世界都市照明調査

海外都市照明調査 台湾 台北&台中

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海外都市照明調査 台湾 台北&台中 2023.10.30 – 11.04 渡邊元樹+木村光

国家総督府
台湾は地理的に日本から近く、歴史的にも深いつながりがある。台北101 など高層建築や、最近では日本の建築家が設計した建物も有名である。また古い建物のリノベーションも積極的に行われている。その新旧混ざり合いながら作られている街が、どのように街の光や人の活動に影響しているかを「台北」と「台中」2 つの都市から調査した。 ■台北と台中 台湾の首都「台北」は台北101 など世界的な超高層建築や、歴史的な建築を残した街並みが特徴的である。新たな建築だけでなく、既存建築のリノベーションなども多くみられ、新旧が混ざり合った都市を構築している。「台中」は台北に集中し過ぎた一都集中を分散させるため、近年行政主導の街づくりがおこなわれ2017 年に台湾人口第二の都市となった。工場や企業の誘致も積極的に行われ、文化施設や教育施設が都市の中心にあることが特徴となっている。1 つのコンパクトシティとして計画された台中の街が、どのように街の光や人の活動に影響し、また台北の光と差があるのかを調査した。
台北101 から旧市街(西側)を見下ろした夜景
■台北の市街地 台北の市街地を大きくエリア分けすると、西側が歴史的な建造物が残る旧市街となっている。現在も重要な政治拠点は西側に多く、歴史的な建築が行政施設として現在も使われ、夜間にはライトアップされ特徴的なシンボルとなっていた。特に国家総督府は丁寧に繊細な光で照らされており、夜間も重厚感のある魅力を放っている。 また東側は台北101 など、高層建築や商業施設やオフィス、ホテルなどの大型複合施設がある新市街となっている。主要な道は旧市街の門を中心に延びており、東門から伸びた主要道路が台北101 まで伸びており、高所から眺めるとその連続している様子が見て取れるのが特徴的な夜景となっていた。
要素がとても多い新市街エリアの光
■後から足された飽和する光 台北新市街地のビルファサードにおいて、特徴的に感じたことが3つあった。1つ目は、新旧の手法が並列して存在していることで、古典的な大型投光器で広告を上下から照らす手法が新しい建築でも採用されており、デジタルサイネージなどの比較的近年の手法と同程度存在していた。2つ目は、ファサードの光が多すぎて明るさが飽和していた。たとえば白壁と思っていた面が、よく見ると器具不良で暗い箇所に気付き、始めて発光している壁だと気づくほど明るさに溢れていた。3つ目は前2つにも共通するが、これまであったものを残しながら追加していく光が多いことである。 例えば一部のランドスケープでは、何が最初に計画されたものか分からないが、植栽帯のLED フラワーと噴水( 滝) 照明、ボラードライト、通路のポールスポットライト、イルミネーション、広告照明など、さまざまな要素が一ヶ所に存在し、光が飽和していた。これは旧市街の古いものを残す文化が、新市街でも同じように、古いものを残しながら新しいものを追加していく、そんな風習があるようにも感じられた。そんな光が台北の特徴ともいえる光ではないかと感じた。
周りが明るすぎて白壁に見える発光しているファサード
■夜市 台湾には多くの夜市があり、夜街に出ることが一般的で平日に関わらずたくさんの人で賑わっていた。夜市の通りは小さな屋台が多く連なり、競うように大小様々な手法の看板照明や、商品を照らす明かりが重なりあっていた。日本ではお祭りの様な勢いのある明かりが、台北では毎日点灯していることにとても驚かされた。 ■台湾の街並み 台湾はアーケード付きの街屋建築が推奨されており、主要道路脇の建築は深い軒下とテナントが連続しているのが特徴である。この作りは歴史的にも長く、現在も国から推奨され高さ3.6m x奥行3.6m の構造となっている。台湾の強い日差しを避けることが出来る深い軒下は、快適性と歩車分離された安全性を保っていた。軒下部は奥のテナント範囲となっている様で、多くは店舗内と同じ手法の光が設置されていた。手法や明るさもばらばらで、夜間閉めてしまうお店は暗い場所もあった。またこの軒下部分はバイクの駐輪場にもなっており、きれいに並べられてはいるが光環境が統一されてない通路は少々歩きづらさを感じた。(木村光)
益民一中商圏
西屯エリアの公園
■台中の街 台中の街は台鉄( 台湾鉄道) と呼ばれる台中駅舎から駅周辺に広がる旧市街と西側の西屯エリアに突っ切る台湾大道を中心にして台中の街が広がる。近年西屯エリアでは高級住宅、商業施設、国家歌劇院など文化施設が建ち政治・経済・文化の中心となっている。旧市街に対して新市街と再開発エリアになる。このエリアでは住宅建築にそれぞれファサード照明が施されており、全体的に低い色温度に統一されていた。住宅棟にしては過剰な照明の演出だと感じたが周囲には低層部に高い輝度の照明が少なく居住地域を中心に計画されているエリアのように見えた。街の公園にはアートに照明が仕込まれ飽きさせないような試みが見てとれた。台中市街を実際に歩いてみると車や原付バイクの量が多い事に驚く。車道はポール灯で照らされているが車のヘッドライトの光量が多く、横から照らされるため視認性が非常に悪い。タクシーの運転手に聞くと地下鉄などは不便で面倒だから基本的には車かバイク移動がメインだとのこと。実際に看板やサイン等目につくものの多くは車に乗った際に一番見やすく設置されており、台湾の市内で多く見られる横看板は一見不規則に見えるが重っていることがなく、非常に整理されているように感じた。上記でも記されている通り台湾の都市部ではアーケード建築のそれぞれのテナントの明かりでベース照明を賄っている事が多い。しかし旧市街周囲では歩行スペースが確保されていないエリアも多数あり、人とすれすれの所を大型バスが通っていくこともあった。新市街へ近づくにつれ、アーケード建築とは別にスペースが大きく確保され、鉄道の走る高架下や国立博物館から商業エリアを結ぶ草悟道には広い緑地帯や並木道が計画されたランドスケープがある。ランニングコースや人が滞留するようなエリアには4m程の高さのポール灯やベンチ照明、植栽のアップライト等が設置されている。
西屯エリアの高級住宅棟
色温度の差異やグレアを感じる物も多く細かい部分には配慮していないようだった。 夕方になると多くの市民が散歩ランニング、帰宅で賑わいそれぞれの時間を過ごしている。西屯エリアに2016 年にオープンした国家歌劇院は夜間21 時まで一階スペースを解放している。地域の住民や学生がベンチでおしゃべりをし、施設前の広場では犬の散歩やパフォーマーが芸の練習をしている。噴水のカラー照明は主張しすぎず庶民的な雰囲気になじんでいるように思えた。外観に設置されたLED モニターの輝度が非常に強く景観を損なっていたのが残念だった。
大きな暗い空間が広がる台中市民広場
車両から見る看板照明
■台中のゆとり 一中街夜市を歩くと付近に大学や多くの教育施設が多いことから若い学生を多く目にした。併設する益民一中商圏ではLED の装飾照明がこれでもかという程の勢いで吊るされている。それぞれが異なったパターンの動きをするため照明を目が追いきれない。広場にはステージが用意されLED スクリーンをバックにギターで生演奏をしており、皆テーブルに腰掛け歌を聞いたり友人や家族とのおしゃべりに夢中になる人もいた。目で追えなくなる程の照明が完全に背景となり歌やおしゃべりに集中し始めると、音のない喧噪のようで不思議と嫌な感じもしなくなる。皆楽しそうにしており居心地は良かった。対照的に草悟道の遊歩道から続く台中広場では入口付近や外縁にはポール灯で歩行の明るさをとっているが広場には照明器具は設置されておらず周囲環境に比べると非常に大きな暗がりを作っていた。しかし広場の四方を背の高い商業や明るいレジデンスに囲まれているため実際の暗さを感じにくい。多くの若者が敷物を持参しピクニックをしたり、中には動画配信などもしている。夜市の明かりが明るくアクティブに感じる事に対して市民広場や周囲の遊歩道は皆、ベンチや床に座り暗い中でおちついた時間を過ごしている。広場や夜市で数人に声をかけ、台中とはどんな街なのか、夜どのように過ごしているかを質問してみると。仕事や学校が終わると友人と集まっておしゃべりをしたり、特に用はなくとも路上ミュージシャンの歌に耳を傾けて過ごす事が多いとの事だった。気候が安定した台中では安心した生活を送ることができ、台北のような満員電車などのストレスもなく居心地が良いとの事。今後街がさらに大きく発展していくことへの期待を誇らしげに答えてくれた。
逢甲夜市
■台中の未来 台中は台北に比べ市内に多くの未開発の土地がある為、新規の開発やインフラなどで飽和状態となった台北から行政手動で多くの企業が台中に誘致され、それに伴い他県からの人口の流入が今後も見込まれている。台北に戻る高速鉄道のプラットホームから一望できる大きな空地は台湾最大の商業施設が計画されている。このエリアは先行して高層マンションが建設中で今後オフィスや教育施設、娯楽施設などが続々と建ち高速鉄道の沿線に副都心が完成する計画だ。これから5 年、10 年と街が大きく変化し、皆が望むような台北に並ぶ規模の都市へ成長する台中に期待する半面、今回訪れて感じた夜間の豊かな時間の過ごし方や場所が残っていくとよいと感じた。
台中高速鉄道駅から
■台北と台中 2 都市の生活や街の様子から見えてきたのは、光が飽和し混沌とした台北の都市に対し、台中ではしっかりと計画された都市の中で、建物や人の間にも適切な余白が保たれており、それが光にも適切な暗さを作り出していた。これからの計画の中で、昔のものを残していく台湾の考え方とあわせ、その心地よい夜の光が保たれていくことを楽しみにしたい。( 渡邊元樹)

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