に潜んでおり、せっかく駅周辺の開発が広範囲で進んでいるのだから、それぞれのステークホルダーが横のつながりを持って夜の街の景観も考えていってほしいなと思いました。(東悟子)