照明探偵団通信

照明探偵団通信vol.99

Update:

発行日:2019年07月23日
・照明探偵団倶楽部活動1/東京調査 さいたま新都心 (2019/04/11)
・照明探偵団倶楽部活動2/世界照明探偵団フォーラム2019 in 深圳(2019/05/17~2019/05/19)

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東京調査 さいたま新都心

2019.04.11  林虎 +木村光

さいたま新都心は2000 年ごろに出来た街である。JR さいたま新都心駅を中心に大型商業施設や大型多目的アリーナ、合同庁舎、病院など様々な町の機能が集中的に構成されている。計画的に作られた街が、照明という観点からどのように変化しているかを調査した。

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さいたま市合同庁舎からヘリポート越しの夜景

空間を結ぶ光

さいたま新都心の駅周辺は遊歩道が設置され、2F レベルの駅改札から各施設をスムーズに回遊できる積極的な歩車分離の計画となっている。地上レベルは車路用ポール灯で明るく照らされ、遊歩道には一部公園エリアの意匠的なポール灯を除き、アッパーライトやフットライトなど低めの照明が設置され、光の表情もそれぞれ分かれていた。
さいたま新都心駅は北与野駅までの約600mの区間が遊歩道でつながっており、連続した片持ちのガラスキャノピーが掛かり雨天でも濡れず、信号にもかからずに歩くことが出来る。ここには約100m ほどの線路に沿ったまっすぐな道がある。そこでは工期の違いからか片持ちのキャノピー構造は同じではあるが、照明手法は3種類の違いがあった。建築意匠は似ているのに照明手法が変わることで明るさが場所により変わっていた。統一を図ることも重要な気もするが、考え方によっては、直線的な長い通路などで似ている意匠に違う照明手法を使うことで、①距離感を感じられる、②人の目に対して歩く時間に疲れがない、③場所の目印になる。などの単調にならない工夫ともとれるかもしれない。

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けやき広場から北与野駅間の連絡通路(北与野駅近く)
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けやき広場から北与野駅間の連絡通路(広場近く)
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さいたま赤十字病院周辺の連絡通路
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広がる街と統一感

2017 年には高度な治療が行われる大型病院であるさいたま赤十字病院が建設された。これにより遊歩道も拡張され、他のエリアと同様にキャノピーが設置されていた。新設エリアのキャノピーは他が片持ちのガラス天井に対し、両側に柱のある金属パネル天井となっていた。照明手法はダウンライトで構成されており、キャノピー下が明るすぎる為か周りの場所を暗く感じる。雨の日以外はキャノピー下を歩く必要は無い為、広い遊歩道を自由に歩ける光のバランスも必要ではないかと感じた。

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環境光で中央部まで1Lx 以上ある明るい広い通路

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合同庁舎から見た東側の賑わいのある商業施設

暗さと安全性

さいたま新都心駅周辺は都心としての機能を持ってる。但し照明器具に関しては日々の管理が行き届いていない印象を受けた。特に合同庁舎や郵便局など行政機関が集中したエリアでは、消しているのか消えているのか不明だが、不点灯の器具が多くかなり暗い。コントラストが強いため、顔の識別も難しく安全性に不安を感じた。ただし開けた広場などは高層ビルに囲まれた環境で、オフィス照明の漏れ光により、歩くのにぎりぎり危険ではない明るさがあった。計画的な明るさではないと思われるが、都市的な月夜の明かりのようにも感じられた。

エリアごとの光の格差

さいたま新都心駅の東側エリアは大型の商業施設があり、とても賑わったエリアとなっている。2004 年~ 2015 年にかけて拡張している比較的新しい施設ということもあり、ほぼ全てでLED の照明器具が使われ、またメンテナンスも行き届いていた。
それに対し今回調査した駅西側は、通勤で利用する人が途絶えることはなく、多くの人に利用されていたが、駅東側に比べると商業的な印象は少ないエリアとなっている。賑わいを求めていない故か、前途の通り不点灯な器具が多く、全体的にLED 化されていない。また当初に計画された照明器具が壊れた為か、新たに色温度違いの眩しい防犯灯がついているなど、残念に感じる箇所も多かった。

新都心としての光

さいたま新都心駅が完成してから約20年の時が経ち、照明も変化を迫られたことかと思われる。行政機関というお金の使いどころを指摘されやすい難しい立場もあるかもしれないが、新都心という名前を掲げる場所として、継続性や先進性など、夜の新しい過ごし方をけん引できる街になることに期待したい。( 林虎、木村光)

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漏れ光以外が消灯されコントラストの強い通路
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さいたま新都心駅コンコースはLED 化されていた

世界照明探偵団フォーラム2019 in 深圳

2019.05.17 ~ 2019.05.19  
板倉厚+ 坂野真由美+Bran Yan+ 葉玉+ 黄 思濛+ 東悟子

15 回目を迎えた世界照明探偵団フォーラム。今年は5 月17 日から19 日までの3 日間、発展目覚ましい中国深圳で「2030 深圳夜景」をテーマに開催しました。

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ITやドローン開発の最先端を行く中国深圳市。その歴史は浅くわずか30 年の間に漁村から世界有数の都市にまで発展し、常に注目を集めています。多くの可能性が渦巻くこの都市で中国の大学生を中心に世界に散らばる11名の探偵団コアメンバーも参集し、2030 年の深圳夜景を考えるフォーラムを開催しました。

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照明探偵団コアメンバーを紹介

Day 1: オリエンテーション& 街歩き

参加者が一堂に会し、深圳の照明計画や街歩きの手法などの説明を受けました。
その後は学生を中心とした総勢90 名の参加者を6 班に分け、班ごとに自己紹介を行い、街歩き担当エリアの特徴や予想される状況を話しあいました。
初めは慣れない英語でのコミュニケーションで硬くなっていた参加者も、探偵団コアメンバーから多くの事を吸収したいという思いからなのか、時間が立つにつれ積極的になり、いいアイスブレークになりました。
オリエンテーション後は各チームごとに分かれての街歩き。深圳の特徴的なエリアを6つピックアップして街歩きを行いました。

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Team A:Shennan Road

深圳最初に開発が始まったエリア
チームA は街で2 番目3 番目に高い超高層ビルを包含する「深圳のはじまり」と言われるエリアを担当。メディアファサードやRGB の投光器で煌々と照らされたビル群は、建築の持つ特徴を覆ってしまい犯罪者となりました。
たくさんの市民で賑わう劇場前広場は、人々がおしゃべりやダンス、バドミントン、エクササイズなど思い思いの活動を楽しんでいましたが、広場への照明は周囲のファサードからの環境光のみで残念でした。
A 班の英雄は電球色と昼光色を使い分け、建築の特徴を生かしたファサード照明が選ばれていました。
(坂野真由美)

Team B:Huaqiang Area 電器街

チームはBはかつては深圳一の電気街として栄えていましたが、今は特徴のないショッピングモールへと代わってしまったエリアを街歩き。
電器街の名残はあまりみられず特色のないエリアでしたが、幅55m の遊歩道が950m続き、改良すれば夜でも人が車を気にせずゆっくり過ごせる可能性の高いエリアだという意見が多くあがりました。
少しの改善でいくらでも快適な空間に変貌しそうということで、エリア全体が英雄となりうる、という意見で一致しました。
犯罪者は無計画で無尽蔵についている看板照明やファサード照明、メンテナンスが行き届いていないベンチ下のライン照明があがりました。
その他深圳一の最先端エリアへ返り咲くための改良点も多く上がりました。 (東悟子)

Team C:CBD Area 公官庁エリア

C班の街歩きはCBDエリアの中心で行われている壮大なライトショー見学からスタート。高層の複合ビルのファサードには大型の照明器具が設置されており、ここ30 年間の深圳市の発展を物語っています。
公共スペースの照明は明るさが足りておらず、建物の統一感も欠けていました。
現代美術館と子供宮殿の正面の広場には、照明を追加したほうがいいという意見で一致。照明はそこを使う人々を招くものであるべきという意見があがりました。各建物をつなぐような照明を追加することで、CBD エリアは1 つのコミュニティとして統合されるのではないかと感じました。(Bryan Yan )

Team D:Shenzhen Bay  ベイエリア

D班は、深圳の街の中で最も、急速に開発が進み未来的な景色が誕生している深圳湾エリアと隣接した大沙河川公園とMix C ショッピングモールエリアを調査しました。
ショッピングモールエリアでは、多くのライトアートが見られ、無機質な都市景観に彩を与えていました。深圳湾ウォーターフロントに面したタレント公園では、多くの挑戦的な照明手法が見られましたが、全体的に無計画な印象。歩行者に眩しい光や、歩行の安全に不十分な光、また、光害やエネルギーの無駄となる照明手法を発見し、照明デザイン的に多くの改善の余地があると感じました。
それに対し大沙河川公園では、目的にかなった計画的な照明デザインが見られました。夜間、住民に対し快適で、落ち着きのある場を提供しているようでした。 (板倉厚)

Team E:OCT Area

   
商業&住宅が複合的に集まっているエリア深セン市中心部の華僑城(OCT)エリアは、緑豊かな街並みにオシャレなレストランやデザイン事務所などが集まって、芸術村的な雰囲気が漂うエリア。夜は深圳の他のエリアと比べ暗い場所ですが、参加者とその優しい暗さを破壊せず、より安全で快適な照明の将来像について話しあいました。(葉玉)

Team F:Shuiwei Village

古くから残るエリア
現代化が進む深圳市内で40 年前の村のイメージを残したShuiwei Village は地方から出てきた夢見る若者の最初の拠点。他では見られない失われつつある景色を守り、無計画に取り付けられた様々な照明要素を整理しつつ、住民や訪れる人が目的に応じて違う光環境を楽しめる様な未来像を模索しました。(黄 思濛)

Day 2:チームディスカッション

チーム毎に集まり前日街歩きしたエリアの写真を見ながら、そのエリアの光の英雄と犯罪者は何かを話し合いました。またなぜそれらは英雄または犯罪者なのかを考え、それを一言で表すキーワードを検討し、まとめていく作業を行いました。
班ごとにディスカッションのスタイルは様々でしたが、どのチームも積極的で熱い議論を戦わせていたようです。
悪い点もただ悪いと糾弾するだけでなく、どうすればよくなるのかという改善方法にまで議論が及んでいました。さらにそのエリアの2030 年の姿をプロポーザルする為のディスカッションも行われました。
話し合いの結果は2 枚の3 ×6判プレゼンテーションボードにまとめられ、翌日の発表会場で掲示されます。どのチームも2030 年深圳夜景プロポーザルを数枚の絵に起こしていました。発表内容の検討は夜遅くまで続き、準備に余念がありませんでした。

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グループディスカッションで意見をまとめる
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プレゼンテーション用のパネルを作成

Day 3:プレゼンテーション&パネルディスカッション

3 日間のワークショップの総仕上げとなるプレゼンテーションがハルビン工科大学で行われました。
各チーム15 分間で担当エリアの現状の光環境を説明、2030 年の深圳夜景へのプロポーザルを行います。
またチームの発表後にはそのチームのコアメンバーが講評を行い、プロポーザルに対する意見や感想を述べて終了となります。
夜の星空が見える憩いの夜間景観を提案するチームもあれば、世界の最先端をいく深圳らしく、あるゆる技術を駆使した全く新しい可能性を探るチームもありました。
様々な提案を聞いた参加者はそれぞれに未来の深圳夜景を想像し、これから自分たちがどのように照明デザインに取り組んでいくべきかを考えたのではないでしょうか。
再度夜景について深く考えるいいきっかけになったプレゼンテーションでした。
パネルディスカッションでは7名のパネリストからそれぞれ最先端を行く深圳の夜間景観がこれからどのように進んでいくかという予測を期待を交えながら討論されました。
3日間という限られた時間でしたが、参加者がとても意欲的に取り組んでくれたので、素晴らしいワークショップとなり、15 回目のいい節目となるフォーラムでした。(東悟子)

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コアメンバーによるプレゼンテーションへの講評
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7名のパネリストが参加し2030年深圳夜景を討論

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プレゼンテーション終了後にキャンパスの中庭で打ち上げ

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