発行日: 2023年 02 月 01 日
・照明探偵団倶楽部活動1/東京調査 下北沢(2022.10.27)
・照明探偵団倶楽部活動2/街歩き: 下北沢&神戸(2022.11.25&11.26)
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東京調査 下北沢
2022.10.27 渡邊元樹+ 劉伝熠+ 伊藤佑樹
今回の東京調査は、若者に人気の下北沢。東京で最も文化的な街の一つとして、 古着店、飲食店、劇場、ニッチな映画館やアートギャラリーなどが連立する街である。照明探偵団が2009 年に行った下北沢の調査から、小田急線埋設により、街がどのように変化したか、また2022 年5 月28 日に開業した「下北線路街」を調査し、新エリアの照明計画を吟味すると同時に、古くからの商店街とも比較してその差異を探究した。
下北沢駅周辺地図
小田急線の地下化に伴い、東北沢駅~世田谷代田駅の間に新しい街【下北線路街】が開発され、まちを支援するという思いから、地域住民の声を聞きながら再開発を順次進め、2022 年5 月28 日に全面開業した。 線路沿いには、保幼園、温泉旅館、商業施設、学生寮、イベントスペースなどが新設された。
■下北線路街開発
今回調査した下北線路街は、小田急線の地下化により生まれたスペースに新しく開発されたエリア。今まで線路で分断されていた南北エリアを繋げたいという思いも込められており、随所に回遊性の生まれるような開発が行われている。
緑地化された広場エリア、テントやフードトラックなどで構成された仮設エリア、また新しく建てられた商業施設が連なるエリアといった多種多様な計画が行われている。特色が異なるエリアごとにどのような計画が行われているかに着目し調査を進めた。
■空き地
東口を出て東北沢方面へ向かうとまず『空き地』と呼ばれる開発エリア。このエリアはテント/ コンテナ/ フードトラックといった要素で構成され、仮設の空間となっている。空間全体はカテナリー照明と店舗からの漏れ光のみとい
ったシンプルな光環境。色温度は2400K の光を使っており心地良い明るさ感を作り出している。敢えて簡素な造りにしているのかもしれないが、開発エリアと呼ぶには簡易的すぎる印象を受けた。しかし簡素な空間であるが故に今後
様々な空間への展開が行われる可能性もあるように感じた。
空き地エリアは従来の下北沢の街中にぽつりと佇むように存在している。全体的に落ち着いた雰囲気を持つ古い町並みと、新しく計画され初々しさを放つ再開発エリアの景観が隣り合う景色はとても複雑であり、かつ今後の新しい下北沢の風景でもあるように感じた。
■ Reload
空地エリアを更に北西へ進むと、次は店舗が立ち並ぶ商業施設『Reload』に続く。Reload内にはポップアップストア、お香専門店、立ち飲み屋、古着屋や理髪店など、下北らしい形態の店舗が入っている。施設の要所には吹き抜け
空間が設けてあり、それぞれ1、2 階の店舗前スペースにはテラス席が設けられ屋外での回遊性が自然と生まれるような計画がされている。
Reload の照明は主に空地エリアと同じくカテナリー照明と店舗からの漏れ光で構成されている。カテナリー照明でほんのりと照らされた床面照度は20lx となっており、程よい明るさ感を演出している。Reload の印象は、周りに影響を
与えず単一で完結している空間であるが、一方で閉ざされた印象にも受け取れる。多くの年代の方に興味をもってもらえる店舗が多くあるが、Reload 内への誘導性が少し足りない気もした。
外への余分な光を出さないことは素晴らしいが、もう少し中へ誘導するような照明計画が施されていると、よりReload エリアでの回遊性が生まれるように感じた。
■ NANSEI PLUS・シモキタエキウエ
駅自体やその周りのエリアも開発されており、駅舎2 階には雑貨屋や飲食店が立ち並ぶシモキタエキウエ、南西口をでるとシアター・カフェ・ギャラリーなどが併設されたNASEI PLUS が広がる。シモキタウエは駅舎内の空間であるため隣接するNANSEIPLUS と比較すると、明るい(色温度3000K、照度300lx)空間となっている。一方でNANSEI PLUS エリアは色温度2700K の光が使われており、全体的に落ち着いた光環境となっている。各所に設置されたス
タンドライトのデザインにも細かな配慮が見受けられ、光源を筒状のフードで覆い床面だけに光を落とす形状となっており、歩行者の目に直接光が届かないようデザインされていた。隣り合う両エリアで少し光環境にギャップを感じたが、駅舎という明るさを確保する必要がある空間と商業施設と併せた照明計画を行うのは難しいところである。 (伊藤佑樹)
■ののはら
NANSEIPLUS を出て、緑地帯の遊歩道を歩いていくと、家族や学生らが多く集まる『ののはら』に入る。ここは他の下北沢のショッピングエリアに比べ全体の色温度が低く、商業施設も少ないので、より温かみを感じさせ、心地よ
い空間になっている。『ののはら』にはバスを仮設書店にしているものがあり、その裏には下北沢園芸部もあり、昼間子ども達が多く集まってくる。広場内の植物はきちんと計画された照明で照らされておらず、夜間は書店の光が目に入るが、色温度を統一している為通りの静かな雰囲気によく合い、好印象だった。
個人的な印象としては最初は今回行われた再開発は従来の下北沢の街並みと乖離しているようには感じた。しかし調査を終え考察していく上で、今後空地/Reload エリアを皮切りに従来の下北沢の街並みと再開発後の街並みとが馴染んでいき、新たなる下北沢の景観を作り上げていくのではないかとも感じた。 (劉伝熠)
■変わる街
調査する中で老若男女様々な層の人が下北沢に訪れていた事、また新しく開発された下北線路街を中心に人の回遊性があることを感じた。2013 年に駅の北と南を遮断していた地上線路は地下に移され、街にはこれまでになかった人
の導線が生まれた。今回新しくオープンした『空き地』や『Reload』などの商業施設ではポップアップストアなど多く出店し、簡素化された空間に自由度や仮設性を持たせる事で決まったエリアに人が長期集中して滞留することを避けているように感じた。これに沿うように照明計画は色温度、光源の位置など基本的なルールを定め且つ照明器具が極力目立たないようにし、人の導線を作るのに一役かっていた。人を集め留まらせる事ではなく動かすことで街を活性化しようとする試みは、下北沢の街が持つ色合いや特色を単一企業や自治体による開発で上書きするのでなく下北沢で生活する人訪れる人に今後の街づくりの方向性を託されているようで、地元民の街への愛着や思いを大切にしているように感じた。 (渡邊元樹)
第70 回街歩き: 下北沢&神戸
文化発進地の光環境
2022.11.25 & 26
小口尚子+坂口真一+發田龍治+古川智也+大久保杏美+本間睦郎
2019 年以来3 年ぶりにみんなで1 か所に集まっての街歩きを開催。
『文化発信地の光環境』をテーマに関東では面白い開発が続々と完成している下北沢、関西ではおしゃれな街神戸を歩きました。
本格的な冬が始まる前に、およそ3 年ぶりの大人数での街歩きを行いました。テーマは『文化発信地の光環境』。関東では下北沢、関西では神戸と、2 か所での開催となりました。
下北沢での街歩きは参加者が4 班に分かれ、2 班は小田急線世田谷代田駅から、残りの2 班は東北沢駅から、それぞれ下北沢駅を目指し歩きました。
また神戸では六甲山頂からの夜景を見てからの街歩きスタートとなりました。
■下北沢ー1 班
1 班は世田谷代田駅から下北沢駅までのコースを歩きました。まず代田駅から温泉旅館由縁別邸までの道は、シンプルで主張のないスタンドと樹木へのアッパーライトで構成されており、情緒や落ち着きを感じさせる光環境となっていました。また、ポールの眩しさは多少あったものの低い色温度で統一されていることでそこまで気にならず、安全面を考慮すると適当な照度に感じ、総合的に英雄となりました。
低層商業コンプレックスBONUSTRACK( ここまで2 班と合同) を超えて、昔からある下北沢一番街へ。昔ながらの街路灯は色温度が高く、店舗の灯りと調和していないというところで犯罪者。また2 つの対照的なコンビニがあり、ひ
とつはメンテナンスがされておらずランプが切れているコンビニ、もうひとつは看板だけでなく店内の什器照明も一部消灯している節電の意図が感じられるコンビニ。前者は犯罪者、後者は英雄となりました。
下北沢一番街の街路灯に対して、下北沢東会のステンドグラスの街路灯は下レトロで街に合っているということで英雄との意見が多くありました。
最後に訪れた2022 年7 月開業の高架下の商業施設ミカン下北は電球のイルミネーションや大階段のライン照明、店内のネオンサイン等、見せる演出照明を多用し「映え」を意識した光環境となっていました。
小田急電鉄が掲げている「支援型開発」というテーマにふさわしく、昔ながらの良いところは残しながら、地域の人々と訪れる人々がこれからつくっていく街というのが随所に感じられる街歩きでした。 (小口尚子)
■下北沢ー2 班
2 班も1 班同様、世田谷代田駅からスタートし、下北沢駅までのコース。世田谷代田駅前は電球色の落ち着いた雰囲気で温泉旅館のある通りを歩きました。温泉旅館の行灯風の特注低位置照明と拡散配光のポール照明が併用されていましたが、低位置照明だけの方が情緒的で美しいようにも思います。駅前の防犯という事も考慮するとポール照明で床面15lx の照度を確保せざるを得ないのでしょうか。
しばらく歩くとBONUS TRACK という賑やかな下北沢で3 年ぶりの大人数での街歩き一番街の色温度が高い街路灯2020 年に開業した新しい商店街があります。ここでは電球をぶら下げたカテナリー照明や蝋燭の光など夜のあかりを楽しむ工夫がされており団員からは「英雄」との意見。一方ここの看板は、眩しすぎるという評価で「犯罪者」に。
下北沢駅前の商店街は、光がゴチャゴチャになっているが、それが下北沢らしさとも考えられ、そこに魅力も感じられます。英雄か犯罪者かと物議を醸したのはステンドグラスの街路灯。
「個性がある」「二連になっていて美しさが消されている」「こんなの今は作らない」など様々な意見がありました。
京王下北沢駅側商業施設にも電球を直接見せる照明が多くあり、今回のコース全体にこの手法が多く見られました。光源はLED になっていましたが懐かしさを感じさせます。昭和、平成、令和という時代を肯定し楽しもうという雰囲気を、この街の光から感じ取ることができました。 ( 發田隆治)
■下北沢ー3 班
3班は、小田急線・東北沢駅の西側から下北沢駅周りを調査。両駅の中間エリアにできた低層分棟式の商業施設「r e load」は、オープンエアの白い建物に多くの植栽が施され、地明かりや演出照明の温かい光に包まれていました。
珍しい黄緑色LED で細かな葉が発光しているように見えるクリスマスツリーイルミネーションや青色サインと室内から漏れ出る明かりがムーディという理髪店のほか、通路に面した窓から白く強烈な光を発して雰囲気を壊している
古着店、建物壁面に異様な影を作っている樹木のライトアップ、植栽の中に放置されたストリングライト等を発見しました。
シャッターギャラリーや天狗まつりで知られる下北沢一番街商店街は、老舗商店も多く、郷愁を覚えます。しかし、商店街の突き当りの頭上近くに設置されたデジタルサイネージの光は、大量・高輝度で唯一目立ち、夜の景観を損なっていたのが非常に残念でした。
京王線・下北沢駅の高架下にできた商業施設「ミカン下北」では、あずま通りと交わる高架橋下を照らし上げて、暗がりのない開放的な空間が生まれており、全員一致で英雄。
駅へ続く高架横は、通常、素通りする空間が多いですが、街区を通る「アクセス道路」として整備し、ライン照明が施されて、アウトレットパークのように整っていて高揚します。
飲食店が並ぶ通路は、架線の碍子やケーブルを使った電鉄会社にとって象徴的な空間がデザインされ、リズミカルで程よい光が床に落ちています。有名ベーカリーや大衆ビストロ、タイ、台湾、韓国、ベトナムといった多国籍の魅力的で明るい店内へ目が向いて、楽しい宴へ誘われました。次回はゆっくり下北沢を訪ねたいと思います。 ( 古川智也)
■下北沢ー4 班
4 班は東北沢駅から下北沢駅まで主に鉄道の地下化や高架化によって大きく街の雰囲気が変わったところと昔ながらの雰囲気を残すところを歩きました。
線路跡地に新しく開発されたエリアは、全体的に色温度が低く照度も高すぎなかった一方、開発エリア外では商業施設が立ち並ぶ明るい場所もあり、落ち着いた明るさのエリアと賑やかで明るいエリアとが混在していました。しかしどのエリアもコンセプトをもって照明計画されていると感じました。今回は英雄が多かったように思いますが、そんな中でも樹木のライトアップは建物に影ができ、やっぱり難しいと感じる場所もありました。
線路沿線から少し離れたエリアは昔の良き昭和の雰囲気が色濃く残る場所が多く、ザ・スズナリのレトロ感やその周囲にあったステンドグラスを使った街灯など、どこか懐かしい雰囲気を感じることができました。
下北沢駅周辺はもともと線路があった場所をどのように活用していくのかという意味では、渋谷の東横線跡地同様、活用例の一つとして線路があった時代との比較などできるとよかったのではと思います。そういう意味でも、以前街歩きした箇所を振り返り、大きく様子が変わったと思われる場所を、以前の資料も振り返りながら街歩きしてみるとまた新たな発見ができるのではないかと思いました。 (坂口真一)
神戸
神戸の夜景は日本3 大夜景の一つとされています。今回の街歩きは、最初に、この神戸の夜景を遠景で眺めるところから始めました。六甲山頂からの、まるで点描画のような眺めはもちろん英雄だったのですが、なかでも港湾施設に散りばめられたオレンジ色の光が特に印象的でした。オレンジ色の光の正体はナトリウムランプ系の高輝度放電灯だと思うのですが、近くで見ると、犯罪者になりがちな毒々しい強烈な光も、海と陸の境界線を示す点描画の構成要素となると、素敵に個性を発揮してくれることを発見しました。一方で、カラフルな原色RGB の光は遠目にも違和感を覚えました。
その後、私たちは「点描画を構成する光を拡大して見てみよう!」との主旨で六甲山頂から神戸市内へ移動しました。
遠景では、大阪・神戸の特徴的な点描画のような光の密集度合いや散らばり方に英雄を感じたのでしたが、近景では、神戸のオシャレな雰囲気とそれを活かす照明計画が実に素敵で、こちらでも至るところに英雄が出現していました。さりげなくルイスポールセンの器具が街灯に使われていたりするのも素敵でした。本来、形のある器具はその個性が街並と不一致となることもあると思うのですが、神戸では最適なマリアージュ状態でした。
しかし、古くからの文化を震災にもめげず復興して維持している、そんなオシャレな神戸の街にも新参者的な犯罪者も目につきます。なんといっても最凶の犯罪者は、やはり原色RGB の光です。この情緒をぶち壊してしまう暴力的な存在は、山頂から眺めたときには違和感に留まっていましたが、現地の近景では、凶悪犯罪者としての姿を開き直り的に露わにしていました。
例えば、中華街の入口を象徴する門に対して、その本来の色を無視した毒々しい原色RGB の照射光は意味不明です。本来の門の姿にまったく合っていません。まるでピノノワールの豊潤なワインに七味唐辛子を振りかけて飲むような違和感があります。私は、辛い物が比較的好きで、特に京都の黒七味はうどんに振りかけると香ばしさが加わり、出汁も引き立つと思うのですが、まさか、これまた大好きなワインに振りかけて飲もうなど考えたこともありません。多くの人々も同様と思います。なぜならば、どちらも個性が強く、しかも、存在している世界が違い過ぎるからです。RGB 照明も同様で、それが似合う街並みもあるのかもしれませんが、本来の姿や色が印象的なものへの無造作な原色の照射は、お互いが否定し合うが如く良いところは決して見えてこないものだと思います。
さらに、メリケンパークでもRGB 原色照明の罪悪を目の当たりにしてしまいました。メリケンパークにある海洋博物館は、まるでカラトラバ作品のような構造美です。本来、これをライトアップするのであれば、この造形を活かすように照射するのが照明デザインの基本のはずです。これをLED の技術面を誇るが如くのRGBでのカラーチェンジ照射をしてしまうと、本来の構造美が希薄になってしまいがちです。せっかくの豊潤な構造美に対しての、別世界のような脈絡のないRGB のカラーチェンジ照射は、違和感でしかありません。さらに、こういった色使いは個性だけは強いので、同じように照射をされている地域の印象を平準化させてしまいます。つまり、どこもかしこも同じように見えてしまうということです。もっとも、確かにどこもかしこもインスタ映えすることにはなるのでしょうが・・・・
無意味に思えるカラー照射は、前回の関西地区街歩きにおける大阪中之島でも目立ってしまった犯罪者なのですが、これらは「光害」ならぬ「色害」といえるのではないでしょうか。街あかりは「映え」だけを狙うのではなく、照射されるものに対するリスペクトを忘れることなく、いかに活かすかが大切だと思うのです。
現代の、至るところで一触即発的な緊張が高まっている地球においてでも、きっと、皆が相手へのリスペクトさえ忘れなければ、仮に多少の諍いは生じたとしても、決して戦争に至ることはなく平和が維持できるはずです。
リスペクトの精神こそが平和に繋がるのだ!・・・照明分野から発信していきたいものです。
( 大久保杏美、本間睦朗)