2024.10.31-11.3 Makalin Wongchinchai + Stell Li
歴史と神秘、そして驚きの物語に満ちたエジプト。有名なピラミッドだけでなく、エジプトの日常生活における照明を調査するために、カイロ大都市圏の2つの主要都市に4日間滞在した。
■はじめに
世界最古の文明のひとつであるエジプトは、ピラミッド、砂漠、ナイル川、そして古代と現代の世界が交差する活気ある首都、カイロを擁している。 世界で最も歴史ある国のひとつのこの国を調査するため、私たちはカイロ大都市圏の2つの主要都市、カイロ(エジプトの首都)とギザ(メンフィスとその周辺の大規模埋葬地 – ギザからダッシュールまでのピラミッド郡)を訪れることにした。
太陽が沈むと、カイロとギザは光と魔法の眩い景色へと変わる。賑やかな通りは活気にあふれ、地元の人々も観光客もカフェ、シーシャ・ラウンジ、市場に集まり夜遅くまで豊かなエジプト文化を堪能する中、私たちはカイロとギザの日常生活における光を調査した。
■カイロ
14世紀に設立されて以来、カーン・エル・カリリ市場は常に貿易と商業の中心地だった。迷路のような細い路地を歩くと、まるでタイムスリップしたかのよう。日中は太陽の光が強烈だ。太陽の光が様々なタイプの日よけを照らすと、路地は豊かな色彩に包まれる。
しかし夜になると、光の魔法が繰り広げられる。すべての入り口のアーチ型の門が温かな光で照らされると、路地はまだ暗かったものの、店はユニークなスタイルの照明で活気づきだした。
例えば細い道の上にはイスラムスタイルのランタンがぶら下がり、照明器具を売る店舗にはカラフルなアラバスターのランプが並べられている。白っぽいLEDストリップを天蓋から吊り下げ、商品に白い光を当てているだけの店もいくつかあった。古代市場のような景色が、一瞬にしてギラギラと眩しい光景に変貌してしまっていた。
■アル・フセイン・モスクの緑色の光
賑やかな夜の市場を歩きながら一番興味を引かれたのは、近くの尖塔だ。鉛筆のような形をした尖塔は、温かい光に照らされながら鋭くそびえ立っている。その温かな黄色のトーンとは対照的に、鮮やかな緑色の光が輝いており、遠くからでもはっきりと見えるほど印象的だった。
好奇心に駆られて地元の人に尋ねると、緑色は善、調和、平和、そして植物を表す色だそう。緑色は生命を支え、安心と幸せを約束するものだった。
緑色はオシリスと結びつけられている。だから彼らは緑色を好むのだそうだ。
■トンネル
カイロでは、道路を横断するにはトンネルを通るのが普通だ。私たちも市場に行くために地下トンネルを通る必要があった。明るく賑やかな通りとは対照的に、この約12メートルの通路は、わずか数個の簡素なLED照明器具だけで薄暗く照らされていた。照明器具が不足していたか、十分な電力の供給がなかったのだろうか。地下通路全体が暗く閑散としており、入り口だけが強い太陽の光で照らされていた。
カイロの通りを歩いた最初の印象は、黄色レンガの建物にあった。あちこちに見られる塔もサンディカラーで統一されている。屋上では羊が草を食べ、その下には市場が賑わっている。未完成のレンガ造りの建物が広大なエリアを占め、その先には砂漠の中のオアシスのような公園が広がっていた。建物はほとんどが四角形で、窓は小さく造られている。夜になると住宅の建物を照らすものは何もなく、小さな窓から漏れてくる温かい光だけが、壁にランダムな光の模様を作り出している。
■ナイル川と川沿いの夜景
ナイル川の夜景を楽しむベストスポット、カスル・エル・ニル橋。この橋は主要なビジネス街と経済地帯を結ぶ、ナイル川のシンボルだ。橋の上から川に浮かぶクルーズ船のカラフルな照明を見ることができる。両岸に並ぶ高層ビルのほとんどはホテルのようだ。ファサードの照明はシンプルかつ効率的で、建築の特徴を活かすアップライトと、ホテル名には内照式サインが使われていた。
しかし、この象徴とも言える橋は観光スポットにはなっていない様子。彫刻のアップライトは壊れていて、ポール灯は古く、機能していないものもあった。暗くても歩行者は多く、他の歩行者同士お互いが見えにくいほどだった。
川沿いを歩いていると、静かで居心地の良いエル・アンダロス公園を通りかかった。エレガントな照明、素敵すぎるランタン、効果的に施された植栽へのアップライトや調和のとれた光の色味などから、最初は近隣のホテルの所有地だろうと思った。しかし驚いたことに、それは一般公開された市の公園でありながら、誰も利用していなかった。
私たちは、人々が夜に座ってリラックスしている公共エリアも多く歩いた。人々は明かりの近くよりも暗めの場所を好んでいるようで、皆街灯から離れたベンチに座りおしゃべりしながら、暗い夜を楽しんでいた。
■エジプト考古学博物館
フランス人建築家マルセル・ドゥールニョンの設計によるエジプト考古学博物館は、中東最古の考古学博物館だ。ネオクラシック様式のライムストーンが使われたデザインは、壮大なファサード、シンメトリーなレイアウト、広々としたアトリウムを特徴とし、古代神殿の壮大さを呼び起こす。メインの2つの棟には、エジプトの歴史にわたるコレクションが収められており、高い天井と広々としたホールが展示物を際立たせている。
博物館内の照明は、所蔵物を保存しながら展示する上で重要な役割を果たしている。大きな窓から自然光が中央のアトリウムに降り注ぎ、温かみがあり活気に満ちた雰囲気を作り出している。慎重に計画された照明が自然光を補い、繊細な展示物を損なうことなく最適な鑑賞環境を提供している。しかし全体的には非常に暗い。できる限り自然光を利用するのは良いが、砂漠に近い環境の中で窓ガラスをきれいに保つのは難しいのだろう。
夜の博物館のファサード照明には感銘を受けた。歴史的な建物が、このファサード照明のおかげで息をのむような光景に変貌していた。博物館は巨大な柱や複雑な石彫など、ネオクラシック様式の要素が入っているが、綿密に計算された照明によってそのディテール各所が際立たされている。柔らかく温かいLED照明がファサードを優しく照らし上げ、石の質感と建物の構造の優美さを際立たせている。それにより歴史的な細部を損なうことなく調和を保っているのだ。博物館は、日中は過去を象徴する記念碑としての存在感を放つだけでなく、夜になると見事な視覚的ランドマークへと変化していた。
■ギザのピラミッド
カイロ郊外に位置するギザのピラミッドは、古代文明を代表する最も象徴的で永続的な遺産の一つである。紀元前2580年から2560年頃の旧王朝の第4王朝時代に建設されたこれらの構造物の中で最も有名なのは、クフ王の大ピラミッドだ。世界の七不思議の一つで唯一現存している。 ピラミッドは巨大な墓として機能し、古代エジプト人の死後の世界に対する信仰を表している。それらは、ファラオの遺体と所持品を墓泥棒や自然の脅威から守るために細心の注意を払って設計されている。何世紀にもわたる歴史を持つギザの複合遺跡には、カフラー王とメンカウラー王のピラミッド、さらに巨大なスフィンクスも含まれており、この古代遺跡の壮大さをさらに際立たせている。
■ファラオの墓
ギザのピラミッド群、特にクフ王の大ピラミッドは、古代エジプト文明の卓越した象徴だ。ビジターは一連の部屋や通路を進み、クフ王の石棺がかつて安置されていた王の間へとたどり着くことができる。巨大な花崗岩と壁画で飾られた複雑なデザインは、ファラオの神聖な地位と死後の世界への旅を反映している。 トンネルに入ると、アラバスター製のランタンがほんの数個、通路を照らしているだけ。トンネルは狭く、一部の区間ではすれ違うのにお互いに横向きにならないと通り抜けらないほどだ。薄暗い通路を上り下り、柔らかく黄色い温かな光に包まれながら、過去の文明のこだまに自然と赴かれる。
■ギザピラミッドのライトショー
ギザのピラミッドでは「ピラミッド・サウンドアンドライトショー」を行っており、現代の技術によってさらにその魅力を高めている。1960年代に開始されたこのショーは、ナレーション、音楽、照明を巧みに組み合わせて、ピラミッドの歴史と壮大さを再現する。このイベントは夜に開催され、人々は夜空を背景に照らされたピラミッドを見に集まり、古代エジプト文明の鮮やかなひとときを体感する。このショーは、古代エジプトの歴史と現代の物語手法を組み合わせ、見ている人をピラミッドの文化的な重要性に没入させる。日没後にこの場所を体験する魅力的な仕掛けで、観光客にとって定番アトラクションとなっている。
調査してみると、照明器具が適切に設置されておらず、訪れる人による損傷を受けやすくなっていた。ライトショーは週に約4日しか行われないが、常設・仮設いづれにしても、設置方法の改善が必要なように思う。器具を正しく設置することで損傷を防ぎ、すべての人にとってより良い体験をさせることができると思った。
多くの人が、息をのむようなビジュアルと古代の歴史を生き生きとさせる魅惑的なストーリーテリングを高く評価している。ピラミッドの圧倒的な照明は荘厳な雰囲気を作り出し、鑑賞者にこれらの古代の驚異を新たな視点で堪能させている。 全体として、ピラミッド・サウンドアンドライトショーは、多くの訪問者に愛されているコンテンツであり、魔法のような環境の中で過去とつながることができる。それは、ギザのピラミッドの時代を超えた魅力とその人類の歴史における不朽の遺産であることを思い出させてくれるからではないだろうか。
■インタビュー
カイロとギザの公共照明を調査するため、地元住民にインタビューし、街の夜間照明に対する彼らの見解とその改善方法について考えた。
カイロの香水店のオーナーであるモハメド・アブド・サラム・ファレッド氏にインタビューしたところ、彼は目が疲れにくい温かみのある照明が好きだと語っていた。彼は、温かい照明がエジプトの建築を補完し、夜の街でリラックスして楽しい雰囲気を作り出すと信じているそう。
ギザ出身のホテルマネージャー、モハメド・ファイド氏も自身の考えを共有してくれた。彼はギザの現在の公共照明のレベルは十分だと感じているようだ。ファレッド氏と同様に、彼はあまり直接的ではない温かい照明を好むそう。明るいスポットライトは眩しさを生み出すから、と語ってくれた。
■まとめ
カイロとギザの住民の多くは、公共照明、特に機能的な場所の照明に満足しており、温かい色の光を好むことがわかった。しかしエジプトは観光で成り立っている部分も大きいため、観光地ではもっと魅力的な照明にしてほしいという声も聞かれた。
エジプトの人は公園や橋など、皆が利用する公共の場所をとても楽しんでおり、明るすぎない光環境を気に入っているようだ。重要な場所の照明は必要最低限で十分だというのが一般的な意見だが、既存の街灯のメンテナンスも重要だ。壊れているものや状態の悪い器具を直し、見た目も機能も心地よい状態にすることで、夜の街がより良くなるはずだ。住民の意見を聞きながら一緒に街灯の計画を立てていけば、住民も観光客も共に快適に過ごせる街になると思う。