照明探偵団通信

照明探偵団通信 Vol.07

Update:

発行日:2000年6月25日
・海外照明探偵団レポート
・サンクトペテルブルグ/ロシア
・面出の探偵ノート
・照明探偵団倶楽部新規会員募集・継続手続き
・展示会レポート
・フランクフルトメッセ
・N.Y.ライトフェア
・照明探偵団倶楽部活動1/街歩き(佃島編)報告
・照明探偵団倶楽部活動2・3/研究会サロン報告
・面出薫+LPAの仕事展(建築家倶楽部にて開催)
・照明探偵団日記

サンクトペテルブルグ/ロシア 

‘99.11.27~12.4
02

01.レーニン公園にて緯度の高いサンクトペテルブルクでは南中時の影も長いレーニン公園にて
03.ネフスキー大通りネフスキー大通り
04.球形のガラスグローブが並ぶ地下鉄のエスカレーター球形のガラスグローブが並ぶ地下鉄のエスカレーター
06.円筒形のガラスグローブは蛍光灯が光源円筒形のガラスグローブは蛍光灯が光源
05.チューブのようなエスカレーター空間のスケッチチューブのようなエスカレーター空間のスケッチ
 

緯度の高いサンクトペテルブルグでは南中時の影も長い1999年11月末から12月にかけて僕たち(東海林弘靖+窪田麻里)は、厳寒のロシアを照明探偵した。ここで重要なのは「厳寒の」という形容詞で、もしこれが「白夜の・・・」といった場合ある種のロマンチックな調査、うらやましい調査、「そんなところに行けていいなあ!」と思われるに違いない。しかし、あえて強調したいのは「寒くて暗くて少し怖い遠いロシア」の調査に行ったことだ。こんなまどろっこしい前置きをするのは、必ずしも、僕たちの調査がどんなに辛いものであったかをわかって欲しいからではない。ロシアという外国は、アメリカやヨーロッパと違った社会主義というイデオロギーに基いて成立した世界であって、僕たちが日本やアメリカで通用する常識の一部がそこでは、まったく通用しない世界であることを身をもって体験したということである。照明探偵も長い間続けると、街の照明システムがその街の歴史や社会背景、経済事情を反映するものだと思えてくる。21世紀を目前にして照明の技術は、ほぼ均質に世界中に伝わった感がある。いまどき砂漠を移動するノマドの人々のテントに中にも発光ダイオードの緊急用信号灯があったりする。まして、都市照明に至っては、香港でもソウルでも東京でもニューヨークでもそしてロシアでも技術的な差異はほとんどない。しかし、「人と光」という関係、或いは「光と経済」といったテーマで改めて街の明かりを見てみると、そこには僅かな違いが見て取れるのだ。照明探偵を始めた頃には、表層的な照明装置の違いや光源の使い分けに意味を探ろうとしていたが、そういったものは経済的な理由であることが多く、文化論的な深い意味を持つことが無かったようなのだ。ロシアの照明調査を行った頃にはそんなことを考えていた。まあ、前置きはこのくらいにして早速「厳寒のロシア」の照明探偵のレポートをしよう。

■ サンクトペテルブルグという都市

この街は、北緯60度ロシアの西端にあって、すぐ隣はフィンランドである。地理的にはヨーロッパに属していると言っても良いくらいだ。街は19世紀に栄華を飾りその昔レニングラードと呼ばれていたそうだ。「レニングラード・バレエ」は今でも有名だし、この厳めしい名前が遠い街であることを印象づける。ロシアの東端の都市ハバロフスクからだと列車で1週間以上かかるらしい。この街には有名なエルミタージュ美術館、マリインスキー劇場など美しいバロック建築があり、その中に豊富な美術品があり、演劇、バレエが培われている芸術の都である。街の骨格は、ネフスキー大通りが背骨のように貫いている。この通りがいわば目抜き通りで商業施設が張り付いている。幅32から36 メートル(東京の銀座通りより少しだけ広い)の両側には高さ20メートルで軒を美しく並べた19世紀の建築がファサードをつくっている。道路照明は高圧ナトリウムランプを使用しているのでニューヨークやパリと変わらない。照度設定も似たようなものと判定した。かつて調査したフィラデルフィアには、異常な明るさ(100 ルクス)の通りがあったが、そういったこともない。やはり都市照明の基本は地球上に均質分布している照明テクノロジーによって支えられていることを確認する。この通りで照明探偵が特記レポートを記するのは、ネオン広告塔の類が殆ど無いことだ。それ故夜間にも人がたくさん歩いているのに人の顔が暗い感じがする。もっとも厳寒のこの地では、皆毛皮の帽子を深々と被っているのでそのことも影響しているには違いない。パリのシャンゼリゼ通りでは、ネオンの色に規制があって白色以外は使ってはならないことになっている。(マクドナルドの看板でさえ白一色であるという話は有名だ)ネフスキー大通りでは、ネオン広告ということが完璧に禁止されているようだ。いや、景観上禁止されているのではなく、付ける必要がないのである。このことはデパートのファサードを見てすぐに直感した。通りから引っ込んだ所にあるデパートでさえ、外壁に垂れ幕広告やネオンがないのである。デパートの存在感は、古く由緒ありそうな建築のファサードで十分出るのだ。垂れ幕広告やネオンサインは、資本主義の商競争社会に特有のものであって、ロシアのような社会主義経済においてはその必要性が極めて薄いわけである。ここでは、ネオンサインを付ける理由がないのだろう。その結果、ネフスキー大通りは道路照明と店舗から溢れる光によって程良い明るさがつくられている。この明るさレベルは決して不快ではない。しかし、資本主義経済圏の目抜き通りを経験した僕たちにとっては、正直言って物足り無さが残った。

■ 地下鉄

ネフスキー大通りの真下には地下鉄が通っている。昼間でも摂氏0度を下回る気温故に長い時間外部を歩くことは結構辛い。従って移動には地下鉄を利用することが多くなる。ロシアの地下鉄は、核戦争が起きてしまった時に核シェルターとして機能するそうで、駅は、地下かなり深いところにある。地上の出入り口から長い長いエスカレーターに乗って(しかもスピードが日本の2倍くらいあるようだ)3分程かけて降りていく。このチューブのようなエスカレーター空間は、「いい感じ」である。というのは、シリンダーのように丸い断面をした空間の中心にガラスグローブの照明があって、ここから発せられる光が反対側を行く人の顔を程よく照らし、且つ白い壁と天井(境目は無いけれど)に輝度を与えているからだ。こういった工夫が無ければ、この空間は深い深い地下へと吸い込まれてしまう不気味な空間になってしまうだろう。このガラスグローブを用いた照明システムは、どの駅のエスカレーター空間にも適用されていた。地上の照明には少しがっかり感が残ったが、一歩地下へ降りると豊かな光の世界が広がっていたのだ。僕たちは、速いエスカレーターに何度も乗りながら、この面白いガラスグローブについて研究した。その結果わかったことは、グローブの形状は1種類ではなく、蛍光灯を光源とした円筒形の物と、白熱電球を光源とした球形をした物の2種類であった。この照明器具の取り付けピッチは4m、チューブには1.2m毎にリブがついている。また、エスカレーターの勾配は、日本の物に比べて緩やかなことなどが発見された。日本の地下鉄でエスカレーターの照明といったら、白色の蛍光ランプが満遍なくついている以外に選択肢は無さそうな感じがする。きちんと調査してはいないが、安全のために照度が確保されていれば、照明の目的が完了したと見るむきが強い。その点においてサンクトペテルブルグの地下鉄のエスカレーター照明は、照明に期待されている機能を単に安全性に留まらず、人間の心理的な快適性(ひょっとしたら有事の際に地下鉄が核シェルターとなってそこへ避難する際、人がパニックを起こさないような光・・・なんてコンセプトがあったりしても不思議ではない。)を考慮している点で大いに評価できる。

■ ロシアの光の作法

ロシアの調査を通して考えたのは「公共空間の光」であった。資本主義社会の都市環境では、
公に設置する道路照明がどうであれ、商業的に必要な広告、サインなどの光が環境のなかで圧倒的なパワーを放つ・・・商業というサービス精神が街で賑わう光を生み出し、照明デザイナーや建築家はそれらの光に規制や法則を与え少しでもまとまりのある景色を作ろうとしている。ロシアにおいては、「サービス」という概念が皆無で賑わいを出す必要さえ無いのだ。しかし、一方で地下鉄のエスカレーターのように手の込んだ照明も存在する。地上の街路照明のそっけなさと、地下のこだわった照明システムとの対比が面白い。ロシア人のものの考え方は、「そっけなさと生真面目さ」にあると言われている。競争の無い社会主義経済の仕組みは、そっけない街路照明を生み出し、有事の際の避難場所になるかもしれない公共の地下空間では、生真面目にきちんとやる・これが現代ロシアの照明を支える背景となっている。1990 年の革命でロシアも少しずつ変化している。西側のさまざまな仕組みを導入し、個人の経済活動も緩和されているという。照明においても今後ゆっくり変化がとあるだろうと予測されるが、ヨーロッパやアメリカと変わらぬ照明にならないことを願いたい。(東海林 弘靖)

面出の探偵ノート

●第22号2000年5月28日日曜日

Lighting Detectives または TANTEIDAN

照明探偵団が海の向こうで騒がれ始めてきました。[照明探偵団]はどのように翻訳されているのか・・・。ずいぶん前から色々な英訳があったような気もします。たしか”Lighting Eyes” と訳した翻訳者もいたし、”Shomei Tanteidan” と、そのまま呼んだこともありました。しかし最近はほとんど統一されて “Lighting Detectives” という一般的。私たちが作っている海外向けの探偵団 Web Site にもそのようになっています。最近は欧米の知人友人からも「Lighting Detectives は相変わらずやっているの?」などという激励の便りもいただいたりして、徐々にこの固有名称も国際的に認知されてきた様子さえする。そうそう、つい最近に、ドイツの照明デザイン事務所 [ULRIKE BRANDI LICHT]の呼び掛けで、照明探偵団の名前を使って照明文化の比較研究や、情報の交換などを世界中に広めようという目的で、[tanteidan.org]という国際的な共同 Webを立ち上げました。皆さん一度ご覧ください。といっても未だあまりきちんと出来てないので、がっかりしないようにして・。(http://www.tanteidan.org/)

そうなのです。[TANTEIDAN][tanteidan][タンテイダン][探偵団]・。この危うい響きを持つ言葉は、今や元祖「建築探偵」をもしのぐ勢いで世界中に伝えられているようです。ヨーロッパやアメリカやシンガポールを中心とした国々では、[TANTEIDAN=照明探偵団=Lighting Detectives]と解釈されてしまっている。これはもうすぐ世界的なブームになるかも知れませんよ。さて、先月末にシンガポール国立大学の招きで、シンガポールのプロの建築家相手に「照明探偵団シンガポール街歩き」をやってきました。

2日間の照明デザイン・ワークショップのプログラムの一つに「照明探偵になろう!」という企画を入れようということになって、2日後の最後のセッションを3時間ばかりの現地調査にしたのです。ここでも[Lighting Detectives] の快い響きに誘われて来た人も少なくなかったようです。15人限定でのバスツアーは、ホテルやショッピングセンター、美術館などを回るように予定していたのですが、思いがけずに最初の調査現場リッツカールトンで時間をとり過ぎてしまい、ハワード・ブランドソンの照明とデザインによるリッツカールトン、クロード・エンゲルの照明デザインによるコンラッド・ホテルの2カ所を回るだけ。あとは皆で楽しくホテルで飲み食い懇親会・・・なってしまいました。しかし、2人のタイプの違う著名米国人照明デザイナーの仕事を、日本人照明デザイナーが辛口に批評する、などいうのはけっこう面白いもの。私自身も参加者のユニークな質問攻めにあって、楽しく時を過ごしました。私も参加者も、たいへん勉強になりました。やはりプロの建築家相手の探偵団ツアーは話が面白いですね。2つのホテルはそれぞれに特徴のあるグレードの高い建築空間。照明デザインを担当したのもプロ。しかし、意図通りに上手く行っているところと、どうしてこんなになっちゃったの?、いう所もあって、それが照明デザインの難しさです。

2日間のワークショップは概ね好評でした。次回はシンガポールの団地や商業街路などの屋外を回る探偵団街歩きを企画する予定です。なぜ TANTEIDAN が海を渡った彼の地でも面白がられるのか・。それは[光・あかり・照明]が誰にも最も解りやすく親しみやすい生活文化であって、生活の価値観が刷新されつつある今、皆に注目される素材だからであろうと思われます。住まいのあかりを格好よくする。自分の街の照明を自慢する。そんなことに誰もが目覚め始めているのです。Lighting Detectives または TANTEIDAN。新しい流行言葉が電波にのって地球上を飛び交っています。 000528 Singapore(面出 薫)

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2000~2001年照明探偵団倶楽部新規会員募集・継続手続き

7 月から照明探偵団倶楽部の新年度になります。これまで会員だった人は迷わず更新。会費の先取り支払いも歓迎です。
また皆さんの周りの興味を持ちそうな方々にも会員募集を宣伝してください。少しずつ、会員の輪を広げていきましょう。
うさとて、照明探偵団は現在、強力なインターネットとのホームページを立ち上げよしています。従来のホームページも(良く読む)内容の深い記事がいっぱいあるのですが、海外への発信も含めてもっとアクティブな情報交換のシステムにしていきます。皆さんからも、
どんなホームページであって欲しいか、ご意見をいただけたら思います。
今年の探偵団倶楽部は「街歩き」と「探偵団サロン」と「探偵団通信」とを相互に連動しながらやっていくつもりです。これまでは、ややもすると毎回初心者向けの教育的街歩きになってしまいがちでしたが、これからは毎回、街歩きのためのテーマと仮説をはっきり
していきます。そしてその成果をサロンに活かし、通信にも連動していくつもりです。
徐々に新しい発見のための探偵団倶楽部にしよう、というものです。毎回の街歩きやサロンのご案内を見逃さないようにしてくださいね。

フランクフルトメッセ-light+building

2000.3.19~ 23

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04改正後

 開催地をハノーバーからフランクフルトに移した最初の照明関連の2年に一度の展示会が3月開かれた。3年前に訪れたハノーバーメッセと比べると、光源、器具、素材、ベンチャーなどの企業が混在しブースも約倍以上になり、照明に携わるヨーロッパ企業の多さに驚かされた。多くの東南アジア系の出店も見られたが、残念なことに我国の出展メーカーは数社だけ、取り残されたアジアンパワーを感じた。ただ歩いて廻るだけでも疲れてしまう広さと情報量であったが、そこは照明の専門家として要点だけを収集することに努めた。

展示ブースも情報提供型のインターネットカフェなどの新しい形態が現れてきた。新技術の情報はもとより3 次元の光の表現から照明器具データまで引き出せるのである。何事にもローテクなこの業界において、ようやく新しい仕組みを築こうとしている。これからの照明デザインの進め方に変化をもたらす仕組みである。このようなブースは従来の見せる展示とは異なり、見るからに、かっこよく設えている。多くの来場者が飲み食いし、レストランやカフェといった雰囲気を漂わせている。もちろん照明を主とする企業だけに、独自の照明演出を環境にさりげなく取り入れ間接的に体感させている。まだまだこの手のブースは少ないが今後はどんどん変わっていくだろう。器具展示に目を向けてみると、やはり省エネ、フリーメンテナンスであるLEDを用いた照明器具が多く出展されていた。しかし大半が、機能的に充実したものではなく、単にアクセントライトとしてのインジケーション器具であった。これまで伝統的にリードしてきた企業も皆同様にLED 器具を開発してきており、企業色が無くなってきたとも思えた。しかし、LED自体が技術開発されば、全てがLED光源だけの照明器具の時代がやってくる。その中でも興味深かったのが、屋外でも使用できる一見ネオン管と思わせるLEDのライン照明である。これまでライン照明は、ネオンやファイバーなどが主流であったが、扱いやすいLEDの出現は、多少なりとも照明デザインに幅が出て来ると予感できる。あとはコストパフォーマンスに期待するでけである。また、渋谷、新宿などの駅前で良く見かけるLEDを使った映像システムなどは、まだまだここドイツの街角ではお目にかかれない。同様に展示会でもオペレーションシステムや、演出をアピールする展示は少なかった。

目を引く物はLEDを使用した物であったが、オフィスをターゲットにした、細型蛍光灯を用いたアンビエント器具が多数紹介されていた。また、インテリア、エクステリアとも、アルミミラーをリフレクターに持つミラー返しの照明システムが多く見られた。天井の素材自体を反射鏡にした建築一体のシステムや、ポール灯など照明器具として成立させている物など多様に開発されている。実際にフランクフルトやベルリンでは、この手のミラー返しのポール灯が、アトリウム、鉄道のプラットホーム、空港などでも見られた。最初は物珍しく調査したのだが、残念ながら手法ばかりが目立ち、快適な光とは言いがたい空間であった。

フランクフルトの夜は早く、東京のように物珍しく街を歩いていても人通りが少なく寂しい。その中で光を発して輝いているのが、最近お目見えした高層ビルのライトアップである。東京のように航空障害灯がいっぱいではなく、上品にクラウン部だけが輝いてるものが多い。その中でも一際目立っていたのが、テーマカラーである黄色い光でライトアップされたコメルツバンクである。クラウン部は勿論のこと、中層内部の吹き抜け空間を黄色い光でライトアップしているだけだが、特徴ある黄色い光と内部空間を生かしたライトアップを実現させた新鮮な夜の外観を作っていた。また、マイン川にかる人導橋はとても気持ちがい。水面に映るフランクフルトの夜景を楽しみながらゆっくりと歩ける絶好の夜のスポットである。手摺照明が施されているだけだが光の量や位置などが計算されて造られていた。この橋台の頂部にはミラーが取り付けられており、ライトアップした光の反射を橋面に落としていた。

そこからTGV(新幹線)で4時間揺られると、ベルリンに到着する。ベルリンはフランクフルトよりはるかに広く、しっかりとした都市の構造が古くから成り立っていた街である。ポツダム広場やドイツ連邦議会新議事堂周辺では再開発が進み、新しいベルリンが誕生しつつあるが、ベルリンの夜も同様に寂しい。人通りがないにもかわらず、新しいデパートの外壁は煌煌と光っている。光っていることが余計に物寂しさを助長していた。
ベルリンの壁が崩壊してから10 年が経つが、光で旧東ドイツの面影を見つけることはできなかった。旧東ドイツにあったTV 塔からの夜景は、ブランデンブルク門を中心に東西に真直ぐ幹線道路の高圧ナトリウムの光が伸びている。壁の崩壊前は門を境に光の色も明るさも異なっていたと思うが、今では光も統一されていた。その左右には、再開発地域の白く明るい光が対照的に存在し、新しい夜のシンボルになっていた。(森 秀人)

展示会レポート

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2000年NYライトフェア

2000.5.9~11

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米国のライトフェア(照明器具見本市)は東海岸(ニューヨーク)と西海岸(サンフランシスコなど)で持ち回りで毎年開催されている。※ちなみに日本のライトフェアは2年に一回。米国では中小メーカーが多数あり、それら多くは西海岸側に拠点があるため東側で開催されるときは西に比べて出展数が少ないといわれている。しかし米国経済が好景気下にあるせいか会場であるJ a c o bJavits Convention Centerは出展者、来場者ともに多く大変な盛況ぶりであった。もっとも私が前回ニューヨークでのライトフェアを訪れたのは不況下の5年前ことなのでそのときの印象との比較で見てしまうため、より盛況であるように感じてしまったかもしれない。

■エコロジー

すでに5年前もそうであったが地球規模で叫ばれている「環境問題への配慮」は製品開発の基本テーマとなっている印象であった。省エネルギー・省廃棄物を謳い白熱ランプをよりワット、長寿命の蛍光ランプに置き換える製品が目立つ。米国はある製品ジャンル(例えばコンパクト蛍光ランプとか)に特化した中小ランプメーカーが数多いがそれはほとんどが白熱ランプの置き換え需要において性能を競い合っているといってよい。廃棄後に処理のむつかしい有害物質を多く含んだ、いわゆる「銅鉄式」のトランスや安定器は電子式やインバーターへの移行がほぼ終わりつつあるといったで感じである。また日本でも最近流通し始めた「T5」といわれる規格の細型蛍光ランプなどは、そのセールスポイントのひとつに原材料の少なさが廃棄物の減少にも貢献することをあげている。

■サスペンドライト

 直管蛍光ランプを用い、天井から吊り下げて全般照明を行う方式の器具を展示するメーカーが多い。この方式の器具は日本では独ツムトーベル社のものがクオリティの高さで知られている。後発でこのツ社のものをそっくりにコピーしたようなものからオリジナルのものまで多数出展が見受けられた。
 これは前述の「T5」蛍光ランプの本格的流通を受けてのことだと思われる。ランプの管径が細くなった(φ約16mm)ことで器具意匠の自由度が上がる。これによって当然スリムな外形が好まれる吊り下げ型への適用がブレイクしたと予想できる。また同じく配光設計の自由度も上がる。吊り下げ型のメリットは上方配光、つまり天井間接照明が可能になることであり、下方への直接光と合わせてVDT 作業のための照明環境を構築しやすい。細い管径のほうが、一本のランプでこの上下配光を制御しやすいのだ。照明設計者にとっては器具の選択肢が広がるメリットと同時に配光のクオリティを見定める目が要求される。

■デジタルライティング

 盛況とはいえそれほど目新しい製品はものは見当たらなかった。ただ照明器具の世界もアナログからデジタルに移行するという予兆が見E受けられた。ひとつはL(高輝D度発光ダイオード)の照明器具への応用製品である。大手ランプメーカーであり、半導体の製造技術を持ったGEPhilipsはその応用製品を参考出、品していた。
 日本でもヤマギワが取り扱いをはじめたColorCineticsはMR-16(日本では50mm径のローボルトダイクロハロゲン)の形状にRGBのダイオードをプロセッサともにパッケージし、ステージライティングの世界ではスタンダードになっているDMX512 規格での多様な制御の可能性がたくさんの人を集めていた。
 また「T5」ランプのインバータ安定器がデジタルのものを展示しているメーカーがあり、0~100%のスムースな調光と、これもまたDMX512と思われるフレキシブルなアドレス設定が可能な調光システムを同時にプレゼンテーションしていた。
 LEDの照明器具への応用の鍵である高輝度化のテクノロジーは日本の某企業が最先端であるが、そこの開発を一手に担っていた科学者が米国の大学へと身を転じたことが最近日本の新聞にも出ていた。また日本ではランプがメーカーHF蛍光ランプ( 管径φ約26mm) の製造ラインにかなり投資をしたため、それが新ランプの普及を遅らせているとも言われている。ここのところ研究者・技術者の「輸入」に積極的で、かつベンチャー起業が文化として根ざす米国には当面目が離せないと思った次第である。(澤田 隆一)

照明探偵団倶楽部活動1

街歩き(佃島編)報告
5月22日( 月)
18 : 30~22 : 30
参加者: 16 名
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今回は、面出団長のホームグラウンドである「佃島界隈の不快な明かりや、心地よい明かり探し」をテーマに5月22日に16名の参加者を迎え街歩きを実施しました。この辺りは、昔ながらの風情残しながら、公団住宅、都営住宅、三井不動産などの近代的な高層住宅建ち並ぶエリアで、昼間は緑も多く、散歩するには気持ちの良い景観がつくられています。

夕方6時半に集合場所である相生橋を出発し、川沿いの照明探偵を始めました。周囲が徐々に暗くなるにつれて高層住宅の明かりやオフィスの明かりが水面に込んできます。その中でひときわ目立つのが川沿いのポール灯です。夜の不安な暗がりを無くすために懸命に路面を照らしていす。ポール灯は、高さ約4m、取り付け間隔約12mで設置されており、輝度計で計ったところ7000cd/㎡というの輝度値でした。ここに来る電車の中で蛍光灯を計ったときの数値が6000~7000cd/㎡でもした。計った状況が多少異なるとしても、ほぼ同じ数値であるのにこのポール灯のほうが眩しく感じたのは周囲の明るさとの対比からでしょう。

次に進んだのが高層住宅地内の広場です。公開空地として開かれたこのエリアには、緑も多く小ぶりながら噴水のようなものもありました。それらに合わせて照明も色々と設置されていますが点灯していません。電気代の節約か、メンテナンスされていないのか、眩しいとの苦情があったのかわかりませんが、とにかく半分以上が点灯していないのです。どんな理由にせよ高い照明器具が設置されているのに使われていないのは照明の仕事している立場からするとショックなことです。(電気代がかなりかかったのでしょうか)そのまま広場を抜けて川沿いに戻ると水際のデッキボードを照らす柔らかい明かりを発見しました。この明かりは、ポール灯の内部に仕込まれたスポットライトからのものでした。この明かりの先にはクローバーの美しい緑が柔らかく照らしだされ、川沿いの穏やかな風と心地よい景色を創り出していました。

しかし、この心地よい明かりとは対照的に対岸には、相変わら眩しいポール灯が立ち並んでいます。ここで非常に簡単な実験を行いました。それは、先ほどから「眩しい、眩しい」と言っているポール灯を撤去する実験です。と言っても別に本当に撤去するわけではなく画像上の撤去です。まず最初に現状の画像を撮影、次に眩しいポール灯にせて画面上にボールペンを差し入れる。するとポール灯の眩しさはかき消され、背景の建物が見やすくなりました。これをお読みの皆さんデジタルカメラなどをお持ちでしたら一度試してみててください。ただし若干感度(解像度)を落として撮影するのがコツのようです。(あまり解像度が良いと目で見た明るさより輝度が強くなるのです。)その後、参加者全員で月島の「もんじゃ屋」で懇親会を行いました。この懇親会では、今回の街歩きで参加者それぞれが気づいた事や新たな疑問などをわざわざ事務局から持ち込んだテレビを使って、アカデミックに今回の記録ビデオ見ながらディスカッションなどをする計画でしたが、全員、もんじゃに集中してしまいディスカッションどころではなくなってしまいました。まーこれも「佃島の古き良き風情?」であるので良いでしょう。(田中謙太郎)
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照明探偵団倶楽部活動2 /研究会サロン(渋谷 照明探偵団事務局)報告

000317 第10 回照明探偵団倶楽部・研究会サロン

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ノストラダムスの予言もどこへやら、無事にを2000年を迎えて最初の研究会サロンが3月に行われました。まずは昨年のクリスマスから年始にかけて丸の内仲通りで行われた東京ミレナリオの様子を、デジタルカメラの映像をもとに田中裕美子団員がレポートしてくれました。東京ミレナリオはまさに神戸のルミナリエの東京版で本家のルミナリエに劣らず大変美しい光景が紹介されました。田中団員曰く実際歩いてみると写真のメージとは違って、光のオブジェは結構まばらに建っているのが意外だそうです。毎年行われるといいですね。美しい光景のあとは最近渋谷にできた商業ビルの取材レポートが田中智香団員から。皆さんご存知の通り渋谷の交差点正面にどでかいスクリーンビジョン持った白い建物が現れました。今では渋谷のシンボルとなったこのQ-FRONTのビジョンは、3 色からなるLEDのユニットの集合体であることを知っていますか? 早速探偵団では内部に潜入し、係員の目を盗んでビジョンの背後へ。カーテンで隠された裏側は、外から眺められる映像ではなく、ガラスに反射して見えるLEDのカラフルな世界が広がっていました。LEDを直接見ることは構造上出来ませんがミクロとマクロの世界の違いが渋谷にはあるのです。最新情報を楽しんだ後は、ちょっとノスタルジックな世界へ。面出団長から、台湾のランタンフェスティバルの色鮮やかで美しい光が披露されました。赤い行灯光、赤い唐辛子など赤い光で満たされた空間や、極彩色豊かな電飾など、「アジア」な光の写真の中に、ねぶたのような行灯彫刻があったりと、どこかしら日本を感じさせる懐かしさがそこにはありました。ここで面出団長から突然、台湾で買ってきたという、ピカチュウとキティの光るバトンの粋なプレゼントが!ボタン押すと麦球のフィルターを通したカラフルな光がぴかぴかぴか・・・単純だけど子供心をくすぐる光・・・一昔前日本のお祭りの屋台でよく見かけました。台湾でも子供たちの手には必ずこのバトンが握り締められていたそうです。

この日のサロンはヒカリモノが充実。坂尾団員からは渋谷の外国人露天商と勝負して安く手にいれたという、ヒカリゴマの披露がありました。このコマは複数のパターンが変化するLED板を内蔵していて、勢い良く回転させると、LEDの光の軌跡が美しくそてダイナミックに変化し、その鮮やかさに一同びっくり。何度も何度も参加者はコマを回して盛り上がりました。他に田中之子さんからLEDのかわいらしい置物が、前回の蓄光トカゲにつづく蓄光仏像が紹介されました。(戸恒浩人)

照明探偵団倶楽部活動3 /研究会サロン( 渋谷 照明探偵団事務局)報告

000526 第11 回証明探偵団倶楽部・研究会サロン

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2000年度、新しい年度に入り始めての研究会サロンが5/26開催された。今回のサロンのテーマは3つ。まずは5/22に行われた照明探偵団街歩きの報告からだった。参加者が自ら歩き、見て、感じた街のあらためて考察した。今回の街歩きのテーマは、“まぶしさ”。街にはどんな眩しい光があり、その光はなぜ眩しいのか意識すること、それがメインテーマであった。照明設計者が神経使うことの一つにこの“まぶしさ”がある。無神経に扱われた光は往々にして不快な眩しい光“グレア”となり私達の視覚を痛めつける。なにはともあれ、最初の一歩はグレアとなる光がどんなものか知ることが必要だ。何が正しくて何が悪いのか。光の設計者はこのクエスチョンに自信をもって答えていかなけばならない。街には良い材料がたくさんころがっている。日頃の鍛練が重要。街歩きの大きな意義の一つはここにある。

次のテーマは宮島達男さんの展覧会(5/14 迄東京オペラシティーアートギャラリーで開催)のと報告幾つかの事例が紹介された。宮島達男さんの近年の代表的な作品してまず頭に浮かぶのは、LEDによる作品であろう。今回の展覧会のMega Death。壁面一面にグリッド状に設置されたLEDカウンターがランダムな間隔で9から1までカウントダウンしていく。そしてある時突然おとずれる闇は大量の死、つまりMega Deathを暗示する。心の中に染みわたると空虚感寂寥感。闇の中で何を人は思うのか。ところが、闇の中から生まれる新しい光は冷たい青い光を不思議と暖かく感じさせる。生命の誕生を暗示するこの光。生命の誕生が人に与える希望。そんなことを実感させてくれた。

最後の“テーマ”は動く光。街の中の動く光を東京の街に出て取材した記録が報告された。技術の進歩は様々な場面で街並みを大きく変えているが、照明もしかりである。渋谷の駅をとハチ公口から出るあのQ-FRONTがそびえ立つ。ガラス壁面に組込まれたLED達は絶え間なく映像を作り出し情報を発信し続けている。と一方で東口の交差点を見上げる、大量のネオン管が単純なオン・オフ制御で芸術的なネオン看板を作り出している。ローテクだけれど思わず見入ってしまうネオン看板。同じ渋谷のと街に混在するハイテクローテク。そんな報告の中である団員がつぶやいた。照明設計って何なのか?LEDのような光の素子が集まることとで、それが映像なりそして情報を発信すると巨大な装置なる。どこまでが照明設計でどこからがそうではないのか。境界線が曖昧になりつつある。スタティックなものからダイナミックな照明設計へ。そんなことを実感させられる報告であった。
次回のサロンではどんな光の話ができるのか?これからも街に出た時は上をみながら光について考えていきましょう。(田中 康一)

照明探偵団日記

照明探偵団通信も7号目の発刊となりました。今回はあちこちの記事でLEDの話題が持ちあがったり、今まさに「時の人」といった印象です。LEDとはLight Emitting Diodeの略で発光ダイオードのこと。半導体の一種で発光する素子が自動改札やその正体です。駅の踏切、車のブレーキンプ、携帯電話など、既に私達の生活にずいぶん深く入り込んできています。赤や緑に加えて青そして白の開発が進んできました。これらLEDを照明器具として応用すれば、バルブ交換が不必要なメンテナンスフリーの器具が来上がります。これらの器具開発、そして低価格化の実現がこれからの課題だと思われます。研究会サロンで報告のあったLEDを使った作品で有名な宮島達男氏は「ルネサンスにおける人間とか、印象派の光と同じ。白樺派が森や木に謎や神秘を見たように、ICの並び方や配線コードの絡み具合に何か莫大なエネルギーを感じた」と語っていますアーティストにインスピレーションをも与えるLED。今後の発展に目が離せない存在であることは確かといえそうです。(田中裕美子)

展覧会 「光と影のデザイン・面出薫+LPAの仕事」

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照明探偵団の活動母体である照明デザナー集団LPAの展覧会「光と影のデザイン・面出薫+LPAの仕事」が、去る5 月9 日から19
日まで銀座の建築家倶楽部で開催された。LPAがこれまで手がけた照明デザインの仕事を「コンセプト」や「メソッド」など40のキーワードで解説したパネルや代表プロジェクトの紹介。そして、照明探偵団として活動している世界の都市照明調査のレポートなどが展示された。また、会期中の5月17日には「夜は暗くてはいけないか 暗さの文化論」の著者として知られる武蔵工業大学教授の乾正雄氏と面出薫による照明フォーラムが行われ、多くの聴衆で盛り上がった。
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