街歩き・サロン

第70 回街歩き: 下北沢&神戸

文化発進地の光環境

2022.11.25 & 26
小口尚子+坂口真一+發田龍治+古川智也+大久保杏美+本間睦郎

2019 年以来3 年ぶりにみんなで1 か所に集まっての街歩きを開催。
『文化発信地の光環境』をテーマに関東では面白い開発が続々と完成している下北沢、関西ではおしゃれな街神戸を歩きました。

賑やかな下北沢で3 年ぶりの大人数での街歩き
ミカン下北の大階段

本格的な冬が始まる前に、およそ3 年ぶりの大人数での街歩きを行いました。テーマは『文化発信地の光環境』。関東では下北沢、関西では神戸と、2 か所での開催となりました。
 下北沢での街歩きは参加者が4 班に分かれ、2 班は小田急線世田谷代田駅から、残りの2 班は東北沢駅から、それぞれ下北沢駅を目指し歩きました。
 また神戸では六甲山頂からの夜景を見てからの街歩きスタートとなりました。
■下北沢ー1 班
 1 班は世田谷代田駅から下北沢駅までのコースを歩きました。まず代田駅から温泉旅館由縁別邸までの道は、シンプルで主張のないスタンドと樹木へのアッパーライトで構成されており、情緒や落ち着きを感じさせる光環境となっていました。また、ポールの眩しさは多少あったものの低い色温度で統一されていることでそこまで気にならず、安全面を考慮すると適当な照度に感じ、総合的に英雄となりました。
 低層商業コンプレックスBONUSTRACK( ここまで2 班と合同) を超えて、昔からある下北沢一番街へ。昔ながらの街路灯は色温度が高く、店舗の灯りと調和していないというところで犯罪者。また2 つの対照的なコンビニがあり、ひ
とつはメンテナンスがされておらずランプが切れているコンビニ、もうひとつは看板だけでなく店内の什器照明も一部消灯している節電の意図が感じられるコンビニ。前者は犯罪者、後者は英雄となりました。
 下北沢一番街の街路灯に対して、下北沢東会のステンドグラスの街路灯は下レトロで街に合っているということで英雄との意見が多くありました。
 最後に訪れた2022 年7 月開業の高架下の商業施設ミカン下北は電球のイルミネーションや大階段のライン照明、店内のネオンサイン等、見せる演出照明を多用し「映え」を意識した光環境となっていました。
 小田急電鉄が掲げている「支援型開発」というテーマにふさわしく、昔ながらの良いところは残しながら、地域の人々と訪れる人々がこれからつくっていく街というのが随所に感じられる街歩きでした。      (小口尚子)

節電されているコンビニ
メンテされていないコンビニ
東会のレトロな街路灯
温泉旅館のある通り シンプルなスタンドと 樹木へのアッパーライトで構成されている
BONUS TRUCK のカテナリー照明

■下北沢ー2 班
 2 班も1 班同様、世田谷代田駅からスタートし、下北沢駅までのコース。世田谷代田駅前は電球色の落ち着いた雰囲気で温泉旅館のある通りを歩きました。温泉旅館の行灯風の特注低位置照明と拡散配光のポール照明が併用されていましたが、低位置照明だけの方が情緒的で美しいようにも思います。駅前の防犯という事も考慮するとポール照明で床面15lx の照度を確保せざるを得ないのでしょうか。
 しばらく歩くとBONUS TRACK という賑やかな下北沢で3 年ぶりの大人数での街歩き一番街の色温度が高い街路灯2020 年に開業した新しい商店街があります。ここでは電球をぶら下げたカテナリー照明や蝋燭の光など夜のあかりを楽しむ工夫がされており団員からは「英雄」との意見。一方ここの看板は、眩しすぎるという評価で「犯罪者」に。
 下北沢駅前の商店街は、光がゴチャゴチャになっているが、それが下北沢らしさとも考えられ、そこに魅力も感じられます。英雄か犯罪者かと物議を醸したのはステンドグラスの街路灯。
「個性がある」「二連になっていて美しさが消されている」「こんなの今は作らない」など様々な意見がありました。
 京王下北沢駅側商業施設にも電球を直接見せる照明が多くあり、今回のコース全体にこの手法が多く見られました。光源はLED になっていましたが懐かしさを感じさせます。昭和、平成、令和という時代を肯定し楽しもうという雰囲気を、この街の光から感じ取ることができました。                ( 發田隆治)

高架横のファサードが統一されたアクセス道路
人気飲食店へ誘う光が仕込まれたミカン下北

■下北沢ー3 班
 3班は、小田急線・東北沢駅の西側から下北沢駅周りを調査。両駅の中間エリアにできた低層分棟式の商業施設「r e load」は、オープンエアの白い建物に多くの植栽が施され、地明かりや演出照明の温かい光に包まれていました。
 珍しい黄緑色LED で細かな葉が発光しているように見えるクリスマスツリーイルミネーションや青色サインと室内から漏れ出る明かりがムーディという理髪店のほか、通路に面した窓から白く強烈な光を発して雰囲気を壊している
古着店、建物壁面に異様な影を作っている樹木のライトアップ、植栽の中に放置されたストリングライト等を発見しました。
 シャッターギャラリーや天狗まつりで知られる下北沢一番街商店街は、老舗商店も多く、郷愁を覚えます。しかし、商店街の突き当りの頭上近くに設置されたデジタルサイネージの光は、大量・高輝度で唯一目立ち、夜の景観を損なっていたのが非常に残念でした。
 京王線・下北沢駅の高架下にできた商業施設「ミカン下北」では、あずま通りと交わる高架橋下を照らし上げて、暗がりのない開放的な空間が生まれており、全員一致で英雄。
 駅へ続く高架横は、通常、素通りする空間が多いですが、街区を通る「アクセス道路」として整備し、ライン照明が施されて、アウトレットパークのように整っていて高揚します。
 飲食店が並ぶ通路は、架線の碍子やケーブルを使った電鉄会社にとって象徴的な空間がデザインされ、リズミカルで程よい光が床に落ちています。有名ベーカリーや大衆ビストロ、タイ、台湾、韓国、ベトナムといった多国籍の魅力的で明るい店内へ目が向いて、楽しい宴へ誘われました。次回はゆっくり下北沢を訪ねたいと思います。            ( 古川智也)

劇場の街下北沢を象徴するザ・スズナリと鈴なり横丁
昭和の雰囲気を残すレトロな街路灯

■下北沢ー4 班
 4 班は東北沢駅から下北沢駅まで主に鉄道の地下化や高架化によって大きく街の雰囲気が変わったところと昔ながらの雰囲気を残すところを歩きました。
 線路跡地に新しく開発されたエリアは、全体的に色温度が低く照度も高すぎなかった一方、開発エリア外では商業施設が立ち並ぶ明るい場所もあり、落ち着いた明るさのエリアと賑やかで明るいエリアとが混在していました。しかしどのエリアもコンセプトをもって照明計画されていると感じました。今回は英雄が多かったように思いますが、そんな中でも樹木のライトアップは建物に影ができ、やっぱり難しいと感じる場所もありました。
 線路沿線から少し離れたエリアは昔の良き昭和の雰囲気が色濃く残る場所が多く、ザ・スズナリのレトロ感やその周囲にあったステンドグラスを使った街灯など、どこか懐かしい雰囲気を感じることができました。

下北沢駅周辺はもともと線路があった場所をどのように活用していくのかという意味では、渋谷の東横線跡地同様、活用例の一つとして線路があった時代との比較などできるとよかったのではと思います。そういう意味でも、以前街歩きした箇所を振り返り、大きく様子が変わったと思われる場所を、以前の資料も振り返りながら街歩きしてみるとまた新たな発見ができるのではないかと思いました。    (坂口真一)

3 年ぶりの大人数での街歩き後、久しぶりに参加者全員と楽しくお酒を飲みながら語らいました

神戸

「夜間景観は自然との調和で、さらにその価値が高まる」そんなことも実感

 神戸の夜景は日本3 大夜景の一つとされています。今回の街歩きは、最初に、この神戸の夜景を遠景で眺めるところから始めました。六甲山頂からの、まるで点描画のような眺めはもちろん英雄だったのですが、なかでも港湾施設に散りばめられたオレンジ色の光が特に印象的でした。オレンジ色の光の正体はナトリウムランプ系の高輝度放電灯だと思うのですが、近くで見ると、犯罪者になりがちな毒々しい強烈な光も、海と陸の境界線を示す点描画の構成要素となると、素敵に個性を発揮してくれることを発見しました。一方で、カラフルな原色RGB の光は遠目にも違和感を覚えました。

各々のスタイルで、夜景を鑑賞。徐々に暗くなっていく情景がロマンチック


 その後、私たちは「点描画を構成する光を拡大して見てみよう!」との主旨で六甲山頂から神戸市内へ移動しました。
 遠景では、大阪・神戸の特徴的な点描画のような光の密集度合いや散らばり方に英雄を感じたのでしたが、近景では、神戸のオシャレな雰囲気とそれを活かす照明計画が実に素敵で、こちらでも至るところに英雄が出現していました。さりげなくルイスポールセンの器具が街灯に使われていたりするのも素敵でした。本来、形のある器具はその個性が街並と不一致となることもあると思うのですが、神戸では最適なマリアージュ状態でした。
 しかし、古くからの文化を震災にもめげず復興して維持している、そんなオシャレな神戸の街にも新参者的な犯罪者も目につきます。なんといっても最凶の犯罪者は、やはり原色RGB の光です。この情緒をぶち壊してしまう暴力的な存在は、山頂から眺めたときには違和感に留まっていましたが、現地の近景では、凶悪犯罪者としての姿を開き直り的に露わにしていました。

「映え」るのだろうけど、インスタに2 度アップする人なんて、居ないし・・
せっかくのきれいな赤い門なのに・・

 例えば、中華街の入口を象徴する門に対して、その本来の色を無視した毒々しい原色RGB の照射光は意味不明です。本来の門の姿にまったく合っていません。まるでピノノワールの豊潤なワインに七味唐辛子を振りかけて飲むような違和感があります。私は、辛い物が比較的好きで、特に京都の黒七味はうどんに振りかけると香ばしさが加わり、出汁も引き立つと思うのですが、まさか、これまた大好きなワインに振りかけて飲もうなど考えたこともありません。多くの人々も同様と思います。なぜならば、どちらも個性が強く、しかも、存在している世界が違い過ぎるからです。RGB 照明も同様で、それが似合う街並みもあるのかもしれませんが、本来の姿や色が印象的なものへの無造作な原色の照射は、お互いが否定し合うが如く良いところは決して見えてこないものだと思います。
 さらに、メリケンパークでもRGB 原色照明の罪悪を目の当たりにしてしまいました。メリケンパークにある海洋博物館は、まるでカラトラバ作品のような構造美です。本来、これをライトアップするのであれば、この造形を活かすように照射するのが照明デザインの基本のはずです。これをLED の技術面を誇るが如くのRGBでのカラーチェンジ照射をしてしまうと、本来の構造美が希薄になってしまいがちです。せっかくの豊潤な構造美に対しての、別世界のような脈絡のないRGB のカラーチェンジ照射は、違和感でしかありません。さらに、こういった色使いは個性だけは強いので、同じように照射をされている地域の印象を平準化させてしまいます。つまり、どこもかしこも同じように見えてしまうということです。もっとも、確かにどこもかしこもインスタ映えすることにはなるのでしょうが・・・・
 無意味に思えるカラー照射は、前回の関西地区街歩きにおける大阪中之島でも目立ってしまった犯罪者なのですが、これらは「光害」ならぬ「色害」といえるのではないでしょうか。街あかりは「映え」だけを狙うのではなく、照射されるものに対するリスペクトを忘れることなく、いかに活かすかが大切だと思うのです。
 現代の、至るところで一触即発的な緊張が高まっている地球においてでも、きっと、皆が相手へのリスペクトさえ忘れなければ、仮に多少の諍いは生じたとしても、決して戦争に至ることはなく平和が維持できるはずです。
リスペクトの精神こそが平和に繋がるのだ!・・・照明分野から発信していきたいものです。
( 大久保杏美、本間睦朗)

シンプルなデザインの器具がぴったり

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