世界都市照明調査

都市照明調査:ウズベキスタン、タシケント

Update:

2025.11.09-11.14 林晃毅+蒋坤志

タシュケントタワーから俯瞰 建物のファサード照明と比べ、ライン状の街路照明の方が際立っている

この調査では、ウズベキスタン、タシケント西部の都市空間において、ソビエト文化とイスラム文化がどのように混ざり合い、共存しているかを調査した。特に、異なる文化の積み重なりが、この地特有の照明手法や光環境の表現を生み出す背景となっているかという点に着目。その手がかりを得るため、タシケント市街の全域を歩き、各地の状況を記録した。

ウズベキスタンの首都タシケントには、ソビエト・モダニズムとイスラムの建築伝統の双方の影響がみられる。市内には、ソビエト時代の巨大な公共建築とともに、伝統と現代が融合した宗教建築が点在する。本調査では、地上建築に加えて、1977年に開通した中央アジア初の地下鉄「タシケント・メトロ」も対象とした。そこでは、洗練された照明と上質な素材が、地下空間をあたかも美術館のような趣へと昇華させている。 (蒋坤志)

■タシケントの俯瞰夜景

ファサード照明は制限されている

テレビ塔から見下ろすと、タシケントの夜景は連続的な建築ファサードのライトアップではなく、光の線と点のネットワークとして浮かび上がる。街の形を最も分かりやすく示しているのは道路網だ。主要幹線道路や環状道路は光の帯となって走り、橋梁や主要な交差点はひときわ明るいノードとして現れる。これらが、平坦なスカイラインを形成しているこの都市において、読み取りやすい交通の骨組みを形作っている。こうした線形の要素が、都市の方向感やスケールを強く定義している。

一方、建物の大半は夜間は暗く、その存在は入り口の明かりや窓からのわずかな漏れ光、周囲の反射光によってようやく確認できる程度である。その結果、街全体の明るさは低く抑えられ、高層建築やメディアファサードを持つ一握りのランドマークが、周囲とのコントラストによって際立ち、遠くからでも目を引く目印となっている。

■ソビエト・モダニズム建築

タシケントには、ソビエト時代の代表的な公共建築が多く残っており、その巨大なスケールや厳格な幾何学形態、機能主義的なデザインが、モダニズム都市としての骨組みを作っている。これらの建築は、昼間は強い存在感を放つ一方で、夜間の表情はそれとは大きく異なる。私たちは、これらのソビエト・モダニズム建築が、夜間の歩行者視点や低照度の環境下でどのように見えているかに注目しながら歩いた。

全体的に、これらの建築は夜間に一貫したライトアップを行っていない。ファサードを照らす手法や投光照明がほとんど見られず、建物の視認性は、入り口の明かりや内部からのわずかな漏れ光、周囲の街路灯による反射光に頼っている。その結果、建物は巨大な暗い塊として現れ、昼間に見せていた構造的なリズムや幾何学的な秩序は影を潜め、夜の闇のなかに溶け込んでいる。

歩行者のスケールで見ると、視覚的な印象を支配しているのは建物の外壁ではなく、道路照明や交差点、広場、そしてエントランス部分の明かりだ。コントラストが低いために、間近で見ても建築の形は捉えにくい。しかし、それがかえって視覚的な情報の詰め込みすぎを抑え、インフラが主役となる静かで秩序ある夜間環境を作り出している。

国旗を映し出すテレビ塔のメディアファサード

こうした低照度の背景の中で、一部のランドマークは鮮明に浮かび上がる。タシケント・テレビ塔は、投光照明とメディアファサードによって、夜間において最も識別しやすい目印となり、街の方向を知る重要な手がかりとなっている。

一方、人民友好宮殿(Palace of Peoples’ Friendship)は対照的だ。控えめな内部の明かりと上部の照明によって、その存在を維持している。建物そのものを主張するアイコンというよりは、光を湛えた公共空間として佇んでいる。外観の夜間表現よりも、内部の光の質の方が際立っているのが特徴だ。

総じて、タシケントの夜景におけるソビエト・モダニズム建築は、低輝度で控えめな表現、そして機能的な照明を優先している点が特徴だと言える。これが都市に安定した秩序ある性格を与えている一方で、ピンポイントで細やかな照明演出を加えることで、さらに魅力を引き出す余地があると感じた。 (蒋坤志)

■イスラム建築

ハズラティ・イマーム・コンプレックスの様子

タシケントにおけるイスラム建築は、ハズラティ・イマーム広場に代表される旧市街や宗教・文化エリアに集まっている。ソビエト・モダニズム建築とは対照的に、これらの建築は中央アジアのイスラム文化の系譜を色濃く反映しており、精神性や儀礼、そして装飾的な美しさを重んじている。
その建築様式はより複雑で象徴的であり、地域特有の素材が用いられているのが特徴だ。私たちは、モスクに使用されている素材が光を受けてどのように反射し、質感を伝えているか、という点に特に注目した。

1. ハズラティ・イマーム広場

タシケントで最も重要なイスラム宗教・文化の中心地であり、ティムール朝以来の伝統的な建築的特徴を今に伝えている。広場内にはモスク、マドラサ(宗教学校)、宗教図書館などが並び、宗教と建築文化の象徴的な拠点を形成している。カリグラフィーやアラベスク、幾何学模様のモザイク、レンガのレリーフといった豊かな装飾が、その芸術的な個性を際立たせている。

調査時、新設されたイスラム文化センターでは照明やプロジェクションマッピングのテストが行われていた。歴史的な建造物とは異なり、新校舎には線状のウォールウォッシャーや投光器など、より現代的な建築照明が取り入れられている。しかし、旧来の建物では構造的な制約から照明器具が壁面に近すぎる位置に設置されており、光の当たりすぎによる白飛びや、光の届かない暗い部分、器具同士の間に生じる影の隙間などが目立ち、照明としての質を下げてしまっている。

ティリャ・シェイフ・モスク広場

2. マイノール・モスク

マイノール・モスクは、タシケントの近代的な市街地を流れる川沿いに位置する、21世紀の重要な宗教的ランドマークである。白大理石の外壁、端正なプロポーション、そして青いドームが特徴で、歴史的なイスラム建築と「伝統×現代」の対話を織りなしている。

広場の明るさは比較的低く抑えられており、投光照明はモスクの右上部のみに限定されている。この暗い環境が静謐で神聖な雰囲気を守っている一方で、歩行者のための案内や安全を確保するための機能的な光は、やや不足している。    (林晃毅)

■タシケント・メトロの調査
1977年に開通した中央アジア初の地下鉄であるタシケント・メトロは、多様な装飾様式、芸術的な空間の質、そしてテーマ性を持ったデザインで広く知られている。軍事・警備上の理由から2018年まで写真撮影が禁止されていたが、解禁後は各駅の記録と研究が可能となった。この地下鉄は単なる交通システムではなく、工学的な成果、芸術的な職人技、そして政治的な象徴性が融合した、いわば「地下の宮殿」の連なりである。

1. コスモナフトラル駅
1984年に開業したコスモナフトラル駅は、タシケントで最も象徴的な駅の一つだ。深いブルーの色調、宇宙飛行士の肖像、クリスタルの照明器具、そして近未来的な装飾によって、「宇宙」をテーマにした独特の世界観が作り上げられている。

2. アリシェル・ナヴォイ駅
1987年に開業し、ウズベキスタンの偉大な詩人アリシェル・ナヴォイの名を冠したこの駅は、一連のイスラム風ドームが特徴である。そこには天文学的な象徴性を取り入れた複雑な幾何学模様や、地域に伝わるタイルの職人技、そして青・金・白という東洋的な色彩が盛り込まれている。照明は機能的なものが中心で、ドームの縁に配置された線形の器具が下方向を照らし、ドーム自体は周囲からの反射光によって柔らかく浮かび上がっている。

3. ウズベキスタン駅
ウズベキスタン駅は、アーチ状の天井、左右対称の設計、3廊式の空間レイアウトといった「地下の宮殿」の典型的なスタイル。照明には2つのタイプが使われている。一つは、空間全体を柔らかな光で包み込む、綿花をモチーフにした大型のシャンデリア。もう一つは、足元の明るさを補うために斜め下を向いた発光パネルである。 (蒋坤志)

グーリ・アミール廟 正面

■サマルカンドの建築
今回の調査にあわせ、サマルカンドでの補足調査も実施した。折しもサマルカンドではUNESCO総会が開催されており、パリ以外での開催は約40年ぶりという歴史的なタイミングであった。私たちはティムール朝の霊廟や周囲の宗教建築に焦点を当て、低照度下でのタイルの見え方、ドームやアーチの重なり、そして遺産を保護しつつ神聖さや物語性をいかに光で演出しているかを調査した。

1. グーリ・アミール霊廟

1403年から1404年にかけて建設されたグーリ・アミール霊廟は、アミール・ティムールとその子孫が眠る場所である。巨大な青いドーム、釉薬タイル、そして洗練された装飾は、ティムール朝建築の到達点を示している。内部では自然光と人工照明が組み合わされており、四隅に設置されたポールマウントのトラック照明から、10個以上の可動式スポットライトがドームに向けて照射されている。なお、調査時にはドーム頂点のシャンデリアは点灯していなかった。

2. レギスタン広場

かつてティムール帝国の中心的な広場であったこの場所は、ウルグ・ベク、シェル・ドル、ティラ・カリという3つのマドラサ(宗教学校)に囲まれている。夜間の照明計画は心地よく、寒色系のブルーと暖色系の低色温度の光を組み合わせることで、建築本来の色調を引き立てている。特にティラ・カリ・マドラサの黄金のドームは、暖かな光によってその輝きが増しており、グーリ・アミール霊廟と同様の照明手法が採られている。

レギスタン広場の夜間照明全体は、主に上向きのライティング(アッパーライト)で構成されている

3. ビビハニム・モスク

ビビハニム・モスク 正面入り口

1399年から1405年にかけて建立されたビビハニム・モスクは、当時世界最大級のモスクの一つであった。ティムール朝ルネサンスを象徴する釉薬タイルやモザイク、カリグラフィーの装飾が特徴である。残念ながら、現在は建築そのものを照らす専用のライトアップは施されておらず、最低限の機能的な照明のみに留まっている。    (林晃毅)

■まとめ
今回の調査を通じて、ウズベキスタンの建築は、街そのものが「立体的な歴史の本」のようだと感じた。タシケントが近代的な複雑さを映し出す一方で、サマルカンドは古い文明の深みを伝えている。この街において、光は単に辺りを照らすだけでなく、その場所が歩んできた歴史や物語をそっと語りかける役割を果たしているのではないか。    (蒋坤志)

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