照明探偵団Jr.キッズライト・オデッセイ
2025.08.21-08.23 笹本佳世+東悟子
社団法人TOCOLに依頼を受け、青森県の南部町、八戸、弘前の3か所でこどもワークショップを行ってきました。各地20~30名のこどもたちが参加し、手には懐中電灯を持ち、街歩き&照明実験を行いました。

夏真っ盛りの8月21~23日の3日間連続で青森県南部町、八戸市、弘前市でこどもワークショップを開催しました。今回は社団法人TOCOLからの依頼を受けてのワークショップ。デザイン関連のワークショップが少ないので、是非探偵団にワークショップに来てほしいとのことで伺いました。
夏休みだったこともあり、各回こども20~30名程の満席状態。保護者の方も積極的に参加くださり、こども達より大人の方からの質問が多い回もありました。各回街歩き前には青森の伝統工芸の金魚ねぷたへの絵付け体験も行われ、盛りだくさんの内容。こども達も15:00~20:00までと長丁場ながら、熱心に参加してくれました。
■暗さが残る南部町
南部町は八戸から車で30分ほど奥にはいった地区。まだまだ暗さが残るエリアです。ここではただ街を歩きながら光の英雄と犯罪者を探すだけでなく、街路灯がないとどれだけ暗いのか、暗いとどんなことに気付けるのかにも考慮したワークショップとなりました。
お墓の裏の足元もおぼつかないような真っ暗な道では遠くに見えるお店や街路灯が希望の光のようにほっとする標となっていました。普段は夜暗い道を歩くことのないこども達は、周りに大人がたくさんいましたが、なんとなくおっかなびっくり歩いていました。
暗い道を抜けると、一同ほっとした面持ちになり、元気も回復。白壁の古い建物を2色の色温度で照らして印象の違いも体感。比較的色温度が高めの白っぽい光が人気のようでした。
「あかりを見るとなぜ人は安心するのか」、「オレンジの光と白い光ではどちらが遠くまで届くのか」、など、こども達からとても鋭い質問やいい質問が聞かれ、楽しい回となりました。


ライトアップ実験中


■にぎやかな繁華街VS真っ暗な神社裏
こどもワークショップ2日目は八戸。金曜日の夜の繁華街。大人数で歩くのが少し不安だったのですが、ボランティアの大学生・高校生達の先導でスムーズに街歩きを行うことができました。街歩き前半は色が変わるパチンコ屋のファサード照明や居酒屋のネオン看板、赤提灯やメディアスクリーン、光の要素が沢山で賑やかな繁華街を歩き、後半は色温度が変わる懐中電灯を持ち、少し暗いエリアを歩きました。八戸美術館の白い壁や、石碑、神社裏の真っ暗な森の巨木を照らして照明実験も行いました。
いつもは意識していなかったメディアスクリーンの強烈な明るさが、一番印象に残ったようで犯罪者にあげている子が多くいました。英雄には、市民が集まる建物の光環境をあげているこが多く、昼だけでなく夜も市民に愛されている施設になっていることが伺えました。
ライトアップ実験では美術館の白い壁への光は、オレンジと白、同票位の人気でしたが、緑の木は白の光が人気のようでした。


■風情残る弘前
弘前では明治と大正に建てられた2つの教会、昭和感残る駅舎と電車、赤レンガ造りの弘前レンガ倉庫美術館を周辺を街歩きしました。
教会では神父さんのご厚意で中にいれていただきインテリアの照明実験も行いました。教会の高い天井にステンドグラス、白い壁。照明を消してもらい自然光だけだとどのような光環境になるのか、また照明を祭壇だけ付けたり、祭壇は消して、座席側のペンダントだけにしてみたりと、この機会でないと出来ないような実験を沢山させてもらいました。
また弘前れんが倉庫美術館では、レンガの壁をそれぞれオレンジと白の光でライトアップしてみました。同様に緑の芝生も照らしてみました。同じ照度でも色温度が変わるとそれぞれの見え方もまったく違ってくることを実感してくれたのではないかと思います。(東悟子)


■感想
今回の「キッズライト・オデッセイ」は、こども達にとって日常では得られない大きな変化の契機となりました。普段は発言をためらいがちな子が、「白い光は遠くまで届く気がする」「暗い道は怖かったけれど、ぼーっと見えた山が浮かんでるようだった」と自分の言葉で語る姿は、確かな成長の証でした。暗闇に身を置き、光の意味を実感したとき、その瞳に宿った輝きは未来への一歩を踏み出した瞬間でもありました。
また、今回は30名近い高校生・大学生がユースリーダーとして参加しました。単なる補助役にとどまらず、こども達を導きながら、面出団長が示した「常に参加者を喜ばせる姿勢」に触れることで、彼ら自身も「照明が建築を活かす」という本質をこども達と共に掴んでいました。
一方で、運営には課題もありました。参加者の確保や進行に追われ、「問いを通じて導く」という私たち本来の姿勢に十分立ち返ることができなかったのです。大切なのは「成功」という結果ではなく、一人ひとりが学びを持ち帰ること。その本質を、面出団長の姿勢から改めて学び直すことができました。
次回は、子ども達が主体的に語り合えるような雰囲気づくりを目指したいと考えています。親の存在は安心感を与える一方で、子ども達が無意識に「親の目線」を気にしてしまう側面もあります。その一歩先に踏み出し、ユースリーダーと共に「自分たちでやり遂げる」経験を重ねることで、主体性と自信が育まれるはずです。仲間と協力し、時には失敗も味わいながら最後までやり抜く体験こそが、本当の学びとなります。そして、その姿をユースリーダーが近くで支え、ともに成長していくことが、次世代の担い手育成へとつながっていくでしょう。
三日間のこの取り組みは、地域に「光」を媒介とした学びの場を創り出しました。こども達と若者が互いに学び合い、未来を照らす小さな灯をともしたこの経験を絶やすことなく、さらに深化させていきたいと心から願っています。(TOCOL笹山佳世)
☆印の写真:TOCOL撮影