探偵ノート

第066号 – インゴ

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さて、私がインゴ・マウラーと初めて会ったのは20年前だったか25年前だったか定かでないが、インゴから私に会いたい…という連絡があったことから始まったと記憶している。当時盛んだったSDという雑誌に「詩情とハイテック」という題のエッセイを私が書いたことがきっかけで、その短文を読んだインゴが「これを書いたメンデに会いたい」と言ったそうだ。もちろんそのエッセイは、私が未だに会ったこともないインゴ・マウラーという照明デザイナーの仕事に対する評論文だった。

インゴは彼の日本の友人と一緒に私の事務所に来て、私の評論に対する礼とともに当時の新作スタンドを持参し私にプレゼントしてくれた。よほど私の辛辣ながら敬意を込めたエッセイを気に入ってくれたらしい。その日から私はこの気さくで高邁なオジサンが一層身近に感じ好きになっていく。その後は時折、東京やフランクフルトやミラノなどの彼らの展示会などで会うだけのことであるが、彼の創設したスタジオに、今や大勢の彼を慕う若者が集い、私たちをワクワクさせるような光の新作を創り続ける様子に陰ながらエールを送り続けている。

「詩情とハイテック」というタイトルは、インゴの自由な遊び心が常に最新技術と結びついて時代にアウトプットされることを賞賛したもので、時々ミスマッチかと思わせるような素材と光との競演すらある。彼の照明技術やディテールは、しかしながら常に特級の詩情と結びつくがゆえに私たちの心を揺さぶるのだと評論したものだ。

2007年4月のユーロルーチェで彼に会えなかったのは残念だった。彼のスタジオの特設展覧会場は人の山に埋まっていた。ワイヤレスな透明ガラスに埋め込まれたLEDやローボルトネオンなど、ここに紹介する私の写真はどれも話題の新作で、いかにもインゴらしいハイテック作品だが、私が心打たれたのは最後の一枚の写真。今にも青い空に吸い込まれて旅立ちそうな白いパラソルの群れ。普通の白熱ランプが純白の傘に取り付けられているだけのものだ。ここにこそインゴ・マウラーの真骨頂を見る。全世界が新光源に向かう中で白熱灯をこよなく慕う別の姿がある。ますます老成するインゴを見てほっとした。

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