発行日: 2025年 3月 1日
・照明探偵団倶楽部活動1/ 世界都市調査: ハノイ(2024.11.21-24)
・照明探偵団倶楽部活動2/ Lighting Detectives x Glow Shenzhen (2024.12.19)
・照明探偵団倶楽部活動3/ 団員年間活動報告会 (2025.1.16)
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世界都市調査: ハノイ、ベトナム
2024.11.21-24 劉伝熠 + 蒋坤志
歴史と現代が融合するベトナムの首都、ハノイ。その豊かな文化的背景により、東南アジア屈指の観光地としての地位を確立している。旧市街や聖ヨセフ大聖堂、ロッテタワーなど新旧が交錯するこの都市で、光を通じてハノイの夜景文化を掘り下げていく。

人口一億人の大国、ベトナム。ハノイはその首都として政治・文化・経済の中心を担い、重要な交通拠点にもなっている。2020年7月、ベトナム政府は夜間経済の発展を促進する政策方針として、第1129号決定を発表。ハノイをその試験都市に指定した。豊富な遺産や独自の文化芸術が、ハノイのナイトツーリズムの発展に有利な要因となっている。
ハノイの都市照明は、地域や用途ごとに明確な個性が感じられる。旧市街では狭い路地や古い建物が並び、夜市が賑やかな雰囲気を作り出している。夜間の照明は主に各店舗が趣向を凝らした装飾ライトで構成され、その活気を一層引き立てている。一方、ホアンキエム湖周辺では、水面に映る柔らかな光と湖中央に佇む亀の塔へのライトアップが調和し、静かで穏やかな景色を作り出している。
新市街では、現代的な建築物のファサード照明や明るいLEDライトが、モダンで洗練された都市の姿を演出している。さらに、動きのあるライトアップがその活気を一層際立たせている。
観光客の集まる夜市や商業エリアには、ハノイ特有の活気とエネルギーが溢れている。カラフ
ルなネオンライトや看板照明、多彩な装飾照明が街全体を照らし出し、ハノイの夜間経済の躍
動感を象徴している。しかし一部のエリアでは、高輝度の看板照明や過剰な装飾照明が、視覚的な疲労や光害を招くことが懸念される。次からはエリアごとに詳細な分析を示す。(蒋坤志)
■ トレインストリート
ハノイのトレインストリートは、狭い路地を列車が通過するユニークな観光スポットである。日中のトレインストリートは、ハノイ旧市街の中でもひときわ庶民的で、地元民の生活を身近に感じられる場所として知られる。線路の両側には住居やカフェが立ち並び、訪れる観光客は地元住民のユニークなライフスタイルを間近に見ることができる。自然光と通りの装飾が調和し、陽光がレールに差し込む様子は、ここだけの特別な情緒を醸し出している。賑やかな雰囲気が漂う一方で、現役の鉄道が通過する狭い通りであるため、安全面での懸念も残る。
夜間の照明は高色温度から低色温度、さらにはRGBライトまでもが入り混じる。全体的な色温度はおおよそ5000Kで、主な光源は沿道のカフェや屋台に設置された装飾用ライトだ。ネオンサイン、ランタン、看板のライトボックス、樹木に吊り下げられた小型のドット照明が通りを彩り、機能性と装飾性の両方を兼ね備えた光を提供している。しかし、装飾照明の多くは簡易な作りで、裸電球がそのまま使用されている場合がほとんど。過剰な使用も目立っていた。また周辺の他の通りと比べて圧倒的に明るく、そのコントラストの視覚的なインパクトが際立っていた。この明暗差がトレインストリートの夜の景観に特別な個性を与え、唯一無二の魅力あるスポットになっているようだ。(蒋坤志)



■ 旧市街
昼間の旧市街は、その狭い路地と伝統的な建築
で知られる、ハノイの歴史と文化を凝縮したような場所である。街には伝統工芸品や衣料、ベトナム料理の商店が軒を連ねており、濃厚なベトナムの空気を体感できる。陽光の中、活気あふれる街並みは、訪れる人々にハノイ特有の文化的魅力を感じさせる。混沌としながらも、この街ならではのリズムが息づいているのだ。
一方で、日没後の旧市街は別の表情を見せる。ネオンサインや看板照明、夜市の屋台が街を彩り、色彩豊かな光景を作り出す。バラエティ豊かな照明が街並みのアクセントとなってはいるが、光の分布が不均一。そのため一部のエリアでは明るさが過剰になっており、視覚的な疲労を招く可能性がある。ネオンや看板照明を多用した結果、夜の旧市街は活気に満ちつつも雑然とした印象になってしまっていた。(劉伝熠)



■ 新市街
新市街には、ハノイのモダンな一面を象徴するような、洗練された都市景観が広がっている。広々とした道路やガラス張りの高層ビルが立ち並び、自然光がガラス面に反射することで建物に奥行きが生まれ、街全体が明るく爽やかな雰囲気に包まれていた。
夜になると、ファサードを彩るクールトーンのライトアップで、さらにそのモダンさが強調される。動きのある演出照明と建物のラインが巧みに融合し、建物に躍動感を与えているが、一部の建物では照明デザインに工夫が見られず、外壁の照明器具の破損やメンテナンス不足が目立つ。また色温度にもばらつきがあり、それが街全体の夜景の統一感を損ねてしまっている。
新市街の象徴的であるロッテタワーは、動きのあるライトアップと多彩なカラーチェンジを駆使し、夜景のアクセントとなっている。特にタワーのクラウン照明は、街の夜空を鮮やかに彩り、人々の視線を惹きつける。しかし、メンテナンス不足により、一部の照明が消えていたり、色温度が統一されていない箇所があるのは改善すべき点だ。ロッテタワーの展望台から眺める夜景は、ハノイの活気と繁栄を象徴するかのよう。ハノイの街全体が煌めく光の海のごとく広がっていた。(劉伝熠)


■ 聖ヨセフ大聖堂
聖ヨセフ大聖堂は、ハノイを代表するゴシック建築のひとつで、その尖塔やアーチ型の窓には
フランス植民地時代の影響が色濃く反映されている。昼間は太陽光が建物の繊細で美しいディテールを一層際立たせていた。広場を取り囲むようにカフェや工芸品店が点在し、訪れる人々に穏やかで文化的なひとときを提供し、聖堂を中心とした風景に更なる奥行きを与えている。
夜になると、聖堂は暖色系のライトアップによって、荘厳さと神聖さを一段と際立たせる。尖塔や窓の装飾が照明の演出で際立ち、訪れる人々の視線を引きつけるが、広場全体の照明は統一感を欠いている。周囲の店舗から漏れる光は雑然とした印象を与え、広場のメインの照明も高色温度の大型投光器に依存しているため、部分的に明るさが不足したエリアが目立っていた。それにもかかわらず、聖堂そのものが放つ光には重厚な歴史の息吹が宿り、訪れる人々に深い感銘を与える。夜空に映えるその姿は、ハノイの歴史と文化を象徴するランドマークとして、静かに街の夜景を彩っている。(蒋坤志)


■ まとめ
ハノイの夜景の魅力は、歴史あるランドマークと現代建築が織りなす光と影のコントラストにある。聖ヨセフ大聖堂や亀の塔といった歴史的建築物は、暖色系の照明に照らされ荘厳で深い趣がある。一方現代建築は、洗練されたデザインと鮮やかな照明で都市の活力を象徴するような印象だ。この融合により、伝統と革新が調和する、ハノイならではの都市風景が生まれている。またホアンキエム湖の夜景は、静かな湖面と賑やかな夜市の対比が特徴的で、自然と人工の光が織り成す美しさが見る人を楽しませる。ネオンや看板照明はこの街に活気をもたらす一方、光害や過剰な照明が課題として浮き彫りになっていた。
ハノイの夜景は、歴史と文化が息づく風景であり、都市の個性を映し出している。街を照らす柔らかな光が建物を静かに彩り、訪れる人々に穏やかな夜の景色を楽しませてくれる。(劉伝熠)
Lighting Detectives x Glow Shenzhen
Hide and Seek with Light, a reflective art workshop
2024.12.19 林 虎 + 劉 仙玉 + 林 晃毅
2024年12月19日深圳にて、持続可能な都市デザインと光害問題への意識向上を目的に、創造的な地域コミュニティアートを通じて活動を行いました。様々なバックグラウンドを持つ80名の参加者が蓮花山公園に集まり、「光のアーティスト」へと変身しました。
市民参加型アートイベント「Glow Shenzhen」への参加は5年ぶり。今年は「Infinite Illumination」部門において金賞を受賞しました。
中国城市規劃設計研究院深圳分院および深圳照明学会と協力し、今回のワークショップでは光害対策と都市環境における自然な闇の保護に焦点を当てました。
80名の参加者が蓮花山公園に集い、実践的な体験を通して「光のアーティスト」へと変身しました。調光可能な手持ちの懐中電灯と反射素材を用い、明るさと暗さの繊細なバランスを探求し、環境に配慮した赤色光を使ったオブジェを制作しました。


実際の制作作業に入る前に、主催者による簡単なイベントの主要な目的の説明等がドーム内で行われました。照明探偵団の代表である面出氏と笠井氏は、団体の設立背景やこれまでの活動、特に5年前に開催されたイベント「Shenzhen Nightscape 2030」 について紹介しました。参加者からは、「ライトアップ忍者」や「夜の街歩き」、「子ども向けワークショップ」といった照明探偵団ならではのイベントに対して高い関心が寄せられました。レクチャーの締めくくりとして、林団員が各種素材の特性を実演し、創作に役立つ技法を参加者に丁寧に指導しました。
ワークショップでは参加者を数グループに分け、約3時間で作品制作に取り組みました。制作手法、素材の選択、発表方法は多岐にわたり、多様な表現が展開されました。絵画や貼り付け、織りなどを通じて、予想を超える素晴らしい作品が生まれました。紙細工を専門とする2名のアーティストによる精緻なパターンも披露され、参加者の熱意と創造力には大きな感銘を受けました。作品完成後、空が暗くなり始めた頃、グループごとに夕暮れの中で集合写真を撮影しました。



制作時間が終わると、それぞれが制作した作品を蓮花山公園の暗闇の中に配置しました。参加者全員で暗闇の中を巡りながら、お互いの美しい作品を鑑賞し合いました。制作した作品は都市の公共空間の一部となり、市民が自由に探索し楽しめるものとなりました。
中でも特に注目を集めたのが、影と光を融合させた大きな巻物状の光のアート作品です。このインタラクティブな作品は、目的を持って設置された照明が都市の景観をいかに高めるかを示すだけでなく、遊びを通じて都市空間について考えさせる作品となりました。また、都市開発と環境保護のバランスに関する新たな提案にもなりました。
また、5年前の「Shenzhen Nightscape 2030」のように、照明探偵団のロゴの形を模した集合写真を暗闇の中で撮影しました。
アート、エコロジー、コミュニティの共創が融合した「光のかくれんぼ」は、持続可能な都市デザインの新たな道を照らし出し、「Glow Shenzhen」の「Infinite Illumination」プログラムにおいても高く評価される注目の取り組みとなりました。



団員年間活動報告会
2025.1.16 東悟子
毎年年末に探偵団協賛各社の方と団員と合同で年間活動報公会を開催していましたが、今年は分けて開催。団員の方の2025年活動への希望もゆっくり聞く会にしたかったのですが、話す内容が多く、あっという間の2時間となりました。
月島のスペイン料理店を貸し切り、2024年の探偵団活動を振り返る会を開催しました。まず東から街歩きやこどもワークショップ、出張探偵団や各地の調査を簡単に報告。その後、2024年最後に行った神楽坂街歩きと都市調査からは釜山調査を詳しく各担当者から発表し、最後に参加者に2025年の街歩きなどへの希望を伺いました。
釜山調査の発表では窪田団員から、活気に満ちた市場の様子や、LED照明への置き換えが進みインスタ映えの危機に見まわれている甘川文化村エリア、そして対照的な2つのビーチ(波打ち際まで煌々と照らされた海雲台ビーチと、ビーチへの照明はないものの周辺の繁華街の看板や漏れ光で十分に明るくなっている広安里ビーチ)などの紹介がありました。


2班に分かれて行った神楽坂のレビューでは、各班のリーダーを務めた小谷団員と俵田団員から報告がありました。
1班の小谷団員は、『神楽坂路地三昧コース』と題して路地裏を中心に歩いたことを報告。1班の参加者は、飯田橋から神楽坂を目指して歩いて行くと、入り口には煌々とした看板照明が多く、神楽坂のイメージとかけ離れていたこと、しかし路地に入ると、それぞれの飲食店が照明に工夫を凝らしており、照明への感度が高い街だと感じたそう。所々に出現する白く眩しい街路灯や、明るすぎる広告を流し続けるメディア看板は残念に思ったとのことでした。


俵田団員率いる2班は『路地・商店街コース』として、神楽坂の奥の方までを調査したとのこと。繁華街のビル群にあるような袖看板、賑わいを演出するためとはいえ街路樹をピンクや緑で照らすカラーライティング、車道と歩道で色温度の異なる街路灯の是非などが報告されました。歴史ある神楽坂の夜は、雰囲気のいい暗がりのある、歩いていて心地よい路地であってほしい。その期待に反するものは“No”という意見だったようです。


2025年の街歩きへの希望で挙がったエリアは、新しく街開きが行われる高輪ゲートウェイシティや芝浦、川崎の工場夜景、天王洲、表参道から渋谷、吉祥寺、中野などでした。東京から離れた街では、大阪万博、大阪うめきた、神戸などの関西エリアや、星空が満喫できる田舎、火祭りか花火を見たいという意見も挙がりました。
参加者全員からもっと多くの意見を伺いたかったのですが、2時間では短すぎたのか、話す内容が多かったのか、全員の意見は聞くことができず、深いところまでお話しができませんでした。次回からは3時間は必要だと感じました。
1年の始まりに団員に集まっていただき、これからどのような活動していきたいかを話し合うのはとても新鮮で良い機会でした。これから企画メンバー(SQUAD)と協議し、楽しく有意義な街歩きを計画しようと思います。
今年の探偵団の活動にもご期待ください。(東悟子)
