世界都市照明調査 in Mexico City
2015.11.23-24 窪田麻里
歴史的な建築や観光資源も多い一方で、犯罪率の高いメキシコシティ。近年では多少改善傾向にあるようです。夜間の安全性を確保するためには明るさが必須となるのでしょうか。また独特の色彩感覚を持つメキシコ文化のなか、人工光と色彩の関係の中でも独自の文化が作り上げられていくのか、今後の照明技術に伴う街の変化にも注目です。
■メキシコシティの中で特に歴史的建築物が残る地区でも、ここ数年に照明インフラが再整備されたようです。この地区の中心にそびえるラテンアメリカタワーの44F展望台から周囲を俯瞰すると、ひと際明るく整備されたエリアが明確に浮かび上がってきました。
再整備箇所は多数のメタルハライドランプのポール灯によって、歩道路面照度60lx、広場では150~200lxと、とても高い数値となっていました。一方で、ライトアップされた荘厳な大聖堂や国立宮殿に囲まれたソカロ広場には照明設備はなく、周囲からの光のみで≦1lxほど。東京に暮らす私は、後者のような空間を心地よく感じてしまいます。前者は明らかに過剰な光。現地の建築学生からも極端に明るすぎるという意見が出る一方、「それによって夜に人々が広場や公園で過ごすことができている」「安心感がある」という声も聞かれました。再整備にあたっては、心地よい陰翳は必ずしも求められておらず、犯罪率の非常に高いメキシコシティならではの地域性や事情もあるのだと考えさせられました。
整備されたマデロ通りとその先のソカロ広場
心地よい闇の広がる広場もこの土地では少し怖い?
■また多く目についたのが、モニュメンタルな建造物に対するカラーライティング。宮殿、独立記念塔、革命記念塔、博物館だけでなく、広場の噴水や大通りの樹木のアップライトに至るまで。フルカラーLED器具を用いた赤、青、緑といった直接的な色の表現は、新しい技術の取り入れ方を誤り、折角の歴史遺産の尊厳を損なってしまっているように映りました。祝祭日には色を変えた特別なオペレーションがされているようなので、日常と祝祭時のメリハリがあるとより豊かな都市景観になるのではないかと感じました。
カラーライティングを考える上で思い浮かぶのは、ピンク、ブルー、グリーン、紫、黄…といった目にも鮮やかなペイントがされた家々や工芸品にみられる、メキシコ特有の色彩感覚です。はたしてそこには何かしらの関係性があるのでしょうか…。これについては、今後の色光の使い方にどのように進化がみられるのか気になるところです。
■最後に、やや残念なカラーライティングに対して、色彩と光の美しさに思わず息をのんだのはルイス・バラガン建築でした。太陽の日差しを受けた鮮やかな壁面と反射光、白いモダンな壁へのグラデーション、色ガラスを通し淡い色を帯びた光…。計算されつくした光の空間体験は、メキシコの風土への憧憬となりました。
(窪田麻里)