発行日: 2023年 11 月 20 日
第72 回街歩き@三軒茶屋&京都(2023.09.26)
第70 回サロン@照明探偵団オフィス 京都&三茶街歩きレビュー (2023.10.27)
出張探偵団 in 神津島 2023 (2023.10.17)
Night Walk in Hong Kong Historic Meet Light @ Hong Kong Island Mid Level (2023.09.05)
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第72 回街歩き@三軒茶屋&京都
~闇を探しにいこう~
2023.09.26 坂口真一+古川智也+發田隆治+潮田龍諒+東悟子
今回の街歩きは「都会の闇を探す」をテーマに東京は世田谷の緑道、京都は闇が潜む神社をめぐる街歩きを行いました。まだまだ暑さ残る中、都会の闇を探すチャレンジングは街歩きとなりました。
いつもの街歩きは、街の明かりを見に出かけているのですが、今回は趣向を替えて「東京の闇を探しにいこう」というテーマで街歩きを企画しました。公園や神社、墓地は暗い闇があっても、あんまり議論の余地がないのではないかと思い、普段夜でも通勤や通学、ランニングなどでよく使われている世田谷の緑道に注目。昼間はとても気持ちがよく、散歩道としても人気のある緑道ですが、夜の環境はどうなっているのか、3班に分かれて歩いてみました。 (東悟子)
■ 1 班:池尻大橋~三軒茶屋
1 班は池尻大橋から三軒茶屋まで続く目黒川緑道と烏山川緑道を歩きました。1 本でつながっている緑道ですが場所場所で、様々な表情を感じ取ることができました。街路灯、防犯灯、住宅から漏れる明かり、また緑道にある木々によってその表情は大きく変化しており、周りの環境によって大きくその雰囲気も明るさ感も夜歩く安心感も変わるように感じました。街路灯や防犯灯は高いものは周辺にある木によって大きく雰囲気が左右されていました。木が生い茂り緑道幅が狭い所は暗い印象、木々が低めで周辺の住宅からの明かりが漏れているところは安心感のある明るさではと感じました。
こんな緑道の統一感を持たせるのは大変ですが、せめて街路灯の色温度や高さくらいは統一すると少しは印象が違うのでしょうか。また高い木は街路灯が隠れないようなメンテナンスが必要なように思いました。(坂口真一)
■ 2 班:若林~三軒茶屋
2班は、東急世田谷線・若林駅へ移動後、環七通から茶沢通周辺までの「烏山川緑道」を中心に、住宅街の闇を探して街歩きしました。環七通沿いの若林橋跡の烏山川緑道に着くと、団員の一人が「光の爆発」と形容した、眩しすぎる光を放つ街路灯が出現しました。LED モジュールが丸見えで配光を制御していない灯具は、見通しのよい緑道の宮下橋跡まで続き、不快グレアを撒き散らしていました。若林橋跡近くの路面照度50lx、色温度4700K と明るく白っぽい照明が続いています。
稲荷橋跡を過ぎると、既設街路灯の灯具本体は弄らず、光源を水銀灯から4 面発光形LED ランプに換えてありました。浅型でグレア対策が効いていないため、高輝度で非常に眩しくて、夜の緑道を楽しむ暇もなくストレスだけがたまりました。緑道がカーブしている西山橋跡付近では、街路灯が緑道と並行する通学路に向けて設置してあるため、反対側の緑道への光量は少なく、加えて木の葉で一部が遮られて、程よい暗さの闇が出来ていました。薄暗いベンチには路上生活者が横になっており、彼にとって安全安心な光の英雄なのでしょう。ところが、そこから10 mも離れていない緑道には、光が全く届いていない真っ暗闇なスポットがありました。犯罪が起きそうで、とても危ない光環境でした。配光制御したボラード照明等の設置が急務です。緑道沿いの住宅街では光の犯罪者となった闇が数多く見られました。暗すぎる歩道は、向かって来る人の気配も感じられないほどで、男性でさえ怖いとの意見。路面照度0.2lx。茶沢通を横切り、八幡橋跡から前方の緑道を見ると、同じ浅型の街路灯でも眩しくなく、心地よい雰囲気が醸し出されて、奥へと導いていました。茂った植栽が天然のルーバーになって、不要な光をカットして闇を形成しており、最後に光の英雄と出会えました。利用者が安心して烏山川緑道の夜の散歩を楽しむために、グレアを抑え、暗闇スポットの無い、居心地のよい闇のデザインが強く求められます。(古川智也)
■ 3 班:三軒茶屋駅~蛇崩川緑道
3 班は三軒茶屋駅を出発し世田谷通りから少し歩いたところにある1 つ目の緑道へ入り、この緑道から首都高速3 号線の下をくぐり、さらに雰囲気の異なる2 つ目の緑道を歩く、最後は、お寺、集合住宅、飲食店などを通り三軒茶屋駅方面に戻るという長いコースを歩きました。今回、1 つ目の緑道は昔からある緑道で、水銀灯が設置されていましたが「グレアが目立つ」「演色性が悪く、緑がきれいに見えない」「白色で雰囲気も悪い」と、暗い雰囲気をみんなが感じ、犯罪者としてあげられました。
2 つ目の緑道は比較的新しいもので「ルーバーで建物側へのグレアにも配慮」「LED でそこそこ演色性も良い」「電球色で雰囲気が良い」「適度な陰影があり良い」と1 つ目が悪すぎた事もあったかもしれませんが英雄となりました。それ以外でも住宅や店舗の照明などで英雄を見つける事ができました。程よい輝度の面としての光が夜道のなかで確かな明るさ感をつくりだしていたように思います。駅前ほど明るくない道では、あかりを感じさせてくれる建物が、人をほっとさせてくれています。今回のテーマである「闇」について考えると、都会で見つける事は難しいと感じました。不安を感じさせる暗がりならいくつか見つけることができましたが、それは探し求めている「闇」ではありません。心惹かれる「闇」はどこで出会えるのでしょうか。(發田隆治)
今回東京では世田谷の3 つの緑道(目黒川緑道、烏山川緑道、蛇崩川緑道)を歩きましたが、季節折々の花が咲く木々が植えられ、ところどころ小川も流れ、楽しみながら気持ちよく歩ける緑道となっています。夜は残念なことに煌々とまぶしい光で照らされている所が多く、闇を楽しめる箇所は少なかったように思います。街歩きの日は満月に近かったのですが、時々現れる暗闇スポットからみる月の輝きがやはり一番の英雄でした。暗すぎて私のiPhoneX ではうまく取れない箇所があったのですが、android やiPhon14 ではきれいに撮影できたりと、暗闇での写真撮影大会にも発展したなかなか面白い会でした。また参加者全員で暗闇撮影大会を行い、誰が一番いい写真を取れるかを競う会もやってみたいと思いました。(東悟子)
関西編 京都
「闇」をテーマにした関西街歩きは京都を選択。陰翳礼讃という谷崎潤一郎の言葉が示すように、闇には日本人なら誰もが、妖しくもどこか親密さのある美しさを覚えるのではないでしょうか。ルートは、花見小路から、安井金毘羅宮を拝観し、建仁寺の境内、宮川町を通って、鴨川の河川敷へと出るルートを歩きました。
■「安井金毘羅宮」と「建仁寺」
まず初めに訪れたのは、縁切り神社として有名な安井金毘羅宮。提灯やぼんぼりのさんざめきが、人々の怨念の籠った絵馬を暖かく照らしていました。光源はLED が使われているものの、暖かい柔らかな光で領域が照らされていました。明るい光に誘われるように鳥居をくぐると、そこはホテル街の電飾の光でした。縁切り神社の隣にラブホテルという、極めて皮肉的な何かを感じますが、これも祇園の「闇」かもしれません。建仁寺境内に入ると、安井金毘羅宮とは対比的に、照明は少なく、歩道の位置を示すように石畳を薄暗く照らしています。法堂は、ライトアップはされていませんが、薄暗さが帰って落ち着きを与え、心の休まる空間となっていました。
■演出する光
安井金毘羅宮の境内にあった石塚と石像を照らす光。舞台照明に従事している魚森さんによると、パフォーミングアーツや舞踊等の、人の身体性を強調する必要のある舞台では、横から光を当てるそうで、私たちが見た照明は意図的かはわからないものの、石塚の丸みや、石像の物体性が強調されているようでした。また、左右の白熱灯・LED の明るさの違いが、偶然にもそれを強めているようでした。他の発見は、店を照らしていた電球が、左官仕上げのテクスチャ感を引き立てていました。光の当て方をもう少し検討すると、より演出性を高めることができるのではないかという意見が出ました。
京都の微地形により、分節される塀の間に間接照明を入れることで、歩行空間にゆたかさを与えており、これも演出的な効果あり。長い土塀に沿って、反復的に垂直な光が現れることで、路地空間の方向性とシークエンスを強めています。周辺の街灯や電柱などのエレメントと合わせて計画するとさらに良いのではないか。微地形による制約を、建築的・都市的なデザインへと昇華した英雄と評価できると思いました。
■京都まとめ
今回の街歩きでは、京都の都市に潜む対比的な空間構成を支える光や、闇にも親しさや落ち着きを覚える日本人の潜在的な感性を刺激するほのかで繊細な光を発見できました。京都の少しディープで美しい夜には提灯やぼんぼりの光が一役買っており、宮川町では白熱電球の提灯が現役で使われていました。また、照明だけでなく、建築情報学、建築意匠、舞台照明、アートなど、異なる専門や、子ども、学生、社会人など、異なる世代からの視点で街を観察することで、より新鮮な発見ができ、大変有意義な会となりました。 (潮田龍諒)
第70 回サロン@照明探偵団オフィス
京都&三茶街歩きレビュー
2023.10.27 伊藤佑樹
今回のサロンは街の闇にフォーカスした街歩きのレビューを行いました。京都からもオンラインで参加していただき、ハイブリッドな回となりました。LPA スタジオではスタート前から和気あいあいとした雰囲気が流れており、オンライン参加の京都の学生らは少しおいてけぼりをかんじてしまったのでは、、、というくらいに盛り上がったスタート。闇をテーマに各エリアでどのような闇が潜んでいるか、また闇の中に潜む光について話し合いました。
京都の街歩きレビューでは、京都ならではの歴史的な建造物や街の景観にフォーカスした発表をしていただきました。境内で街路灯だけが並ぶ薄暗い空間に落ち着きを感じるという意見がある中、眩しすぎる街路灯がいくつか存在し境内の闇を害しているという発見もあったそうです。神社仏閣に並ぶ提灯の明かりや街の地形を生かしたシークエンスを感じられるような明かりなど、東京とは違った闇が京都には存在していたように思います。LPA オフィスでは京都での調査員らの鋭い視点に賞賛の声があがりました。
三軒茶屋の街歩きレビューでは各班緑道をメインに歩き、その中で見つけた様々な闇について語られました。緑道に並ぶ街路灯については各班で意見が分かれ、街路樹で光が遮られているのが照度的に良くないという意見がある一方、街路樹が街路灯の発光面を隠していてグレアを感じなくて良いといった様々な意見がでてきました。明るいところと暗いところのコントストが強い空間はどの班も共通して良くない印象を持たれていたように思います。緑道沿いに並ぶ住宅からの明かりが印象的だという意見も多く、住宅の明かりだけでも良いのでは?との意見もありました。個人的には住宅の明かりを生かした緑道計画というものに興味をそそられます。
今回は闇をテーマに街歩きを行い、人によって闇に対する捉え方が異なることが分かりました。闇にフォーカスすることでその中に存在する光をより繊細に感じれるような街歩きであったかと思います。三軒茶屋の街歩きに関しては、あまり美しい闇が多くなかった印象でもあるので、また次回以降に東京で美しい闇を感じれる街があれば是非「第2 回 闇を求めての街歩き」を開催できればなと思いました。(伊藤佑樹)
出張探偵団 in 神津島
2023.10.17 東悟子
2020 年に国際ダークスカイアソシエーションの星空保護区に日本で2 番目に認定を受けた神津島。空に無駄な光を飛ばさない街路灯に替え、光害のない街づくりに取り組んでいる。この取り組みで変化した夜の環境を村民がどう感じているか、ワークショップを通して見えてきた。
世界中の天文学者や医師、環境学者を中心に光害の問題に取り組んでいる国際ダークスカイアソシエーション。世界中の光害対策を講じている都市や場所に星空保護区という認証を与えている。認定を受けるにはかなり高い基準をクリアしなければならず、ハードルが高い。その認定を2020 年に受けた神津島。島中の街路灯、防犯灯600 基ほどを上空に光がもれないものに交換。色温度も2700K のものに統一させた。星空を守るだけでなく、数十年見られなかった
ウミガメの産卵もみられ、周辺の生態系の改善にも大きく寄与している。
街路灯の交換に対する住民の反応も概ねいいようで、「白くて明るすぎる光がなくなって快適」という声を多く聞かれた。しかし「暗くて不安な所もある」という声も聞かれるということで、実際に街に出て、どの辺りが不安または心地いいのかを地元の人と議論しながら歩いた。まず目に入るすべての街路灯が同じ色温度で統一されていたのは驚きで、街のどこの角を曲がっても現れる街灯は同じ色を発し、神津島の穏やかな夜の街並みを作っていた。街の所々で見られる暗いスポットは、足元も本当に暗いが、空を見上げると満天の星空に出会えるスポットでもある。遠くに街灯が見えると安心感もあるし、星空も見えるので、街灯を足すのではなく、星空には影響しない足元灯を設置すればいいのではないかと実際に低い位置から足元だけを照らす実験をしたりした。また街の所々で出会う自動販売機の横からの照明がいい塩梅で、皆その意外な発見に驚かされた。
街灯は上方向の光はないとはいえ、まぶしく感じる所も。目に入るまぶしさ故、逆にその周りが暗く感じるといことを発見し、まぶしいところを手で隠すと、周りがよく見えるようになることを体感した参加者はだいぶ驚いていた。
照明を見ながら歩くというのは参加者全員初体験。神津島は他にはない街路灯の整備が行き届いている貴重な場所であることを再認識しつつ、不安に思っているところが少しの工夫で改善できそうというも体感してもらえたので、これからに繋がるワークショップになったのではないだろうか。( 東悟子)
街歩き in 香港
Historic Meet Light @ 香港島半山区
2023.09.05 Makalin Wongchinchai
今年、香港照明探偵団は香港島半山区で、大学生とデザイナーを招待しての夜の街歩きを開催した。今回の街歩きでは、歴史に根付いた灯りと出会えるのだろうか。
我々探偵団は、まず香港特有の建築環境が照明にどのような影響を与えているか探るところから始めた。植民地時代を反映した東洋と西洋の様式が混在する豊かな建築遺産として知られる香港の旧中心街、ハリウッド・ロード。今回の街歩きでは大学生とデザイナーを招待し、壮大な歴史的要素と現代的要素を併せ持ち、尚且つ孫文の革命の痕跡の残る孫文歴史歩道を探索した。
史跡を散策していると、道が比較的暗いことに気がついた。医学博物館や萬寶寺、あちこちにある階段も含め、ほとんどの遺産建築には照明がない。そのため、これらの遺産建築は夜になると闇に姿を消し、階段も真っ暗になってしまう。香港が世界で最も光害の多い都市のひとつであることは有名だが、光害と眩しさもこのエリアの主な問題となっている。
我々は街歩き中に商業ビルからのファサード照明や室内照明が、周囲のビルを照らしていることに気がついた。例えば、商業ビルの室内照明が教会を照らしているのだが、外から見るとこの教会に照明が当たっているように見える。
また、スポットライトで看板を照らす店やレストランが多いため、通行人に不快感を与えるほどまぶしい照明も問題になってくる。
照明の色温度の不一致が光の犯罪者であるという発見もあった。街路灯の照明の色と温度は同じエリアでも異なっていた。おそらく電球の交換が光の色温度を気にせずに行われているせいだろう。改善が必要な光の犯罪者もたくさんいたものの、木々とその間から見える都市夜景の光のコントラストは、今回の街歩きで出会ったヒーローである。それらは夜の香港の夜景を華やかに彩り、騒々しい街のストレスを忘れさせてくれる。(Makalin Wongchinchai)