照明探偵団通信

照明探偵団通信 vol.138

Update:

発行日: 2025年 4月 30日
・照明探偵団倶楽部活動1/ 都市照明調査: 四日市(2024.11.21-11.22)
・照明探偵団倶楽部活動2/ 都市照明調査: 北九州(2025.01.08-01.11)
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都市照明調査: 三重県四日市
2024.11.21-11.22 池田俊一 + 柴田雄太

産業都市として発展してきた四日市。煌びやかな工場夜景と整備が進む市街地の対比が際立つ。産業と生活が共存する都市の照明を調査した。

■四日市について

四日市の歴史は古く、伊勢湾に面した港町として発展し、江戸時代は東海道の宿場町として栄えた。当時、4の付く日に市が開かれたことが市名の由来となっている。戦後は高度経済成長の影響で石油化学コンビナートが建設され、産業の街として発展してきた。石油化学コンビナートから排出された大気汚染物質は、四日市ぜんそくと呼ばれる公害を引き起こしたが、現在の四日市は快適な環境を取り戻しており、工場地帯のすぐそばに住宅街や商店街、人々の暮らしが広がっている。

工場夜景スポット MAP

■3D工場夜景

産業都市として発展してきた歴史を持つ四日市は、2000年代前半の工場夜景ブームと共に注目されるようになった。南北に約10km広がる四日市コンビナートの壮大な工場夜景は、日本5大工場夜景に数えられる。特徴として「空・陸・海」の様々な角度から見られることから3D夜景と呼ばれ、特に工場夜景の映え写真が高い注目を集める。私たちは照明探偵団の視点から、産業都市における四日市の工場夜景の調査を実施した。

■工場夜景の照明器具

巷には建物全体や街全体を映した工場夜景写真が多く、工場で使用されている照明器具を近くから観察する機会はなかなか少ない。オレンジ色のナトリウムランプが使用されているイメージがあったが、実際に観察してみると、白色のLED光源や蛍光ランプが多く使用されていて、配光制御が施された照明器具はなかった。おそらく安全性と作業効率性が優先されているからであろう。グレアや光害に対する配慮はないため、近くで見るととても眩しく感じた。

工場の近くに寄ると、照明器具には配光制御が施されておらず、白い光がとても眩しい

■「非日常」が日常の工場夜景

いたる所に取付けられた照明が工場を無骨に照らし、工場の特徴的な形状が強調され、工場ひとつひとつの個性が表れていた。写真ではどれも幻想的な世界観を作り出しているように見える。しかし、実際にみた夜景は、写真通りの圧巻の工場夜景もあれば、映え写真として部分的に切り取られた工場夜景もあった。

工場夜景は「幻想的」「非日常」といった普段の生活では味わえない特別な感覚を表す言葉で表現されることがよくあるが、体感として周りの景観に溶け込んだ日常風景の一部のように感じた。

■工場夜景を観に行こう!

稲葉水門から撮影した港の海面に反射する工場夜景

インターネットやSNS上には工場夜景の映え写真が沢山あるが、実際に足を運んでみないと気づけない魅力を見つけることができた。そのひとつが、2018年に開通した産業道路「いなばポートライン」。迫力あるSカーブの道路と海に映り込む工場夜景はまさに映えだが、柱を囲むように配置された赤・黄・緑色に点滅するインジケーターの動きが可愛らしく、写真だけでは伝わらない細やかな魅力があった。

■煌びやかな俯瞰夜景

S 字を描く産業道路「いなばポートライン」、
写真右端の高い建物が「四日市港ポートビル」

四日市港ポートビルと垂坂公園展望台の高所から視察を行った。
四日市港ポートビルの展望台は高さ約100m、夜景撮影のための映り込み防止用黒布を貸出していたり、閉館時間午後9時の10分前からライトダウンを行っていたり、夜景鑑賞に特化している。俯瞰夜景であれば奥に向かって徐々に光量が落ち着いていくのが普通だが、約10kmに及ぶコンビナートを見渡せる四日市の工場夜景は、光が途切れることなく奥の奥まで続く。配光制御が施されていない全方向に光を放つ照明器具は、グレアや光害の原因となる。しかし皮肉なことに、高所から見る夜景においては、このような快適とは言えない照明がむしろ綺麗な夜景を創出し、人々を魅了しているように思えた。

垂坂公園にある展望台からは、海に隣接する四日市コンビナートと内陸に位置する市街地を同時に見ることができた。肉眼では写真ほどは鮮明に見えなかったが、コンビナートと市街地の明るさの違いは一目瞭然で、工場の照明がいかに強烈であるかがよくわかる。四日市の俯瞰夜景は、コンビナートと市街地を分断する光と影の水平線が最も印象的だった。

■市街地の光環境

近鉄四日市駅を中心とする市街地を訪れた。駅前の再開発が行われ、中央通りではバスターミナルや円形歩道橋の整備が行われていた。

駅を西側へ抜けると、連続性のある街路灯が2列、それぞれ車道と歩道に立ち並ぶ。色温度は3000Kで統一され、空間全体に一体感がある景観を作り出していた。照明が計画的に整備されており、交通量の多い駅周辺に対して比較的落ち着きのある光環境であったこと、それでいて車道に必要な照度をしっかりと確保していたことが少し驚きだった。

整備された中央通りには3000K で統一された街路灯が2 列並ぶ。上部には交通信号に見間違いそうなインジケーター

近未来的な形をした道路照明の上部には、インジケーターのような光りが見え、東側から見ると緑色、西側から見ると紫色に光っていた。インジケーターを取付けた意図は分からず、交通信号と見間違えないか少し不安に思う。

駅の東側は、まだ開発途中の様子。整備されていた西側に比べると、少し粗が目立つ。片方が不点灯のブラケット照明、色温度がちぐはぐな街路灯、シェードが割れた街路灯など、これからの改善に期待したい。

■四日市一番街商店街

市街地で最も賑わいのある四日市一番街商店街を歩く。昼間に初めて訪れたメイン通りは、ひと気がなく、アーケードの屋根から落ちる柔らかい自然光とだだっ広く誰もいない空間が、どこか不釣り合いな落ち着きと不気味さを感じさせていたが、辺りが暗くなってからその通りに戻ると、まるでテーマパークのような華やかさに変わっていた。通りの奥には、上からカラーライティング用の投光器、天井を照らすスポットライト、路面を照らすスポットライト、ブラケット照明を設える盛り沢山なアーケード柱を発見。クリスマス間近の街を色どり、人々が行き交う光景がとても愉快であった。隣接する諏訪公園ではイルミネーションイベントが行われていた。拙く、要所要所でありながらも、照明が賑わいを引き出していた。(柴田雄太)

■調査を終えて

工場地帯から放出されるエネルギーの具現化であり、無数の光、ガス焼却の炎、蒸気などが独特の景観を創り出す、それが工場夜景である。光害の代表とも言える工場の夜の姿が、なぜノスタルジックでロマンチックな雰囲気を醸し出すのだろうか。その原因を探求しようと考えたが、気づいたら夜景写真撮影に没頭していた。「美しいものに理由は要らない」という言葉があるが、SF映画のような非日常的な光景に、人は感情的に魅了されるのだろう。
ふと市街地から工場地帯の空を見上げると、雲がじわりと赤く染まっていた。地元の人々にとっては日常的な景色だろうが、私にとっては今回の四日市調査で最も印象深い瞬間だった。それは、怪奇的でありながら、どこか哀愁も感じさせる、非日常が日常に溶け込んだ光景であった。(池田俊一)


都市照明調査: 北九州
2025.01.08-01.11 中村美寿々 + 瀬川佐知子

夜景観光コンベンションビューローによる「日本新三大夜景」の最新ランキングではついに1位となった北九州市。八幡製鉄所から発展した工場の景観や、歴史のあるまちなみ、起伏と湾がある地形など、まちの資産を夜景に活かした整備が行われている。意外にも探偵団の調査がされていなかった都市に、その魅力をあらためて探りに向かった。

新幹線口デッキ。照明塔と新幹線仕様のデッキも見える。奥まで続くベンチ照明が心地よかった

■魅力的な夜間景観のありかたを学びに

松下美紀さんと

調査を開始する前に、小倉都心地区の夜間景観ガイドライン策定から北九州内外のさまざまな施設の照明計画まで、長年にわたり北九州市の夜景に携わってこられている照明デザイナーの松下美紀さんにお会いするため、福岡市の松下美紀照明設計事務所にお邪魔した。美術館のように居心地のいいオフィスで、ガイドラインを検討されていた期間のことから、照明デザイナーとしての心構えまで、幅広いお話を伺った。

策定時のお話では、ガイドラインがマニュアルになるのではなく、ガイドブックのようになるべきだ、と仰っていたことが印象に残っている。地元の方々に寄り添ってご検討をされているからこそ、ガイドラインを参照して広がっていくその地域ならではの魅力を、生み出すことができるのだなと感じた。     (中村 美寿々)

■北九州市の玄関、賑わいが集う小倉駅周辺

新幹線口ロータリースケッチ。照明塔は約30m だった

調査は小倉駅周辺からスタートした。改札を出ると「夜景の美しい街 北九州市」と観光客にも印象的な形で大々的にアピールされたポスターがあり、これからの調査に期待が膨らむ。人通りは繁華街に面した小倉城口の方が多いが、新幹線口の駅前もグリーンをアクセントに取り入れた照明計画が印象的だった。新幹線口にはランドマークとなる約30mの照明塔が設置されており、そこから駅ロータリーを照らしている。全体的に明るすぎず、安全性を感じられる程よい明るさとなっていた。ホテルや展示場へ向かうペデストリアンデッキには新幹線を思わせる形状の窓があり、間接照明で柔らかく照らされるなど、遊び心のある演出が施されていた。デッキ上ではベンチがあるところはベンチ照明のみで落ち着ける空間がつくられ、屋根があり人の往来が多いエリアにはベース照明で明るさをしっかりと確保されるなど、空間にメリハリが感じられた。

小倉城口に移動し、平和通りを南下するとにぎやかな繁華街にでる。平和通りは中央をモノレールが走り、高架が続いている。高架橋は淡いカラーでアップライトされており、道路照明は高架下に直付けされたハイパワーの道路照明と通常のポール灯が併用され、均一に明るい印象だった。

モノレールの平和通り駅に着くと、紫がかったピンク色のライトで照らされた駅舎があった。事前に調べていた写真と印象が異なったため周りを確認したら、照明器具の上にほこりがかなり積もっていた。おそらくこのダストによって減光してしまい印象が変わってしまったのだろう。このように交通量が多いエリアで上向きの器具を使う場合、定期的なメンテナンスや保守性の重要さを改めて実感した。

■歴史と活気が共存する多彩な商店街

北九州には多くの商店街が存在する。中でも平和通り駅西側に広がる魚町銀天街は日本初のアーケード商店街として知られている。アーチ状で高さのあるアーケードは、日中は自然光がしっかりと入り、夜間もライン照明やダウンライトによって明るさが確保されており、圧迫感がなく賑わいが感じられる空間となっていた。少し離れた場所には大正時代から続く旦過市場がある。2022年に大規模な火災に見舞われたものの、現在も多くの店舗が近くの青空市場で営業を続けている。旦過市場にもアーケードはあるが、魚町銀天街にくらべ天井が低く、床面照度は200Lxとしっかりと確保されているものの、夜間に営業している店舗がほとんどないためか、暗く感じた。一方、魚町銀天街は、看板照明や営業中の店舗からの光、明るい色の天井などにより、視界に入ってくる明るさが感じられ、活気のある印象を受けた。

■歴史と風情が宿る小倉城と周辺

見事に堀にうつり込む小倉城

商店街を抜け、紫川を渡る。紫川には、わずかな距離の中に10本もの橋が架かっており、現在も数本ずつ新たなライトアップが完成していく計画が進められているようだ。この川は、北九州市の文化的なエリアと繁華街エリアを結ぶ、まさに“街の接点”となる存在である。調査時には、まだクリスマスイルミネーションの名残も見られ、それぞれの橋に共通する照明演出は特に感じられなかったが、今後は各橋が持つ個性を活かしながら、より魅力的で統一感のある川辺空間が形成されていくことが期待される。

川の向こうには、ライトアップされた小倉城が見える。周辺の照明は「歴史情緒を感じるあかり」をテーマに白壁やなまこ壁などが丁寧に照らされていた。ランドマークである小倉城は「目を閉じても消えない水かがみの城」として、明るく真っ白にライトアップされている。遠目には光がハレーションを起こしてやや眩しく感じたが、堀に映る城の姿を見て、その明るさが必要なのだと納得した。照明は掘の対岸と隣接する市の建物上から投光器で照らされていた。小倉城前の通路は3Lxと最小限の明るさに設定されていたが、お城と向かい側の白壁の鉛直面がしっかりと照らされていたため、暗さや不安感はなかった。(瀬川 佐知子)

■圧巻の夜景スポット、高塔山公園

若松地区から見上げる若戸大橋。近くで見ると、迫力だけでなく繊細さも感じる。海沿いには白色の道路照明が続く。

うっすらと雪が積もるあいにくの天候ではあったが、展望台からは、皿倉山から響灘に至るまでのパノラマを見通すことができた。景色の主役としてまず目に飛び込んでくるのは、赤くライトアップされた若戸大橋である。「2本の大きな主塔を燃えるトーチに見立て」ているそうで、まさにそのイメージ通りの力強さと、吊り橋の構造が際立つ美しさを感じる存在だった。昼間よりも赤色が濃く映えていたのはライトアップの光色によるもので、上品でドラマティックな深紅の色が、夜ならではの印象的な景色として記憶に残った。

舟で渡ってきた戸畑地区や小倉地区の市街地の明かりのすぐ先に、煙突が立ち並ぶのが見え、工場の合間で入り組んだ海面には湾岸の街路灯が点々と映り込む。生活の明かりと工場夜景が隣接しているどこか非日常的な景色を、深紅の若戸大橋がまとめ上げている。多面的なまちなみが隣接している北九州ならではの魅力を、臨場感をもちながら楽しめる夜景だった。

■あたたかい明かりに誘われる鴎外通り

小倉の中心部に戻ってから、平和通り東側のエリアへと向かった。鴎外通りのあたたかいにぎわいが、小雪の舞う展望台で冷え切った体を迎え入れてくれる。通りに入るとすぐに、統一されたデザインの街路灯が、通りの奥まで続いていることに気づいた。3mほどの親密な高さでやわらかく発光している行灯状の頭部は、周囲の建物にも光を投げかけており、足元の機能的なフットライトとともに、電球色の明かりを連続させて、通りの奥へと人々を誘導していた。

店舗の看板照明や軒先の明かりも、この街路灯が合間に続いていることによって、バラバラなはずなのににぎわいを形作る要素としてまとめられている印象だった。
ただ、街路灯が整備される前から設置されていたであろう白色の防犯灯が頭上に輝いているところでは、せっかくのあたたかな空気感が乱されているように感じてしまったため、段階的に行われる公共照明整備の課題も感じた。

■まちなみを結ぶ境町公園

堺町公園。入り口の車止めの行灯状になっていて
少し祝祭的な場所を訪れるような楽しさを感じられる

鴎外通りから続く路地を抜けていった先に、都市的な大通りに面した境町公園の広場があった。地面へのプロジェクションやベンチ下の照明のように低い位置の明かりから、発光する車止めや樹木のライトアップ、借景となっている周囲の建物のライトアップまで、重層的に明るさ感が確保され、空間の広がりが感じられて、スケール感の異なるまちなみの結節点になっていた。また、隣接する小文字通りの色温度の高い街路灯による白い光に対し、公園内は電球色のあたたかい光で統一されていて、心地よい雰囲気になっていた。

■丁寧に整備されている道路照明

何車線もある大通りでは、歩行者のための空間と車道とを分けるように、街路灯の使い分けに配慮がされていることを感じた。また、公共の街路灯に、周囲の建物のファサードを照らす照明が共架されている箇所を見つけることもでき、道路だけでなく周囲の空間全体を照らすために使える存在として街路灯が計画されていることが感じられた。

■ロマンチックな門司港レトロ

駅舎の屋根は、周囲のビルから照射されていた

調査の最終日は、小倉から少し足を伸ばして門司港レトロ地区へ。駅に着くと、期待が高まるレトロな駅舎が出迎えてくれる。コンパクトなエリアに歴史を感じさせる建物が並んでいて、すぐそばには海が見え、少し歩くだけでも風情を感じられる街並みが広がっていた。夜には統一感のあるライトアップがそれぞれの建物で行われており、レンガ造りの建物が映えるような電球色の照明やナトリウムランプが使われていて、昼間のロマンチックな印象をさらに高めるようなあたたかみのある夜景となっていた。
31階の高さの展望室からは、門司港レトロ地区から関門海峡までを一望できる。眼下の門司港のまちなみは、上方に極端なグレアを発する照明もなく、あたたかみのある明かりで街路が満ちていて、水際の光は海面に映り込み、絵葉書にふさわしいような美しい夜景だった。

まちの明かりが低い色温度で統一されている

周囲よりもひときわ明るく見えている場所では、建物上部の看板照明が地面まで到達していた。実際に歩いて路面の照度をはかってみると、周囲が平均して1~10ルクス程度、最大でも20ルクス以下であったのに対して、一箇所だけ120ルクス程度と、このまちなみにおいては明るすぎる印象を受けた。

関門海峡をはさんだ下関側は、前景に海面が広がっているぶん距離が遠く、比べると暗く感じられてしまったものの、水際線の明かりがキラキラと続いていて、対岸の営みに期待感を持たせる景色になっていた。 (中村 美寿々)

関門海峡側を見る。対岸へと連続していく明かりによって、下関が想像以上に近く感じられる

■まとめ

北九州市は本州との境に位置し、行政機能、繁華街、小倉城をはじめとする文化的エリアがコンパクトにまとまった、ユニークな街であった。
行政と民間が連携して作成した夜間景観のガイドラインは、策定からわずか3年で当時作成した対象エリアのおよそ8割の整備が完了しており、夜の景観を活用してより良い街づくりを進めようとする北九州市の強い意志と取り組みがうかがえる。
今後は、紫川にかかる10の橋のライトアップにも着手する予定であり、北九州の夜景は今後さらに進化していくだろう。数年後に再び訪れ、その変化を体感するのが今から楽しみである。

門司港レトロ展望室では、日没の時刻を過ぎると室内の照明がかなり暗く落とされるようになっていて、窓ガラスへの映り込みを気にせずに美しい夜景を楽しめる配慮がされていた。

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