照明探偵団通信

照明探偵団通信vol.72

Update:

発行日:2015年12月5日
・照明探偵団倶楽部活動1/東京調査:目黒川 (2015/11/04)
・照明探偵団倶楽部活動2/第12回世界照明探偵団フォーラム in Mexico City (2015/11/19-21)
・照明探偵団倶楽部活動3/世界都市照明調査 in Mexico City(2015/11/23-24)

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東京調査:目黒川

2015.11.04  岩永光樹 + 荒木友里 

目黒川といえばお花見の名所であり、おしゃれな店がたち並ぶ人気のエリアであるが、夜にこの場所を訪れるとその暗さに驚く。それでもこの川沿いの道を好む人は多く、暗くても怖さを感じさせない。
東京の他のきらびやかな街とは一線を画く、目黒川の愛される暗さの秘密を調査した。

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目黒川の俯瞰写真。川自体は真っ暗で、両サイドには街路灯の明かりが等間隔に見える。また、周辺の建物は高さが低いため遠くまで見渡すことができ景色が良く見渡せ、住むにも人気のエリアであることがよくわかる。

■目黒川沿いの景観について
今回調査した目黒川沿いの通りは、池尻大橋駅~中目黒駅の約1km程の区間。池尻大橋駅近くではマンションが多く、中間地点には衣料販店、中目黒駅に近づくにつれて飲食店が増えていく。また、このエリアは「景観軸特定区域」とされており、目黒川に対する眺望を確保し歩くことが楽しい空間になることを目指した景観への取組を行っている。

■街路灯について

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上の写真は水銀灯が使用されたポール灯の区間で、下の写真は電球色のLEDが使用されている区間。ポール灯の電球色とお店の明かりが調和されており明るさも丁度良く、心地良い光環境である。

目黒川の街路灯について特筆すべきことは、ポール灯とその光源の多様さである。
ポール灯は、目黒川を横断する道ごとに5m前後の高さのあるポール灯があり、その間に3mほどの低いポール灯が等間隔に並ぶ構成となっている。驚いたのは、高さのあるポール灯には7つも種類があったことだ。外観から察するに、おそらく同時期に設置されたものであるが、少しずつ変化が加えられており、非常にバリエーションに富んでいた。
池尻大橋側のポール灯の光源には100W程度の水銀灯が使用されており、路面照度はポール灯真横の道路中心で3.6lx、ポール灯間では0.6lxとなった。『道路の移動円滑化整備ガイドライン』(国土交通省)では、高齢者や身体障害者等に対する視認性を配慮して、「水平面照度10 lx以上を確保することが望ましい」とされているため、非常に暗い路面となっているといえるが、後述するように店舗等の照明によって非常にうまくカバーされていた。
興味深かったのは、ある一つのポール灯にのみ反射板が取り付けられていたことだ。おそらく反射板は付近のマンションを考慮してあとからつけられたものだろうと推測される。
さらに、中目黒駅に近い区間では、ポール灯の光源が電球色のLEDとなっていた。輝度が9000cd/㎡近くあり、まぶしいことは確かであるが、川沿いの店舗照明とよく調和していて非常に落ち着ける空間となっていた。路面照度はポール灯の真横の道路中心で22lx、ポール灯間では3lxあり、水銀灯で照らされていた区間より明るくなっていた。
また、一部区間では色温度の高いLED電球が光源として使用されているなど光源の種類は実に多様であった。
(荒木友里)

街路灯
7種類あるうちの4種類のポール灯写真。高さはほとんど変わらず、素材も一緒であるが、すこしずつデザインに変化が加えられており、バリエーションに富んでいた。

■明るさを補うあかりについて

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目黒川をはさむ通りの断面スケッチ

目黒川沿いを構成するエレメントは非常に多い。
マンション、オフィス、工場、飲食店、アパレル、文房具屋、美容院、本屋・・・このように列挙すればまるで商店街のようだが、商店街ほどのにぎやかさや雑多な印象はない。日が沈むとそのエレメントが各々のかたちで光をまとい通りを彩る。統一感はないが薄暗い無機質な道路に光のリズムをつくる。
マンションは路面照度約10.0lx以上の光のウェルカムマットをつくり帰ってくる住人を出迎える。飲食店も店先の路面照度を約50.0lx程度とり通行人の足をとめる。店内の様子がのぞけそうな窓は約20~40cd/㎡のやわらかい光を放ち客を店内へ誘う。食物販や美容院の看板はすこし強気に約80cd/㎡の輝度で通行人の注目を集める。
たまに通りかかる車のヘッドライト以外にまぶしさを感じさせる光はなく、各々のエレメントが調和しあっている。

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帰ってくる住人を出迎えるマンション前の光
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有名カステラ屋は甘い香りと高輝度看板でアピール
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有名カステラ屋は甘い香りと高輝度看板でアピール

■まとめ
目黒川沿いの通りは街路灯にしても飲食店や物販店などの店舗にしても、明るさや色温度や輝度はばらばらで一見無秩序な光を設えた通りだと感じる。しかし、住宅やオフィスもあるせいか明るすぎたり、まぶしすぎたりする野蛮な光はまったくなく、街路灯+アプローチライトで適正路面照度をつくるような一体感は川沿いを通して感じられる。
目黒川沿いの照明計画は総じて、その地域から自然発生した照度基準をもっていて、明るい=目立つという安直な考え方は感じられない。
通りの真ん中をながれる目黒川も暗がりのままなのは車も通らず、人も通らず、覗き込まなければ見えないようなところにあかりは不要だからだと推測できる。その代わりに、目黒川の桜が花開く頃はライトアップされた木々が光を放ち、通りや川をやわらかく照らす。
不要な光がほとんどない目黒川沿いの通りの姿は隣を並走する山手通りをはじめとする都内さまざまな通りの手本となりうると考える。街路灯だけではなくその通りに並ぶ建築郡が放つ明かりも含めた適度な明るさが目黒川の愛される暗さの正体なのかもしれない。
(岩永光樹)

アプローチライト
店頭を明るくさせるためのアプローチライト

立面
目黒川沿いの通りの立面写真:間隔のあいた街路灯と明るさを補う様々なエレメントがある様子が写し出されている

第12回世界照明探偵団フォーラム in Mexico City

2015.11.19-21 東悟子

世界で最大級の人口をもつメキシコシティ。長い歴史をもつ魅力あふれる街で、12回目の世界照明探偵団フォーラムが過去最大の規模で開催されました。テーマはSENSING LIGHT – FEELING LIGHT。照明は私たちの心にどのような変化をもたらすのか。3日間のワークショップを通し、さまざまな議論がなされました。

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最終日プレゼンテーション会場の様子

世界中から集まった15名の探偵団コアメンバーとメキシコ国立大学の建築専攻の学生を中心に3日間にわたって開催された今回のフォーラム。テーマはSENSING LIGHT-FEELING LIGHT。多くの問題を抱えるメキシコシティーの夜の景観を、現地の人たちはどのようにとらえ、どのように改善したいと考えているのか、実際に現地の学生と街を歩き、検討しました。

■Day 1: Orientation

オリエンテーションは築400年を超える歴史を持つMuseo de la Luz(光の美術館)で行われました。1チーム10名の参加者と2名づつのTNT-メンバーで構成された6チームに分かれワークショップがスタート。参加者は照明をすでに学習してきており、担当のエリアの下見も済ませ、探偵団の説明も受けていたので、オリエンテーションはTNT-メンバーの紹介のみで終了し、すぐに街歩きがスタートしました。

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プレゼンテーション会場のMuseo Medicine
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ワークショップ会場のMuseo de Luz

■City Night Walk

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気になる所では立ち止まり、メンバーの意見を聞く

メキシコシティーの特徴的な6つのエリアを街歩き。昼間、多くの人で賑わう広場Plaza Santo Domingo周辺, アステカ遺跡を有するTemplo Mayor地区, 歴史地区の中心で観光客でいつも活気のあるMadero Zocalo、市民の憩いの場になっておりメキシコシティーで一番古い公園のAlameda Park, 主要道路が交差する革命記念塔周辺地区のRevolution, 街のビジネスの中心地Reforma。それぞれ夜にも人が多く集まる街の要であると同時に問題を抱える地区でもあります。ボディーガードに先導されながら照度計とカメラ片手に調査。ところどころ足を止め、コアメンバーの意見に耳を傾けたり、質問を投げかけたりする様子が見られました。チーム毎の調査内容は後述しますが、どのエリアもとても賑わっていて、活気がある印象を受けました。

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Modero Zocaloエリア
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Reformaエリアの色の変わる噴水

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コメントや数値を記録
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時には英雄か犯罪者かで意見が対立することも

Day 2: Group Discussion

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各グループごとの部屋にわかれ、ディスカッション

各チームに分かれて、前日の街歩きの成果を話し合いました。3日間といういつもより時間に余裕がある中で、ディスカッションに時間がとれ、撮影してきた写真を見ながら、じっくり話し合い。同じ場所でも英雄と犯罪者に議論が分かれるところもあり、その場所の英雄/犯罪者と判断するキーワードを挙げていき、最終的にどちらにするかを判断するという作業を丁寧に行いました。コアメンバーは自分たちの意見を述べるというより、参加者の議論を促したり、どのようにプレゼンテーションパネルにまとめていくか、とういようなアドバイスをしたりと、意見を先導するような関わり方ではなく、チームをバックアップするような体制で臨みました。街の人や文化の個性を比較する上で、そのことが大切な事だと考え、コアメンバーはそのような関わり方をしています。地元の参加者が自分たちの考えをまとめ、街に提案する、という形をとっています。

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プロポーザル用のスケッチを作成
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前日撮影してきた写真を見ながら英雄か犯罪者を決定していく

Day 3: Presentation
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持ち時間20分でのプレゼンテーション

各チーム、パワーポイントと3枚のパネルを作成し、3つづつ選んだ光の英雄と犯罪者を発表。問題点を明確にし、その問題を解決するプロポーザルを起案しました。

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Pecha Kucha Talk Evnet の様子
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各班3枚づつプレゼンテーションボードを作成
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プレゼンテーション会場の様子
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会の最後にコアメンバーからの感想を発表

Team 1:Plaza Santo Domingoの英雄は心地よいアウトドアリビング空間となっている広場の照明。その他、人にやさしい明かりを提供している出店や視覚的アイコンになっている建物へのライトアップが挙げられました。犯罪者は真っ暗なブラックホールのように点在する空間や、反対にまぶしく光があふれている通り。静かで荘厳な教会の雰囲気を壊すまぶしい照明など。土地の歴史や背景を解説しながら、その役割を言及し、それらを踏まえた上で夜の快適な照明の在り方を提案していました。高性能の照明をどのように配置するか、照明や空間のヒエラルキーをどのように作るかが提示されました。

Team2:Templo Mayorはメキシコシティーの歴史の原点。3つの英雄のキーワードは遺産へのあかり、自然への明かり、文化への明かり。それぞれそこに暮らす人々が必要としている明かりのキーワードが挙げられました。犯罪者のキーワードはグレア、配光、ヒエラルキー。照らされるべきところが照らされていなかったり、まぶしすぎて大切な建物が目立たなかったりしているところが指摘されました。その中で、きちんと空間のヒエラルキーを決めて照らすことが提案されました。

Team 3:のMadero Zocaloは小さいショップやレストランが多く立ち並ぶエリアで歴史地区で最もにぎやかな場所。ここで英雄とされたのは個性、アイコニック、プレゼンスなど、主張する明かり。犯罪者はアンバランス、グレア、悪い意味で行き過ぎた照明が選ばれていました。このチームは照度を全体的に落とし、きちんと配光を制御すること、ライトアップされていない教会などのアイコニックな建物を中からの漏れ光も考慮しながらライトアップし、中の活動を外からも感じるようにするということが提案されました。

Team 4: Alameda Parkはたくさんの市民が夜でも安全に過ごせるよう、均一性、安全性、人にやさしい光が英雄として挙がっており、場にそぐわないカラーライティング、色温度やグラデーションの不自然なトランジション、明かりのコントラストのアンバランスさが上がりました。そこでこのチームは公園の照明マスタープランを作り、快適な色温度での統一、アイコニックな建物、彫刻などへの制御された照明でのライトアップなどが提案されました。

Team 5:Revolution地区は街の主要道路が交差する重要な場所。その中央に象徴的に立つ革命記念塔が青くライトアップされ、その近くに配置された噴水はLEDで七色に輝いています。その照明に対してはさまざまな議論がありましたが、結果的にはどちらも人を呼び込む魅力ある夜景を創出しているとして英雄となりました。犯罪者はまぶしく配光制御されていない街路灯や分別なくカラーライティングしているビルが選ばれていました。さらにこの通りがアイコニックなものとなるようにインパクトのある照明が提案されました。

Team 6: Reforma地区はビジネス、金融の中心地。ここで挙がった英雄は人との関係をうまくとっている照明。〝人の誇りや帰属性に配慮した照明”という言葉を使い具体例を挙げていました。犯罪者には植栽へのカラーライティングや器具むき出しの照明、グレアを指摘。チーム全員が改善案をスケッチし、発表していました。

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2015年National Year of Lightの公式イベントの一つとなっている今回のフォーラムは、照明業界からの参加だけではなく、メキシコシティーの行政や文化局、メディアからも多く参加があり、長い歴史を持つメキシコシティーの歴史的価値をよく理解し、街をよりよいものにしたいという意識の高さを感じました。
実際にフィールドワークを体験しながら探偵団のコアメンバーと一緒にディスカッションをし、街へのプロポーザルを完成させた参加者の顔には満足そうな笑顔が見られました。
照明というフィルターを通してみると、いつもは気が付かなかった問題点や長所が浮かんできて、興奮する3日間でした、とコメントをくれる参加者がいたり、やっぱり問題が多かった、という参加者がいたりと、さまざまな感想が聞かれましたが、このよううな光の体験を継続していってもらいたいと思っています。
今回各チームから提案されたいくつものプロポーザルを、近い将来実際に目にすることを楽しみにしています。         
(東悟子)

世界都市照明調査 in Mexico City

2015.11.23-24 窪田麻里

歴史的な建築や観光資源も多い一方で、犯罪率の高いメキシコシティ。近年では多少改善傾向にあるようです。夜間の安全性を確保するためには明るさが必須となるのでしょうか。また独特の色彩感覚を持つメキシコ文化のなか、人工光と色彩の関係の中でも独自の文化が作り上げられていくのか、今後の照明技術に伴う街の変化にも注目です。

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ラテンアメリカタワーより俯瞰したアラメダパーク:園路は5000Kの光で煌々と照らされている

■メキシコシティの中で特に歴史的建築物が残る地区でも、ここ数年に照明インフラが再整備されたようです。この地区の中心にそびえるラテンアメリカタワーの44F展望台から周囲を俯瞰すると、ひと際明るく整備されたエリアが明確に浮かび上がってきました。
再整備箇所は多数のメタルハライドランプのポール灯によって、歩道路面照度60lx、広場では150~200lxと、とても高い数値となっていました。一方で、ライトアップされた荘厳な大聖堂や国立宮殿に囲まれたソカロ広場には照明設備はなく、周囲からの光のみで≦1lxほど。東京に暮らす私は、後者のような空間を心地よく感じてしまいます。前者は明らかに過剰な光。現地の建築学生からも極端に明るすぎるという意見が出る一方、「それによって夜に人々が広場や公園で過ごすことができている」「安心感がある」という声も聞かれました。再整備にあたっては、心地よい陰翳は必ずしも求められておらず、犯罪率の非常に高いメキシコシティならではの地域性や事情もあるのだと考えさせられました。

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整備されたマデロ通りとその先のソカロ広場
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心地よい闇の広がる広場もこの土地では少し怖い?

■また多く目についたのが、モニュメンタルな建造物に対するカラーライティング。宮殿、独立記念塔、革命記念塔、博物館だけでなく、広場の噴水や大通りの樹木のアップライトに至るまで。フルカラーLED器具を用いた赤、青、緑といった直接的な色の表現は、新しい技術の取り入れ方を誤り、折角の歴史遺産の尊厳を損なってしまっているように映りました。祝祭日には色を変えた特別なオペレーションがされているようなので、日常と祝祭時のメリハリがあるとより豊かな都市景観になるのではないかと感じました。
カラーライティングを考える上で思い浮かぶのは、ピンク、ブルー、グリーン、紫、黄…といった目にも鮮やかなペイントがされた家々や工芸品にみられる、メキシコ特有の色彩感覚です。はたしてそこには何かしらの関係性があるのでしょうか…。これについては、今後の色光の使い方にどのように進化がみられるのか気になるところです。

カラーライティング
フルカラーLEDによってカラーライティングされたモニュメントが街に点在する

■最後に、やや残念なカラーライティングに対して、色彩と光の美しさに思わず息をのんだのはルイス・バラガン建築でした。太陽の日差しを受けた鮮やかな壁面と反射光、白いモダンな壁へのグラデーション、色ガラスを通し淡い色を帯びた光…。計算されつくした光の空間体験は、メキシコの風土への憧憬となりました。
(窪田麻里)

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