海外調査:Rio de Janeiro/ Santiago
2018/10/13-23 山本幹根+岩永光樹
およそ15年ぶりの南米調査。2014年にはFIFAワールドカップ、2016年にはオリンピックが開かれ国際色が高まる港湾都市リオデジャネイロ。コパカバーナ・イパネマと有名な海岸を有し世界三大美港のひとつに数えられる傍ら、山肌を覆う貧民街「ファベーラ」も隣接する娯楽と貧困が織り成す都市の光の表情を追った。雄大な自然に囲まれたチリ最大の都市サンティアゴは年間降水量が約360mmと1年のほとんどが晴天な都市。自然光の恩恵を授かった都市の照明事情を探った。
ポン・ジ・アスカールからコパカバーナ海岸を見る
山の斜面に建つファベーラ
■リオデジャネイロ/ブラジル
リオデジャネイロは、カーニバルをはじめ2016年にはオリンピックが開催された国際的な観光都市である。自然と文化が融合した美しい地形からなる景観郡とスラム街が隣接し、国の縮図といわれる光と闇が存在する。観光地やリゾート地などの華やかな光、貧困層の集まるファベーラ(スラム街)の怪しく輝く光、様々な表情を持った街と人々の暮らしの光を調査した。
空港から中心部に向かう郊外は、中国やアジアの郊外のような一般的な街並みが続き、廃墟のような建物も目立つ。特徴的なのは、山の傾斜地を埋め尽くすように小さな建物郡(ファベーラ)が非常に多く、独特の景観を創り出している。セントロ(旧市街)には歴史的な建築と近代建築が共存し、オリンピック開催で整備された通りや広場、建築などもある。コパカバーナ海岸にはホテルや飲食店が立ち並び、観光客で賑わいのある場所だ。街全体の雰囲気としては、天候が悪かった為であろうか、想像していたような陽気で情熱的な雰囲気は全く無かった。
■谷間に浮かび上がる夜景
ポン・ジ・アスカールはグアナバラ湾に張り出したリオデジャネイロの景観を特徴づける岩山である。海抜400mの頂上からは山と海に囲まれたリオデジャネイロの街を一望できる。
起伏の激しい山地の谷間には建物がびっしり建てられ、独特の地形からなる街の景色はとても美しい。夜になるにつれて山と海が暗く沈み、街の灯りが反転して見えてくる。全体的には暗い印象で主に街路灯と窓明かりのみ、派手な演出をしている建物はない。
ファベーラの灯りは山の麓を覆い、細かな点の集合は立体的で少し怪しげな暮らしの灯りを感じることが出来る。ビーチの明かりは特に輝度が高く目立つ存在であり、海面に映りこむ光は海岸の美しい曲線を強調し、リオデジャネイロの夜景を特徴づけるものであった。天候がよければ、コルコバードの丘に立つキリスト像が光り輝き、より象徴的な夜景を見ることが出来たであろうが、今回の調査では街中からは一度も見ることは出来なかった。
美しい弧を描くコパカバーナの海岸線
外国観光客で賑わう
コパカバーナのバー
人の気配を感じないカリオカ通り
(旧市街)
リオデジャネイロ市立劇場の
ライトアップ
市立劇場前の広場。ポール灯の数が
非常に多い。
明日の博物館。ソーラーパネルが設置されている外壁
ロドリゲス・アウヴェス通り(昼)
ロドリゲス・アウヴェス通り(夜)
夜になると昼間の賑わいが嘘のように一転し、人の気配が無くなり静かな街になる。所々に警察車両が配置され、その光が非常に目立つ。旧市街では、歴史的に重要な建築や教会などはライトアップされている。手法としては、車道用の街路灯に建築物をライトアップするフラッドライトが設置されている一般的な手法で建物全体を均一に照らしていた。繁華街では、店も閉まり人の気配はない。店の看板照明など一切なく、車道用の街路灯の光が建物を照らしているだけであった。オリンピックで整備された開発地区の公園には、非常に多くのポール灯が設置され、平均30lux以上と非常に明るい公園となっていた。
ロドリゲス・アウヴェス通りも、オリンピックに合わせ開発された通りであり、幅23mの見通しの良い快適な空間となっている。通りの中央は植栽帯となっており、現代的な路面電車が通る。その両側は車道と歩行空間で分離されている。街路灯はLEDが使用されており、2種類の街路灯の意匠も統一されていた。
7m幅の歩行空間には、中央の植栽帯側に高さ8mの2灯用の器具が20mピッチ、建物側にも6.5mの1灯用の器具が同じピッチで配置されている。歩行空間の中央で80lux、暗い所で25luxと非常に明るい。通りの建物は、倉庫を改修したオフィスとなっており、通り沿いに連続して建ち並んでいる。壁面が照らされている為、明るさ感がありとても快適な空間である。車道側は10mの千鳥配置となっており、車道中央で35lux程度であった。
リオデジャネイロの都市照明は、明るくすることで、犯罪を防ぐ為の光になっている。人の気配を感じられないため安心感や安全な感じは無く、緊張感のある空気が漂っていた。夜の景観は、そこで活動している人々とその場所の雰囲気が美しい夜景を作るのだと改めて感じた。(山本幹根)
■サンティアゴ/チリ
サンティアゴはアタカマ砂漠、パタゴニア氷河、アコンカグア、大西洋の大海原に囲まれたチリ最大の都市。一年のうち300日以上が晴天という気候条件で街と自然光はどのような関係を築いているか。プレ・コロンビア時代の遺物を集めた博物館が数多くあり森林公園などの自然も多く大都市でありながら安らぎをもてるサンティアゴの都市照明事情とそこに暮らす人々の光に対する関心を調査した。
スカイコスタネラセンターからの眺望。左は旧市街、右は新市街
歴史的建造物の意匠柱を照らすためのスポットライト
構造体をフラッドライトで照らし建物自体を発光させる
■旧市街の光と新市街の光
南アメリカで最も高い高さ300mのスカイコスタネラセンターの展望台からサンティアゴの街並みを見下ろすと、街路を照らすナトリウム灯の温かい輝きが散りばめられた旧市街とビル群を裂くように通った路面をムラなく照らす色温度4000-5000Kの光に包まれた新市街のふたつの光の表情があった。実際に街を歩いてみると旧市街では歴史的建造物を外側から照らす手法が多く、新市街では建物を内照させる近代的なファサード照明もみられた。
■闇に沈んだモネダ宮殿と街を鮮やかに染めるEntelタワー
観光スポットとして有名なモネダ宮殿を夜に訪れてみると他の観光スポットとは違い正面ファサードは一切ライトアップされていなかった。宮殿裏にある憲法広場は広場内に照明を設けない代わりに高さ約15mのフラッドライトで広場内を満遍なく照らし、その光は地面で0.2-0.5lx程度、鉛直面で約2.0lxと横から飛び込んでくる光で宮殿裏側の外装をもほんのり照らすほどだった。宮殿の正面向かいに巨大なチリの国旗が夜風にたなびいており、その国旗が地面からのアップライトで照らされる様子は威厳を感じたが、国旗をとり囲む建築郡が国旗から300mほど離れた場所にそびえ立つEntelタワーの色鮮やかなサイネージ照明に照らしあげられると同行していたサンティアゴの照明デザイナーや学生たちも落胆の声をあげた。サイネージ照明の暴力的な輝度に対する不快感と照らすべきもの・照らさないほうがいいものの分別はサンティアゴでも共通の価値観のようだ。
■サンティアゴのブルーモーメント
地中海性気候で初夏を迎えたサンティアゴはブルーモーメントの時間が19:00~20:00までと長く、夕刻にはオープンテラスでハッピーアワーを楽しむ人々で溢れていた。旧市街ではLEDの街路灯も普及していたが、色温度が3000K以下のものが多く、これはブルーモーメントに映える暖色の光の下でゆっくりと自然の恩恵を嗜むサンティアゴの人々の美意識かもしれないと感じた。(岩永光樹)
闇に鎮座するモネダ宮殿正面
強い輝度を放つEntelタワーと照らし上げられたチリ国旗
ハッピーアワーを楽しむ人々