世界都市調査 in New York/Chicago
2013.12.03-09 田窪恭子+ 黄 思濛
海外調査で何度か足を運んでいるNYとシカゴ。経年変化を記録してきた。リーマンショック以降、様々な経済的、社会的な問題を抱えつつ、どのようにして安全かつ快適な光環境を構築しているか、都市では大量消費的な光環境がまだ見られるのか、近年締結された外装照明ガイドラインや光害対策規制による変化があるのかを調査する。
New York City
エンパイアステートからの俯瞰
2005 年の調査から8 年、その間にリーマンショックという世界的経済危機に陥ったこの都市ではどのような光の変化が見られるだろうか。8 年前の写真を片手にエンパイアに登ってみると明らかに以前より暗かった。タワーの外壁に使用していたハイパワーの投光器はほとんど姿を消しており、代わりにLED によるカラーライティングの演出が所々見られた。強い光がなくなったことによって小さな窓辺の明かりが一つ一つ見えてくるようになり、高層ビルがそびえ立つニューヨーク。 でも生活感あふれる温かさを感じることが出来た。高層ビルの窓からは3000K の暖かい光が漏れていた。オフィス照明は白色が未だ多い中、NY では白色の光を拒絶しているかのようにほとんど電球色で統一されていた。光害も明らかに減少したことで快適な明るさを保ち、住みやすい環境になりつつあると感じた。
2005 年、明るすぎる外壁照明が目立つ。>2013 年、LED のカラーライティングが用いられている
2005 年、クライスラービル周辺の外壁照明はほぼ白色だった。2013 年、今はカラーライティングが増えている。
ブルックリンからマンハッタンを見る
イーストリバーを挟んでブルックリンパークからロウアーマンハッタンを見るとミッドタウンやアップタウンと同じようにオフィスの窓辺には暖かい電球色が灯っていた。投光器等の外壁照明があまり使用されていないこの地域はほぼ8 年前の姿のままだった。窓の灯りだけで構成された夜景は昼間の鉄筋コンクリートの冷たい建築が立ち並ぶ街並みとは対照的に和やかな生活感溢れる現代都市であった。
ブルックリンブリッジパークからマンハッタンを見る。オレンジの灯りで統一されている。
タイムズスクエアのメディアスクリーン
世界のエンターテイメントの中心であるタイムズスクエア。建物を覆うように取り付けられたメディアスクリーンたちは競い合うかのように強い輝度を放ち夜空を照らしていた。
タイムズスクエアの特徴的な交番。
深夜でもメディアスクリーンが消えることはなく、周辺の施設も午前0 時を回っても営業しており、完全にニューヨークの眠らない街になっていた。
輝くスクリーンの明るさだけで広場のどこでも200-300lx はあり、車道用のポール灯は完全に無用のものとなり、消灯されていた。あの有名な繁華街である5th Avenue は店舗内にそれぞれ個別にあるものの、外壁にLED スクリーンらしきものはみられなかった。条例で規制しているのだろうが、そのおかげで統一した町並みが見られた。
廃線高架鉄道の再生—ハイライン
ハイラインの照明、全て目線より下に光源がある。
911 メモリアル、3000K の光で照らされたプールはシンプルだが厳粛な雰囲気を創り出していた。敷地内の公園は10 lxにも満たない環境で。流れ行く水と被害者の名前だけが暗闇の中で光っていた。
1980 年に廃線となった高架鉄道が2009 年に空中庭園に生まれ変わって再スタートを果たした。
昼間散歩コースとして市民に愛されているが、夜の夜景にもいろいろな工夫が見られた。まずは光源が全て1m 以下の位置にあるということ。ポール灯は一切使用されておらず、手すり照明、低いボラードとベンチの間接照明で必要照度を保っている。そして照明の色を統一するためにこれらの光源は全て同じテープライトを使用していた。
一定の範囲まで光を落とすために手すり照明の傾きが通常より大きかったり、ボラードのルーバーが浅かったりで光源が見えていたが、照明に詳しくない利用者達からすれば、細かいことは気にならないのではないだろうか。それよりも全体的にリラックス出来る雰囲気と途中にあるプロジェクションやアベニューを見下ろせる大階段等のアクティブな要素が、夜間でも利用者が絶えない理由となっているのだろう。
現代都市の街並み
世界の最先端を行くNY。そんなモダニズムとは対照的に街中の街灯は意外にもナトリウム灯がほとんど。商業やタワーの室内でもLED が使われているケースが少なく、従来光源がまだ主流となっていた。ここ数年で新しく出来た建物に関してはLED ランプを使用していたが、既に設置されているランプを節電のためにLED にリニューアルする傾向は見られず、一般的に普及していないように思えた。
チェルシーの住宅地では歩道用の照明はほとんど無く、ショップの漏れ光や看板照明で2-5lx とギリギリ歩ける照度しか取れていなかった。車道用のナトリウム灯も50m 間隔で設置されており、直下でも16lx という暗さだった。住宅の玄関先や店先のブラケットが暗いの中一際目立っていた。暮らすには落ち着いた環境だと思った。このような全く正反対の表情を持っているのもNY 現代都市ならではの特徴ではないだろうか。(黄 思濛)
チェルシー住宅街
Chicago
慣習的な都市の明り
前回の1995 年の調査から18 年もの時が経っていたが、シカゴの夜は相も変わらず黄金色に染まっていた。Wills Tower の103 階から眺めた景色は、高圧ナトリウム灯の街路灯で街並み全体が煌々と照らされていた。下の二枚の写真で比較してみても、ほとんど違いがない。その広大さに圧倒されるも、綺麗とは思えないその光は闇に潜む犯罪への恐怖から作り出されたからなのか。既に日常になってしまったこの光環境が、人々に安心と快適さを与え、省エネでありながら夜の町に美しい情景を与えるよう変われたらなと思った。
Willis Tower 東からの俯瞰撮影 1995
Willis Tower 東からの俯瞰撮影 2013
Willis Tower 北からの俯瞰撮影 1995
Willis Tower 北からの俯瞰撮影 2013
町中の風景
シカゴの中心地、N Michigan Ave. の歩道で照度を測定をしてみた。街路灯は洒落たレトロなデザインが施されているが、拡散タイプのランプを使用しているので、道路のいたるところを照らしていた。クラシカルな建物の低層部に設置してあるファサード照明はこの街路灯の影響を受け、まったく目立たない。照度は直下で105Lux、街路灯の中間点で56Lux, 交差点真ん中で80Lux と高い数値が出た。この明るさだから私は安心感を感じるのだろうか、確かに怖さは感じない。けれど、それは夜でも公園ではアートが照らされていたり、クリスマスシーズンで街中ではライトアップされ、建物もデコレーションされていたり、バザールなどの催しが行われていたりと、夜の街で活気が感じられたからだと思う。
シカゴは素敵な要素がいっぱいあるので、きっとドラマティックな夜の街に変わる日もそう遠くないのではないかと思った。
(田窪恭子)
N Michigan Ave. の夜景 ファサード照明はまったく目立っていない