世界都市照明調査

都市照明調査 ネパール

Update:

都市照明調査 ネパール
2023.11.12 – 2023.11.14
坂野真弓+ Xianyu Liu (Flower)

ネパール正月2日目、日の出のヒマラヤ山脈の眺め

カトマンズ、パタン、バクタプルを包括する世界遺産「カトマンズ渓谷」。2015年の大地震で壊滅的な被害を受けたこの街は今、どうなっているのか? ネパールの光の祭典「ティハール」の期間中、首都カトマンズと隣接する古都バクタプルを訪れた。

神に捧げるろうそくに火を灯す母子
寺の境内で遊ぶ子供たち

■はじめに
2015年の大地震後、ネパールの都市はどうなっているのだろうか? ネパールの光の祭典「ティハール」の期間中、首都カトマンズと隣接する古都バクタプルを訪れ、復興状況と期間中の照明環境を調査した。 飛行機内からネパール全土を見下ろし、星の瞬きに衝撃を受けた。 ネパールは国民幸福指数が高い国だが、同時に非常に貧しい国でもあるため、ネパールには全く、あるいはほとんど明かりがないのだろうと思っていた。 後日、現地の人に聞いたところ、新年ということで、各家庭で色とりどりの灯りを用意し、飾り付けをし、賑やかな雰囲気を演出するのだそうだ。(Flower)

店の前で色粉、マリーゴールドの花、ろうそくで飾られた典型的な曼荼羅アートを発見

■カトマンズ
カトマンズは標高約1,400メートルに位置しており、私たちが訪れた11月中旬は日中は暑いくらいの陽気だったが、夜は10℃を下回る涼しさだった。 富と幸福の女神ラクシュミーを祀り、富と健康を祈るヒンドゥー教のお祭りと、この地方の暦での新年が重なっているため、街は喧騒に包まれていた。インドと中国に挟まれたこの国では、それぞれの文化が融合しているようだった。 例えば、モモと呼ばれる代表的な料理は、見た目は餃子のようだが、中にはインドのスパイスで味付けされたひき肉が入っており、インドのカレーに似たソースにつけて食べる。 また、2大宗教はヒンドゥー教と仏教で、寺院や僧院が点在している。 その多くは2015年の大地震で倒壊・損壊したが、2023年現在、そのほとんどは修復されているようだ。 今回の旅で最も印象に残ったのは、日の出とともにオレンジ色に染まるヒマラヤ連邦の大パノラマと、ネパールの人々の優しさだった。 (坂野)

ティハールのために地元住民が装飾した壁面
キャンドルに照らされたセト(白)バイラブ神の恐ろしい顔

むせかえるような祭りの熱気の中、群衆で溢れかえった街を歩く。 LEDテープライトの光が建物同士を繋いでいる。光源の色を変えるのではなく、単色の暖色光源を使い、透明な表面に色をつけて光の色を変えることによって、全体を見たときに光が派手になりすぎないようにしているところが、なんとも詩的だと感じた。各々が自分のできる範囲で全力を尽くして生まれたこの景色には、そこに住む人々の心
のありようが表されていた。 (Flower)

LEDテープライトを用いた非常にクリエイティブなイルミネーション
シヴァ神を祀るヒンドゥー教寺院のマジュ・デガ 投光器が広場を照らしているのが煩わしい


■ カトマンズ・ダルバール広場
カトマンズ渓谷の三大都市であるカトマンズ、パタン、バクタプルそれぞれに、旧カトマンズ王国の王宮広場であるカトマンズ・ダルバール広場がある。 ここカトマンズのダルバール広場は露店で賑わっていたが、夜は照明の明るさが足りず、人々は薄暗い中で買い物をしていた。 ジャガンナート寺院、クマリ・パビリオンなど多くの建築物が立ち並ぶ。 いずれも複雑怪奇な彫刻で飾られとても美しいものの、まぶしい昼光色の投光器で夜間、雑に照らされているのが残念だ。

カトゥマンドゥのダルバール広場  店先は明るいが、広場は薄暗い

■カトマンズ市内遠景
標高2,500メートルの高さに位置するチャンドラギリの丘からケーブルカーで見たカトマンズの夜景。カトマンズの街は車やバイクの排気ガスで息苦しいが、ここは空気が澄んでいて、街の喧騒が信じられないほど静かに感じられる。 ネパールで一番高いビルは58m。 ヒマラヤ山脈に囲まれたカトマンズ盆地には、見渡す限り低層のビルが立ち並ぶ。「光の祭典」というだけあって、LEDライトで飾られた家々の青白い灯りがあちこちでかすかに瞬いおり、街を覆う汚染された空気の層が街の明かりを乱反射させ、輝く雲のように街を覆っている。(坂野)

Looking down on the city of Kathmandu. A layer of air pollution covers the city
Colorful flowers on an alter

 ■マンダラ・アート
レンガと木で造られた暖色系の建築物とは対照的に、ネパールの街は色で溢れている。 オレンジと黄色のマリーゴールドの首輪、あちこちに吊るされた五色の祈りの旗(タルチョ)、原色の粉で描かれた曼荼羅。 家々や店先には個性的なデザインの曼荼羅が描かれ、家々にはラクシュミー女神を招き入れるためのロウソクやオイルランプが灯されている。今回の調査で、我々はさまざまな曼荼羅を目にすることとなった。

寺院の前の曼陀羅

■ブッダナート(ブッダ・ストゥーパ)
ブッダの骨が安置されているというチベット仏教の聖地。 白亜の外壁の台座に仏陀の智慧の眼が描かれた黄金の仏塔は、建物自体も非常にユニークである。 仏塔
の中に入ることはできないものの、仏塔を囲む円形の広場のどこからかお経が聞こえてくる中、多くの人が時計回りに歩いていた。 外壁の中に入ると、敬虔な仏教徒たちが地面に這いつくばる「五体投地」と呼ばれる方法で、長い時間真剣に祈りを捧げていた。 驚いたのは、他の場所ではちゃちなまぶしい照明器具しか見たことがなかったのに、ここにはヨーロッパメーカー製の投光器があったことだ。 辺りが薄暗くなると、4000Kの投光器が巨大な白い仏塔を幻想的に浮かび上がらせた。
2015年の震災から8年が経ち、多くの建物が修復されたが、光環境はまだまだ改善すべき点が多いようだ。 照明デザインという概念すら存在しないかもしれないこの街で、それでも人々は光の祭典を精一杯祝っている。 街中に点在するイルミネーションは、決して洗練されたものではなかったものの、人々の思いが込められていることに深い感動を覚えた。 いつか、この国の建築のように光環境も独自の発展を遂げることを願ってやまない。

Budda Stupa lit up by flood lights

たった2日間のてんやわんやの調査だったが、非常にスムーズに進んだのは、ネパールで出会った人々の優しさと寛容さによるところが大きい。 この場をお借りして深く感謝申し上げるとともに、この素晴らしい国をいつかまた訪れたいと思う。(坂野) 

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