第56回街歩き:すみだ水族館
観せる・魅せるあかりの湧きだす場所を探せ
2017.02.15 武内永記+ 雑喉佳菜子
展示物などを引き立てるあかりは、どのような光で演出されているのか。
また、その中で光の英雄と犯罪者は、どような所に存在するのか。
街とは一味違う施設の明かりを調査しに、東京スカイツリーの麓にある“すみだ水族館” に行ってきました。
■全体的な印象
今回は「観せるあかり」と「魅せるあかり」という2つのテーマで2班ずつに分かれ、合計4班で調査。すみだ水族館は、5階と6階の2層からなっており、上下のフロアへは3つのルートからアクセスでき、決められた順路は設けられていません。
館内は、夜ということもあり、青い光で全体的に演出されていました。ペンギンやオットセイのいるプール水槽が、室内にあることによって生じる不快な臭いを全く感じないことに驚きました。東京大水槽の前には、椅子が設置してあり、じっくりと鑑賞されている方々が見受けられました。水族館の各所に五感を大切にし、鑑賞できる工夫が成されていました。そのためか、最初は調査時間が余るかのように思えたのですが、実際はじっくりと調査し、時間ギリギリまで調査している班が多く、時間を忘れてゆったりと鑑賞できる水族館のように感じました。(雑喉佳菜子)
■エントランスから展示室へ
エントランスゲートから最初の展示室に至る通路・階段には水中を髣髴とさせる、揺らめく青色基調の映像が投影されています。お客様を水中の世界へ引き込み、非日常に誘う効果が高く、光を用いた導入の演出としてとても心地良いものでした。ただ、動線方向にプロジェクターを投影しており、振り返るとその光を直視してしまうものであるため、『魅せる』効果は英雄と言って間違いの無いものでしたが、設置や施工面では犯罪者と言わざるを得ないものでした。
■自然水景
階段を上りきった最初の展示室正面は、先の導入演出は無かったかのように、太陽光を模した照明が煌々と明るい空間になっていました。大きな水槽を真上から照らす照明器具が露に設置されており、光源が極めて眩しく、誰もが一致して犯罪者と感じるものでした。一方、順路をひとつ進んだ水槽は、照明収納部と一体で設計されたものでグレアが無く、展示の目的通り水草が光を浴びて光合成を行い、酸素を放出することで自然のままの波紋ができていました。この波紋の反射や水草の緑、泳ぐ小さな魚たちがキレイで、誰もがうっとり長居してしまうほど。『魅せる』『観せる』の両面で英雄と言える良い
光と感じました。
■クラゲ
写真家・蜷川実花さんとのコラボレーション企画で、色鮮やかな映像を背景にクラゲが優雅に揺らめく展示がありました。透き通ったクラゲと一体となったり、時折反射したりと幻想的な水中景観をつくり出したもので、『魅せる』あかりとしてとても面白い展示だったと感じられました。
■アクアギャラリー
1 ルクスにも満たない暗闇に、小窓水槽が並び、小さい水中の生き物が展示されたエリア。その中に1 つだけ真っ赤に光る水槽がありました。
そこで展示されているのはカブトガニなどの深海の生き物たち。赤い光は深海まで届かず、深海の生き物にはもともとその感受性が無いため、光っていないも同然。彼らには深海の暗闇に感じられながらも人間の目には一定の明るさに見えることで、実際の生態のままを垣間見ることができる、水族館ならではの『観せる』照明の英雄だと感じられました。
■東京大水槽
2 階建ての水族館を縦に貫く巨大水槽。エイやサメなどの大きな生き物が悠々自適に泳いでいます。見上げると一筋の太陽を思わせる光と、水中らしいどこまでも澄んだ青が広がり、自らも水中生物になったかのよう。どこまでも居心地が良く臨場感に溢れ、『魅せる』『観せる』光として英雄だったと感じました。
■ペンギン・アザラシゾーン
大きく吹き抜けた十分に広いエリアにペンギンやアザラシの展示エリアがあります。この上下階を繋ぐスロープは、歩行面に青い光が埋め込まれ動線を誘導する光となっていましたが、暗い周囲とのコントラストが強過ぎて眩しく感じられ、かえって足元が確認しづらいものでした。
天井からの光も青色光が中心で空間全体が青く染まり、『魅せる』光としてはキレイなものの、
動物たちにとってはストレスなのではないかという印象さえ感じられるものでした。
■感想
すみだ水族館では、18 時の前後で照明シーンが昼シーンと夜シーンとに切り替わる設定になっています。街歩きを行ったのは夜シーンに切り替わってから。自然水景を除くエリアはどこも暗く、概ね青い光に包まれたものでした。夜間営業を行っている中での雰囲気づくりやエンターテインメント性を重視しているものと思われましたが、水槽や中の生き物はしっかりと明るく観察することができ、『魅せる』と『観せる』の調和がほどよく取れた水族館と感じました。(武内永記)