発行日:2015年08月18日
・照明探偵団倶楽部活動1/第51 回街歩き:新宿歌舞伎町(2015/05/29)
・照明探偵団倶楽部活動2/東京調査:銀座 (2015/06/16)
・照明探偵団倶楽部活動2/第50 回研究会サロン@照明探偵団事務局(2015/06/23)
第51 回街歩き:新宿歌舞伎町
2015.05.29 古川智也 + 田村聡+ 坂口真一 + 山本雅文
新宿コマ劇場周辺が新しいビルに建て替わり、セントラルロードも一新された歌舞伎町。新しいビルの出現で歌舞伎町にも変化があったのか。再開発地区を中心にその周りも街歩きしてきました。
新宿東口からでて少し歩くと日本を代表する歓楽街歌舞伎町へでます。ネオンが眩しい印象の歌舞伎町ですが、2008 年にコマ劇場が閉鎖され、その跡地に今年新しい顔となった東宝ビルがオープンしました。そのオープンに伴い、歌舞伎町の表情に変化はあったのか。東宝ビル周辺と一人ではなかなか踏み込めないディープな新宿までを街歩きしてきました。
■ 1 班:セントラルロードエリア
1班は、新宿コマ劇場跡地の再開発プロジェクトとして建設・整備された、新宿東宝ビルとセントラルロードを中心に、一番街、花道通り周辺を調査しました。セントラルロード入口に新設された青色LE
Dのカギ型ポール灯は、ミニマルなデザインと爽やかなスカイブルーの光によって認識しやすく、生まれ変わろうとする歌舞伎町を象徴する存在でした。新宿東宝ビルの妻面に仕込まれたLED照明は、ポール灯と同期演出されて美しく、光の効果で実際よりも高く感じられました。
表通りの各店舗のサイン照明はLED化が進んでおり、カラフルな光や高速点滅を繰り返す光が刺激的で、歩行者の視線を如何に引くか競っていました。ネオン管の光をレトロに感じさせる光環境は、量的には過大ですが、高揚させる光として許容されると思いました。一方、5000 KのLED街路灯のグレア、シネマ館の光沢のある壁面での反射グレア、周囲に比べて明るすぎるエレベータ照明等がありました。歌舞伎町は日本の活力を示す街の一つであり、今後もさらに省エネでエキサイティングな光の溢れる街であって欲しいと思います。(古川 智也)
■ 2 班:セントラルロードエリア
新宿コマ劇場の跡地に建てられた新宿東宝ビル。ビルによりどのように歌舞伎町が変わったのかを見てみたい…と思い提案したところ、今回の街歩きが実現しました。2 班も1 班と同様、一番街およびセントラルロードを中心に歩きました。セントラルロードから見えるゴジラは迫力があり、入口の青いモニュメントとビルの光が一体感を持っていて好評でした。対照的にビル内は落ち着いた光でまとめられていて、うまく使い分けている印象を受けました。しかし外に出ると、やはり「ザ・歌舞伎町」という色温度の高いきらびやかな光も健在で、眩しくて犯罪者だという人もいましたが、これはこれで良いのではと評価する人もいて、意見が分かれました。また、ミステリアスな光で満ち溢れた裏通りや、歌舞伎町の光を支えてきたであろう電気店も見ることができました。あいにくの雨の中でしたが、特別な光で満ち溢れている街を、照明探偵団の皆さんと巡ることができて非常に充実した街歩きでした。(田村 聡)
セントラルロード入口のカギ型ポール灯と新宿東宝ビル両方とも青色で光っており、統一した印象を感じられる
地上52 mに設置された巨大なゴジラ。ゴジラが吠えると同時に東宝ビルのファサード照明も変化していた
随所に見られた無料案内所。カラフルな色を使ったサイン照明が多かった
歌舞伎町の光を支えてきた電気店。昔ながらのシンプルな看板照明が設置されている
新宿東宝ビル内のオシャレな照明。壁面は反射グレアが生じている
HUMAX( 旧地球座) のサイン照明。波形状のネオンサインはレトロな雰囲気を醸し出している
英雄or 犯罪者!? 良くも悪くも歌舞伎町・・・
歌舞伎町のサイン照明
新宿東宝ビル内の照度値を測定
■3班:ゴールデン街・区役所通りエリア眠らない街歌舞伎町。今回の街歩きはあいにくの空模様でしたがまさにそんな雰囲気を感じることができる街歩きでした。昭和の感じが色濃く残るゴールデン街は色温度の低い明かりや、なんとなく統一されたように見えるサインはとても落ち着いてるように感じました。ゴールデン街そばの遊歩道は街灯をLED 化していました。とてもグレアが強くまぶしいものでしたが、安全を優先させた結果なのでしょう。ただ光源を取替えたようにしか感じられませんでした。ネオン街の歌舞伎町の明かりは、良くも悪くも歌舞伎町。この町を主張する意味ではすべてが英雄かもしれません。全体的に、それぞれの光の主張がとても強い街だなと感じました。(坂口 真一)
■4班:ゴールデン街・区役所通りエリア
4 班はゴールデン街→歓楽街→繁華街の順番に歩きました。ゴールデン街へ向かう道中にまばゆいポール灯があったものの、街そのものは昭和の香りが色濃く残る灯りに満たされていました。歓楽街はホテルが建ち並ぶ特異な環境でしたが、建物にも客の目を引くための工夫が随所にみられました。繁華街ではカラフルで大きなネオンに道行く人々が包まれ、にぎやかで活気のある街並みを彩っていました。ゴールデン街を含め、いずれの通りもポール灯の光源はLED でした。防犯のためとはいえ、必要以上の照度のある場所や、LED の輝度が高い照明が多く、眩しさを軽減させる工夫が感じられませんでした。調査した3 つの場所はそれぞれが得意な個性のある灯りを放ち、人々をひきつけていました。にぎわいが感じられましたが、どこか異様で怖い一面もあると感じられました。(山本 雅文)
高層ビルから歌舞伎町の街明りを調査
靖国通りからゴールデン街へ向う小路。寂しい夜道を明るくする為なのか、LED 街路灯のグレアが強い
ゴールデン街の落ち着いた街並み。昭和の感じが色濃く残っている
東京調査:銀座
輝度で見る銀座の明かり
2015.06.16 根本勲+ 木村光
これまでの東京調査では、街の明るさを「輝度」という視点から捉えているものはあまり見受けられなかった。また、実際にどのくらいの輝度値や対比で街並の明るさが構成されているかまだ掴めていないところがある。そこで、今回は街を構成する光を比較しやすい銀座の明かるさを調査した。
日本有数の繁華街であり、東京屈指の高級商店街として知られている銀座。連日買い物客や観光客で賑わっているが、他の繁華街と比べ、通り全体の秩序が乱れてなく、統一感があるように感じた。それは「銀座デザイン協議会」という組織があり、銀座らしい街を形成すべく様々な銀座ルールを定めているからであった。このルールに沿って街づくりが行われている夜の銀座の明かりはどのようになっているか探っていく。
銀座4 丁目交差点。中央通り( 左側) と晴海通り(右側)
中央通り3 丁目付近
■街を構成する光
銀座の大通りを構成する主な光は街路灯・看板照明・ファサード照明・屋内からの漏れの4つの要素から成り立っている。銀座中央通りの街路灯は1種類のポール灯で統一されている。歩道・車道側をそれぞれ照らすHID ランプと、ポール灯自体もLED で発光する光柱のようなデザインとなっている。これらはほぼ等間隔で配置されて、大通りの統一感を生み出していた。この光柱は乳白色のガラス内に5000K のLED が使われており、ランプイメージなどはあまりでていなく、ほぼ均一に発光していた。またHID ランプは4300K で、眩しくならないようグレアを抑えられた配光となっていた。看板照明は、様々な色で光っていたが、動きのある演出はされていなかった。袖看板は内照式のものが多く、一定の幅で統一されていた。また、塔屋部に設置された看板はスポットライトによって照らされているものが多く、一部自発光しているものも見受けられた。高級ブランド店などのファサードは各々のブランドイメージを表現しており様々な演出照明が施されていたが、華美になり過ぎず上品な街並に同調していた。漏れ光は、ショーウィンドウなどが多いことから、店舗前の歩道を明るくしていた。また、高級ブランド店が多いこともあり色温度は全体的に低くなっていた。
■歩道の照明
中央通り断面スケッチ
中央通りの歩道はポール灯が片側配列となっており、25 ~ 27 mの等間隔で配置されていた。照度値はポール灯直下で約95lx、ポール灯間歩道中央で約25lx となっており、明暗部で4倍近くの照度差が出ていた。
■輝度の分析
今回の調査の主題である輝度について、以下の2つの視点から見た輝度値やその対比から明るさを読み解いた。
1. 銀座4丁目交差点から三越側を見た視点
2. 銀座1丁目から中央通りを見た視点
輝度値を測定する方法として、カメラで撮影した画像を元に輝度分布画像を作成したものと、輝度計を用いて測定した。
■1. 銀座4丁目交差点から三越側を見た視点
銀差四丁目交差点 輝度分布図
ここからの視点で最も輝度値が高くなったのは、三越エントランス上部の看板を照らしているスポットライトの光源で約12000cd/m2 となっており、その他の平均的な輝度値の何百倍もの明るさになっていた。写真右上の外照式看板は白色のところで約150cd/m2 となっていたが、赤色のところでは約20cd/m2 となっており、受光面の色によって輝度値が大きく異なっていた。(輝度対比 約1:7.5)三越ファサードのアッパーライトされている受光面は、メタリックのものと看板が設置されている素材のものがあり、この素材の違いにより光の伸び具合が異なっていた。(輝度値 約5 ~ 100cd/m2, 最大輝度対比 1:20)
写真右上に見える水色の看板はLED で自発光しているタイプであり、輝度値は見る視点と発光している色によって異なっていたが、約100 ~500cd/m2 となっていた。これはこの交差点の空間では大きな面として全体的に明るくなっていたので、他よりも目立って見えた。4 丁目交差点のシンボル的な建物である、銀座和光のファサードと三越のファサードは、同じ照明手法でアッパーライトされており、輝度値も同等程度であった。
以上のことから、この視点からの明るさ感は外照式看板のスポットライトの光源が突出して強くなっており、その他のところは同じ光源で照らしていても、受光面の色や素材の違いによりバラつきが出ている事が分かった。
■ 2. 銀座1丁目から中央通りを見た視点
銀座一丁目中央通り 輝度分布画像
この歩道からの視点で最も強く目に入ってくる光の要素は袖看板であった。内照式の白色のもので約300 ~ 500cd/m2 となり、その他の色では約10 ~ 300cd/m2 となっていた。また、ポール灯の支柱面は約200cd/m2 となっており、同じ白色の内照式看板の輝度値よりも低くなっていた。HID ランプの輝度は4000 ~ 8000cd/m2 となり大きい値となったが、若干見上げた視点での輝度なので、通常の歩行者の
視野ではグレアを感じることはなかった。また、画像から見て分かるように、光は通りの奥側に集積しているように見える。
POLA のファサード演出照明は光の動きはあるが、約10 ~ 20cd/m2 となり、看板やポール灯よりも低い値となったが、ファサード全体が発光している為、暗いと感じることはなく上品な明るさに感じた。また、オフィス窓面の輝度は一般的に約10 ~ 30cd/m2 となっており、ファサード照明の明るさと同程度であった。歩道面の輝度はポール灯直下で約10cd/m2 となり、ポール灯間では6cd/m2 となっていたので、輝度対比がおよそ1:2 で連続していることがわかった。車道においては約2 ~ 5cd/m2 となり、歩道よりも暗くなっていた。
■まとめ
今回の調査で夜の銀座の明るさ(輝度)を体系的に捉えることができた。銀座は多くの光で満ち溢れており、予測では様々な光が競い合うように強い輝度がでるのではないかと考えていたが、多くの有名ブランド店の明かりなどは平均して約50cd/m2 となり、抑え目の輝度となっていた。実際に目で見た感覚としては「落ち着いた高級感」といった印象を受け、全体的に品格のある光で構成されていた。今後の課題と
して、銀座の大通りだけでなく小路など調査範囲をもう少し広げれば、新たな銀座の光環境が発見できるかもしれない。
第50 回研究会サロン@照明探偵団事務局
2015.06.23 黄 思濛+ 東悟子
土砂降りの中で行われた歌舞伎町の街歩きを振り返るサロンを開催しました。たくさんの犯罪者があげられると思いきや、意外な展開に。
第51 回街歩きのサロンが6 月23 日に行われました。街歩き当日はあいにくのどしゃ降り。ほとんど外を歩けなかったので話題が少ないサロンになってしまうのではないかと多少不安はありましたが、各団員厳しい条件の中でも新しい発見をして来ている事に驚きました。
今回は各班の歩くエリアを限定していなかった上、雨のせいで予定していたコースが歩けず、各班たどった場所はほぼ同じでした。歌舞伎町という特殊な場所だった為、思うように写真が撮れなかったのが残念でしたが、今まで歌舞伎町に足を踏み入れるのを躊躇していた、という団員もいたので、今回の街歩きを通して、歌舞伎町に対しての見識が変わった人は私自身含め、少なくないと思いました。歌舞伎町と言えば、真っ先に話題に上がるのが今年オープンした新宿東宝ビル。その屋上に設置されたゴジラが歌舞伎町のニューシンボルになった事は誰も否定出来ないでしょう。ホテルのファサードに取り付けられたRGBのLED 照明は通常の演出はもちろん、ゴジラの演出にも合わせてプログラミングされています。最近では何かと批判が集まるメディアファサードですが、ここでは英雄の意見が多かったように思います。ロボットレストランや無料案内所、、直視出来ないほどのギラギラ照明でしたが、それらも英雄という意見が多く聞かれました。歌舞伎町だからこそ許される照明なのではないでしょうか。
その一方でゴールデン街に並ぶこじんまりとした飲み屋の自然な色温度の低い照明や歌舞伎町の中にある昔ながらの電球屋、こういったレトロな要素も対比になっていて面白いという意見も。
今回意外だったのは犯罪者が少なかった事。ポール灯が遮光されておらず眩しい、ショップウインドウの照明が商品を照らしていない等の意図に反したものが犯罪者として上げられていました。
発表資料:光の犯罪者
発表資料:光の英雄
どうやらここでは意図的に設置されている照明は眩しくても、派手でも歌舞伎町ではあり!という感覚になってしまうようでした。普段の街歩きとは一味違った体験が出来た今回の歌舞伎町。何が英雄で何が犯罪者か、その概念は一概には言えません。その場所の背景や文化が強調できるのであれば、普通は犯罪者として糾弾してしまうものでも英雄になりうる。今回の街歩きはそんな発想の転換を与えてくれる場となりました。 (黄 思濛)