世界都市照明調査

都市照明調査: ハルビン, 中国

Update:

2026.01.06 – 01.10 柴田 雄太 + 王喬西

ハルビン調査で見た「防洪記念塔」の照明演出

「東洋のモスクワ」と呼ばれる中国東北地方の大都市ハルビンにて調査に挑んだ。最低気温は-20度、最高気温でも-10度の中、寒さに耐えながら、メインストリートや住宅街、新旧建築、公園、氷祭り、俯瞰夜景など多岐にわたる照明デザインや文化、光環境の調査を行った。

■ハルビンについて

中国黒竜江省最大の都市であるハルビンは独自の歴史と文化を持つ。元々、小さな漁村であったが、19 世紀末ロシア帝国が中国東清鉄道建設の拠点としたことで都市が築かれた。その際、西洋の技術者が招かれ、さらに迫害を逃れたユダヤ人が移住した結果、国際色豊かな都市として成長した。また、日露戦争や満州国成立をきっかけに中国とロシア、日本が交錯する場所ともなった。現在もロシア文化の影響は色濃く残り、冬季には世界最大級の氷祭りが開催され、多くの人々が訪れる。私たちは、異文化が共存し、複雑な歴史が反映され、ハルビンの光環境が独特なものとなっているか、また、冬は最低気温-20 度となるシビアな環境下でどんな照明器具が用いられ、どのような工夫がなされているか興味を持ち、調査を行った。

■観光エリアの明かり

ハルビンを代表する歴史的な通り「中央大街」を訪れた。1924年に敷き詰められた花崗岩の石畳が今もなお残り、当時の面影を伝える。西洋風の街並みは約1.4kmまっすぐに続き、飲食店や土産店、ホテルが立ち並び、その中には歴史ある建築物も多く存在している。
夜の街並みはテーマパークのように賑やかで、没入感があった。ファサード照明や店舗照明、イルミネーション、街路灯、間接照明など多様な要素が並立し、一見まとまりに欠けるが、歴史ある街並みと融合し、非日常的な世界観を生んでいた。ゆっくりと歩みを進めるたびに、周囲を彩るイルミネーションが次々と表情を変えていく。最も印象的だったのは、今年の干支である馬にちなんだ四字熟語を模した電飾のイルミネーション。斬新なデザインでありながら、不思議と落ち着きがあり、華やかな雰囲気を添えていた。12年後に再利用されるのだろうか。

ムービングサーチライトの照明演出が行われていた「防洪記念塔」、雪が降り注ぎ光柱が浮かび上がる

中央大街の行き着く先には「防洪記念塔」がそびえ立つ。1957年に松花河の洪水の際、ハルビン市民が一丸となって街を守った功績を称えるために建設された。兵士・農民・職人・知識人が一体となった姿が象られ、とても勇ましい。
私たちが訪れた際は、ムービングライトによる照明演出が行われていた。舞い降りる雪の中に光の筋が浮かび上がり、雪の粒が乱反射してきらめく。時に激しく動き、洪水の破壊力や市民の力強さが表現されているように感じた。また、古代ローマ様式の半円回廊に中華行灯が吊られた様子は、多国的な文化背景を持つハルビン独特の光景かもしれない。

中央大街から防洪記念塔へ続く通りの夜景は、歴史的建築が主役というよりも、歴史的な建築を舞台として活かし、高揚感のある照明演出が主役として加わった印象。迫力に圧倒された。

■メインストリートの明かり

次いで、鉄道の要衝であるハルビン駅から直通する「紅軍街」と、紅軍街と交差する「西大直街」「東大直街」を調査した。これらの通りには、大学や博物館、歴史的建築などの文化的な建物から、高層ビルや商業施設、ホテルなど都会的な建物までが立ち並ぶ。
歩いて驚いたのは、街並みの大部分が電球色の光に統一されていたこと。特に西大直街の一画では、建物のファサード照明と高さ12m程ある街路灯が、床面からファサードまでを一面覆い隠すように照らし、街並み全体が綺麗な黄金色に染まっていた。あたたかみのある光で統一された光景に、寒さを忘れそうになる。(けどやっぱり寒かった、、)

■住宅街の明かり

メインストリートから少し外れた住宅街にも足を踏み入れた。地上階に小売店が入った中層アパートメントが多く、主な照明要素はポール灯と小売店からの漏れ光であった。照度は暗いところで5~10ルクス。ただ、積もった雪に光が反射して路面の輝度は高く、その照り返しで建物のファサードもうっすらと明るい。奥行きのある明るさがあり、ほとんど不安感を感じることはなかった。
また、住宅街の各所に糖葫芦(タンフル、果物を飴でコーティングした伝統的な屋台菓子)の屋台がある。ある屋台の中の照度は約2000ルクスと非常に高いが、果物の色どりが豊かな色彩と飴のコーティングの艶を引き立てていた。

■俯瞰夜景

夜景を俯瞰すると、都市の光環境の全体像を把握することができた。写真左側には、電球色で照らされた建物のファサードが連続する「紅軍街」が確認できる。一方、写真右側に位置する中層アパートメントのファサードはうっすらと明るい程度。メインストリート沿いの建物には集中的に照明が設けられているのに対し、それ以外の通りや住宅街では積極的なライトアップが行われておらず、地上から観察した光の様子と一致している。道や街区の役割に応じた光環境が計画され、明暗にメリハリのある都市空間が形成されていた。また、俯瞰撮影を行った「龍塔」の屋外展望台の高さは189m。今回の調査で最も身の危険を感じる寒さだった。(柴田雄太)

聖ソフィア大聖堂とその周辺の夜景

■ 歴史的建築の明かり-聖ソフィア大聖堂

私たちは、ハルビンを象徴する建築の一つである「聖ソフィア大聖堂」を訪れた。1907年に建設されたロシア様式の建築で、現在は美術展示施設および音楽ホールとして活用されている。玉ねぎ型のドームと赤レンガの外壁は、都市景観の中で強い存在感を放っている。
ブルーモーメントに入ると、大聖堂は温かみのある電球色の光によって徐々に夜景の中に浮かび上がり、背景も低色温度の照明で統一されることで、全体としてまとまりのある印象を与えている。寒さの厳しく長い冬季において、暖色の光は都市空間に心理的な温かさをもたらしているように感じられた。

ファサード照明は主に壁面のフラッドライトと地中埋込のアップライトによって構成され、扉上部にはアクセントとしてブラケットライトが加えられている。全体の照明手法は比較的オーソドックスなものであったが、建築の特徴を素直に引き出す構成となっていた。
周辺を歩きながら観察したところ、多くの埋込アップライトが積雪に覆われ、壁面照度は約20ルクスであった。積雪を取り除き器具を露出させたところ、壁面照度は約35ルクスまで向上した。極寒地域においては、維持管理が照明環境に与える影響が非常に大きく、照明計画と同様に重要であることを実感した。

■ 現代建築の明かり-ハルビンオペラハウス

昼間のハルビンオペラハウスの外観

歴史的建築だけでなく、現代建築の照明デザインも調査した。松花江沿いに建つ「ハルビンオペラハウス」を昼夜2度にわたり訪れた。本施設はMAD Architectsにより設計され、雪原や風の流れを想起させる有機的なフォルムを特徴とし、環境との融合を設計理念としている。

建築外観は、まるで積雪によって削り出された地形のような流線形を描き、周囲の白い景観と静かに一体化している。内部空間には木質仕上げが採用され、温かみのある雰囲気が創出されており、包み込まれるような空間体験が印象的であった。

夜間ライトアップされたハルビンオペラハウスの外観

内部では、天井の斜め格子構造にスポットライト、ライン照明、ダウンライトなど複数の照明手法が組み合わされ、空間に必要な機能照明を確保すると同時に、構造の立体感が強調されている。一方で、部分的には器具の存在感がやや強く、光そのものよりも設備が目立って認識される場面も見受けられた。

夜に私たちが訪れた際は閉館しており、内部照明が点灯していない状態でしか確認できなかったが、公演時には、この特徴的な天窓から内部の光が外部へとにじみ出し、外壁の曲面をなでるように照らすことで、より近未来的な夜景が生まれるであろうと想像される。

ハルビンオペラハウスはロシアや西洋のクラシック音楽の影響を強く受けた音楽文化を継承する拠点であり、気候や歴史を反映した都市の新たな象徴のように感じた。ハルビンの夜間光環境は、異なる時代と文化の光が重なり合い、統一されない差異がむしろ魅力となって、寒冷な気候と歴史を背景に独特の景観をつくり出している。(王喬西)

■氷雪大世界

冬季に太陽島で開催される「氷雪大世界」。その名の通り、雪と氷で作られた彫刻や建築物の壮大な世界が広がる。

冬のハルビンの日没時間は16時頃と日本よりやや早く、午後になると次第に空が暗くなり始める。やがて陽が沈むと同時に照明が点灯し、雪と氷の淡い色で満たされた景観が色鮮やかな光に染まる。空間全体体が発光するかのような幻想的な雰囲気であった。

雪と氷の彫刻の照明手法は主に2種類あった。透明感のある氷の彫刻は、積まれた氷のブロックの間にLEDテープライトが仕込まれており、中から透過して照らされる。ソリッドな雪の彫刻は、フラッドライトにより外から照らされる。フラッドライトの周囲には氷のガードが設けられ、器具を守る役割とグレアカットの役割を果たしていた。

雪と氷が持つ透過性や拡散性といった特性と照明との相互作用により、素材の魅力を活かした照明手法となっていた。

個人的にお気に入りだったのが、「ブレーカーボックス行灯」。会場のいたる所に設置され、漏電やショートなど電気のトラブルから人や設備を守るが、夜は自ら明かりを灯し、行灯照明となる。地明かりとしての役割よりかは、くり抜き文字の危険を伝えるサインを見やすくし、緊急時には中で作業できるように安全を考慮したものでもあると考えられる。また、会場全体に設置されたポール灯の直下照度は約80ルクス。雪と氷の演出用照明のみでも十分に明るいと思うが、来場者の多さに対応した明るさが確保されていた。

ライトアップにより色鮮やかに彩られた氷雪大世界の氷彫と雪彫、食べ物・お酒・スポーツ・雪上アクティビティ・ライブイベントなど人それぞれの楽しみ方があった

■松花江

ディスクドッグに挑戦!

ひと気が少なくなった19時頃、アムール川最大の支流「松花江」を訪れた。冬の松花江は寒さで凍り、そこでできた氷は大量に切り取られ、氷雪大世界の氷の建造物を構成する氷塊として使用されている。氷雪大世界の会場がある太陽島とスターリン公園の間には、松花江を挟んでロープウェイが架かる。リフトが色とりどりの光の粒となって、じわりと時間をかけて動く様子が遠くに見えた。また、氷雪大世界の会場の方角を向くと、光が霧のようににじみ出ていた。どこか現実離れした異様な美しさを感じさせる一方、過剰なエネルギー消費という無駄や現実を同時に思い起こさせる。

私たちは、さらに遠くに光って見える「松花江公路大橋」を目指して凍った松花江の上を歩いた。当然、河川の上に照明は設置されていないため、辺りはとても暗く、照度は1~5ルクス程度。街や公園の明かりが周囲を囲み、夜の散歩には心地よい暗さであった。その途中、犬と散歩をする地元の方と出会い、ディスクドッグ(投げたフリスビーを犬がキャッチする遊び)を体験させてもらった。辺りは薄暗く人の顔を認知することでさえ難しい中、動くフリスビーを人の目で追うのはとても難しかったが、犬にはよく見えているようで少し外れた方向に飛ばしても、正確に追いかけ、フリスビーを拾い、飼い主の元へ駆け寄る。ヒトより繊細に光を捉えているようであった。ヒトと犬が見ている光環境は全く違うのかもしれない。

橋の側面が間接照明によって照らされ、光の帯がまっすぐ一直線に伸びる

たどり着いた橋は、その側面が間接照明によって袂から袂まで一直線に照らされ、重厚で無骨な構造が力強い存在感を放っていた。

この冬の時期は、橋の下をまっすぐなぞるように松花江の氷上を柔らかく照らしていたが、夏になれば松花江の氷が溶け、水面は鏡のように橋を映し出し、その存在感はさらに深まることでより印象的な景観をつくり出すだろう。

■まとめ

ハルビンは、日本では体験できないスケールの空間が広がり、独自の風土や歴史・文化を背景とした照明デザインや光環境が存在していた。それらの時代性や世界観は多様であり、一括りにまとめることは難しいというのが率直な感想である。
今回、中国出身者と中国を初めて訪れた日本出身者の2人で調査を行ったが、それぞれの視点から共通する感想に加え、異なる意見も見られた。こうした違いには、生まれ育った環境の違い以上にハルビンの多様性がより表れているようで、非常に興味深かった。(柴田雄太)

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