発行日:2014年7月10日
・海外都市調査レポート/ドバイ・イスタンブール(2014/03/31-04/06)
・国内調査レポート1/東京調査・天王洲アイル(2014/04/16)
・照明探偵団倶楽部活動1/新団員歓迎会&街歩き入門講座 (2014/05/09)
世界都市調査 in Dubai/Istanbul
渡辺元樹 + 林虎
中東のハブになるドバイ。 前回調査の 2003 年から経済発展と共に10年で大きく変わった街の照明を、街を装飾する演出の光と街の生活の中にある活きる光に分けて調査した。一方、アジアとヨーロパの中継地であるトルコのイスタンブールは都市そのものが文化遺産である。その文化を守りながら発展してきた古い都市に残る光を調査した。
Dubai / ドバイ
飛行機から地上を観察すると砂漠地帯に突然現れる都市ドバイ。砂の中のダイアモンドのような存在で非常に華々しい。ドバイ経済は2008 年を絶頂にその後バブル崩壊と世界同時不況に遭い、多くのプロジェクトが遅延もしくは停止している。常に最新で奇抜なものが求められるドバイの開発地区に入ると確かに多くの超高層ビルが乱立しているが、その半分はクレーンが入ったり、シートで覆われていたりと未完成の都市という印象が強い。
ドバイ開発地区
ドバイモールのパブリックエリアの天井
前回調査の 2003 年から 10 年。その間、海沿いの開発地区はさらに多くの高層タワーが建設され、それぞれが強い個性を主張するようになった。しかし全体的な都市照明を観察すると、ビル自体は特異な形状をしているが、メディアスクリーンのような LED をファサードに施すようなものは少なく、多くは地上からのフラッドライトやルーフトップのみをライティングしたもので、華美なものではない。地上面は20m おきに配置された高圧ナトリウムランプの道路照明でオレンジ色に染められている。街の中を歩いてみると道路全体が均等に照らされかなり明るいため、高さのある建築のファサード照明は地上からは見えにくくなっていた。高所から街全体を俯瞰すると、8 列ある車道が高圧ナトリウムランプで照らされ、走行する車のヘッドライトと一緒にビルのガラスファサードに映りこむ。都市全体の夜景を、遠方や高所からの見栄えを考え作られたかの様に感じた。
多様なスカイライト
ドバイは一日の日照時間が長いことから、多くの建物はいかに太陽光から熱を遮断し光のみを屋内空間に取り入れられるかを考え実践している。ドバイモールでは空間ごとにイスラム建築特有のパターンや形状を天井に施しており、屋内照明と外光がうまく調和していた。外光の取り入れ方としてはいい例といえる。照明もエリアによりテーマが決められており、器具や色温度に変化をつけ、超大型 LED ペンダントや、伝統的なエレメントを使用し造られたペンダントが用いられていた。壁や天井、床に様々なイスラムの伝統的パターンが描かれ華麗な装飾である。モールの全体的な色温度は 3000k 前後、照度は廊下中央が 100lx-150lx、店舗前は 350lx-500lx を実測した。
ブルジュ・ハリーファ124 階から撮影した繁華街俯瞰
ドバイスーク周辺
シェイク・ザイード・グランド・モスク室内の断面スケッチ
ブルーモスク室内、礼拝しているイスラム教徒と観光客達
“スーク” は日本で言うアーケードのある商店街のようなものだが、それぞれのスークで扱う物が分かれている。金や貴金属のみを扱うゴールドスーク、香辛料を扱うスパイススーク、川を挟んだオールドスークと3つの大きなスークが点在している。スークは木材で作られた屋根に小さな窓が設置され、それが風の抜け穴となり強い日差し避けとなっている。昼には白い住宅の壁に当った光が反射して小さな路地に光を落としている。旧市街地と呼ばれるこの周辺では小さな商店が多く見られ、夜になるとゴールドスークを中心に LED やネオン管で色とりどりな看板照明を作り、また店先には大量の蛍光灯を用いてギラギラと店先を明るくし多くの人を集めていた。ドバイ旧市街での主流は白色の蛍光灯のようだ。店の商品、看板を目立たせる為に過剰な照明を使用し、電気消費を考えると無駄をしているように思えるが、深夜のネオンで彩られた街からは人のエネルギーを感じた。
シェイク・ザイード・グランドモスク
シェイク・ザイード・グランドモスクはドバイの隣にある UAE の首都アブダビに2007年、総工費 550 億円を投じイスラムのデザインと近代的な建築技術を用いて作られた。ドバイやアブダビにある他のモスクとは違い、非常に豪華絢爛な造りをしている。季節ごとにファサード照明は異なる演出がなされ、カラーライティングなどで派手に照明される。室内は暖色の LED でベース照明がとられ、ドームにはコールドカソードを用いた間接照明が施されやわらかく紫の光で染められている。水盤が施設全体を囲み、照明で照らされた建物がその水面へ映り込んだ様は、非常に美しいものだった。中央の広場を照らすための投光照明が強いグレアを放っていて台無しにしていた。
ドバイの光環境
ドバイは大きく新市街と旧市街に分けられる。新市街は砂漠の埋立地に計画的に作られた街だが、都市照明においては照明計画がバラバラで統一感が無く、グレアも多い。旧市街は対照的に現地の生活により自然発生的に形成された為、ある程度の秩序を持った光環境だが、過剰な明るさや暗過ぎる箇所が多く見られ光環境のバランスが良くない。一つの街で全く違う表情を持つドバイが今後どのような発展をし成熟した光環境を作って行くかとても興味深い。
Istanbul / イスタンブール
イスタンブールは 2020 年のオリンピック開催地を東京と争い、都市のインフラ整備が急速に進んみ、また開発に付きまとう環境汚染や文化財保護の問題が叫ばれている。古くからの街並みを守ろうとしながらも経済の力に押し上げられる現在のイスタンブールを、演出の光と活きる光にわけ調査した。
街を染めるナトリウム灯
イスタンブールの居住区の多くの建物は5階 から 10 階建程度のアパートだ。高さにすると20 メートルから 30 メートル程のアパートメントが傾斜に沿って建ち、小さな路地と坂道の多い街を形成している。夜になり昼間賑わっていたレストランや売店のほとんどは 8 時前には店を閉める。人々は自宅で夜を過ごすことが多いようだ。商店の蛍光灯や白色ランプが消え、街はナトリウム灯のオレンジ色の光で石造りの街並みを染め上げている。メインストリートの照度は明るいところでも 50lx 程度。色温度が低いため照度値よりも大分暗く感じた。
バザール
グランドバザールは 1400 年代から続く屋根つきのバザール。イスタンブールはアジアとヨーロッパの中継地点となり人々の往来による轍によって形成された都市であり、古くから物資や宝石貴金属、香辛料などが流通していた。ここではそれぞれの店舗の光と天井に小さく開いた窓からの光だけで公共道路の明るさをつくっている。路上には左右の小さな窓から入ってきた光がリズミカルに光を落とし、足元に車線が描かれているようだ。またその反射光で天井や壁を明るくし、心地よい空間を創っていた。
窓からの漏れ光
イスタンブールの特徴的な光に窓からの漏れ光が挙げられる。モスクやバザールで印象的だったのは、昼下がりモスクの張り詰めた空間に差し込む窓からの漏れ光だったり、さりげなく足元に落ちてくる光だった。アヤソフィアでは窓の格子の影が内部の装飾に投影され、ブルーモスクは鮮やかな色彩のステンドグラスを通した光が天井や壁面の細かい幾何学模様をうっすら浮かび上がらせていた。
イスタンブールの光
イスタンブールはここ数年での経済成長が著しくインフラの整備も積極的に行われてきた。しかし照明環境には現時点で大きな変化はないように感じた。LED でメディアスクリーンを作るわけでもなく、夜遅くまで商業施設が街を明るく照らしているわけでもない。夜に過度な明るさを求めようとせず、慎ましい生活をしているように感じた。夜も更けた暗がりの中、モスクだけが投光照明に照らされ、ずっと変わらず街のシンボルとして佇む姿が印象的だった。
旧市街ゴールドスーク
旧市街スパイススーク
旧市街商店の看板照明
シェイク・ザイート・グランドモスク正面入り口
モスクの中央広場
水面投影
モスクの中庭を囲んでいる廊下
モスクの室内
新市街のカラタタワーで差撮影した旧市街と新市街
Yeniceriler道路スケッチ
東京調査:天王洲アイル ~水辺のあかりのしつらえ~
品川埠頭橋橋からの遠景でみた天王洲アイル。住宅、店舗は低い色温度で抑えられいい雰囲気に
平井美佐子 + 付佳 + 東悟子
品川、東京、羽田からのアクセスがよく、運河に囲まれたウォーターフロントとして1990年代に注目を浴びた天王洲アイル。 一度はスポットライトを浴びた場所だが、最近ではその名前を聞くことも少なくなった。水辺の開発は、今どのような状態になっているのかを調査した。
1950 年代は倉庫街だった天王洲。1985年のバブル期に、地権者を中心とした民間最大規模の再開発が行われました。四方を運河に囲まれ、多様な商業施設、オフィス、マンション、運河沿いにはボードウォークが設けられ、都心にありながらリゾートを思わせる特有の景観をもつ街に生まれ変わり、モノレールの開通で街は一躍注目を浴びました。
今回の調査では、その天王洲を都心の水辺のあかりという視点から、首都高を挟んで、初期に開発が行われたシーフォートスクエア側とそのあとに開発されたリバーテラスガレリア側をそれぞれ調査してきました。調査を通じて対照的な 2 つのあかり空間が見えてきました。
天王洲アイル駅周辺
東京モノレール「天王洲アイル駅」下の海岸通沿いの車道側は、高圧ナトリウムランプのオレンジのポール灯で照らされており、歩道側は白い色温度高めの照明で照らされています。演色性を考えて違う二色のものを使用しているのだと思われますが、統一感に欠ける印象はぬぐえません。オフィスエリアとしての天王洲を象徴するような照明計画はやや無機質で、訪れる人々やここへ帰宅する人々を暖かく迎えるものとは言い難いようです。
遠景から望むシーフォートスクエア一帯
品川埠頭橋から遠景で望むシーフォートスクエア一帯は、電球色を感じる低めの色温度で統一されています。背後に建ち並ぶオフィスビルや高層マンション群のファサードにも華美な光の演出はなく、窓辺の明かりを中心とした落ち着いた印象。闇の中に浮かび上がる光の一群が幻想的な雰囲気。また水辺に反射する光のゆらめきが、非日常の時間の流れを演出しているようで、〝アーバンリゾート” を彷彿させるものがありました。
シーフォートスクエア
東京モノレール天王洲アイル駅に隣接するシーフォートスクエア。ガラス張りで自然光を十分に取り入れるアトリウム型のメインエントランスを奥へ進むと、京浜運河に面した広場が現れます。
品川埠頭からの遠景の眺めに対し、実際にその場に身を置くと、低めの色温度で計画されているにも関わらず、やや明る過ぎる印象。建物のファサードや地中に埋設されたアップライト、運河沿いのウッドデッキのポール灯など趣向を凝らしたライトアップ空間は、人影がまばらなこともあり、かえって寒々しく違和感を覚えました。人が集う場所にあってこそ明かりが活きるのかもしれないと感じました。
また人が少ないからなのか、器具がついていなかったり、破損していたり、メンテナンスの悪さも目立ち、さびれた感がありました。オープン当初は、” ウォーターフロント” として注目されたのに、人が来なくなった理由は何なのか。せっかくの水に近いロケーションも活かせておらず、飲食店からも、水の見える場所がほとんどありませんでした。
飲食店自体も、特徴のあるものが少なく、集客効果につながっていないように感じました。
リバーテラスガレリア側
首都高をくぐって反対側にでると、天王洲アイルより新しい街並みが続くリバーテラスガレリア。この地域は60年以上前から倉庫業を続けてきた寺田倉庫の拠点がある場所で、寺田が手掛けた人気のレストランやカフェ、ストリートがあり、そこだけが異空間でした。メタハラ、高圧ナトリウムが主光源であったシーフォート側に対して、こちら側は LED 光源が目立ちました。
照明も光と陰をリズミカルに配し、川沿いのボードウォークを歩く人も、心地いい夜の景観を楽しめる環境になっていましす。
運河沿いはちょっと腰を下ろして、川を眺めたいと思わせる落ち着いたムードある場所が多く、照度も明るいところもあれば、暗いところもあり、そこを通る人が好きなところを選んで歩け、時間を過ごせる場所のように思えました。
ポール灯や灯光器の光が眩しすぎる箇所があるのが残念でしたが、樹の影や水面に反射する光の揺らぎが心地よく、夜を楽しむのにはいい環境のようでした。
水辺を見ながら食事やお酒を飲む場所も数件あり、これであれば水をうまく使った場所と言えるのではないかと思いましたが、もう少しこのような飲食店が多くあって欲しいところです。
まとめ
多くのビルが、水に背を向けて連立している東京の中で、天王洲は〝ウォーターフロント″と呼ぶにふさわしく、運河にそってボードウォークを配し、飲食店も点在するといった親水性が高い街と言えると思います。ただ、その夜の環境はというと、長く滞在したいと思わせる魅力的なものになっていないように感じました。オフィスや高層マンションも多い地域で、人の流れはあるので、あとはいいコンテンツを誘致し、水辺に活きる光を楽しんでもらう環境を整えると一層注目されることでしょう。
天王洲にある第一ホテルから羽田空港側を俯瞰
天王洲マップ首都高速を挟んで、左右で印象が大分ちがう
車道と歩道で色温度が違う街路灯
首都高速とモノレールが走る国道の断面
ケーブルが切れて、ただの黒い箱がおいてあるだけの状態
人の気配りがあまりないシーフォートスクエア
温かな照明だが、光源がむき出しで、眩しい印象に
第一ホテル28階から見下げたシーフォートスクエア
随所にベンチや階段が配され、歩く人がくつろげるスペースに
低い色温度のLED で計画されている
建てた年代の差なのか、 共有部の照明の色温度に差がある
光と陰のコントラストが居心地の良さを作り出している
新団員歓迎会&街歩き入門講座
毎年 30 名を超える新団員が加入している照明探偵団。以前からリクエストの声が上がっていた探偵団の基礎講座を開くことになりました。丸テーブルを囲み、おいしいお弁当を食べながら、和やかな会となりました。
照明探偵団新団員歓迎会&街歩き入門講座
山本雅文 + 東悟子
ゴールデンウィーク明けの5月初旬、照明探偵団新団員歓迎会&街歩き入門講座とが行われました。新メンバーを交えた約 30 名の団員が、照明探偵団の起源や夜の街歩きの基礎知識をレクチャー形式で学びました。
真剣な話あり、笑い話ありの、内容の濃い2時間でした
レクチャーの主な内容
1、照明探偵団の成り立ち
・照明探偵団の目的とは、なぜ照明探偵団ができたのか。
・照明探偵団の歴史、5 か条など
2、街歩きで大事なポイント
3、街歩き入門マニュアルの解説
4、照度計、カメラ等使用する器具の解説
・光の明るさ、色についての基礎知識:照度、輝度とは、色温度、演色性とは
・計測機器の操作方法、測定上の注意
・カメラ:カメラ、レンズの違い、操作方法、撮影時の注意点
探偵団歴が長い団員にとっても初めて聞く内容があったようで、いい情報共有の時間になりました。
照度計や輝度計の説明はコニカミノルタさんに協力いただき、それぞれの機器の特徴などを解説して頂きました。
写真撮影の解説は、ホワイトバランスやシャッタースピードを変えて撮影した写真をその場で比較し、いかにそれらの違いが夜の景色を見たままの状態で撮影するのに重要かなど、わかりやすく説明されました。
その他、メンバー紹介が行われ、探偵団がさまざまなバックグランドをもつ人で構成されているのがよくわかりました。
今後の街歩きなどで、実地でも説明できればと思っています。いつもなんとなく街歩きに参加されていた方も、この会で疑問に思っていたことが解決されたのではないでしょうか。今後もリクエストがあれば、このような会を続けたいと思います。(東悟子)
新団員の参加した感想
既存の団員、新団員の皆様と丸テーブルを囲み、お弁当を食べながら、探偵団の成り立ちや過去の活動を学びました。
実演形式のカメラ解説を受け、照度計や輝度計にも触れて、盛り沢山な 2 時間でした。
なにより今日は、多方面で活躍されている皆様とともに過ごせました。世代や職業を超えたチームにより展開される今後の活動に魅力を感じています。
次は、実際に夜の街に潜む光を見つけ、体感し、団員の皆様と関わる中で学んでいきたいです。
照度計の使い方を説明
夜景写真の撮影方法を説明
スケッチの例
たくさんのご参加ありがとうございました