~闇を探しにいこう~
2023.09.26 坂口真一+古川智也+發田隆治+潮田龍諒+東悟子
今回の街歩きは「都会の闇を探す」をテーマに東京は世田谷の緑道、京都は闇が潜む神社をめぐる街歩きを行いました。まだまだ暑さ残る中、都会の闇を探すチャレンジングは街歩きとなりました。
いつもの街歩きは、街の明かりを見に出かけているのですが、今回は趣向を替えて「東京の闇を探しにいこう」というテーマで街歩きを企画しました。公園や神社、墓地は暗い闇があっても、あんまり議論の余地がないのではないかと思い、普段夜でも通勤や通学、ランニングなどでよく使われている世田谷の緑道に注目。昼間はとても気持ちがよく、散歩道としても人気のある緑道ですが、夜の環境はどうなっているのか、3班に分かれて歩いてみました。 (東悟子)
■ 1 班:池尻大橋~三軒茶屋
1 班は池尻大橋から三軒茶屋まで続く目黒川緑道と烏山川緑道を歩きました。1 本でつながっている緑道ですが場所場所で、様々な表情を感じ取ることができました。街路灯、防犯灯、住宅から漏れる明かり、また緑道にある木々によってその表情は大きく変化しており、周りの環境によって大きくその雰囲気も明るさ感も夜歩く安心感も変わるように感じました。街路灯や防犯灯は高いものは周辺にある木によって大きく雰囲気が左右されていました。木が生い茂り緑道幅が狭い所は暗い印象、木々が低めで周辺の住宅からの明かりが漏れているところは安心感のある明るさではと感じました。
こんな緑道の統一感を持たせるのは大変ですが、せめて街路灯の色温度や高さくらいは統一すると少しは印象が違うのでしょうか。また高い木は街路灯が隠れないようなメンテナンスが必要なように思いました。(坂口真一)
■ 2 班:若林~三軒茶屋
2班は、東急世田谷線・若林駅へ移動後、環七通から茶沢通周辺までの「烏山川緑道」を中心に、住宅街の闇を探して街歩きしました。環七通沿いの若林橋跡の烏山川緑道に着くと、団員の一人が「光の爆発」と形容した、眩しすぎる光を放つ街路灯が出現しました。LED モジュールが丸見えで配光を制御していない灯具は、見通しのよい緑道の宮下橋跡まで続き、不快グレアを撒き散らしていました。若林橋跡近くの路面照度50lx、色温度4700K と明るく白っぽい照明が続いています。
稲荷橋跡を過ぎると、既設街路灯の灯具本体は弄らず、光源を水銀灯から4 面発光形LED ランプに換えてありました。浅型でグレア対策が効いていないため、高輝度で非常に眩しくて、夜の緑道を楽しむ暇もなくストレスだけがたまりました。緑道がカーブしている西山橋跡付近では、街路灯が緑道と並行する通学路に向けて設置してあるため、反対側の緑道への光量は少なく、加えて木の葉で一部が遮られて、程よい暗さの闇が出来ていました。薄暗いベンチには路上生活者が横になっており、彼にとって安全安心な光の英雄なのでしょう。ところが、そこから10 mも離れていない緑道には、光が全く届いていない真っ暗闇なスポットがありました。犯罪が起きそうで、とても危ない光環境でした。配光制御したボラード照明等の設置が急務です。緑道沿いの住宅街では光の犯罪者となった闇が数多く見られました。暗すぎる歩道は、向かって来る人の気配も感じられないほどで、男性でさえ怖いとの意見。路面照度0.2lx。茶沢通を横切り、八幡橋跡から前方の緑道を見ると、同じ浅型の街路灯でも眩しくなく、心地よい雰囲気が醸し出されて、奥へと導いていました。茂った植栽が天然のルーバーになって、不要な光をカットして闇を形成しており、最後に光の英雄と出会えました。利用者が安心して烏山川緑道の夜の散歩を楽しむために、グレアを抑え、暗闇スポットの無い、居心地のよい闇のデザインが強く求められます。(古川智也)
■ 3 班:三軒茶屋駅~蛇崩川緑道
3 班は三軒茶屋駅を出発し世田谷通りから少し歩いたところにある1 つ目の緑道へ入り、この緑道から首都高速3 号線の下をくぐり、さらに雰囲気の異なる2 つ目の緑道を歩く、最後は、お寺、集合住宅、飲食店などを通り三軒茶屋駅方面に戻るという長いコースを歩きました。今回、1 つ目の緑道は昔からある緑道で、水銀灯が設置されていましたが「グレアが目立つ」「演色性が悪く、緑がきれいに見えない」「白色で雰囲気も悪い」と、暗い雰囲気をみんなが感じ、犯罪者としてあげられました。
2 つ目の緑道は比較的新しいもので「ルーバーで建物側へのグレアにも配慮」「LED でそこそこ演色性も良い」「電球色で雰囲気が良い」「適度な陰影があり良い」と1 つ目が悪すぎた事もあったかもしれませんが英雄となりました。それ以外でも住宅や店舗の照明などで英雄を見つける事ができました。程よい輝度の面としての光が夜道のなかで確かな明るさ感をつくりだしていたように思います。駅前ほど明るくない道では、あかりを感じさせてくれる建物が、人をほっとさせてくれています。今回のテーマである「闇」について考えると、都会で見つける事は難しいと感じました。不安を感じさせる暗がりならいくつか見つけることができましたが、それは探し求めている「闇」ではありません。心惹かれる「闇」はどこで出会えるのでしょうか。(發田隆治)
今回東京では世田谷の3 つの緑道(目黒川緑道、烏山川緑道、蛇崩川緑道)を歩きましたが、季節折々の花が咲く木々が植えられ、ところどころ小川も流れ、楽しみながら気持ちよく歩ける緑道となっています。夜は残念なことに煌々とまぶしい光で照らされている所が多く、闇を楽しめる箇所は少なかったように思います。街歩きの日は満月に近かったのですが、時々現れる暗闇スポットからみる月の輝きがやはり一番の英雄でした。暗すぎて私のiPhoneX ではうまく取れない箇所があったのですが、android やiPhon14 ではきれいに撮影できたりと、暗闇での写真撮影大会にも発展したなかなか面白い会でした。また参加者全員で暗闇撮影大会を行い、誰が一番いい写真を取れるかを競う会もやってみたいと思いました。(東悟子)
■関西編_京都
「闇」をテーマにした関西街歩きは京都を選択。陰翳礼讃という谷崎潤一郎の言葉が示すように、闇には日本人なら誰もが、妖しくもどこか親密さのある美しさを覚えるのではないでしょうか。ルートは、花見小路から、安井金毘羅宮を拝観し、建仁寺の境内、宮川町を通って、鴨川の河川敷へと出るルートを歩きました。
■「安井金毘羅宮」と「建仁寺」
まず初めに訪れたのは、縁切り神社として有名な安井金毘羅宮。提灯やぼんぼりのさんざめきが、人々の怨念の籠った絵馬を暖かく照らしていました。光源はLED が使われているものの、暖かい柔らかな光で領域が照らされていました。明るい光に誘われるように鳥居をくぐると、そこはホテル街の電飾の光でした。縁切り神社の隣にラブホテルという、極めて皮肉的な何かを感じますが、これも祇園の「闇」かもしれません。建仁寺境内に入ると、安井金毘羅宮とは対比的に、照明は少なく、歩道の位置を示すように石畳を薄暗く照らしています。法堂は、ライトアップはされていませんが、薄暗さが帰って落ち着きを与え、心の休まる空間となっていました。
■演出する光
安井金毘羅宮の境内にあった石塚と石像を照らす光。舞台照明に従事している魚森さんによると、パフォーミングアーツや舞踊等の、人の身体性を強調する必要のある舞台では、横から光を当てるそうで、私たちが見た照明は意図的かはわからないものの、石塚の丸みや、石像の物体性が強調されているようでした。また、左右の白熱灯・LED の明るさの違いが、偶然にもそれを強めているようでした。他の発見は、店を照らしていた電球が、左官仕上げのテクスチャ感を引き立てていました。光の当て方をもう少し検討すると、より演出性を高めることができるのではないかという意見が出ました。
京都の微地形により、分節される塀の間に間接照明を入れることで、歩行空間にゆたかさを与えており、これも演出的な効果あり。長い土塀に沿って、反復的に垂直な光が現れることで、路地空間の方向性とシークエンスを強めています。周辺の街灯や電柱などのエレメントと合わせて計画するとさらに良いのではないか。微地形による制約を、建築的・都市的なデザインへと昇華した英雄と評価できると思いました。
■京都まとめ
今回の街歩きでは、京都の都市に潜む対比的な空間構成を支える光や、闇にも親しさや落ち着きを覚える日本人の潜在的な感性を刺激するほのかで繊細な光を発見できました。京都の少しディープで美しい夜には提灯やぼんぼりの光が一役買っており、宮川町では白熱電球の提灯が現役で使われていました。また、照明だけでなく、建築情報学、建築意匠、舞台照明、アートなど、異なる専門や、子ども、学生、社会人など、異なる世代からの視点で街を観察することで、より新鮮な発見ができ、大変有意義な会となりました。 (潮田龍諒)