探偵ノート

第004号 – 海で鯨に面会した日

Update:

ホエールウォッチングなんて観光客だましみたいなもので…と思っていたが、大海を我がもの顔で泳ぐ鯨の群れを間近に見て、子供のように熱くなった。

我が哺乳類の仲間が海に悠然と生活している様子に、心打たれるのかも知れない。これが魚の大群を見ても、こんな気持ちにはならないかも。巨大な鯨に遠い先祖の姿を見る思いがした。先祖帰りの術か。

アメリカ東海岸Cape Cod岬の突端、Provincetownから1時間半ほどのところにある「ステルワゴン浅瀬」と呼ばれる海底砂州が、鯨との対面場所。ここの藻類、微小甲殻類、稚魚などの植物性プランクトンや小魚が豊富で、その餌を目指して鯨が回遊してくるそうだ。100人ほど乗った高速艇が薄日のさす海に出航した。

小一時間過ぎた頃、あたりの雰囲気が変わってきた。クルーザーのハンドルを握る船員達が双眼鏡を取り出した。船の速度もずっと遅くなる。しかし30分、40分と時間は経つが鯨の影は一向に見えない。「ウーン、前宣伝にだまされたかな」という焦りの色が皆に見え始める。

そのうちに海上にはモヤが発生し、遠くの鯨を探すのも難しくなってきた。「あーあ、今日は駄目かなー」という落胆の雰囲気を突くように、「Look at it! Waa-oh」と隣に立っている子供が1時の方角を指差す。何か黒いものが動いた感じはあったが、あれが鯨だったのかどうか…?と、続いて「11時の方角」「Waa-oh」「次は3時」というように船員の声があがる。やっときた。ここに鯨の皆さんが遊んでいる。 遠いところに見えていた鯨が、徐々に近づいてくる感じがする。右50m程のところに3頭がダンスをするように上下しながら泳いでいる。今度は左20mまで近づいて勢い良く「プッシュー」という音を出しながら連続的に塩を噴き出した。巨体が沈み込むときに尾っぽが高く水面に残る。

当たりは次第にモヤがはれ、視界が遠くまで広がる。相変わらずの薄日がさしている。この辺一体に発生するモヤのお陰で、海原を舞台にした環境演劇を見せられているかのようだ。今日の光の演出は完全拡散光だけだったけど、明日は強い直射光かも知れない。主演の鯨も毎日の舞台では、さぞかし大変なことだろう。全体で3時間半ほどのホエールウォッチング・ツアーだった。UA-801便にて

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