探偵ノート

vol.23 大深度地下へのいざない ~東急建設技術研究所・大深度地下実験施設~

Update:

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地下空間に人が住むという必要性がどこにあるのだろうか。海底都市とか地下都市とか聞くと、月面に住む人類の夢ににて、ある種のロマンを感じることもあるが、私は魚や土竜のような生活に何の魅力も感じない。美味しい空気を吸い、太陽と共に24時間を繰り返し、四季の匂いを感じとりながら生涯を終えることに、どれほどの不都合があろうか。都市のインフラ利用を主目的とした大深度地下実験施設を訪れて、一層その思いを強くさせられたのだった。 施設は相模原の畑の中にある。縦坑を50メートルの深さに降りるために簡易な現場用エレベータに乗る。汎用エレベータと違って大胆な振動が体を揺らす、と同時にエレベータ内のスピーカーから「愛しのアニーロリー」のメロディーが流れる。降下する不安を和らげるためか。大深度地下への招きにはミスマッチな音楽だ。さて50メートルまで下がりドアが開くと、突然ひんやりした空気と圧倒的な湿気と地下水による大粒の雨垂れ音に見舞われた。一気に緊張感が高まる。次に目の前の「大深度地下実験室」と書かれた部屋のドアが開き、一歩室内に足を踏み入れると、ムーッとする臭いにやられた。18℃、湿度90%の環境に生息するカビと実験用植物の排気ガスのためらしい。

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地下50メートルにある横坑は天井高8メートルの地下礼拝堂のような空間だ。幅4~6メートルほどの大小蒲鉾状の空間が30メートルの奥行まで続く。奥の小部屋には地元産のワインが貯蔵されていた。地下空間の特性は、環境面(断熱、恒温、気密、遮光、防振、遮音)と防災安全面(防火、不燃、防爆、地震減衰、高強度)とにあるらしい。そして大深度は貯蔵や交通物流システムへの利用に留まらず、人間の新しい活動空間への利用まで・・・とうたわれてはいるが、設備系のリスクが大き過ぎる。居住空間利用には使いものにならないとみた。

あかりも実験用の蛍光灯が無造作に配置されているだけ。唯一興奮させられた光は、50メートル上空を見上げたときの縦坑上部の自然光。地上で猛々しい太陽光も、狭い縦坑を通過するうちに病弱な光に姿を変えてしまう。井戸底の心細さ、蜘蛛の糸の心境だ。海底や地下に自然光を引き込もうとする夢と努力が、妙に空しく思えて仕方ない。


面 出 探偵A 探偵B 探偵C
あかりの味/雰囲気や気配のよさ 1 2 1 1
あかりの量/適光適所・明るさ感 2 2 3 3
あかりの値段/照明設備のコストパフォーマンス 5 3 4 4
あかりの個性/照明デザインの新しさ 1 2 3 2
あかりのサービス/保守や光のオペレーション 4 3 3 2
合 計 13 12 14 12
総合評価 ★★
(12.75点)

1項目5点が最高、合計25点満点。★は5つが満点


あかりのミシュランは、雑誌「室内」に連載されました。
面出 薫+照明探偵団/文  淺川 敏/写真

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