2024.05.16 – 05.19 窪田麻里+ 東悟子
お隣の国、韓国第二の都市釜山。世界で最大級の港湾都市であるイメージが大きいが、近年『映画の都市』、『観光都市』としてもその名を確立してきている。LUCIにも加盟している釜山の照明を調査した。
東京から1時間半で行けてしまう隣国の韓国。円安が進む日本からは安くて短時間でいけると身近な旅行地となっている。その韓国第二の都市釜山は、観光都市としてだけでなく、最大級の港を持つ港湾都市でもあり、また映画祭を主催するエンタメの街でもある。
釜山はLUCI(Lighting Urban Community International)にも加盟しており、光の都市計画に力を注いでいる。数百ページに及ぶ夜間景観概要を2015年に策定し、2030年に向けた釜山都市光政策を打ち出している。その後幾度か更新され、策定しただけでなく実施+改善に精力的に取り組んでいるのが見て取れる。ガイドラインでは釜山市のエリアが細かく分けられ、その特色にあう照明を提示している。
果たして釜山の照明は夜の安全性、美しさ、魅力、経済に寄与しているのかを調査すべく、釜山に向かった。
■チャガルチ市場
チャガルチ市場は港町釜山を代表する海鮮市場。1階が鮮魚店になっており、そこで購入した魚介類を2階で調理し提供してくれる。釜山にくる観光客の多くが行く市場である。少しでも魚を新鮮に見せたい鮮魚店らしく、上から煌々と白い光で照らしている。水を青く魅せたいのか、水中に青いLED照明を沈めていたのには驚かされた。
2階の乾物売り場はさらに明るく、ライン状の照明が天井から少し下がったところに、何本も取り付けられ、照度は8000luxもあった。ものすごく明るい印象はあるものの光源むき出しではなく、カバーされているのでまぶしいという印象はそれほどなかったように思う。1階も2階も均一に白く明るい空間になっていたが、市場らしい光環境だったように思う
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■甘川文化村
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甘川エリアは山の中腹に低層の階段式集合住宅(長屋のような建物)が、ごちゃっと立つ「インスタ映えする」観光客に人気のスポット。このエリアは再開発時に、町の歴史と文化芸術的価値、土地の特性を活かし、『アートで街を再生』する方向をとった。レゴのような形の建物の壁面は色とりどりに塗られ、街のいたるところにアートが存在する。ちょっとした迷路に迷い込んだ雰囲気があり、フォトスポットも各所に設けられ、まさに開発者の狙いが成功している。
私たちはこのエリアを1日目のブルーモーメントの撮影場所に選んだのだが、観光客が夜まで留まることがないのか、とくに工夫された照明があるわけではなかった。路地に建つオレンジ色のナトリウム灯や家の角に取り付けられた防犯灯、白く光る街灯が、少し離れた所から見ると、甘川の階段状の地形にポツポツと現れ、独特の光景になっている。家と家とが1mも離れていない狭くて真っ暗な路地は、入っていくのにかなりの勇気がいるが、所々ににょきっとついている暖色系のあかりを見ると、少しほっとする。
この様に自然発生的に出来上がっている人の生活のにおいがする夜景は、どこか懐かしさを感じる。すべての白い光を取り除き、暖色系にすると統一感が出るし、情景としてはいいものができるのだろうが、揃えていないことが、この段々になっている地形に建つ街のリズムになっているのかもしれない。所々出会うまぶしい街路灯だけは取り除いてほしいと思うが。
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■市場と広場
釜山には市場が点在しているが、私たちはその中で前述のチェガルチ市場、国際市場、富平カントン市場とBIFF広場周辺を調査した。このエリアは釜山の夜間景観ガイドライン内では都心、歴史文化化環境名所化地域として指定され、そのエリアの照明は「品格を向上させる光」がテーマとなっている。歴史、文化財を活かす個性的な光の景観、幹線道路が明るく整えられ快適さを与える都市軸の骨格となる光の景観、歩行者が安全・安心、暖かさ、快適さを感じながら街の活気を楽しむことができる光の景観形成、そして眩しさがなく暖かい光環境を作り、住宅地域の住民へ配慮することとなっている。(釜山広域市夜間景観ガイドラインP48)このガイドラインの内容は、東京に戻って詳しく知ったのだが、実際に広く都市に反映されているように感じた
国際市場は、東京でいう合羽橋のような所。700店もの店が、取り扱っているものにより6つのエリアに分けられている。工具、衣類、食品、電気部品などありとあらゆるものが売られており、飲食店も数多く立ち並ぶ。各店は競うようにガンガン商品を照らし、少しでも客の目をひこうとしている。煌々とまぶしい光で照らされた美味しそうな食べ物、それを料理している音とにおい、売っている売り子さんのパワー。エネルギーの坩堝のような場所で、店先に吊られているたくさんの照明器具が、更にその場所のパワーに油を注いでいるような感じがした。
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国際市場、カントン市場、BIFF広場は、回遊できるような位置関係だが、夜は特にカントン市場周辺に屋台が立ち並び、BIFF広場一帯には食べ物を売るスタンドが立ち大勢の人で賑わう。屋台のテント幕は韓国の国旗を彷彿とさせる赤と青で、周りの看板のハングル文字との相乗効果で『韓国に来たな』という旅行気分を高揚させる。天井にぶら下がる裸電球は、人をふらふらっと呼び寄せる誘導装置の役割を担っているのか、屋台の前をただ黙って通り過ぎることを阻止している。あかりの誘導灯としての力が遺憾なく発揮されている。
BIFF広場はアーチ型に面発光し色が変わるゲートが連なり、広場のワクワク感を高めている。このエリアは夜遅くまで五感を刺激するもので溢れかえっていた。
この市場と広場一帯はまさにガイドラインにあるように、歩行者が夜安心・安全・快適に過ごせ、街の活気を楽しむことができる光の景観形成に成功しているように思う。夜も歩いて回るのが楽しく、夜遅くまで賑わいが続く釜山は、何度も訪れたいデスティネーションとなっており、光はその一助となっている。(東悟子)
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ものすごい数のスポットライトが!!
韓国のソウル特別市につづく第二の都市、釜山。
造船業、港湾物流、漁業のほか、国際観光都市として7本の海岸橋梁と7つの海水浴場を柱とする「セブンブリッジ・ランドマークプロジェクト」を推進している韓国最大の港町。その中でも2大ビーチといえる“海雲台”と“広安里海水浴場”、その間に架かる“広安大橋”周辺の光環境を調査した。
海雲台は韓国ドラマや映画でも頻繁に登場するが、外国人や若者が多く、比較的新しい高層建築が立ち並ぶ洗練されたおしゃれエリア。一方、広安里は通りに沿って中低層の商業施設の看板がひしめき、様々な音楽や車の往来でとても賑やかな、地元の人たちに人気のスポットという異なる印象を受けた。5月は気候もよく、週末ということありどちらも深夜までたくさんの人が訪れていた。人々を惹きつけるビーチの夜間照明はどのようなものか、地上だけでなく高層展望台や湾内を巡るクルーズ船といった様々な角度から観察した。
■海雲台(ヘウンデ)
奥行き50~60mある砂浜が1.8㎞ほどつづく、広くゆったりとしたビーチである。砂浜沿いにはさらに遊歩道が設けられているため、朝夕には犬を連れて散歩を楽しむ人も多い。洒落た屋台や飲食店のテラス席が並び、大型ホテルも多く、リゾート地といった雰囲気だ。
ちなみに韓国は日本との時差はないが、九州よりもやや西に位置するので、夏至近い時期は日没時刻がやたら遅い…海を眺めながら軽食とともに夜を待つ。
そしてようやく訪れた夜間は、その広い砂浜が一様に明るく照らし出されることに驚かされる。遊歩道沿いに大きな投光器3台付きの高さ11mのポールが40m間隔で設置されている。砂浜の足跡や波打ち際の白波が照らし出され安全性は高い。随分と暴力的に照らしているようにも思えるが、光源が遠い分砂浜に居ても意外とそこまでの不快感はない。
この照明は何時に消灯するのかと様子を伺っていたが、朝方でも間引かずフル点灯していた。この手法にはやや違和感があったので、元はカラーライティングなど演出要素もあったのだろうか?…経緯を知りたいと思い、ハングルに苦戦しながら釜山市の照明ガイドライン(2015)を紐解く。すると、海雲台海岸の“広場への緑色の照明“という言葉を発見、ネット上でもグリーンの光で照らされている画像にたどり着いた。
照度確保の目的というよりは、かつては演出照明として緑色に照らされていたものが、今では白色に変えられたことが推察される。理由は定かではないが、緑色の光が気持ち悪く不評だった、紫外線域に近く虫がたくさん寄ってきた、海洋生物への影響が…などだろうか?
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遊歩道沿いのデベロッパーにより管理されているであろうエリアは、落ち着いた暖かな光で構成されており、おそろいのパラソルが並ぶ屋台や飲食店のテラスにはチボリライトのような点光源のたくさんの光が、ここで過ごす人々をイキイキと見せていた。
一方、照らされた波打ち際から海のずっと遠くの闇に目を向け、目が慣れてくると何もないはずの水平線あたりになにやらたくさんの光の点が見えてくる。昼間はうっすら対馬が見えるのだが(直線距離でわずか50キロ)、おそらくたくさんのイカ釣り漁船の漁火だろう。なんだか光で日本とつながった気がして大きく手を振った。(2023年対馬・漁火調査回も参照ください)
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くコ: 彡
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■広安里
海雲台の隣りの(といっても結構遠く車で30分ほど。東京湾だと葛西とお台場くらいの距離感)広安里海岸。土曜の夜の海岸通りは、車も人も大渋滞。釜山ではファサードの層間部に各テナントの内照サイン看板が付いているのがスタンダードのようで、車道照明はあるが、それ以上に建物の鉛直面の光がエリア全体を支配している印象を受けた。
渋滞する車のヘッドライトも相まって、通り沿いがとても明るくエネルギッシュだが、こちらは砂浜自体への照明設備はない。砂浜に立つと、陸側はぐるりと円弧状に並ぶの明るいファサードに囲まれ、海側を見るとすぐ先にライトアップされた広安大橋がそびえる。仄暗い砂浜と周囲の明るさのコントラストは心地よく安心感もある。
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ビーチの眼前1キロほどのところに吊橋が掛けられているというのは珍しい光景ではないだろうか。海岸側の吊り材にはRGB LEDドットが付けられ、橋梁が格好の光のキャンバスになっていた。
さらに昨今ここでは土曜夜に、600台のドローンにより夜空を背景にした10分間の常設ドローンショーが行われている。ショーの前後には同期するように橋の照明も演出され、沖の船からは花火が上がる。一気にエンタメの光が盛り込まれた空間になった。それらを目当てに砂浜にはたくさんの人々が座り、海には続々とクルーザーが集まって来ていたので、経済効果は高そうだ。
ちなみに今回のドローンのコンテンツは恐竜がテーマの2次元的な演出で、子供向けな印象だった。ドローンは維持費もコンテンツ作成もコストがかかるだろうが、メディアファサード、プロジェクションマッピング同様、やはりソフトが重要だ。現状は刹那の花火の方が感動的かな…と感じつつ夜の街へ繰り出した。(窪田麻里)
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