探偵ノート

第84号 – 光のラビリンス/Milano Salone 2021

Update:

【光の迷宮/Labyrinth of Light】と名付けた神秘的な光のインスタレーションを、今年のミラノサローネで発表した。www.nitto.com/jp/ja/products/raycrea/ 

NITTO電工からの依頼で、彼らが開発した新素材Raycreaを用いた光の空間デザインだったが、これが想像を超える来場者の反響を得た。Covid-19 Pandemicの中での開催なので入場制限が必要なぐらいの人の列ができていた。今日は9月8日、私は独り早々の帰国便で安堵の祝杯をあげている。「100%に近い出来栄えだったなあ…、うん、良かった…。」

このようなインスタレーションの仕事は建築照明デザインの世界とは別物で、光と人間との距離が近く直感的で刺激的な成果が求められる。特に今回の仕事は時間軸を伴う演出デザインに近いものなので、会場は「客席のない劇場」のようなもの。光の迷宮を自由に彷徨う人たちは自分の興味に従って視線を移動させるが、移動によって変化する情景と共に、演奏されるがごとく変化する多層な光に困惑させられる。

イタリアの太陽が作る10万ルクスの秋晴れを体感した来館者が展示館に入ってくる。黒壁の案内に導かれ急に光のラビリンスに出会うと、誰もが先ず立ち止まり、目の前で何が起こっているのかを真剣に観察する。しかし観察してもその迷宮の正体は解らない。この光は何処から発しているのだろう? 仕方なしに足を進める。幾重にも輝き透過する光のレイヤーにぶつかり、身体と視線を右へ左へ移動させる。と、その奥に光の大樹が現れる。大樹は下から上から多彩な光を放っている。

この仕事はかつて建築家・原広司さんが発想した『影のロボット』に発想の起源がある。私はその展示会のお手伝いをした。その頃のLEDや制御技術は甚だ稚拙だった。しかし「オーバーレイの手法」や「音楽ならぬ光楽」を提案し「光の楽譜」を描こうとした志は、今ここに先端技術をもって進化したパフォーマンスを作り上げている。光が音を奏でる。多様な光をまとったRaycreaが光のシンフォニーを可能にした。

まあまあ、この仕事を語ると何時間にもなりそうだから、こんなところにしておこう。コロナ禍で何度も挫折寸前まで追い込まれたが、それをもめげず実現させたクライアントやデザイン+施工チームを称賛する。3年ぶりのミラノの太陽と風にも感謝する。う~ん、何よりやっぱり自由に動き回ること自体が嬉しいな。

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